ご注意下さい!

この話は、BLかつ性的表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さいませ。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)


    それでもOK!な方  →コチラへどうぞ。

























































※『業務日報』『共連残業』その後。



    暗中夢中







皆様、ごきげんよう。
梟谷学園合宿所の管理運営スタッフチーム・通称『青春請負人』です。
スポーツの秋。あらゆる運動部が大会真っ只中で、我々も毎週ド修羅場…
青春の汗を流す高校生諸君と一緒に、掃除に料理に洗濯に精を出しております。


さて、我々が今年度の最重要サポート対象に(一方的かつ総意で)設定している、
ウチの子・赤葦君とネコの子・黒尾君…彼らの『その後』について報告します。

昨年知り合って、1年以上経つというのに、一向に前進しなかったお二人さん。
黒赤双方が『只今、大絶賛片想い中』だと思い込み、必死にキモチを押し隠し…
それらが全て、我々や排球部関係者にダダ漏れという、ホッコリな状態でした。

でも、さすがにこれ以上は見ている我々の方がキツくなってきたこともあり、
そろそろ春どころか、夏がキてしまいましたよ~な、初夏・GW合宿の際に、
コードネーム『B定食』&『青春の湯!!~ハニーミルクの香り』作戦を決行。

梟谷&音駒総出で、二人っきりになれるように画策(業務押し付け)した上で、
我々が不可抗力を装って共闘…遂に二人は結ばれ、お付き合いを開始しました。


二年越しの懸案事項を無事解決し、我々もホッと胸を撫で下ろしていましたが…
夏が過ぎ、秋が終わろうとしている今もなお、その先へ進む気配がないのです。

とにかく多忙…その一言に尽きます。
平日は学業と部活と雑務でヘロヘロで、電話すらままならない状態なようです。

お付き合い当初は、たとえ二人きりになれる『自由時間』はなくとも、
同じ空間に居て、視界の隅に相手の姿が映り、挨拶や会話もできる合宿中は、
それだけで、ほわぁぁ~♪っと音がする程、幸せオーラを振り撒いていました。

しかし、すれ違いが多くなると、当然その程度では満たされなくなりますよね。
手の届く範囲に居ながら、触れ合うことができない状態…まさに生き地獄です。
多忙によるストレスも相まって、限界間近なのは誰の目にも明らかでしたが、
どうすべきか(してやるべきか)誰にもわからず、暗中模索もしくは五里霧中…


そんな状況を劇的に好転させたのは、荒天…雷鳴轟く季節外れの嵐でした。




***************




「すっ、凄い雨ですね…」
「かっ、雷も…近ぇな。」


GW合宿中に、夢のようなハプニング(不可抗力)が起こったお陰様で、
出逢った瞬間から片想いしていた黒尾さんと、お付き合いできることになった。
今思い出しても恥ずかしくて、穴に潜りたくなってしまうが…結果オーライだ。

毎朝「おはようございます」「今日もお互いがんばろうな」というご挨拶を、
就寝前に「今日も一日お疲れ様でした」「おやすみ。よい夢を…」と送り合う。

毎日ほぼ同じ『定型句』を繰り返すだけで、多忙な日々が過ぎて行く。
それでも、朝夕欠かさず業務以外で連絡を取り合えるだけで、心が躍る…
飾り気はなくとも、労わりの言葉を貰えるだけで、心がスっと軽くなっていた。


たかが挨拶。されど挨拶。
定型句でも、自分を気に掛けてくれることがどれほど嬉しいかを知った俺は、
今まで機械的に口にしていた言葉の端々に、少しキモチ?が入るようになった。

本当に、ごく僅かな変化。
それでも、家族や部活の面々等の身近な人々には、その変化が敏感に伝わった。
誰しもが口を揃え、「良かったね」と温かく微笑み、ニヤニヤどつき回された。
一体俺はどれだけ無表情で、同時に顔に出やすいのか…反省した次第だ。

ちなみに、黒尾さんの方も同じらしく、聡い猫達にソッコーでバレてしまい、
しばらくの間、『赤葦っぽくクロを呼んで遊ぶ会』が流行したらしい(失礼な)。


そんなこんなで、あれから…もうそろそろ半年になろうとしている。
この半年間を振り返ると、幸福感でふわふわしていた、という一面もあるが、
それ以上に、多忙でふらふら…記憶も定かではないぐらいに忙殺されていた。

