接続開始







「縁は奇なり。まさか、こんな風に…」
「お前と呑み交わす日が、来るとは…」


現役時代は、袖擦り合う…よりは、やや多め。
梟谷グループの世話焼き係として、自主練後にジャージを引き摺りながらお片付けをした仲。
チームの核たる『エース』や『脳』には絶対になれない、平々凡々な中間管理職同士。

似た者同士と言えば、まだマシな方。
質実剛健で緻密な策略家…腹の黒さと地味さが近い、『同病相憐れむ』的関係だった。

「スーツを着ると、途端に胡散臭くなる…詐欺師と法律家と、黒尾さんのことですよね。」
「黒縁眼鏡で、目が笑ってねぇことを誤魔化せると思ってる…詐欺師と法律家と赤葦だ。」

「『口八丁』でもなければ、プロデュース業なんてできません。最高の褒め言葉…でしょ?」
「鬼編集サマが宇内センセイを『叱咤激励』する姿は、寒気で震える…物凄ぇクールだぜ?」


そんな俺達が、巡り巡って…今。
週イチのペースで会い(金曜日が多い)、仕事の打合せ後にそのまま呑み&語り明かし、
終電を逃したら近い方の家に上がり込み、グダグダのまま寝落ち&昼まで寝過ごしコース。
絵に描いたような『グチ&呑みダチ』リーマン生活を、ほぼルーティンで送っている状態だ。

「お~い、それ以上飲むと今週も潰れるぞ?ったく、クソ弱ぇんだから…加減しろっての。」
「今日は、黒尾さんちの方が近い…潰れて背負って連れ帰って貰うのが、目的ですからね。」

「あー、また宇内センセイ、〆切破ったのか?飲まずにはいられねぇのはわかるが…」
「だって、協会さんの仕事が押してるのに…調整するのは結局、俺と黒尾さんです!」


元・小さな巨人こと、宇内天満先生が描く痛快バレー漫画は、周囲の予想を裏切り大ヒット。
少年少女老若男女達に(あらゆる意味での)夢を与え、バレーに興味を持つ人が増えてくれた。

そこに目をつけたのが、バレーボールの普及に頭を悩ませていた、協会の方々。
漫画の連載と様々なリアルイベントでコラボ展開し、共にバレーを盛り上げて行こう!と、
どちらにとってもオイシイ繋がりを構築…二者の接続点として、旧知だった二人が選ばれた。

「一流のスターには到底なれねぇ。自分自身のプレーで、バレーを繋ぐことはなかったが…」
「でも、自分なりの方法でバレー界全体を輝かせ、繋がり続けたのは…俺達ぐらいですね。」

目映い光の傍で、その光を輝かせるために奮闘していた、地味な参謀だった自分達二人が、
プレーヤーではない道で、似たようなことをしているだなんて…何と言う巡り合わせだろう。

「現役を退いてから、頻繁に会って繋がり合うようになった…人の縁って、わかんねぇな~」
「この半年間、花金呑み皆勤賞…宇内先生から『週末婚かっ!』と、ツッコミ頂きました。」

「っ…俺の婚期が遅れたら、責任取れよ?」
「えぇ。一生…呑みダチしてあげますよ。」


ほらほら、シャンとして下さい。
ネクタイが醤油皿に…って、もうこんな時間ですか!?
お会計しときますから、お財布出して…あと、黒尾さんちの鍵も、預かっておきますね。

「なんだなんだ~?今週は赤葦が、俺をお持ち帰りしてくれる係か~?」
「お夜食用に、焼きおにぎりをお持ち帰り…追加で注文しときました。」

「なんつーデキる嫁…よし、俺んとこ来い!」
「了解。嫁入り先が見つかり…一安心です。」

毎週毎週、しょーもないことしかダベってないのに、いつの間にか毎回毎回…終電突破。
会社や接待の飲みだと2時間で限界なのに、この週末呑みは平均5時間でも短く感じる。
二人で今週分のアレコレを全部発散し、来週分の英気を養う…この関係が、心地良い。


「なぁ、毎度めんどくせぇから…そろそろウチの合鍵、持っててくんねぇか?」
「妙案です。それでは俺の方の合鍵を…黒尾さんの鍵束に着けておきますね。」

「…顔、めちゃくちゃ、赤ぇぞ?」
「俺だって、酔ってます…からっ」



*******************




「宇内天満新連載『コネクション!?』…こんなネーム考えてみたけど、どうっ!?」
「誰がBL漫画を描けと言いましたかっ!?」

「…顔、めちゃくちゃ、赤いぞ~???」
「うっ…うるさいですよっ!描くならどうか別名義で…『薄い本』にして俺だけに下さい!」


仙台までわざわざ来たのは、木兎さんの取材をするため。
そして、宇内天満改め『ウダウダてんまつ』な売れない担当作家に、檄を飛ばすためだった。

痺れるような試合を…旧知の仲間達がキラキラ輝く姿を、その場で直接、目に焼き付ける。
編集の俺がアレコレ言うよりも、実際にご自分の目で見て、肌で感じて頂く方が、
きっと次回作の糧になるに違いないと、思っていたのだが…まさかの大失敗だ。
その類稀な洞察力を、俺なんかじゃなくて、もっとちゃんとした方に生かしてくれれば…っ!

「目の前のキラキラを描きたい…漫画家なら、そう感じ入るもんじゃないんですかっ!?」
「だから、目の前でキラキラを放ってる誰かさんを、描きたいなぁ~って…あっ!!?」

「きゅっ、急に叫ばないで下さいよっ!早く帰って…少年誌用のネーム仕上げて下さい。」
「わかってるって!俺は取材後に帰るけど、赤葦さんはこのまま…呑んで一泊コースっ~♪」

「はぁ?何を言って…」

元々…そのつもりですけど?
取材終えたら、旧知のみなさんと飲んで、明日は塩釜神社を見学して帰る予定ですが…


じゃ、俺も『旧知のやつら』に挨拶してくるから、また後で~♪
…と、宇内先生は俺の『後ろ』にニヤニヤ光線を放ってから、背を向けて走り出した。

「あっ!?待っ…!!」

伸ばした手を軽々とすり抜け、どこぞへ逃走した先生を追いかけようとした…その時。
俺の背中に注がれる、圧く熱い『旧知の視線』を感じ、動きも呼吸も止まってしまった。


「よっ!久しぶりだな!相変わらずの世話焼き係…おつかれさん。」
「そちらこそ、結局は壮大な世話焼き人生…心からご愁傷様です。」

「あのさ、もしよかったら、この後…っ」
「えっ!?あ、その…よよよっ喜んで!」




- 終 -




**************************************************

※45巻記念・先生と担当(改)。
※43巻記念(先生と担当。) →『年年湧惑



2020/11/05 

 

NOVELS