※『桃色片恋』後日談



    天使優先







   18歳の誕生日は、
   人生最悪の日になった。


一週間ちょい前、俺も一つオトナに…
平成27年の公職選挙法改正により、満18歳の俺は選挙権も与えられたし、
父母の同意があれば婚姻も可能、普通自動車や船舶、事業用飛行機の運転免許、
ボイラー技士や劇毒物取扱責任者等の、危険を伴う各種資格も取得可能だ。

ついでに言えば、パチンコ、雀荘、ラブホ等の風俗営業店にも入店できるし、
『R-18』作品も購入閲覧可能(但し、中古買取は高校卒業後から)になった。
完全とはいかないが、法的にはオトナへの準備期間に入ったことになる。

   (準備…いや、執行猶予期間だな。)

権利と義務は、表裏一体。
本来なら、選挙権と共に納税の義務やら就労の義務やらが生じるはずだが、
未成年かつ高校在学中の身には、それらの義務がしばらく猶予されている…
社会人として果たすべき責任を、学生というだけで免除して貰えているのだ。

   (オトナになる、とは…?)


これからは、誰かに生かして貰うだけのコドモじゃいられない。
自分で生きていくための手段を得て、巣立っていかなければいけない。
そして、ゆくゆくは誰かと共に生き、社会の一員として還元していく…

   (そんな日が、間違いなく…来る。)

年齢的にはオトナに近付いても、未だ親の庇護の下でぬくぬくしている段階で、
図体や意識だけはデカくなっても、それ以外は全てが未熟な状態のままだ。
まさに『これから』の状態で…『このまま』ではいられない場所に来たのだ。

今は学業(及び部活)が最優先の高校生。
大学卒業までの間は、精一杯巣立ちの準備に尽くすべき…それが許される時期。
庇護者達の胸やら脛やらを盛大に借り齧りながら、成長していきたいと思う。
偉そうな事を言っても、俺もまだまだ子猫…独りでは生きられないのだ。

だが、『巣立たなければいけない』と、オトナの階段を意識していることは、
何も考えずにぬくぬく生きるのとは、天地の差があるんじゃないだろうか?
社会や自分以外の誰かのために、自分も力を尽くしていきたい…
そんな気持ちの芽生えが、社会的動物『人間』としての成長かもしれない。


「…な~んて、な。」

以上が、大学入試だかの小論文的な『誕生日の抱負』だ。
オトナ受けのする、『おりこうさん』な模範解答…美しい『建前』である。
だが、これが100%受験もしくは就活の面接対策用の受け答えかと言えば、
実際のところはそうじゃない…『本音』も30%ぐらいは含まれていたりする。

   (俺も、誰かのために…)

去年までは、こんな模範的小論文を書くことに、全く抵抗がなかった。
数学や物理とまではいかないものの、歴史や文学の問いに答えるという程度で、
定型文をソツなく書いておけばいい…要領よく適宜こなしていた。

しかし、高2から高3…17歳から18歳への1年間で、随分と変わった。
部活一色なのは変わらないが、その部活の中で自分の役割が大きく変わった。
主将として部員達を率いるようになった責任感が、俺を成長させた…

   (…って言えば、合格なんだろうな。)


お節介なのは、元々の性格だ。
主将になって突然、周りに世話を焼くようになったわけじゃないし、
どちらかと言えば「クロ、ウザい。」と迷惑がられ、大して役に立っていない。

基本的に、各々の主義主張には寛容…違う考えを持つ人に対し反発もせず、
「こうすべき」と押し付けるほどの主義主張もない、いい加減な性格だ。
周りが思っているほど、俺は他人に興味もない…ただ単に、猫の手を貸す程度。
『まとめ役』としての主将が、心境の変化に大きく寄与したとは思えない。

そんなものよりも、俺を成長させた…悟りの境地を垣間見せてくれたのは、
『雑務処理』という、クソつまんねぇメンドクサイ仕事の山だった。
できることなら、他の誰かがいつの間にか片付けてくんねぇかなぁ~と、
心の底から常々願ってしまうような、アレやコレ…諸々のルーティンワークだ。


一応、全国大会に出場する程の、歴史ある強豪チームの主将だぞ?
もっとこう、やりがいだとか、華々しさだとか…多少あっても良くねぇか?
チヤホヤされたいとか、モテたいとまでは言わないが、なんかほら…なぁっ!?