朝夕の定型句贈答儀式がなければ、とっくに自我が崩壊していただろうが…
逆に言えば、定型句の送受信以外には、何もできなかったというのが実情だ。
もちろん月に2~3度、日数を累計すると半年間で30日ぐらいは顔を合わせ、
同じ屋根の下で過ごしていたけれど…それは全梟谷&音駒メンバーも全く同じ。

本当は合宿中にも、もっと二人きりになれる時間は取れたはずなのだ。
自主練後のお片付けの時とか、打合せ兼食事の時、その後の入浴や早朝自主練…
ちょっと工夫さえすれば、最低でもお付き合い前程度の時間はあったのに…

   (どうしても…できなかった。)


双方のチームメイト、監督やコーチ陣、そして合宿所のスタッフさん全員から、
温かく見守られ…「ガンバレ!」と応援して頂けるのは、凄くありがたかった。
でも、だからこそ、余計にお互い接触を断ってしまったのだ。

   (皆に見られて…は、恥かしいっ!)

不躾にじろじろ見るわけじゃない。あからさまにひやかすわけでもない。
見て見ぬフリをしつつ、チラチラと漂う生暖かい視線…居たたまれなかった。
照れ臭さを必死に押し殺すべく、あえて淡々と事務的に接し、二人きりを回避。
好きな子ほど冷たくしてしまう…そんな小学生みたいな状態に陥っていた。

自分も黒尾さんも、思っていた以上に地味で控え目で慎ましい常識人…
似た者同士なのは嬉しいけれど、おかげで前進も後退もしない膠着状態だ。

   (そろそろ、一歩踏み出さなきゃ…)


冷たくなってきた秋風が、冬の訪れを…終わりが近いことを容赦なく告げる。
こうして合宿で逢える日も、数えるのを躊躇う程しか残っていない。
恥かしいとか照れ臭いとか、周りの目とか…気にしている余裕は、もうない。

   (それ以上に、俺自身が、もう…)

お互いの内面を代弁するかのように、空に重々しい雲が覆い尽くし、
一粒雨が落ちると、堰を切ったように豪雨となり…遠くから雷鳴が響いてきた。


「こりゃ…荒れそうだな。早めに切り上げた方が良いかもしれねぇな。」
「えぇ。レーダーでも、これから本番…明け方まで続く見込みですね。」

自主練を早々に打ち切り、駄々を捏ねる面々を引き摺って撤収させ…
ご飯を食べさせ、就寝準備をさせ、最後に風呂に入れて、飼育業務終了。
追加雑務や打合せも、現時点では入ってないな…と、大浴場から出たところで、
手を貸してくれないか?と、顔馴染みのスタッフさんに声を掛けられた。

俺と黒尾さんは、二つ返事で快諾。
引き連れていた自主練組を、まず先に寝させてから、リネン室前に再集合…
様々な備品を棚の最上段に積み上げる作業を、二人で黙々とお手伝いした。


「あとは、これを機械室奥…旧宿直室?に置いて、おしまいだな。」
「入口に、数字をプッシュするタイプの電子錠があるそうですが…」

暗証番号は梟…『2960』らしい。
絶対に忘れないだろうが、はたして鍵の意味があるかどうか、はなはだ怪しい。

黒尾さんに箱を持ってもらいながら、番号をプッシュして機械室の中に入る。
受水槽やポンプ等の設備がある部屋の更に奥に、『倉庫』と書かれた鉄扉。
今度は俺が荷物を支えている間に、黒尾さんにその重い扉を開いてもらうと、
中は一部が畳敷(三帖)の小部屋…ミニキッチンとユニットバスが付いていた。

元々倉庫だった所を勝手に改装したためか、部屋に窓はない…建築基準法違反。
ポンプの音もうるさく、冷んやりして寒いし、使い勝手が悪かったのだろうか、
今は本来の用途通り、主に災害時用の備蓄倉庫として利用されているようだ。


