ご注意下さい!

この話は、BLかつ性的な表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さいませ。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)

ようやく『R-18』を突破いたしましたので、
今回は心置きなく『最後まで。』の話です。


    それでもOK!な方  →コチラへどうぞ。























































※『御泊初回』から一年ちょっと後のクロ赤。



    最後初回









「黒尾さんおはようございます。」
「おはよう赤葦。今日も寒いな。」


東京23区西部に位置する、黒尾家と赤葦家。
最寄駅から電車や地下鉄を利用すると、都心のターミナル駅を経由…
地図上にはぐるりと『つ』という字を描くような軌跡を辿りながら、
路線案内としては1時間程度を要する距離にある。

だが実際は、60万㎡もある広大な都市公園の、北と南…
公園の中心部までは、それぞれの家から軽めのジョグでたったの15分だった。

お付き合いを始めて、『はじめてのおデート(及びお泊り)』の時に、
実は直線距離で近い(電車代不要)という衝撃の事実を発見…
以来二人は、合宿遠征やら台風直撃やらの特殊事情がない限り、
毎日早朝…朝練前のアップがてら、公園での逢瀬を繰り返していた。

あれから、一年と少し。この日課も、400回目ぐらいになる。
運動習慣を継続しているおかげで、引退後も体力が落ちることもなく、
実に健康的かつ…色んな意味で『スッキリ』した朝を満喫中だ。


「ん…っ、くろお、さん、待っ…」
「やけに、息…上がってんな…?」

早朝とはいえ、この公園には犬の散歩やトレーニングをしている人も、
たくさんいるはずなのだが…その広大さ故に、すれ違うことがほとんどない。
まだ利用開始時間まで随分ある各種競技場付近に至っては、人の気配は皆無。
昼間は多くの人が日光浴を楽しむ芝生広場にも、人影は見当たらない。

黒尾と赤葦は、それらの『メイン』となる施設からも、離れた場所…
野鳥の鳴き声が響き渡る、緑道奥のトイレの、更に裏側で、
小鳥たちの鳴き声に合わせるように、互いの唇を啄んでいた。

400回程ココを利用しているが、半径50m以内に人が通ったことはない。
恐らく、ココで大きな声を出したとしても、誰も気付かないだろう。
もし聞かれたとしても、小鳥のさえずりだと思ってくれるはず。

…とは言うものの、地味で慎ましい二人は、ほんの数分の間、
小鳥のようなバードキスを愉しむだけ…それで大満足だった。


「…どうした?風邪でもひいたか?」
「いえ、ただ単に、寝不足…ですっ」

毎朝、同じ時間・同じ場所で、同じキス…『いつも』と違えば、お互いすぐにわかる。
やけに今日は、赤葦の呼吸が荒い…それに気付いた黒尾は、心配そうに顔を覗き込み、
もし体調が悪いのなら、あまり無理はさせられない…と、身を離そうとした。

だが赤葦は、黒尾の両腕を掴むと、しがみ付くように額を肩口に埋めた。
そして、小鳥のさえずりにさえかき消されそうな声で、コソコソ囁いた。

「黒尾さん、あの…今日のご予定は?」
「今日?これと言って、特に…なし。」

黒尾は実家暮らしの大学生として、悠々自適の日々を送っており、
入試期間のためその大学も休校…図書館にでも行こうかと思っていた。
また、赤葦もこのほど無事に進学先が決定し、卒業式までは何もすることがない…
それこそ、引退したバレー部の残務整理のためだけに、時々通学する程度。

今日は平日だが、二人共ヒマ…
いや今日だけでなく、しばらくの間、二人共が…かつてない程ヒマだった。

二人共『超ヒマ』であることは、既に知っていた。
先週末、黒尾は赤葦家の晩御飯…『京治君合格おめでとう会』に参加し、
その席上で、来春まで大学の授業はないことを、世間話として語っていた。
それなら、二人で旅行でも行ってくれば?…と、赤葦夫妻は冗談半分で言ったが、
冗談抜きでそのぐらいの時間的余裕だけは、たっぷりとあった。

しかし、『ヒマなら一緒に…』という一言を、なかなか言い出せない事情があった。
言え!今日こそ言うんだ俺!!と自身に発破を掛けながらも、
結局声を掛けられないまま…一週間程、悶々と過ごしていたのだ。
だから、『今日の予定』を尋ねられた黒尾は、「遂に来たっ!」という喜びと共に、
先に赤葦に気を使わせてしまったことを、申し訳なく思ってしまった。


「よろしければ、これからウチに…」
緊張がこもり、やや上擦った声。
黒尾も赤葦の意を察し、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「あぁ…ぜひ、お邪魔させてくれ。」
…じゃあ、早速行くか!

