ご注意下さい!

この話は、『R-18』すなわち、BLかつ性的な表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)

また、当シリーズは前話『泡沫王子』で完結しております。
こちらはただの『蛇足』で、最終話の雰囲気をぶち壊している恐れもあります。

    それでもOK!な方  →
コチラをどうぞ。






















































※『泡沫王子』の、翌朝。




    原点回帰







柔らかい感触に、沈んでいた意識が浮上する。
ゆっくりと目を開けると、目の前はまだ薄暗く…

(まだ早い時間…もうちょっとだけ…)

再び目を閉じようとすると、軽やかなメロディが外から聞こえて来た。
リサイクルを呼びかける声…ゴミ収集車の音だ。

(もう、そんな時間…?それにしては、暗い…)

腫れぼったい目をようやくこじ開けると、
薄暗さの原因が、目の前いっぱいに…覆い被さっていた。

ちゅ…と、ごく小さな音を立てて、唇から熱が離れる。


「おはよう、山口。」
「お、はよう、ツッキー…?」

あぁ、これが噂の…『目覚めのキス』、というやつか。

それに気付いた瞬間、猛烈に襲い来る…羞恥心。
俺は急いで布団を引っ張り上げ、頭から潜り込んだ。


「何隠れてんの。」
「目覚めの一発目が、ツッキーのドアップ…心臓に悪いよ。」

『いばら姫』の王子様が、どうかイケメンでありますように…
そう願ってはいたものの、本当にいきなりイケメンのドアップがあると、
お姫様の心臓に、大層宜しくない衝撃が…

