「どなたか、俺と…口づけして下さい。」
「全員集合!んでもって…土下座ぁぁぁぁ!」
梟谷学園バレー部、練習後の部室。
片付けと着替えとおやつが終わり、そろそろ帰ろうぜ~と立ち上がりかけた時だった。
最後に体育館から部室に戻ってきて、ついさっき着替え終わり、未だ雑務途中の赤葦が、
事務総長専用デスクで書き物をしつつ、「あ、そう言えば…」的なノリでぶちかましてきた。
意味不明かつ破壊力甚大な『御要望』に、部員達は本能で整列&土下座…
「(理由はわかんねぇけど、とにかく)ゴメンナサイ!!!」と、全力で謝罪した。
「何に対するゴメンナサイ…ですか?」
「いや、とりあえず…ゴメンナサイ!」
「ほほぅ…皆さんは、俺に対してスライディング土下座するようなコトに、心当たりが…?」
「それはっ、あるような、ないような…でもでも、ここはまずもってゴメンナサイが正解!」
理由もわからないまま、カタチだけでも謝っとけ…その姿勢こそが御説教対象じゃないか。
土下座ついでに、まずはソコを…と思いかけ、赤葦は自嘲気味に零した。
「条件反射で謝罪してしまう程、俺は…説教臭くて可愛げのない奴なんですよね。」
こんな奴に、あんなコト…
おそらく、極度の疲労による『気の迷い』に違いありませんね。えぇ、わかってますとも。
きっと、あそこで『上下が逆』だったり、もうちょっとだけあのレア御尊顔を眺めていたら、
俺も同じコトをしていたかもしれない…疲労蓄積度と思考パターンも似た者同士ですからね。
ですが、とはいえ、いくら何でも…
あの狡猾で腹黒と見せかけてはいても、本当は誠実で実直で思慮深くてお優しいあの方が、
特にこれといった理由なく、あんなコトを俺なんかになさるとは、到底思えませんよね。
しかしながら、どんなに独りで考え続けても、答えらしきものは出て来ない…
あの時のことを思い返す度に、初めてみたあの表情を思い出し、そこで思考停止してしまう。
脳どころか、心拍数も体温も瞬間的に異常に上昇、呼吸も荒くなる…多臓器機能不全ですよ。
「はぁ…。。。
…って、まだ土下座してたんです?今日の御説教は免除。もう帰って下さって結構です。」
「帰れるわけ…ねぇだろうがっ!!!」
部員達が御説教待機していることも忘れ、独り悶々と思索…それがダダ漏れだった赤葦。
ため息を吐きながら、窓から月を眺めるらしくない姿に、部員達は一斉に飛び掛かった。
「っ!!?う…わぁっ!?な、何を…っ!?」
「『何を?』…じゃねぇよ!」
「赤葦、捕獲完了!尋問開始!」
「待て!その前に…おさぶ&毛布、OK!」
捕獲!と言いながらも、赤葦は鷲尾のお膝に乗せたおざぶの上にちょこんと座らされ、
猿杙と小見は羽交い絞め…ではなく、左右から毛布ですっぽり包み込んでぬくぬくと暖め、
木葉は顔をまっすぐ固定すると見せかけて、ほっぺをぷにぷにしながら頭を優しくなでなで。
逃げられないことには変わりないのだが、いつもと違う『極上の軟禁』に、赤葦は戸惑った。
「えっと、これは…?」
「黙れ。今からお前は、俺らのシツモンにだけ答えろ!」
ドドン!と赤葦の正面に仁王立ちし、試合中のような目で射貫いてくる木兎。
態度も物言いも、いつも通りの「元気印!!」だが、握り締めた拳はぷるぷる震え…
そっと赤葦の目の前に突き出した掌の中には、くしゃくしゃになった湿布薬が収まっていた。
「こっ…腰に、貼っとけっ!!」
「…はぁ。」
キョトンとした顔で固まる赤葦から視線を逸らせるように、木兎達は遠~~~~~~い目…
誰目線か不明なシミジミ感を醸しつつ、赤葦への尋問を開始した。
「俺らの知らねぇうちに、お前もいつの間にかオトナになっちまって…」
「嬉しいやら、寂しいやら、悔しいやら…」
「明日、赤飯炊いて持って来るからな。」
お前のぷらいばしーにハイリョして、突っ込んだ話…あれ、突っ込まれた話だっけ?
ま、そういうアケスケな深ぁぁぁい情事…じゃなかった、事情は訊かねぇよ。
だが、そうだな…ゼッタイに訊かないとダメなことは、スケスケじゃない工夫をしなきゃな!