黒尾は努めて明るい声で赤葦の頭をポンポンと撫で、屈託ない微笑みを見せた。
赤葦はその優しい笑顔にホッと息をつくと、こちらも穏やかに微笑み返した。



「お邪魔しま~す…って、留守か?」
「平日ですから…普通に仕事です。」

初めて赤葦家に来た日以来、隔週ぐらいのペースで、黒尾は週末ここへ…
すっかり赤葦家に馴染み、『勝手知ったる』場所になっていた。
赤葦の両親も、黒尾を大変可愛がり、まるで家族のように接してくれた。

黒尾にとって赤葦家は、自宅と同じぐらい居心地が良く、
リラックスできる『セカンドハウス』と化していた。
ウインドブレーカーを脱いで伸びをすると、洗面脱衣所に向かって手洗いうがい。
風呂に栓をして、自動お湯張りボタンを押し、布団を敷きに上がった。
その間、赤葦は台所でお茶とおやつの準備…完璧な仕事配分である。


「お?何だか…甘~い香りがするな。」
リビングに戻った黒尾は、部屋に漂うコーヒーの香りに混ざって、
別のいい香り…上品な甘さに気が付いた。
すると、赤葦は冷蔵庫からその甘さの正体を取り出し、テーブルに置いた。

「チョコレート…チーズケーキです。」
今日は、その…バレンタインなので。
お口に合うといいのですが…

赤葦は俯きながら黒尾の方に皿を寄せ、「ナイフ、取ってきます。」と、
目を逸らせたまま台所へUターンした。

「まさかこれ…お前の手作りか?」
「それが…寝不足の原因、です。」

お、俺はその、黒尾さんに何か…とは思ってて、スーパーで色々見てたんですが、
それを母に目敏く発見され、勝手に「手作りしなきゃ!」と盛り上がってしまい…
昨夜遅くまで、ケーキ及び今日のお昼&晩御飯の下ごしらえをしてたんです。

それで寝坊してしまい、全力疾走で公園に向かったので、息が上がってたんです。
毎度お馴染みとは言え、ウチの両親は本当に強引で…参りますよね。


赤葦は、やや早口かつ詳細な状況説明…実にわかりやすい『照れ隠し』である。
だがその『わたわた感』は、黒尾の感激を増加させる材料となった。

徐々に朱に染まる顔。
堪えきれず、震える手で口元を覆い、俯いた。

今日がバレンタインであることは、黒尾も当然気付いていたし、
お互いに超がつくほどヒマ…『こうなるといいな』とは、内心思っていた。
だが、本当に赤葦からチョコを貰えるとなると、感動ひとしおである。
それが手作り、しかもかなり気合の入ったケーキだとは…

「め…めちゃくちゃ、嬉しい。サンキュー、な。」
「あ、いえ、半分以上は、母が…なんですけど。」
全部俺が作ってない分、味は大丈夫だと思いますが…それじゃあ、切りますね。

おもむろにケーキを縦半分に割ろうとした赤葦の手を、黒尾は慌てて止めた。
「ちょっ、ちょっと待った!す…スマホ、取ってくる!」

バタバタと階段を駆け上がり、そして降りてくる足音。
勿体無くて食えねぇって気分と、全部キレイに食い尽くしたいって気持ち…
その両方共が、紛れもなく俺の本心だ。
だからせめて、食べる前の美しい状態を、写真で永久保存させてくれ。
あと、その…コレを『ど真ん中』で切るのは、やめとかねぇか?