「失敬な…そんな『据え膳美味そう♪』な顔、してないつもりだけど?」
「いやいやいや、そっちの方が、まだマシだよ…」

どちらかというと、『愛おしくて仕方ない』と言わんばかりの顔…
こっちの方が、余計に心臓に悪い。

布団の中で、動悸を抑えようと深呼吸していると、
バサリと勢いよく剥がされ、代わりにツッキーが圧し掛かってきた。

驚きの声を上げる間もなく、塞がれる唇。
そのまま何度も何度も、溺れそうなほど、キスの嵐。
海の底に沈んでしまわないように、腕を伸ばし、王子様を引き寄せる。


    チラチラと覗く、林檎の様に赤い、唇。
    その間で、ハブのように絡み合う、舌。

何人ものお姫様と王子様が、脳内を通り過ぎてゆく。
目の前の王子様は、どの王子様よりも淫猥で、
お姫様をその甘い毒で、溶かそうとしている。


「今回は、たくさん…お姫様が出て来たね。」

まな板の上の鯉にならぬよう、自ら腰を浮かせ、衣服を脱ぎ去る。

「たくさん出て来たと言えば…『水辺の仲間たち』もそうだね。」

カイロウドウケツに、ドウケツエビ。
鯉に鮪、ヒトデに、それから…

既に救難信号を発する『海男子』を、急き立てるように握り締める。
全身を硬化し、しがみ付く耳元に、荒い息遣いと共に、掛かる声…


「その『水辺の仲間』に、英名『Sea Anemone』…海のアネモネがいるんだ。
   これ、一体…『ナニ』だと思う?」

海に咲く、豊かな花弁の花々。
風に揺れるアネモネのように、波に揺蕩う海の花…
ヒントは、『海夫人』…山口の、誤答の一つだよ。

旅館で赤葦に出された、オトナなクイズ。
『海男子』のナマコに対応する存在として、俺が間違えた答えは…

「イソギンチャク…だね。」

正解のご褒美とでもいうように、敏感な部分を擦り上げる。
更なる快感を得たいと、視線で訴えてみるものの、
それをはぐらかすように、ツッキーは雑学を披露する。


「九州の一部地域では、イソギンチャクを食べるらしいよ。
   ヨロイイソギンチャクの一種で…『ワケノシンノス』って言うんだ。」

何となく、読めてきた。これは…いつものアレだ。
最後の最後に、とんでもないネタで『シメ』るパターンだ。

わかってはいるけれども、好奇心には勝てない。
俺は、もう半分『笑う準備』ができた表情で、ツッキーに問い掛ける。

「念のため聞くけど、その『ワケノシンノス』って…どういう意味?」


ツッキーは、至極真面目ぶって眉間に皺を寄せ…
笑うのを堪えるように口の端をヒクつかせながら、丁寧に答えた。

「『ワケノ』は『若者・青年の』、『シンノス』は漢字で『尻の巣』…
   まぁ要するに、これから僕がお邪魔する…『入口付近』だね。」

ちなみに、イソギンチャクの独名は『Seerose』…海の薔薇、だよ。


「何とまぁ…『お見事』としか言いようがない『シメ』だね。」

顔を見合わせ、同時に吹き出す。
こんな『締らないネタ』で笑い合えるのが、最高に…楽しい。

『入口付近』を行きつ戻りつ回帰する、ツッキーの指。
それを誘い込む様に、花弁をキュっと閉じ、締め付ける。


「それじゃぁ、今回は俺がキレイなネタで話を『シメ』とくよ。
   美少年・アドニスが流した血…そこから咲いたアネモネは、何色?」

「考えるまでもなく…『赤』だろうね。」

ツッキーは正解を即答し、俺はその『ご褒美』のために、脚を開く。
入口から、徐々に繋がり…『結合という完成』を待って、俺は口を開いた。


「赤いアネモネの花言葉は…『君を愛す』、だよ。」

真っ赤なアネモネが、二人の間で花開いた。



- 月山編・完 -




***************






「水栓の下に本剤を出し、上から少しずつお湯を…」
「何やってんだ?」
「っっっ!!!?お、おはよう、ございます…起こして、すみません。」
「あぁ、おはよう…で?それは何だ?」


しっとりするはずの『人魚姫』の考察が、一人の大ボケによって喜劇に…
その翌朝、いつも通り早めに目が覚めた赤葦は、浴室で体を洗い、
湯船にお湯を張ろうとしているところだった。
いつもはシャワーで済ませるところだが…今日はお湯に浸かりたかった。

なかなか出てこない赤葦を心配してか(どうかは不明だが)、
黒尾はノックもなしに、いきなり浴室へやってきたのだ。


「昨夜、山口君からこれを頂いて…『泡風呂』の入浴剤だそうです。」

どうやら、『腰に効く』成分が入ってるそうですよ、と、
寝ぼけ眼で浴室を覗き込む黒尾に、貰ったパッケージを見せた。

「バブルバス・マーメイド…ドンピシャなのはお見事だが、
   ラプンツェルだけじゃなくて、人魚姫も…腰痛持ちだったか?」
「さぁ…そもそも、『腰』がどこだかも…
   って、黒尾さん…何してるんですか?」

その場でシャツやズボンを脱ぎだした黒尾。
答えは聞くまでもないが…赤葦は念のため確認した。

「泡風呂って、あんまり泡…もたねぇんだろ?
   折角だから、俺も『人魚姫』気分を味わっとこうかな、と。」

俺もパっと洗っちまうから、お前は先に入ってろよ。
有無を言わさずシャワーで頭を洗い始めた黒尾…
赤葦は黒尾から見えないようにそっと息を吐くと、意を決して浴槽に入った。