俺だって、闘争心溢れる血気盛んな若い男…承認欲求も人並みにはある。
でも現実には、やりがいなんて感じる間もなく、業務に忙殺される日々…
華々しさとも無縁な、地味極まりない生活が続いている(これも元々の性格だ。)

   『やりがいがある仕事』なんて…
   そんなものは、ただの幻想だ。


こういうことがしてみたかった!や、誰かの役に立っている!という実感を、
最初から得られるような仕事など、そもそも存在しないんじゃないだろうか?

やりたいことができるのは、せいぜいが『趣味』の世界ぐらいだけで、
(きっとその趣味も、趣味です!と言い張れるまでには相当な苦労が伴う)
生きるために仕方なく、多少は得手な事を延々続けていくのが『仕事』…
それが、社会の一員として課せられている『勤労の義務』というやつだ。

『やりがいがある仕事』は、『安い美味しいヘルシー』ぐらい矛盾した言葉で、
クソ面倒な日々の仕事の中から、各々が無理矢理『みつける』ものだろう。
即ち…『※これは個人の感想です』という、通販の注意書きみたいなもので、
結局は自分自身が納得し、強引に思い込む幻想でしかない…自分次第なのだ。 


地味な単純作業の毎日。
誰かの役に立っているかどうかも、よくわからない…ただの仕事。
褒められたり感謝されることは皆無だけど、自分なりのこだわりはあって、
その小さなこだわりを達成できると、ほんのちょっと嬉しかったりする…
そんな仕事…義務を辛抱強く続け、生きていくのが、『オトナ』なんだろう。

   (主将業務は…仕事の予行演習、だ。)

主将を経験したことで、俺はこの先も仕事にやりがいを『求める』ことはない。
仕事は仕事。やりがいらしきものを自分で見出せるまでは、しんどいだけ…
それを理解できたことが、今後の人生にとって一番大きなプラスだったろうし、
確実にオトナになった証拠なんだろうなぁと、早々に悟った次第である。

「地味上等。それが、俺の…仕事だ。」


俺をこんな『オトナ』に成長させてくれたのは、膨大な雑務だけじゃない。
むしろ、その『雑務に埋もれ仲間』の存在こそが、俺をオトナにした主因だ。

生まれながらにして備えたカリスマ性。それを自ら輝かせる努力と才能。
そんな目映い上司の元で、陰の存在と為らざるを得なかった、気の毒な部下。
実力も器用さも十二分に持っているが、地味な影に徹する『仕事人』…

   (同情するに、余りありまくりだぞ。)

俺以上に地味で、表情も乏しく淡々。そのくせ「面倒です。」な感情は隠さず、
「俺がするしかないから、仕方なくやっているだけの事です。」と、
『仕事』の本質を早々に見極めた上で、人並み以上にこなす…他校の下級生だ。

   (こんな凄ぇ奴が、居たんだな…っ!)


バレー選手として突出した才能や、他者を惹き付けるカリスマ性もない。
不細工ではないが、誰もが振り返るようなイケメンでもない、ごくフツーさ。
実に地味で堅実で面白味の無い…華も可愛げもない(妙な?雰囲気はあるが)。

でも「仕事は仕事。」と割り切り、単調にこなしているだけに見えても、
伝達事項の書かれた事務的書類に、ちょっとした韻を隠し入れてみたり、
文字や数字で語呂合わせしたり、画数を美しく合わせてあったり…
自分なりのこだわりを見つけ、それを徹底して遊んでいる姿が、衝撃的だった。


「さっきの書類、ケツを縦読みしたら…『とりあえずねむたい』だろ?」
「っ!?よく気付きましたね!では、アタマを下から縦読みしたら…?」
「『おでんのだいこんすき』…お出汁シミシミ具合がたまんねぇよな~」
「最近、結び昆布がやたら美味しく感じる…俺も歳を取りましたよね~」

