奏愛草子① (月山編)







「…は?僕は、ヤなんだけど。」
「おっ、俺も…ヤだ!」


中学入学の時は、何の疑問も抱かなかった。
高校の時も、部活の時も、違和感はなかった。
だがそれが、大学となると…さすがに「ホントにそれでイイの?」と、聞きそうになった。

いつの間にか、山口は僕と同じ東京の大学(学部は別)に、進学することになっていた。
高校受験時のように、進路調査票に『ツッキーと同じところ!』とは書かなかっただろうが、
当の山口どころか、教師や両親達や部活の同僚達も、それが『当然』だと認識しており、
多分僕だけが唯一、コトの異常さに気付いていたような気がする(口には出さなかったが。)

そもそも論として、僕達が同じ大学に行く必要なんて…あるわけがない。
僕と山口の持つ資質や適性は全く違うし、目指す道(学部)だって違う。
正直な所、『山口忠』を伸ばし、生かせる場所はもっと沢山あり、そちらを選ぶべきだ。
それに、たとえ僕達が別々の道を歩んだとしても、山口は絶対に…僕の傍に居るんだから。

   (居てくれなきゃ…困るんだから。)


とは言え、近すぎるのは遠いよりも大問題。
故郷を離れ、都心の同じ大学に進むにあたり、両親達が『当然』という体でこう断言した。

「今まで通り、どうせ一緒に居るんでしょ?」
「それなら、同じ部屋に住めばいいだろう?」
「二人がセットだと、親としても安心だし…」
「家賃光熱費諸々折半…効率的で賢い選択。」

仰る通り、御尤も。
学費も生活費も出して頂く以上、僕達に拒否権はないし、否定する明確な論拠もない。
より正確に言えば、『論』拠はなくとも『根』拠の方はある…極めて切実なアレが。

   (同せ…同居とか、絶対無理だから!!)


何で僕が、山口と…冗談じゃない。
いくら理知的で聡明なツッキー(※山口談)でも、『根っこ』はフツーに年相応な男性だ。
密かに…な相手と寝食を共にして、紳士的で冷静なツッキー(※山口談)を保つ自信はない。
そうなると、何だかんだで優しくてカッコいいツッキー(※以下略)像は、恐らく初日で崩壊…

   (『俺の大好きなツッキー』の…終焉だ。)

出逢った瞬間から、大事に大事に心の中で留めておいた、山口への想い。
それが「今日から同じ家に帰るんだね~」とか「荷解き前に…お蕎麦、食べに行こ♪」とか…
無邪気に言われた瞬間、一箱目のガムテープを剥がす前に、僕の仮面が剥がれてしまうっ!!

山口も重々承知だと思うが、僕はガマンが大嫌いだ。
同せ…同居なんてウマウマなシチュで、ガマンできるとも思えない(するつもりもない)。
だからこそ、山口を傷付ける可能性が高い『危機』は、(涙を飲んで)徹底回避するしかない!


…という、切実極まりない事情(根拠)と、僕なりの精一杯の誠意から、
両親達からの通達に対し、僕は何とか平静を装って、こう答えるしかなかった。

「…は?僕は、ヤなんだけど。」



その言葉を聞いた瞬間、俺の恋は…終了した。

出逢った瞬間から、ツッキーの傍に居るためだけに、ありとあらゆる策謀…陰の努力を続け、
人生の大半を費やし『同棲して当然』な空気を醸成し、その実現が目前に迫っていたのに…

ツッキーの返答は、まさかの積極的拒否。
俺の綿密なシミュレーションだと、「別に…いいけど。」という消極的承諾のはずだった。
だから、微塵も予想してなかった『No!』に、心の中に秘め続けた、俺の全てが崩壊…
ツッキー仕込みのポーカーフェイスで、外見上の崩壊をギリギリの所で食い止めた。

   (ぜんぶ…おしまい、だ。)


さすがの俺も、失恋したばっかりで未練タラッタラな相手と同じ屋根の下…なんて、無理。
そんなの、ただの拷問。ツッキーよりはマシだけど、俺だってそんなにメンタル強くないし。

こんなこと言ったって、両親達が決定してしまったことを、今更覆せるわけはないけれど、
(そう仕組んだのは、他でもない俺自身…策士策と涙に溺れるってやつかもね~)
全てを絶ち切るべく…自分自身を鼓舞するために、精一杯強がって断言した。


「おっ、俺も…ヤだ!」




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2020/03/03    (2020/01/07分 MEMO小咄より移設)

 

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