「小ぢんまりとして、なんか居心地が良いな…俺、ここに住めそうだ。」
「水回りも完備で、食料もある…布団かおこたがあれば、快適ですね。」

「独り暮らしなら…この程度で十分。」
「ここ…別宅にしてしまいたいです。」

今でさえ、自宅には寝に帰るだけの生活なのだ。
それならいっそ、校内のこういう部屋に住んでしまった方がいいかもしれない…
ポンプの騒音だって、泥の様に眠るだけなら、全く気にならないだろうし。

残業&休日出勤続きの社畜的発想に陥りかけた自分達に、二人は苦笑い。
さっさとお手伝いを終えて、御褒美のお夜食を頂いて、少しでも休もうか…

よっこいせ~と、ジジ臭い掛声と共に荷物を片付け、ぐぐぐーっと腰を伸ばす。
全身に入れた力を、大きく息を吐きながら抜き、二人は顔を見合わせ…

「今日も一日お疲れ様でした…」
「あぁ、おやすみ。よい夢を…」


何気なく口から出た『定型句』に、お互いの動きがピタリと止まる。
毎晩ちょうど同じぐらいの時間に『目にして』いる、ほぼ同じセリフ。
それを今、真横に居る人から直接『耳にした』ことに、二人は同時に気付き…

   (そ、そうか!今、俺達って…!!)
   (二人きりで、一緒の部屋に…!!)

一気に走る緊張。
ガチガチに固まる…カラダ。

折角訪れた(半年振り2回目の)チャンスだから、この絶好の機会にナニか…
気の効いたコトをおしゃべりしたり、他にはその…ナニかしらのアクションを…

言いたいこと等等等は山ほどあるのに、キンチョーでカラダもクチも動かない。
せめて小指の先だけでも動けば、相手に触れることができる距離に居るのに…!
その代わりに、心臓だけは飛び出さんばかりに激しく音を立てて跳ねまわる。

   (頼む、落ち着いてくれ…俺の心臓!)
   (俺のナカのポンプ音…うるさ過ぎ!)

誰か、後ろからカボチャ入りの段ボールでドン!とか、魔女箒でガツン!とか、
ヘタレな自分の背中を押し、喝を入れ、一歩踏み出す勇気を…神様、お願いっ!


この期に及んで、他人頼み神頼み…本当に情けない。
自分の弱さを、相手と周りの人々と神様に心から謝罪していると、
どういう気まぐれだか、神様が願いを聞き届け…過剰な激励を贈って下さった。

   耳をつんざき地を揺るがす…轟音。
   空気を震わせる振動の直後…暗転。

「うわぁっ!!?」
「ひゃぁっ!!?」

突然の爆音と暗闇に、本能から驚きの悲鳴を上げ、間近な存在にしがみ付く。
どうやら、ごく近くで落雷があったらしく、その影響で停電が起こったようだ。
窓もなく、ポンプ音もしていたから、すっかり忘れていたが…外は嵐だった。


落雷のショックで、自分のナカのポンプは一瞬止まりかけただけだったが、
隣室のポンプは本当に運転停止…機械室からはモーター音がしなくなった。
その代わりに、冷たいコンクーリートを叩く、激しい雨の音が反響してきた。

「凄ぇ音だったな…大丈夫か?」
「はい…ビックリしましたね。」

「停電で真っ暗…参ったな。」
「下手に動くと…危険です。」


二人が居る旧宿直室(元&現倉庫)には窓がなく、視界ゼロの真っ暗闇。
稲光の瞬きが、隣の機械室とを隔てる鉄扉の隙間から時折漏れてはくるのだが、
その光も、多分その辺りが扉かな?という程度のもの…まるで役に立たない。

それに、倉庫内にはあちこち段ボールが積まれ、更には慣れない場所でもある。
さっきまでのキンチョーは解けて、カラダは動かせるというのに、
今度は動こうにも動くことができない…暗闇に二人で取り残されてしまった。

「もし俺独りだったら…パニック起こしたかもしれねぇな。」
「この暗闇に独りきりは…本能的に耐えられないですよね。」

「赤葦と一緒で…本当によかったよ。」
「二人一緒じゃなきゃ…ダメでした。」


何かしゃべってないと、落ち着かない。それぐらいの静寂と…暗黒の世界。
しがみ付くこの体温がなければ、ものの数分で恐怖に取り込まれていただろう。
不安を少しでも和らげようと、無意識の内に抱き合う力が強くなっていった。