「今日のドシャット…左から右へ30度ずつ角度を変えて落としましたね?」
「お、よくわかったな~!45度だとすぐバレるから…細かくしてみたぜ。」
「そういうとこ、無駄に器用ですよね。贅沢な無駄…嫌いじゃないですけど。」
「器用貧乏だって、顔に書いてあるぞ?まぁ…褒められて悪い気はしねぇな。」

地味は地味同士、何となく気が合ったのかもしれない。
仕事の合間に、渋茶をシバきながらお互いの『こだわり』を賞賛し合う…
『何か』を達成したことを、お互いだけが気付いて笑い合うようになった。

   (俺がみつけた…やりがい、だ。)

   華なんてなくてもいい。
   世間から注目されなくてもいい。
   コイツが評価してくれるだけで…

地味に平穏に、尽きることのない日常の『仕事』を粛々とこなしながら、
その中から小さな幸せを見つけ、共に分かち合う『同士』を、心から尊敬し…
俺もコイツみたいになりたいと、強く思うようになったのだ。

   コイツと一緒に『仕事』を愉しむ。
   それこそが、俺の『やりがい』だ。


だから、今秋からの『OSK』プロジェクトは、まさに『やりがい』の具現化…
見回り中に遭遇した山口&ツッキーを構い倒すことに、楽しみを発見したのだ。

戦隊ヒーローごっこなんて、馬鹿馬鹿しい以外の何物でもないはずだが、
馬鹿騒ぎを演じることで、相手の警戒心を解いて円滑に問題解決を図れるし、
何よりもそう…二人で一緒に馬鹿をやるのが、楽しくて仕方なかった。

   (もし本当に、コンビを組めたら…)

そんなOSKの『月山オトナ化計画』も、先週無事にエンディングを迎え、
次の任務はナニにするか?という作戦会議を開くのを、心待ちにしていた。


だが、その目論見は…大きく外れた。
山口誕生日から一週間後の合同合宿に、何故かアイツの姿がなかったのだ。
どうしたんだ?と、探りをそれとなく入れる前に、勝手に木兎が喋りまくり、
『カテーのジジョーのホージ』で、シフトを外れているとわかった。

アイツの居ない梟谷の『しっちゃかめっちゃか』ぶりといったら、
とても黙って見ていられない惨状…気の毒過ぎてついつい手を貸してしまい、
気が付けば2チーム分の雑務を独りで背負い(木兎もおんぶしてやったり)、
それら全ての業務を終えたのは、日付が変わる30分前だった。



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「これはさすがに…キツい、な。」


我ながら、呆れる程のお節介…貧乏くじ引きまくり体質じゃねぇか。
「本当に助かった…すまなかったな。」と、梟谷関係者からは大感謝されたが、
「いえ、大したことじゃ…」とカッコつける余裕もないぐらい、疲労困憊した。

   (腰が…痛ぇ。)

リアルに『梟谷エースを背中で支える重み』に耐え抜いた俺は、大馬鹿だな。
もし仮に、アイツにもここまで甘ったれてるとしたら…ゾッとしねぇぞ。

   (アイツの腰が…心配だな。)


自販機裏に隠れるようにして、独りでグッタリ項垂れていると、
「あ、こんなとこに居た~!」「やっと見つけましたよ。」の声…
合宿所を抜け出してきた月山コンビが、眠そうな目を擦りながらやって来た。

「遅くまでお疲れ様です~」
「ご愁傷様、でしたね。」

梟谷の壊滅ぶりと、俺の満身創痍ぶりを横目に見ていたらしい二人は、
本心から心配と労わりの表情で、俺の両サイドにチョコンと座り込んだ。

「お前ら…見てるだけじゃなくて、ちったぁ手伝えよ。」
「え、それは絶対に嫌です。」
「俺達には荷が重すぎますよ~」

無理無理~と、悪気なくケタケタ笑う二人の首根っこを捕まえて、
コノヤローーー!と髪をぐちゃぐちゃ掻き回し…ちょっと気が晴れた。
何だかんだ言っても、俺のことを気に掛けてくれたことが、純粋に嬉しかった。