「ナニユエ、『口づ…』いや、『チュ…』いやいや、『CHu…』よし、最短で略すぞ!
突然『C』をヤってくれ~だなんて、言い出したんだこのイケナイおクチはっ!?」
「まっ、待て木葉!その略し方は、スケスケ越えてモロ見えじゃねぇかっ!」
「せめて『C』は回避…次の『H』に、チラっとだけズラしとかねぇか?」
「アホ!チラリズムっぽく見えるだけで、それはもっともっと…最もミエミエなやつっ!」
いっ…いかんいかん。
ドーテーじゃなくてドーヨーのあまり、パイセンらしからぬシュータイを見せちまったなっ…
よっようするに、俺らのスイリによると、赤葦はィヤンごとな情事…やんごとなき事情で、
俺らに、せっ、せっ…せっぷんを、ゴヨーボーするほど、大変革起こしちまったってことだな!?
「おや木兎さん。接吻だなんて雅かつ風流な言葉…知っていらしたんですね。」
「うっ…うるせえっ!はっ、はばかれよ、コノヤロー!!」
「なんてハレンチなおクチ…メっ!…だぞっ」
顔を真っ赤に染め、大仰に羽をバタつかせるパイセンフクロウの群れに、赤葦は逆に淡々。
ほぼ普段通りの冷静さを取り戻し、事の次第をメっ!されない程度に憚りながら説明した。
「ちょっとした手違いから、俺が引き寄せてしまった結果、いわゆる『床ドン』状態に。
それで俺達は…(中略)し、そのうち…(割愛)、そして口づけ…(以下略?)されたんです。」
どちらかに非があるわけでもなく、起こってしまった事実に対しては、今更…ですが、
どうしても解せぬことがあり、その点について独り悶々と考察を続けていたところなんです。
しかしながら、俺自身では答えを見出せなかったので、先輩方にお尋ねしてみただけです。
「なんとなく…ヤれるものなのかなぁ、と。」
スイリ通りだったとは言え、『(略)』に自分達の妄想がガッツリ当まってしまった先輩方は、
羞恥の赤だか卒倒の青だか、判別不明なごちゃまぜ顔で口をパクパク硬直…
最終的には、一周回って憤怒の赤に染め、ギャンギャンと盛大に喚き始めた。
「ゆ…ゆるせねぇっ!!!」
「ウチのっ、カワイイっ、赤葦を…っ!!」
いや、正直に言うと、可愛げなんて羽毛の先ほどもねぇ、クッソ生意気で怖ぇコーハイ…
なんだけど、その可愛げのなさが三周半ぐらいまわって逆にカワイイと思い込んじまった、
フテブテシサMAXな、俺らのっ、溺愛しまくりな、カワイイ赤葦を…っ!
「いくら目に入れても痛くねぇほど可愛くても、大目玉喰らいまくって痛々しくても…」
「そうカンタンに、『ソノ気』になるワケがねぇ…お前の可愛さとは、全くの別問題だ!」
「痛い程に白々しい視線を放つ赤葦を、俺色に染める…と見せかけて、桃色にしやがった!」
「『ブラック赤葦』なら大して変化ナシ!でも『ピンク赤葦』は…なんか、耐えられんっ」
身内の俺ら以外で、赤葦ほどの奴を可愛がる度量があって、かつ、この赤葦が懐いてて、
んでもって、アレコレ凄ぇ溜まってそうな、めちゃくちゃ優しい東京都代表ド変態なんて、
空から鷹の目で探し回ったって、たった一人しか居ねぇよなぁっ!?
「どう考えてもイき遅れそうな赤葦を、掻っ攫ってくれたトンビ…なら、まだマシだった。」
「それが、桃色に染めた挙句、こっ、こここ恋煩いなんていう、不治の病に犯しやがった…」
「こんなの、俺らの手に余りまくり…ちゃんと手籠めにしといてくれねぇと、困るだろっ!」
つーわけで、襲い受けした赤葦に『床ドン』、そして『C』だか『H』だかをぶちかまし、
『ぞわっ』な寒気じゃなくて、妙に『そわっ』な色気ダダ漏れ『色ボケいじ』にしやがった…
『なんとなく…』でヤっちまえるぐらい、正真正銘『カワイイ赤葦』に激変させたアイツを!
「空から…猛襲するぞっ!!!」
-
③へGO! -
**************************************************
2020/01/31 (2020/01/26分 MEMO小咄移設)