興味津々







「嗚呼…切ないな。秋風が身に染みるぜ。」


第三体育館での自主練を終え、片付けを始めると、
入口から澄んだ夜空を見上げながら、木兎が呟いた。

「どうでもいいから、木兎もさっさと片付けを手伝え。」
「アンニュイな木兎さんなんて、ただのギャグですよ。」
秋風以上に、黒尾と赤葦の冷たぁ~い言葉に、身が切られそうだ…
そんなアタタカミのないお前らのせいで、俺の心は震えてキたぜ。

木兎の嘆きを完全無視…黙々と片付けを続ける、冷たいコンビ。
こんな冷え冷えの奴らに囲まれ、シイタゲられる俺…
「すみません、木兎さん…邪魔です。」
入口を塞ぐ木兎を除ける…フリをして、逃走を図ろうとした月島。
その首根っこをガシっ!と捕まえ、肩を組みながら、
木兎は後ろを振り返り、日向とリエーフを手招きした。

「なぁお前ら…こんな季節に欲しくなる、
   あったかぁ~い存在…何だと思う?」

体育館入口に4人並んで座り(座らされ)、静かに(!?)月を眺める。
左からリエーフ、日向、木兎、そして木兎に捕獲された月島。
木兎がそっと左隣の日向とも肩を組むと、
それと同じように、日向とリエーフも黙って肩を組んだ。

「…何ですか、あの妙な『仲良し青春ごっこ』は。」
「放っとけ。『木兎とその子分たち』…関わるな。」
「ちょっと待って下さい!僕は『子分』になった覚えは…」

助けて下さい!と訴える月島だったが、
月島が片付けをスルーしようと画策したのは事実…
黒尾達はその訴えをスルーし返し、粛々と片付けに精を出した。


「こうして引っ付いてると…あったけぇよな?」
「はい…人肌恋しい季節って言いますもんね。」
「何か俺も、キュンって…切なくなってきた。」
「僕は寒くなってきたので、そろそろ温かい場所へ…」

寒いなら、もっと俺の方に来ればいいさ…
今時乙女ゲームでもお目にかからないようなキザなセリフを囁き、
木兎は更に月島を引き寄せ、日向達も自主的に引っ付いた。

「こうして『人肌』に触れてると、無性に欲しくなるだろ…?
   寒さに震えるココロに寄り添ってくれる、温かい存在が。」

遅くまでお疲れさま。今日もスパイクいっぱい決めてたね。
すっごい…カッコよかったよ。
…あ、汗が冷えないように、はい…タオル!

「そ…それはっ、全体育会系男子の…憧れのシチュエーション!」
キラキラした視線で、日向とリエーフは木兎を見つめる。
僕は別に…と、月島が冷静に言いかけた所で、
遠くからバタバタと駆け寄ってくる、大きな足音。

「ツッキーーーーーっ!!遅くまでお疲れさま~!!
   今日もいっぱいブロック決めて…カッコよかったよ~♪
   あ…汗が冷えないうちに、タオルでちゃんと拭いて!」
「山口ウルサイ…けど、最高のタイミングだ。」

突然の乱入者に、木兎でさえ呆気にとられ…
肩を組んだ力が抜けた隙に、月島は山口の手を引き、
文字通りに『脱兎』…あっという間に逃走してしまった。

「あれも一応…『憧れのシチュエーション』…なのか?」
「クソ月島…相手が山口でも、なんか羨ましいっ!!」
「ツッキーめ…この俺すら、出し抜きやがった…っ!」
悔しさに打ちひしがれる3人…だが木兎はすぐに復活し、
今度は日向達と円陣を組み、真剣に語り始めた。


「世話焼きな幼馴染は、この際ちょっと置いといて…
   こんな時に傍にいてくれるような『恋人』…欲しいよな!?」

木兎の言葉に、日向達はウブな反応…頬を染めてわたわたし始めた。
「そりゃっ、いたらいいなぁ~とは思うけど…」
「俺にはっ、まだ…早いかな?バレーも忙しいし…」
常識的な回答をした一年坊主達に、木兎は「甘いぜ…」と首を振った。

「この俺も、一年の時はバレーで精一杯だった…」
二年になったら、試合とかで俺のことカッコイイ♪って、
いっぱいアチコチで言ってくれてるらしいのは聞いてたんだが、
試合後に実際に声を掛けてくれる子は…なぜかいなかった。

「木兎さんがもうちょっと上手く決めていれば…」
「…って、赤葦がいつも言うから、ソレに乗せられて、猛練習だ。
   なのに、そこそこ上手くできるようになっても…」
「今度は木兎がカッコ良すぎて、声掛け辛かったんじゃねぇか?」
「そうっ!まさに黒尾の言う通りなんだよ…」
梟谷で…いや、東京で一番バレー上手くて、カッコ良くなれば、
自然と恋人なんてできる…そう思ってたのに…

「カッコ良くなり過ぎた俺…逆に『高嶺の花』になってしまった。」
俺は『誰か一人』のものじゃなくて、『みんなのアイドル』に…
気付いたら、東京一カッコ良い俺は、今も恋人がいないまま、
「もうすぐ引退…これが、厳しい現実なんだ。」

