教えて!研磨先生②







一人を除き、拍手喝采で迎えられた先生こと研磨は、
来客ソファーの奥に腰を落ち着けた。
当然のように黒尾がその隣に座り…赤葦も当然のように研磨の対面に陣取った。
月島は自ら進んで給湯室へと向かい、山口が戦線の最前列(赤葦の隣)に座った。

月島がお茶を配り終わる前に、赤葦は宣戦布告がてらジャブを放った。
「無類のゲーマーとは思ってましたが、まさかの『乙女ゲーム』研究家ですか。」
意外ですねぇ~イケメン達にチヤホヤされたいなんて、
相当溜まっていらっしゃるんですか?お気の毒に。

「俺も、研磨が『乙女ゲーム』研究家なんて…初耳だぞ。」
てっきりモンハン・パワプロ・ウイイレ専門家だとばかり…
黒尾の反応に「それはライフワークだから。」と、研磨はアッサリ言い、
ついでに「本職はハンター。」と、きっちり山口達に申し添えた。
そして、至極真面目な表情で、話を切り出した。


「まず初めに言っとく。『乙女ゲーム』は…奥が深い。」
一般的なイメージとしては、赤葦の言うような『イケメンにチヤホヤ』…
俺も最初、そう勝手に思い込んで、研究の対象にしていなかった。

「でも…全ゲームの中でも、『一大ジャンル』を築いてるよね?」
それなりの需要がなければ、商業的な価値はないはず…
そして、男性に比べ絶対数の少ない女性ゲーマーを取り込み、
なおかつ『ジャンル』を築く程にするには、『リピーター』が必須となる。

「『商品』に対する女性の目はシビア…顧客固定化は非常に困難です。」
「ゲームだけじゃなくて、漫画やアニメ…『目の肥えた』人が多いよな。」
ただ単にイケメンを出しておけばいい、というわけではないのだ。
しかも、商業ベース…一般向けゲームソフトとして利益を得るためには、
単純なEROに逃げることもできず、男性向けよりもハードルが高い。

「成程。『EROなし』という限定付で、目の肥えたユーザーを満足させるには…」
「しっかりとしたシステムと、ストーリーが必要になりますね。」
「単に『イケメンにチヤホヤ』だと、ジャンル形成までは至らないな。」
ゲームの商業性という側面だけでも、『乙女ゲーム』は研究対象になりうる。
それこそ、ド真面目に経済学の卒論としても、成立するレベルである。


「『食わず嫌い』は、俺のポリシーに反する(但し、ゲームに限る)…」
だから俺は、余計な知識のないクロを連れて店へ行き、
この中で『気になるタイトルは?』と聞いて、それを買ってみた。

あぁ、そんなこともあったな…俺、何選んだか、全然覚えてねぇけど。
黒尾は暢気に笑い、それを聞いた赤葦が、久々に口を開いた。
「へぇ~、黒尾さんにわざわざ選ばせたんですか。『一緒に』行って?」
口を開いた、ではなく…口火を切った、だ。
しかしその火種は、研磨の一言であっという間に鎮火した。

「クロが選んだのは『~はい花』ってやつ。質問から1秒でコレを即決。」
「…続きをお願いします、孤爪…先生。」
一瞬で上機嫌になった赤葦は、先生に話の先を促した。


まぁ、そんなこんなで、とりあえずヤってみたんだけど…

作り込まれた世界観と、キャラ設定。
一筋縄ではいかない、深い考察を要する選択肢。
多種多様なエンディングと、ストーリー分岐。
同じ世界…時間軸にありながら、キャラによって全く違う物語。
そして、最後の最後…全キャラ攻略して初めて、解ける謎…

まるで本格ミステリか、リアル脱出ゲームのような、上質の謎。
『目の肥えた』ユーザーを唸らせる、複雑に絡み合うストーリー。
純文学としても通用しそうな、美しく流れる文体…

「普通に、泣いたよ。」

俺は今まで一度も『全米が泣いた!』的なので泣いたことはないけど、
『乙女ゲーム』では、泣くつもりは全然なくても、はらり…と落ちてきた。
イケメンなんて、ただのオマケだよ。主題は…そこじゃない。
物語を構築した人を、俺は心から尊敬したいと思う。

「だから俺は、自信を持って名乗りたい…『乙女ゲーム研究家』だと。」


研磨先生の多弁と、力強い断言に、4人は完全に圧倒された。
『無気力』『淡々』『辛口』『無感動』…そんな言葉が似合う研磨が、
ここまで高評価を与え、かつ、自信満々に語るとは…

「振り返ってみると、我らが『HQ!』には、魅力溢れるキャラが多い。」
それぞれに『掘り下げたい』と思わせる背景が、見え隠れしてる…
だからこそ、二次創作でも大人気のジャンルなんだと思う。
この『HQ!』を題材に、『乙女ゲーム』を制作しようと考えた、
月島と山口の慧眼…俺は素直に称えたいと思う。

「そのプロジェクト…俺は協力を惜しまない。」
一緒に、素晴らしい作品を作っていこう。


「研磨先生…宜しくお願いしますっ!!」
先生の熱弁に感激した4人は、声を揃え、深々と頭を下げた。




- ③へGO! -


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<研磨先生の思い出>
・一つオトナになった記念(誕生日プレゼント)に、クロにゲームを買ってもらった。
・本当は『~は紅(あか)い花』ってタイトルだった。
・フツーにレジに持って行ったクロは、オトナだと思った。

2017/02/27    (2017/02/09分 MEMO小咄より移設)

 

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