「せっかくの『ハート型』だから…な?」
「なら、フォークでそのまま…ですね。」

恥かしさ半分、本音半分で、二人は『美味い!』を連呼しながら、
あっという間にケーキを平らげた。





***************





「ホントーに美味かった…」
「それは…良かったです。」


早朝のジョギング、そのまま公園で午前中は遊び、昼前に赤葦家へ。
そこで入浴し、昼ご飯を食べてから、一緒にお昼寝…
これが、『初めてのおデート』から続く、休日の定番だった。

今日は公園で遊ばずに、そのまま赤葦家に来たこともあり、
まだ午前中の早い時間だが、二人は『おやつ』を満喫した後、
いつも通り、二人でのんびりと風呂へ入った。

「赤葦のおばさんにも、後でお礼メールしとこう。」
「物凄く喜ぶと思います。張り切ってましたから。」

湯船に向かい合って浸かりながら、他愛ないお喋りを続ける。
黒尾は幸せにも浸りつつ、気になっていたことを赤葦に尋ねた。


「昼と晩の下ごしらえも…って言ってたけど、おばさんの帰り…遅いのか?」

何気ない質問だったのに、赤葦はビクリと身を震わせた。
密着しているせいで、その動きは黒尾にも当然伝わり、
湯気に混じって、赤葦の緊張感が浴室中に満ちた。

「おっ、遅いと言いますか…今晩は両親共に、帰宅しない予定…なんです。」

毎年バレンタインデーには、二人で外食&外泊というのが、恒例行事で…
いつまで経っても『新婚気分』が抜けなくて…お恥ずかしい限りです。

「………。」
「………。」

「あっ、相変わらずっ、仲のよろしいことで…」
「いっ、いえ、その…ありがとうございます。」


つ…遂に、来た。

二人の頭の中に、全く同じ言葉が響き渡る。
脳内まで浴室になったかのように、その言葉にエコーがかかる。

地味で堅実な俺達には不似合いな程の幸運続き…
『初めてのおデート』の日以来の、神様からの『ご褒美』タイムが到来した。

あの日、気味が悪いぐらい『ラッキー』が続き、初デートにして初お泊り、
そして…と、勢いと流れに乗って『初めての…』に突入…
しても当然な雰囲気だったのだが、ギリギリのところで踏みとどまった。

身を焦がすような渇望に、囚われてはマズい間は…
赤葦が引退し、受験が終わるまでは、『知らぬが仏』作戦が最適解。
一番大切な『初めて』は、二人ともが『R-18』を無事越えるまでは、
『未知の領域』として大事にお取り置きしておこう…そう決めていたのだ。


あれから400日。
週末を赤葦家で過ごす時には、『ギリギリのところ』までは楽しんでいたが、
あの日決めた約束通り、『最後まで』は頑なに守り通した。
自分達の忍耐力の強さに、心から拍手を送りたい気分である。

そして今日、バレンタインという絶好のシチュエーション。
部活も引退し受験も終わり、二人共ヒマ…『明日休んでも問題ない』状況。
ちゃんと『R-18』だってクリアしたし、両親も明日晩まで帰宅しない。
遂に来た…『絶好のチャンス』である。

赤葦の『合格おめでとう会』により、状況が整ったことに気付いたからこそ、
二人は『ヒマなら一緒に…』という一言を、なかなか言い出せなかったのだ。
女神ユノだか、聖ウァレンティヌスだかは知らないけれども、
このタイミングでバレンタインが来たことを、神様に感謝したかった。


「あっ、あかあし…!」
「く、くろおさん…!」

勇気を振り絞って声を掛けるが、そのタイミングが完璧に一致。
つくづく相性が良いが…今は焦りを増長させるだけだ。
二人の動揺を、飛沫を上げる湯が如実に表し、更に鼓動を上げていく。

    (ま…まずい。このままだと…)
    (また…余計に喋りまくって…)

初デートの時も、緊張と羞恥を誤魔化すために、ひたすら喋りまくり、
それがどんどんエスカレート…ドツボにハマってしまった。
あれの『二の舞』だけは、絶対に避けなければいけない…