「灯りが戻るまで、ここで大人しくしておくのが…最善策ですね。」
「だな。それじゃあ、俺の方へ一歩半だけ動いて…腰を下ろすぞ?」

黒尾さんの指示に従い、さらにギュっと背に腕を回し、ゆっくりと膝を曲げる。
手を着くと、そこは畳敷きの場所…慌てて靴を脱いで遠くへ放り、座り込んだ。

「このまま俺の方へ…これが、壁だ。」
「あ、ここに背を預ければ…楽です。」

真っ暗で見えないけれど、黒尾さんが凄く優しい表情でエスコートしてくれた…
それだけははっきりわかり、俺は見えないのをいいことに、盛大に頬を緩めた。


落ち着けるポジションを発見し、ホッと安堵のため息…が、互いの頬に当たる。
その温もりに誘われるかのように、ごく自然に瞳を閉じて鼻で息を吸うと、
背に回されていた手が、一旦腰へ降りた後で、両腕を伝え上がってきて…
頸筋を丁寧に沿い撫でてから両掌で顎を掬い、親指で唇の位置を確認された。

   (あ…キス、してもらえる…)

期待感で、ドクンと鼓動が跳ねる。
さっきまであんなに恥かしくて、なかなか一歩踏み出せなかったというのに、
辺りが真っ暗闇になったお蔭で、羞恥や躊躇も見えなくなり…
互いの素直なキモチがどこにどんな風にあるのかだけが、浮かび上がってきた。

   (ねぇ、早く。)

待ち切れずに、触れた親指を軽く食む。
すると、顎を掬い上げていただけの掌が、今度はしっかり頬全体を包み込み、
その直後、温かくて柔らかいものが、唇に押し当てられた。


ぞわり…と、寒気にも似た感覚が背筋を駆け上り、カラダの奥に震えが走る。
唇を塞がれているのとは違う理由で胸が痛くなり、呼吸が苦しくなってくる。

   (黒尾さん、と…キス、できた…っ)

叫びたくなるような、逃げたくなるような…何かを急かすモノが、湧き上がる。
きっとこのぞわぞわ感が、『歓喜』という名の痺れなんだろう。
恥かしさや、くすぐったさとも異質な、キス特有の昂り…なのかもしれない。

   (いや…ちょっと、違う。)

似たような感触だけでは、味わえない。キスなら誰でもいいわけじゃない。
大好きな人とのキスじゃなきゃ、こんなにも熱くて寒い震えがくるはずがない。


「俺、凄ぇ…幸せだ。」
「はい…俺も、です。」

軽く触れ合わせて、すぐに離す。
一旦ゆっくり深呼吸するけど、胸がいっぱいで酸素がナカまで入ってこない。
熱いものが溢れ出そうなのに、寒さみたいな震えで相手にしがみ付いてしまう…
もう『幸せ』としか表現できないけど、これ以上に相応しい言葉もないだろう。

「部屋が真っ暗で、正直…助かった。」
「とんでもなく緩んだ顔、ですから…」

「目ぇ開けてても見えねぇのに、何で…瞑っちまうんだろうなぁ?」
「確かに…あ、でも、たとえ明るくなっても…閉じてて下さいね?」

「それは…俺も頼む。間近で直視できるほど、まだ肝は座ってねぇよ。」
「おやおや、デレデレに緩み切った俺の顔なんて正視に耐えない…と?」

「よーし、わかった。灯りがついたら、穴が開く程じっと見つめながら…」
「ごめんなさい、調子乗りました。あと百回ぐらいは…閉じてて下さい。」


熱に浸りきってしまわないように、キスして、離して、話して、またキス…
キスの回数が増えれば増えるほど、口数も増えて笑みが零れてくる。
多分、こっ、こい、こいびと…達の、このような熱寒い状態を表現する擬音が、
『イチャイチャ』というやつなんじゃないかと…ようやく合点がいった。

