※『自己贈答』後日談



    桃色片恋







   こんなことになるなんて…予想外。
   いや…想定してしかるべきだった。
   これはもう、コメディじゃ…ない。


きっかけは、先週末の合同合宿。
深謀遠慮かつ後輩配慮、そして愛情百倍な作戦時に生じた…小さな疑問だ。

月島君の誕生日に、山口君の相談を請けた流れから結成に至った風の…OSK。
先週、イエローこと月島君の救助要請に応えて差し上げる…と見せかけて、
山口君へのサプライズ誕生日プレゼントを贈ってしまおう!という、
一連の『月山オトナ化計画(仮称)』の、最終章にあたる作戦を決行した。

体育会系とは思えない程、先輩に対するリスペクトを微塵も見せない、月島君。
心の中でどう思っていようと、組織運営のためには体裁を繕った方が楽なのに、
自らそれを放棄し、クソ生意気なまま生き辛い道を突き進む…ドM野郎だ。

俺からすれば、あんな大っぴらに『嫌』という感情を曝すツンデレ仕様なんて、
無防備も甚だしい…実に純粋で素直な、お馬鹿さんだなぁ~と思っていた。

『嫌い』をはっきり表すということは、『好き』もまた然り…一目瞭然。
既に山口君の尻に敷かれまくっているくせに、つれない素振りをしてみせたり、
山口君はそれを全て承知の上で、掌でコロコロしかけている…が、まだ拙い。

   (初々しくて…いじらしい。)

そんな『ツンデレvs姐さん女房』的な、幼馴染達の将来を賭けた攻防戦は、
ヒマだったら遠目から観察し、心ゆくまで愛でたい気分でいっぱいなのだが、
それはBL漫画だけで十分…身近で振り回されるなんてのは、面倒なだけだ。

組織を乱す恐れのあるモノは、極力潰して…じゃなくて、解決しておくべき。
俺はグループ全体のために、お節介もとい騒動の元凶を絶とうとしただけで、
あの二人とこんなに仲良くなり、可愛くて構いたくて仕方なくなるなんて…

   (こんなに楽しいなんて…想定外。)


業務の円滑な遂行のために、戦隊モノ等の道化を演じるなど、造作もないこと…
二人を構い倒すこと自体が、ただの業務の一環でしかないと思っていた。
だが流されるままに活動を続けているうちに、すぐに業務が『任務』に変わり、
その任務すら、いつしか『娯楽』もしくは『癒し』に変化していった。

不審者・山口君に職質するために、咄嗟に『OSK』と言っただけだったのに、
月島君に対する呼び名を考えた結果、定着したのはまさかの『OSK』の方。
更には、作戦会議中に月山二次創作をしてみたり…わくわくな体験目白押しで、
山口君捕獲から月島君緊縛までの44日間は、本当に毎日が楽しかった。

   (まるで、変身したみたいな…転換。)

面倒なだけだった業務が、OSKというネーミングを冠するだけで、激変…
無気力にこなしていた雑務の時間が、桃色に輝いて見えてくる程だった。
その面では、山口君と月島君には感謝してもしきれないと、素直に思っている。


期せずして俺に楽しみをくれた二人に、少しでもお返しができたら…
そう思いながら、最終章で心から遊んでいた最中だった。
月島君の何気ない一言に、脳内で入れたツッコミが…『疑問』を生んだのだ。

「『贈答する側が贈るモノを考える』という流れは、回避したいんです。」

毎年サプライズ演出は論外だが、何をプレゼントするかを毎年悩むのも厄介だ。
だから、何が欲しいのか?と予め贈られる側に尋ねた上で、
贈る側が用意(もしくは一緒に購入)するという合理的方法には、俺も大賛成だ。
幼馴染等、長い付き合いの親しい相手には、お互いのために最良だと思われる。

では、
   ・長い付き合いではない
   ・それほど親しい相手でもない
このような場合は、一体どうするのが合理的かつ、コスパ最高な選択だろうか?


非常にお世話になっており、誕生日を知ってしまったからには、無視できない。
かといって、「何が欲しいですか?」と聞けるほど親しい間柄でもない。
サプライズなど以ての外…贈り物をすること自体が、驚かれるぐらいだろうし、
それでドン引きや遠慮されると、折角の良い雰囲気も台無しになりかねない。

   (それでは…元も子もない。)

『業務を任務にして遊ぶ』という楽しみをくれたのは、月島君達だけじゃない。
むしろ、感謝の気持ちを最もお返ししたいのは、一緒に遊んでくれた人だ。
俺なんかよりずっと多忙で重責を担っているのに、共に馬鹿騒ぎをしてくれて…
二人で『作戦会議』をしまくった44日間が、本当に本当に…楽しかったのだ。

部活仲間や友達に、おめでとうと言ってジュースを奢る程度じゃなくて、
でも、重荷にならないけれど、ただの友人知人とは違う、少しだけ『特別』で、
なおかつ、高校生のお小遣いで何とかなる気の利いたものを…17日までに。

   あの人に、感謝の気持ちを伝えたい。
   できれば、喜んで受け取って欲しい。
   願わくば、長く親しい間柄になって、
   来年こそ、合理的な贈り物をしたい。

   (何を贈れば、あの人の特別に…?)


あーあー、いいですねぇ、月島君は!
来年以降はアッサリと山口君に「何がいいの?」って聞いてしまえばいいだけ…
今年だって、山口君から凄いプレゼントと幸せを、先に貰っちゃってますし、
こうやってお節介な先輩達に可愛がられて、結局オイシイ思いをさせて貰えて、
本当に恵まれている…嫉妬するのも馬鹿馬鹿しいぐらい、素直に羨ましいです!