意を決した黒尾は、赤葦の腕をグイっと引き、湯船から立ち上がった。
そして、ギュっと抱き寄せ…先手を取ってしっかりと口を塞いだ。


「ん…」

小鳥のさえずりとは違う、深い深いキス。
湯気よりも熱い吐息と、黒尾の腕に包まれながら、
赤葦も舌と腕を、濃密に絡ませていく。

互いの体を強く抱き、背を上下に撫でる。
ぴちゃり…と、水分を多めに含んだキスの音が、浴室にこだまする。
しっとり潤んだ瞳とその音に、否応なく熱が高まっていく。

これまでも数度、この浴室で…一緒に気持ちよくなったことはある。
自室の布団に潜り込みながら…というのが『いつも』のパターン。
勿論それも、物凄く気持ちイイのだが、浴室は…いつもよりすぐ熱くなる。
きっと、温度と湿度、そして…明るさのせいだろう。

身を捩りながら、赤葦が黒尾の熱に触れようとすると、
黒尾はその手を握って止め、そっと耳元に囁いた。

「これより『先』は…上で、な。」
お前のカラダに余計な負担をかけたら…怪我でもさせたら、大変だしな。

言外に『いつも以上』を宣言され、赤葦は息を詰まらせた。
それに気付いた黒尾は、バスタオルで赤葦を包み込みながら、
大丈夫だから…と、その背を優しく拭いた。



***************





分厚い遮光カーテンの端を、少しだけ開けた室内は、
まだ午前中とは思えないぐらい、薄暗かった。
帰宅後すぐに黒尾がエアコンを付けていたこともあり、
バスタオルだけを体に巻いていた二人も、全く寒さは感じなかった。

部屋に入り、来客用(黒尾専用)布団の上で歩みを止めると、
二人は待ちきれないとばかりに、激しく互いの身体を抱擁し、キスを交わした。
顔の角度を変えながら。徐々に体の力を抜き、膝を落としながら。
いつの間にか落ちていたバスタオルの上に、背を乗せながら…

「何か…いつもより『バレンタイン』な雰囲気だな。」
先週泊まった時とは違う、真新しい来客布団のシーツ。
引出に用意されていた、真新しいバスタオル。
そのどちらもが、いつもと違う…『桃色』をしていた。


「もしかしたら、もう…バレてるかもしれませんね。」
今朝見た時は、いつも通り…空色のシーツが掛けられていたはずだ。
引出の中にも、いつも通り…海色のバスタオルが入っていた。
ジョギングに出た後、母がわざわざ取り換えた、ということだろう。

自分の両親を見ていてわかるが、きっと自分も、黒尾さんと居る時は…
実に仲睦まじく、デレッデレに緩み切っていることだろう。
黒尾さんだって、直視し続けられないぐらいの、甘い表情…
こんな俺達を1年も見続けていたら、気付かない方がどうかしている。

その上で、俺の背を押すように、ケーキを手作りさせたり、
今日は二人で楽しみなさい♪とばかりに、お膳立てをして外泊してみたり。
初めてウチに連れて来た日から、両親はすっかり黒尾さんを気に入り、
俺自身は両親の『公認』を得ていると、勝手に解釈していたのだが…
ここまで『あからさま』にされると、黒尾さんがドン引きしてしまいそうだ。


「毎度ながら、本当に勝手で強引な両親で…すみません。」
「いやむしろ、ホッとしてるというか…有り難い話だよ。」

恐らく、俺達が『ただならぬ関係』であることは、初対面でバレていた。
本来は激怒されてもいいはずなのに、俺のことも息子のように可愛がってくれた。
聡いご両親は、赤葦の様子から、俺達がまだ『一線』を越えてないこと…
何をどう考え、ギリギリの所で耐えているのかも、きっとわかっていたのだろう。

だからこそ、これでもか!という『あからさま』な歓待は、
「もう我慢しなくてもいいよ。」と、『お許し』を頂けたかのようで…
と、黒尾は自分に都合よく、勝手に解釈することにした。


桃色のシーツの上に、それよりも少し濃い桃色のバスタオルを敷き、
そこに、ほんのり桃色に染まった体の赤葦を横たえる。

「さっきも言ったが、勿体無くて食えねぇぐらい…キレイだな。」
すんなりと出てきた賛辞に、赤葦は体中を真っ赤に染めた。
両腕を精一杯伸ばして黒尾を引き寄せ、黒尾の体で自分の体を隠した。