「あ~やっぱ残念だな。赤葦が満面の笑みなのが、掌から伝わってくるのに…」
「黒尾さんこそ、口角が完全に上がってます…目尻は逆に下がってますけど。」

無表情がデフォな俺が言うのもアレだけど、黒尾さんは口で笑い目が笑わない…
逆に目が笑っている時は、腹の底がキンキンに冷えている時だから、
俺よりもむしろ黒尾さんの『心からの笑顔』の方が、レアな存在かもしれない。

   (今の顔…見たかった、かも。)


見えないことは、わかっている。
わかっているからこそ…恐る恐る上瞼を持ち上げ、正面にじっと目を凝らす。
やっぱり、目を開けても閉じても、真っ暗闇は変わらず、何も見えないが…
たとえ明るかったとしても、恋は盲目…結果的に同じなんじゃないだろうか。

   (それなら、このまま…)

近付いてくる吐息。
自然と降りてくる瞼を、キュっと力を入れて留めながら、キスを待つ。
目を開けているせいか、さっきまでより黒尾さんの動きがスローに感じて…

   (早く…)


背に回していた手で、キスを急かすようにシャツを少しだけ引っ張る。
するとすぐに、鼻先同士が触れ合い…

「…えっ!?」
「…あっ!?」


突然目の前に、黒尾さんの…どアップ。どうやら、停電が復旧したらしい。
眩しそうに目を瞬かせキョトン。それから目を細め、焦点を至近距離に合わせ…

「っっっ!!!」
「っっっ!!!」

ぶわっと音を立てながら、顔が真っ赤に染まっていく。
多分、俺も全く同じ状態…全身を熱が駆け巡り、顔から蒸発するのがわかる。
「あー」とも「うー」ともつかない呻きと共に、ただただ口をパクパク。
今まで見えていなかっただけの羞恥が、一気に目の前に晒されてしまった。

   (おおお、おれ、いままで…っ!!)
   (このひとと、きす、して…っ!!)


電気が戻ったのと同時に、夢の中からも引き戻されたような気分だ。
さっきまでの自分達が恥かしすぎて、全力で逃げ出しそうになった…が、
その寸前で、黒尾さんの震える声が部屋に響き渡った。

「あっ、赤葦!め…目、閉じてろっ!」
「っ!?は、はいっ!ど…どうぞっ!」

言われるがままに、ギュっと力いっぱい目を閉じ、同じ勢いでシャツを引く。
黒尾さんも勢いよく俺の両頬を掴んで引き寄せ…掠めるだけの、微かなキス。
その不釣り合いな緩急に、全身の力みが一気に抜け、へろへろとへたり込む。
そんな自分達が何だかおかしくて、顔を見合わせ声を上げて笑い合った。


「再度言うが…物凄い幸せ、だな!」
「何度でも言います…幸せ、です!」




***************




電気も復旧したし、お手伝いも終わったし、もうここに居る理由はない。
もっとずっと一緒にいたいけれど、これ以上はマズいと、自制心が叫んでいる。

最後にもう一度だけ…今までで一番長いキスをしてから、
悲喜の混ざった顔で微笑み合い、小指だけで手を繋ぎながら、機械室へ戻った。


「…ん?ドア、開かねぇぞ?」
「…え?どういうことです?」

廊下に続くドアは、入る時に『2960』と入力したところだが、
当然ながら、こちら側には鍵など付いていないのに…何故か開かない。
防音効果も兼ねてか、かなり重めの鉄扉だったとはいえ、明らかに…おかしい。

ガンガンと廊下に向けてノックし、誰か居ませんか!?と声を張り上げると、
向こう側からもノックの音と、慌てふためいた声が返ってきた。

どうやら、先程の停電で防犯制御盤が一時的にイカれてしまったらしく、
その影響で、各所の電子錠もダウン…ここ以外はすぐにリセットできたのだが、
機械室のものだけは旧式だったせいか、電子錠自体にロックが掛かったそうだ。
業者には連絡したが、地域一体が停電…対応できるのは明日の昼過ぎとのこと。

「つまり俺達二人は、あと半日ほど…」
「ここに、閉じ籠められてしまった…」


本当に申し訳ない!
だが幸いなことに旧宿直室には、ありとあらゆる必要なモノが揃っている…
食糧は非常用のを適当に食べてくれればいいし、風呂もトイレも完備だし、
流し台の下には、その他お役立ちグッズもある…必要ならば、ご自由にどうぞ。

我々も頻繁に使っている隠れ家的な場所だから、『お泊まり』にも困らない。
天災ではなく、天から『ご休憩』というご褒美が落ちてきたと思って…
明日の昼まで、二人でのんびりゴロゴロして過ごしてくれないだろうか?