こっちだって、何を贈ったらいいのか見当もつかないし、センス皆無だし、
熨斗風バスタオルと赤手拭いを折半購入したせいで、お小遣いも残り少ないし。
そもそも、誕生日を祝い合うような仲じゃないのに、贈っていいものやら…

いや…待て。
「先日は3回に渡ってお世話になりました~♪」とかいう正当な口実で、
月島君と山口君からは、物凄く贈り物をしやすい状況にある(絶対すべきだ)が、
そんな確固たる口実の無い俺は、イエロー&グリーンに先を越されてしまう!?

   それだけは、絶対に嫌だ。
   黄&緑を始末しても、俺が一番を…!

   ………ん?


月島君の相談から生まれた、ほんの小さな疑問をきっかけに、
俺は脳内で悶々と、そんなことをぐるぐる超高速で考え続けた結果…

   (えっ、もしかして、俺…っ)

絶妙な力加減で、ゴシゴシと背中を擦ってくれている、真後ろの人のことを、
自分がどう想っているのか…その時に自覚してしまったのだ。

   (いつの間にか、この人を…っ!!)


そこからは、思考を強引にシャワーで流し、月山作戦の遂行にだけ意識を集中。
策自体は無事に成功…きっと最高のプレゼントを贈ってあげられたことと思う。

でも俺は、自分の気持ちを自覚してからと言うもの、
あの人の顔をマトモに直視できなくなってしまい…目を逸らし続けている。

だって、チラチラと目が合っただけで、『キュルルン♪』と胸が異音を発し、
でも、気が付けば柱の影からそっと、マジマジとその姿を見つめてしまう…
山口君以上に不審極まりない行動で、避けまくりつつ探し続けているのだ。

   (きゅっ、急性、不整脈…っ)

また同時に、あの人の名前すら口に出すこともできない状態に陥ってしまった。
視線を逸らしながら注視するという、離れ業を実行し続けた副作用ゆえか、
RGBカラー表記で『0,0,0』、ウェブカラーだと『#000000』な人なのに、
色眼鏡フィルター的な何かのせいで、あの人の周りに靄?がかかって見えて…

   (も…桃色にしか、見えない…っ)


このままでは、コードネームを『OKSピンク!』と叫んでしまいかねない。
普通に呼ぶのだって、近場を取って『桃尻さん』と言ってしまうかもしれない…
もしそんな呼び方をポロリしてしまったら、贈り物どころの話ではない。

まさか『相手をどう呼ぶか?』という、山口君からのしょーもない相談が、
約50日経って、こんなにも自分を悩ませることになるなんて…大誤算だ。

自分が何をどうしたいのか、全くわからない。
その『わからない』という状態すら、自分でもよくわからない…
まるでファンタジーの世界に迷い込んだような桃色の感覚…生まれて初めてだ。


この異常な諸症状は、循環器科もしくは眼科に救急搬送されてもいいレベル…
冗談抜きで自分が『変身(変態?)』してしまいそうな、急激な変化だった。

   (間違いなく、これは…)

どんな名医でも治せない、例の病だ。
お医者さんではなく、それこそ戦隊ヒーローかエンジェルに頼むしかない…
病原体に治療要請するなんて、もはやコメディにもならない窮地じゃないか。

「自分のラブコメは、笑えない…っ」


桃色を自覚してから…一週間後。
ちょうど祖父の17回忌法要と重なったことから、俺は合同合宿を休んだ。

あの人と顔を合わせずに済んで、少しホっとしている自分が居る反面、
会えないことが残念で泣きそうな自分…どっちにしても、苦しいのだ。

   (桃色病…苦しくて、たまらない。)

邪念?煩悩?だらけの俺は、お坊さんのありがたい御経も上の空…
そんな『らしくない』俺に気付いた両親は、体調が悪いと勝手に勘違いし、
盛大に甘やかした挙句、早々に俺を布団に寝かしつけてしまった。

父さん母さんじーちゃん御先祖様にお坊さん、本当にゴメンなさい。
寝ても治らない…俺が諦めない限り、癒えることのない『桃色病』だけど、
今はお布団のふわふわに甘え、桃色を包んで…自力で解消していきますから。


そう決意し、諦めの境地へ旅立とうとし始めた瞬間…スマホが震えた。

『OKSレッド、今日は珍しくシフト外なんだってな?ちょっと寂しいな(笑)
   ま、この機にしっかり休めよ~ OSKブラックより。』


届いた出動要請…ではなく、労わりの言葉に、喜びと苦しみが同時に襲い来る。
あの人からの言葉が、嬉しくてたまらない…でも、同じくらい、苦しい。
布団を全身で抱え込み、ベッドの上でぐるぐる悶絶…メッセージは永久保存。

見れば見るだけ苦しくなるのに、何度も読み返しては歓喜…文字が滲んでくる。
貰ったメッセージを消去すれば、桃色病も消えるというのなら…と、
何度も保護を解除したり、また付け直したりを繰り返してしまう。

   (俺も、逢えなくて、寂しい…っ)


あ、返事…どうしよう?
本当は、返すべき言葉は決まっている。
まずは11月17日を祝う『定型句』を入れて、それから…?

   (俺の、桃色を…)

迷った挙句、俺が返したのは、『定型句』すら入っていないものだった。


   『コード34708181。
      OSKレッド、 脱退します。』



- 終 -




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※BGM 松浦亜弥『桃色片想い』


2018/11/17 黒尾誕生日

 

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