「そうそう、忘れないウチに…黒尾さんお誕生日おめでとうございます~♪」
「あと30分足らずですけどね。
   …で、こちらはささやかながら、僕達からの贈物です。」

そう言いながら手渡してきたのは、カードサイズの桃色の紙切れ…
余った地元商店街の福引券(期限切れ)裏側に、小さな文字が書いてあった。

   『天使召喚券』
   ※本券1枚で天使2体召喚(1回のみ)
   ※1つだけ『おねがい』を叶えます
      (常識と羞恥とお小遣いの範囲内で)
   ※受取から19日間(初日参入)有効
   ※受取者のみ利用可能


これは『かたたたきけん』的な…おとうさんありがとう~というやつだろうか。
ウチの坊主共も、こんな可愛いコトができるぐらい大きくなったのか…と、
胸にグッとくるものを必死に抑えつつ、桃色券を両掌でそっと包み込んだ。

「これは…かあさんの入れ知恵か?」
「違うもん!俺とツッキーの、二人だけで考えたもん!」
「お、おとうさん、あり…っ」

何ごっこだ、これは。
月山コンビも、意外とノリがイイ…反射的にノってしまう気質のようで、
途中で我に返ったツッキーは、セリフを止めて赤面ソッポ…余計可愛いだろ。


「んじゃ、早速…天使召喚だ。」
「えっ!?ちょっ、ちょっと待った!」
「ソッコーで呼ぶんですか!?もっとこう…大事に使って下さいよ!」

俺が桃色券を天に掲げようとすると、二人は大慌てで腕に飛びついてきた。
そして、一体ナニに使うつもりなんですかっ!?と、両脇から尋問…

「はぁ?何に使おうが、俺の自由だろ。
   ウチのエンジェル達よ、俺の肩と腰をグリグリっと揉み解してくれたまえ~」
「可愛い子ども達からの贈物…使わず取っておくのが親の心理でしょっ!?
   ほら、財布の中に大切にしまって…有効期限を突破しちゃって下さいよ!」
「うっわ、ツッキー…そんな狡いこと考えてたのっ!?おかあさんの入れ知恵?
   …じゃなくて、俺達はエンジェルというか、キューピッドの方ですから!」


キューピッドは、ローマ神話の…愛の神だったか。
ギリシャ神話で言うエロス…恋心と性愛の神と同一視されている存在だが、
幼児の姿で描かれることが多く、恋愛成就を司ると言われている。

「…だとしたら、キューピッドは紛れもなく『神(の子)』ってことになるから、
   天使…『神の使い』とは全然別物じゃねぇか。明らかに身分詐称だぞ。」
「確かに!!そこは、混同してました。
   ギリシャ・ローマ神話とキリスト教…世界観が違うものでしたね。」
「そのあたりのことを、詳しく考察してみるのも…凄い面白そうだよね~
   …いやいやいや、そうでもなくて!その有効期限から察して下さいよっ!」

期限は受取日から19日後…?どうせならキリよく20日にすればいいのに。
えーっと、今日が11月17日だから…計算するのも、疲労困憊の今は面倒だ。
それに、エンジェルだかキューピッドだかにも、さしあたって用はない…
あ、『後援者(パトロン)』って意味でのエンジェルなら、いつでも大歓迎だな。

『聞き分けのイイ子』って意味のエンジェルには、坊主共は当てはまらねぇし、
『心も姿も美しい人』…つまり『最愛の人』ってのも、コイツらじゃなくて…

   (俺の、エンジェルは…)


ふわり…と、淡い桃色のシルエットが、脳内に舞い降りたような気がしたが、
それにはっきり気付くより先に、可愛いウチの坊主共が話を換えてきた。

「えーっと…きょっ、今日はおかあ…OSKレッド不在で、大変でしたね~」
「イエロー&グリーンも、お会いできなくて寂しかった…ブラックは?」
「まぁ…そうだな。でも、たまにはアイツもゆっくり休ませてやりてぇし。」