「でも、全部キレイに食い尽くしたいと…そう仰ってましたよ?」
美味しく召し上がって頂けると、俺も…本望です。

黒尾の返事は、チョコレートのように濃厚で、甘いキスだった。



「う…ん…っ」

体の隅々まで、余すところなく撫で、舌を這わせていく。
文字通りに、全部キレイに食い尽してしまいそうな…手と舌の動き。
今まで二人でしていた、ただ『一緒に気持ちよくなる』のとは、全く違う。
全身を溶かすように、ゆっくりと丁寧に…『それ以外』の部分に触れられる。

一番敏感で、『気持ちいい』に直結する部分には、殆ど触れないのに、
腕や腰、胸や太腿…指先や耳朶に吐息が掛かるだけで、熱くなる。

「あっ…今までと、全然、違うんです…ね。」
「ヌき合うのと、繋がり合う…別物、だな…」

『最後まで繋がり合う』の、ギリギリ一歩手前まではきていたと、思っていた。
だが実際には、ギリギリどころか、スタートから全くの別物だった。
生理的に処理するのと、肉体的・心理的に結合するのは、別種の行為だ。
だからこそ、中心に触れていなくても、脳が痺れる程…気持ちイイ。


「あの日からずっと、お前と…こうしたかった。」
「我慢し続けて…俺もずっと、したかったです。」

「妄想し続けた『俺』の姿…『本物』が『ご期待』に添えればいいんですが。」
若干の不安を滲ませながら赤葦が呟くと、黒尾は微かに笑った。

「心配するな。俺は今、自分の『妄想力』がいかに乏しかったか…痛感中だ。」
むしろ、赤葦の『ご期待』に応えられるか、こっちが不安だよ。

黒尾は赤葦の膝を立て、開かれた脚部の奥を撫でた。
触れられたことのない部分を、行きつ戻りつ解していく感覚…
指が出入りする度に、赤葦は体と声を震わせた。

「ぃや…っ」
「嫌、か?」
「違っ、そこ…あっ!」
「っ!?凄い、な…っ」

未知の領域。未知の感覚。未知の快感。
見たことのない赤葦の姿に、黒尾は夢中になっていた。
触れれば触れる程、艶が溢れ出てくる…神秘的な姿だった。

ずっと我慢して…『蜜の味』を知らないままにしておいて、本当に良かった。
逢いたい。キスしたい。一緒に気持ち良くなりたい…
それらの欲求と、『蜜の味』に耐えるのは、我慢の種類も桁も、全く違う。
もし400日前にこれを知っていたら、部活や受験で多忙な日々を…
『蜜の味』のアオズケを喰らって、耐え抜けたかどうか、甚だ怪しい。

艶に彩られた赤葦の姿態は、人生を棒に振っても構わないと思わせる程、
惹き込まれそうな魅力を醸し…溺れてしまいそうなのだ。

「あかあし…」
何をどう表現していいかも、わからない。
ただただ名前を呼び、キスを交わし、体中を弄る…
もっと中へ、もっと深く…赤葦を求め続けてしまう。


『余計なお喋り』どころか、普通に言葉を交わす余裕もなくなってきた。
喉を突いて出てくるのは、詰めた息の塊と、言葉にならない甘い声だけ。

嬌声を上げながら、赤葦は黒尾の指を飲み込み、締め付ける。
その動きに、自分ごと全て引き摺り込まれてしまう…そう錯覚すらしてしまう。

「くろお、さん…もうっ…」

来て下さい…と、自分に都合よく『セリフの続き』を脳内で解釈しそうだ。
だが、それは都合の良い解釈ではなく…本当に『催促』だった。
赤葦は中で蠢く黒尾の指を抑え、脚で腰を挟み、全身で黒尾を掻き抱いた。
艶が零れ落ちそうな瞳で黒尾を見つめ、コクリ…と静かに頷いた。


「初めての、『最後まで』…」
「あぁ、初めて…繋がろう。」

ずっと大事に取っておいた、一番大切な『初めて』…
それは本当に甘美で、幸福な…『蜜の味』だった。



- 完 -



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※赤葦の部屋↓

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2017/02/13

 

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