…と、スタッフさんは平謝りだった。
でも、話を聞いている途中から、俺は心の中で盛大にガッツポーズを連発し、
雷様ありがとうございますっ!と、ニヤつく頬を必死に抑えていた。

スタッフさんは最後に、両監督からの伝言「この機会にゆっくり休め」を残し、
来た時と同じように、バタバタ慌ただしく走り去って行った。


「「…っしゃ!」」

二人同時に小さく拳を固く握り締め、歓喜の声を零してしまった。
どうしょうもなく本心ダダ漏れ…だが、そんなことはどうでもいいじゃないか。
文句のつけようのない『不可抗力』に、両監督からのお墨付き…怖いものなし!

黒尾さんとしっかり手をつなぎ、ダッシュで旧宿直室へ戻ってハイタッチ。
降って湧いた(落ちてきた)幸運を噛み締めるかのように、抱き合って…キス。
さっきまでの触れるだけのものとは打って変わって、喜びを音で表すような…

「ぶちゅ♪」っという文字通りの音が可笑しくて、何度も何度も音を立て合い、
それが面白くなってきて…キスそっちのけで笑ってしまった。


「赤葦、お前…デレッデレの顔だぞ?」
「どうぞあちらの鏡も…ご覧下さい。」

暗闇では見れなかった、緩みきった顔。
それを今、おでこを付けて間近でじっくり…初めて見る表情に、胸が高鳴る。
二人で寄り添い合って、流し台の下を開くと、想像通りのモノを発見した。

「やっぱこの部屋って…そうだよな。」
「お手頃な、ヤり…御休憩処ですね。」

毎週末が修羅場の泊まり仕事…スタッフさんの疲労やストレスは計り知れない。
折を見てこっそり休んだり、息等をヌく余暇が絶対に必要になってくるはずだ。
この旧宿直室は、そんな時のための隠れ家…『お役立ちグッズ』があって然り。

遠慮なくお借りします!と柏手を打って頭を下げ、遠慮がちに握り締める。
そして黒尾さんは、俺を一旦畳の上に座らせてから、非常用懐中電灯を携え…
この部屋と隣室の戸締りをしっかり確認し、再度、両部屋の電気を落とした。


暗闇が戻った部屋の中を、小さなライトがこちらに近付いてくる。
黒尾さんは俺の隣に座ると、懐中電灯の灯り部分を床に当てるように置き、
ごく僅かに光が見える程度にしながら、俺の頭を引き寄せ…キスも戻って来た。

今度のキスは、軽く触れるだけのものとも、音を立てて戯れるものとも違った。
唇でしっかり食むように触れながら、潤った音がナカから漏れてくる…
特有のぞわぞわ感だけじゃない、熱を高める欲が漲った、情熱的なキスだ。

   (このキス…キモチ、イイ…っ)


胸がキュンと詰まったり、頬がデレっと緩んだりするものとは全く違う、
腰から背中をナニかが這い上がり、脳を溶かして腰下を痺れさせる、熱いキス…
こんなキスは初めてなのに、息が詰まらないように自然と唇を緩めながら、
逆にお互いの距離を詰め…ジャージの腰紐を緩めていた。

「暗闇だと…大胆に、なれますね。」
「確かに…今、結構凄い絵面だぞ。」

緩めた部分に、舌と手を挿し入れ、お互いを深く絡め合っていく。
どうせ見えないんだから…と、いつの間にか衣服は全部脱ぎ捨てていた。

「学校の敷地内で、半年振り2回目の…全裸だな。」
「まるで、甲子園出場!みたいな…言い方ですね。」

「前回も今回も、浴場の隣室っていう点では…同じっちゃ同じか?」
「ユニットバスの外は、脱衣所とは…大差ないことにしましょう。」


暗闇の中だと、余計なものに気を取られなくなる…建前が見えなくなる。
おかげで、素直に本音と本能を出すことができる分、歯止めも効かなくなる。

互いの太腿を強く圧迫し合いながら、密着した中心を重ね、熱を上げていく。
自分達以外誰も居ないし、自分達でさえこの痴態を見ることはない…
その安心感から、欲望のままに手を動かし、口内をキスで蹂躙し合う。

