「なあなあ!黒尾は何にするんだ!?」
「いや、別に…何もしねぇよ。」
「じゃあ、赤葦は?」
「しません。」
今日も梟谷グループの合同練習。
いつものように、片付けがてらドリンク休憩…
体育館脇の非常階段で、木兎と赤葦(今日は最初から手綱を引いている)
そして黒尾の三人は、どうでもいい世間話を、ウダウダしていた。
今日から新年度…俺らも三年だな!
新年度のスタートと言えば、まずこのイベント…エイプリル・フールだ!
…と、予想通りの展開(誤解)を、訂正するのも面倒だったこともあり、
「今日、どんなウソつくんだ?」と言う木兎の本末転倒な質問に、
黒尾と赤葦はイベントへの不参加を、淡々と表明した。
「何だよお前ら、ノリ悪いな!」
そんな無気力な新年度のスタート…許されるわけねぇだろ?
パ~っと楽しいウソついて、ワ~って盛り上がろうぜ!
「いや、エイプリル・フールって、そんな楽しい系イベントじゃないだろ…」
「ひとつだけなら、どんなウソをついても許される…わけでもないですし。」
誤解したままだと、木兎のウソで被害が生じる可能性もある…
そう判断した黒尾達は、木兎に対して『教育的指導』を行うことにした。
「世間を騒がせるようなウソは、絶対についてはいけませんよ。」
例えば、「火事だ!」「事故だ!」等、災害や人命に関わるようなウソは、
周りに与える影響が大きすぎ、「ウソでした~」という弁明も許されない。
「そんなの、当たり前だろ!」
さすがの俺も、そこまでバカじゃねぇし。
それに、そんなウソついても、面白くねぇじゃん。
『面白いかどうか』が判断基準なのは、少々不安だが…最低限は大丈夫か。
でも、『基準』という観点からは、こういうのもアウトだろう。
「誰かを傷付けるかもしれないウソも…俺はダメだと思うんだ。」
「その程度のウソ…という基準や許容範囲も、人それぞれです。」
カップル達にとって、エイプリル・フールの定番とも言えるウソ…
「キライ!」という言葉は、たとえ強固な信頼関係があったとしても、
それがウソであるならば、口にしてはならない…と、黒尾は思っていた。
「後でウソだってフォローされても、言われた時には…ショックだろ?」
「好きな相手からは、たとえウソであっても…聞きたくない言葉です。」
それこそ、もし本当なら「ウソであって欲しい」と願うほど…ズン、とくる。
同じように、大切な人には、一瞬でもそんな想いはさせたくない。
『どこまでがセーフか?』というのがわからないのであれば、
心理的なショックが大きなウソは、できるだけ控えるのが賢明だろう。
「なるほどな~!確かに俺も、ウソだとわかっていても…イヤだな!」
俺の記憶だと、確か『イヤだ』と『キラい』は同じ漢字だったと思うけど、
「木兎さん…イヤん♪」は嬉しくて、「木兎さん…キラい。」は…泣くな。
俺も絶対、そのウソは言わないようにしよう!
っていうか、「イヤん♪」って言われる程度にしとかなきゃ…だよな!?
『イヤだ』と『キラい』の、本質的な違い…
木兎に言われて、その大きな差を自覚した黒尾と赤葦は、
心の中だけで「さすが木兎(さん)。」と、コッソリ感心した。
「あ、それじゃあ逆に、『好きだ!』っていうウソは…OKなのか?」
ウソでも言われたら嬉しいし、言われて傷付くって人も少ないだろ?
それに、本当に嫌いな相手には、ウソでも好きだなんて言えねぇから、
普段言えない感謝とかスキって気持ちを、軽~く言うには…良くねぇか?
そう言うと、木兎は黒尾と赤葦の間に割って入り、強引に肩を組んだ。
「黒尾っ!俺のこと構ってくれるお前…大好きだぞっ!」
「あー、そりゃどうも。俺も木兎のこと、面白ぇから好きだぞ。」
「いっつも俺の面倒見てくれる赤葦も…大好きだからなっ!」
「ありがとうございます。面倒のかからない木兎さんが、好きですよ。」
確かにこれは、悪い気はしない。
だが、これはエイプリル・フールではなく、『勤労感謝の日』のような…
同じことを思ったのか、黒尾と赤葦は顔を見合わせ微笑んだ。
「ほら、次はお前らも…イベントだからな!」
木兎が両腕を引き寄せたせいで、ごくごく近づいた、お互いの顔。
それに少しだけ心臓が跳ねたが、ほら!と木兎に促されるまま…
黒尾は赤葦に、赤葦は黒尾に向かって、『イベント』らしい言葉を贈った。
「赤葦、俺…お前のこと、好きだぞ。」
「俺も、黒尾さんのこと…好きです。」
言った瞬間、場に訪れる…沈黙。
時が経つにつれ、じわじわと湧き上がる…羞恥心。
おい木兎!何黙ってんだよっ!?
ここはホラ、笑ってその…『イベント』を盛り上げろよ!
心の中で絶叫していると、木兎はごくごく真面目な声で『考察』をした。
「待てよ。もしホントに黒尾と赤葦が好き合ってて、これがウソだったら…?」
好きな相手から『好きだ!』って言われたら、めちゃくちゃ嬉しいよな。
俺だったら、言われた瞬間に舞い上がって…で、それがウソだってわかったら、
泣く気力も出ねぇぐらい、ドン底に落ちて…すっげぇ傷付くな。
つまり、好きな相手に対して、ウソで『好き!』って言ったら、
『嫌い!』って言われるより、もっと傷付くかもしれないんだな。
好きな相手には、『好き!』っていう『ウソ』は、絶対についちゃダメ…
「好きなら、『ホント』に『好き!』って言わなきゃいけないんだっ!」
そうか…そういうコトだったのか。
これが本日の説教…じゃなくて、『教育的指導』だな。
すっげぇ大事なこと…よくわかったぞ!ありがとな…黒尾、赤葦!!
木兎は嘘偽りのない澄み切った瞳で、「ありがとう!」を連呼し、
バシバシ!!と黒尾達の背中を叩き…どこかへ飛び去って行った。
すぐ傍にある、茫然とした表情。
互いの顔に焦点が合うに従って、それがどんどん赤くなってくる。
居たたまれない沈黙をどうにかしようと、赤葦は努めて明るく問い掛けた。
「あ、あの、さっきのは、その…」
「ウソ…とは、言えねぇ、よな。」
何が『ホント』で、何が『ウソ』か。
何が何だか、もう…わからない。
木兎にしてやられた感満載なのは悔しいが、とりあえずわかるのは…
目の前の『真っ赤な顔』を、悲しませてはいけない…ということだ。
意を決した黒尾と赤葦は、さっき言った言葉を、もう一度贈り合った。
「…ウソじゃ、ねぇから。」
「…これは、ホントです。」
- 終 -
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2017/04/02 (2017/04/01分 MEMO小咄より移設)