今日、アイツの仕事のごく一部を体験したが…吐き気がするレベルだった。
俺にできることがあれば、最優先で援助してやりてぇと、強く強く思った。

   (アイツの役に…立ちたい。)


そうと決まれば…だ。
俺は桃色紙を再度天に掲げ、二人に捕まる前に高らかと天使召喚を宣言した。

「有効期限最終日…レッドの誕生日に、しっかり『お手伝い』してやってくれ!
   それが、俺の…ブラックおとうさんからの『おねがい』だ。」

頼んだぞ?と、片目を瞑ってイエロー&グリーンの髪をわしゃわしゃ撫で回す。
すると二人は一瞬物凄く驚いた顔をし…すぐに満面の笑みで飛びついてきた。

「わかりました~!全力でレッドおかあさんのお手伝い…頑張りますっ!!」
「あなたって人は、全く…
   安心して下さい。ちゃんと約束は…守りますから。」

何だよもう、ウチの子…やっぱり天使じゃねぇか!
18の誕生日に二人の子持ち気分を味わうのは、オトナにひとっ跳びだが、
これもオトナへの準備?だと思えば、悪くねぇ…最高に楽しい誕生日だ。


「そうと決まれば、レッドおかあさんにメッセージ送りましょうよ~♪
   もしかすると、今日一日待ち続けた言葉を…貰えるかもしれませんよ?」
「ブラックおとうさんが、僕達を代表して…はい、お願いします。
   あと10分以内…今日中であれば、ほぼ確実に貰えるはずですから…ね?」

早く早くっ!と二人に急かされながら、俺はレッド宛にメッセージを…
馬鹿、横からしっかり覗き込んでんじゃねぇよ!はっ、恥ずかしいだろうがっ!
っつーか、業務連絡以外のことをわざわざ送るのは…コレが初めて、か?

   (常識と羞恥の範囲内…で、いいな。)

『OKSレッド、今日は珍しくシフト外なんだってな?ちょっと寂しいな(笑)
   ま、この機にしっかり休めよ~ OSKブラックより。』


「あの、これ…業務連絡に毛が生えた程度じゃないですか。」
「もっとこう…何かあるでしょ!愛しい愛しい OH MY ANGEL~とか!」
「何だそりゃ。ま、お前らがキューピッドなら、アイツはまさにエンジェル…
   それか、もしかすると『エロス』の方かもしれねぇよな~!」


さっき脳内に舞い降りかけた、やけに桃色な光を纏ったエンジェルは…
時々、な~んか妙にゾクっとする雰囲気を放つと思ったら、そういうことか!
いやはや、納得だ。


「…えっ!?そ、それって…うわぉ♪」
「ようやく、自覚なさったんですねっ」
「あぁ。アイツは…ピンク兼任だな!」

「…は?」
「…え??」
「…ん???」

アイツはレッドには違いないが、俺にはピンクにも見えるが…違うのか?
キョトン顔を見合わせていると、スマホがブルリと震え、画面が赤く染まった。
これは、レッドからの着信。二人にも見えるように真ん中に置いて開くと…

   『コード34708181。
      OSKレッド、 脱退します。』



「…はぁっ!!?」
「…えぇっ!!?」
「34708181…サヨナラバイバイ。」

届いたのは、残り少ない11月17日を祝ってくれる、待望の言葉ではなかった。
俺達に一方的に別れを告げる、まさかの脱退宣言だった。


「嘘、だろ…?」

淡い桃色に輝き始めていた世界が、一瞬で漆黒に暗転した。
その瞬間に、自分が本当に期待していた『言葉』が何だったのか…
誰よりもアイツを優先し、役に立ちたいと願ったことの意味を理解した。

   (俺の、エンジェル…だったのか。)


   18歳の誕生日。
   俺は自分の初恋を自覚し…
   同時にそれが消えた日になった。




- 終 -




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※BGM 松浦亜弥『奇跡の香りダンス。』


2018/11/26 黒尾&赤葦 『真ん中記念日』

 

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