「赤葦と…凄ぇ、キモチイイ…っ」
「独りと…全然、違います…んっ」

「半年間、ずっと…脱衣所でのこと…赤葦の姿を、思い出しながら、ヤって…」
「俺も…んっ、黒尾さん、の…感触を、必死に、思い出して、いまし、た…っ」

あの時は、風呂でのぼせ上っていたこともあるし、とにかく夢中だったし、
ただただ幸せでキモチよかった!以外には、ほとんど覚えていなかったが、
カラダに沁み込んだ情欲は消えることなく、大きくなるばかり…
次にカラダを合わせる機会には、最後まで止められないという確信があった。


「ねぇ…黒尾さん、は…どんなコトを、どんな風に、想像して…ました?」
「それ…言ったら、ドン引くかも…でもまぁ、都合のいい勉強は…した。」

熱を上下する右手は止めずに、背中側の左手を背筋に沿って真っ直ぐ下ろし…
柔らかい双丘をふにふに揉みながら、黒尾さんは耳元に「ゴメンな」と囁いた。

「どうやったら、赤葦と繋がれて…赤葦が、キモチよくなれるか…調べてた。」

まだ、そういう了解を得ていないのに、勝手に決めちまって、本当にゴメン。
でも、お前のナカに入りてぇっていう強い想いには、どうしても抗えなかった。
できる限り、赤葦を傷付けたりしねぇように、誠心誠意尽くすから…

「ココに、俺を…受け入れて欲しい。」


黒尾さんの真っ直ぐなキモチと言葉に、カラダ中が熱くなる。
大好きな人が俺を大切に想い、求めてくれることが、こんなにも嬉しいなんて…

高まった熱が、じわり…と目尻から零れ落ちてくる。
そんな自分の素直な感情も、暗闇の中では見えない…隠す必要もない。
俺はムギュ~っと黒尾さんにしがみ付いてから、ふにふにしていた手を捕まえ、
スラリと長いキレイな指を、繋がる部分へと導いた。

「俺も同じこと、考えて…二人でキモチよくなるための、練習…してました。」

半年間、貴方を想いながらココを弄っていた俺に、ドン引きかもしれませんが、
黒尾さんを丸ごと全部、独り占めしたい一心で…恥を忍んで、予行演習を…
できれば、その、おマヌケな姿は、想像しないで貰えると…助かり、ます。

「欲深い俺を、どうか嫌いに…っ!?」


俺の真っ直ぐなキモチと言葉は、最後まで言わせて貰えなかった。
固く抱擁された次の瞬間、息が詰まるほど激しく吸い上げるキス、そして、
潤いが絡み合う音が脳内に響く中に、別の潤いを指先に馴染ませる音が混ざり…
ほどなく、繋がる部分を緩めるべく、黒尾さんの指が優しく出入りし始めた。

「あっ!…あぁ…んんんんっ!」
「大丈夫…か?痛く…ねぇか?」

「困り、まし、た…っ」
「ど、どうしたっ!?」

「指だけで、キモチ、よくて…声が、抑え…ぁっ!」
「っ!?俺も、指、締められるだけで…っっ…んっ」


二人の間で擦れ合う互いの熱が、歓喜と快感を表すように、ビクビクと脈打つ。
暗闇の中でも、どれだけ相手に夢中で、互いを求め合っているか…丸見えだ。

   好きで好きで…堪らない。
   早くひとつに…なりたい。

「俺は、本当に…幸せ者だ。」
「俺も、心から…幸せです。」


満面の笑みを湛えた愛しい人に、優しく触れるだけのキス贈り合う。
そして俺達は、暗い夢の中で…ひとつに繋がった。




- 完 -




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2018/11/03

 

NOVELS