哀愁漂う、悲痛な叫び。
木兎の語りに、日向とリエーフは心底涙し…恐怖を覚えた。
「ババババっ、バレーばっかりしてると、恋人…できないっ!?」
「木兎さんクラスでもムリとか…お先真っ暗だ…」

今は勿論、バレー最優先でいいだろう。
誰よりも高い場所へ…自分が『一番』になりたい。
だが、木兎クラスの高みに到達できたとしても、2年後には引退。
生活の大部分だった『バレー』がなくなり、ぽっかり空いた心の穴。
そんな中、冷たい秋風が吹く日には…
やっぱり、人肌恋しくてたまらなくなるに違いない。
優しい恋人に、凍える心と体を…ギュっとしてほしいに決まっている。

恋人との温かい抱擁という『素敵な夢』を妄想していると、
後ろからそれを打ち砕く『現実』という冷風が、突き刺さってきた。


「な~に、甘ったれたこと言ってんだよ。」
「『恋人』は『バレー』の代わりですか?」

お前ら、自分達の生活をよく思い返してみろよ。
早朝から朝練、授業の後は遅くまで練習。夜は帰ってバタンキュー。
週末は朝から晩まで練習もしくは合宿…恋人との時間、どこにある?

それに、恋人には『してもらう』ばかりじゃダメなんですよ?
バレーですらまだド下手…本業たる『学生』は、悲惨な状況です。
最低限の『自分のこと』も、ろくにできていないというのに、
恋人…『他人のこと』まで手が回せるとは、到底思えませんね。

「大切にしてやれる保証がねぇなら…相手が可哀想だし、失礼だろ。」
「自分が寂しい時にだけ傍に居てくれ、なんて…都合が良すぎます。」
そういう自分本位なことを言ってる奴は、『木兎コース』確定だ。
まずは自分のことをキチっとこなしてから、欲しがって下さい。


ぐうの音も出ない、剛速球の正論…しかも、痛烈なデッドボールだ。
容赦ない黒尾と赤葦の『冷たいコンビ』の攻撃に、
日向とリエーフはガクリと項垂れ、調子乗ってスミマセン…と呟いた。

しかし、『冷たいコンビ』慣れしている木兎は、猛然と噛み付いた。
「何だよお前らっ!カワイイ夢も妄想も、ズタズタにしやがって…!!
   それじゃあ何だ、黒尾は恋人なんかいらねぇってか!?」
「誰もそんなこと言ってないだろ…」
「あ、わかった!お前さては…既に『枯れて』んだろ?」
「んなっ!!?そんなわけ…っ」

「赤葦なんか、今のままだと…ただの口うるせぇ『小姑』だぞ!
   んでもって、『行かず後家』になる可能性大だな。」
「し…失礼なっ!誰が、小姑ですか…っ!!」
「お前だって男なら、高校生のうちに『初体験』を済ませたい…
   最低でも『ファーストキス』ぐらいは済ませたいだろっ?」
「そっ、それは…否定する要素が、ありませんが…」

思わぬ反撃に、黒尾と赤葦が喉を詰まらせていると、
木兎は日向達の腕を引いて立たせ、再び肩を組んで豪語した。
「あいつら、エラそうなこと言ってるけど…ただの『ムッツリ』だ!」
自分のキモチに素直になれずに、アレもコレもため込んで…
気付いたら『ドカン!』っていう、一番タチ悪い奴だぞ!
「お前らは、あんなオトナになっちゃいけねぇ…
   明るく・素直に・気持ちヨく…これが『エース』の心得だっ!」

木兎の力強い言葉に、エース志願の一年坊主達は感激した。
「俺…ムッツリより、明るく健康的な高校男児を目指しますっ!」
「高校生で枯れたり、小姑になるなんて…絶対イヤだっ!!」
俺達…木兎さんについて行きますからっ!!

「よしっ!お前らよく言った!」
木兎は二人を熱く抱き締め、ビシっ!!と夜空を指差した。
「これから俺が、どうすれば『超カッコいいエース』になれるか…
   『パーフェクト』な心得を、お前らに伝授してやる…行くぞっ!!」
「はいっ!!」
「お願いしますっ!!」

第三体育館の『暑苦しいトリオ』達は、ドカン!と音を立てて扉を閉め、
全力疾走で体育館から逃走してしまった。


「あいつら…好き勝手言いやがって…」
「この合宿中、『パーフェクト』に片付けから逃走…やられました。」

ポツンと体育館に残された黒尾と赤葦は、疲れ切った顔を見合わせ、
同時に重~~~~いため息を付いた。



<分岐ポイント>
※この先は、2つに分岐します。

   ①→『近唇賞味(きんしんしょうみ)
   ②→『
狂震未浸(きょうしんみしん)

①は、黒尾+赤葦…二人が『付き合う前』であった場合、
②は、黒尾×赤葦…『既に付き合っている』二人の場合です。
お好きな方をお選び下さいませ。

 

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