空の浴槽に座り、水栓の真下に入浴剤を垂らす。
マリンブルーの液体の上に、静かにお湯を注ぐと、
浴室中に甘い花の香りと、空気を大量に含んだ泡が出現した。

「これは、なかなか…凄いですよ。
   全力でシェイクしたビールの中で、泳いでいる気分です。」

もこもこと自分の体を包み込むクリーミーな泡に、
念願だった『ビール風呂』を達成したかのように、赤葦は喜んだ。

浴槽一杯に泡が溜まったところで、黒尾はお湯を止めた。
一度立ち上がるように赤葦を促すと、ザブンとお湯に浸かり、
両手を広げて、再度赤葦を促した…ここに座れ、と。


「せ、狭いですし、俺は、そろそろ…お先に失礼します、ね。」
「この部屋をツッキーが借りた理由…『広い浴槽』だってよ。」

腕を掴まれ、引き寄せられる。
あれよあれよと言う間に、向かい合って抱き合うような恰好で、
赤葦は…黒尾の腿の上に収まった。

泡を掬っては、赤葦の背中に乗せ、馴染ませるように、撫で付ける。
滑り落ちる泡と、熱い手の感触…蕩けるような心地良さだ。
赤葦も黒尾の背に腕を回すと、頸筋や肩に泡を乗せ、
同じように撫で付け、滑らせるように揉み解す。


上気する頬に、互いの吐息が掛かる。
互いの体の間で、ぬるぬると滑る泡…
何とも言えない感触に導かれるように、
額を付け、頬を寄せ、唇を合わせていく。

「効能通り…『腰にキく』な。ぬるぬる感が、たまんねぇわ…」
「確か、ヒアルロン酸配合…って、書いてあった気がします…」

潤い成分たっぷり。どおりで気持ちいい肌触りなわけだ。

「そう言えば、『割れない泡』…強いシャボン玉を作るには、
   ヒアルロン酸入の化粧水を、シャボン液に混ぜると良いそうですよ。」
「なるほど…保水力を高めて、しなやかな泡を作るんだな。
   この泡風呂が思ったより『長持ち』してるのも、その成分のおかげか。」


雑学考察をしながらも、泡を擦り付け、滑る舌を絡ませ合う。
体と体、そして泡に挟まれ、熱を放つ部分…
泡と共にその部分を擦りあげると、ゴボゴボという鈍い音とともに、
これまでとは違った大きめの泡が、二人の間で湧き上がってくる。

摩擦係数が極力抑えられ、抵抗なく上下に動く互いの手…
今まで感じたことのないような独特の感触に、
文字通り腰を浮かせ…声も上擦っていく。

「人魚姫が得意だった踊り…『泡踊り』だな。王子様が手離さなかったのも、納得だ。」
「それは、人魚姫というより『泡姫』…ソープ嬢の特技です。異議は…ないですけど。」

こんなに気持ち良ければ…やみつきになっても仕方ない。
風呂の蒸気と相まって、蕩けていく思考…
ただただ夢中に互いの熱を泡で包み、唇を唇で包み込む。


惚けたように痺れる頭。
途切れ途切れに喘ぎながら、黒尾は赤葦の耳元に囁いた。

「一昨日、駄菓子屋に居た時…研磨に『嫉妬』してただろ?」
「っ!!?そ、それは…『嫉妬』なんて、俺はしてません…」

「それ…本当か?」
「えぇ…だって、」

はぐらかしても無駄だ、と言わんばかりに、
黒尾は動かしていた手をピタリと止め、赤葦に『答え』を促す。

止められたもどかしさに身を捩りながら、赤葦は黒尾にしがみつき、
荒い呼吸とともに、「それは、違います。」と言い切った。

「『嫉妬』は、『自分のものを奪われる』ことに対する恐れ…
   あの時点では、あなたはまだ…『俺のもの』じゃ、なかった。」
俺はただ…羨ましかっただけ、です。

『嫉妬』と『羨望』は、似ているようで、心理学的には全く違う感情だ。
『羨望』とは、自分にはないものを、自分以外の誰かが持っていることを、
羨ましく思う気持ちだ。

「俺はずっと、月島君達や、黒尾さん達が、羨ましかったんです。
   積み重ねた時間が作る、絶対的安心感…
   『幼馴染み』という関係が、羨ましくて仕方ありませんでした。」

『幼馴染み』というだけで、 あなたの『特別』で居られるなんて…ずるいです。

包み隠さす本心を暴露した赤葦。
黒尾は居てもたってもいられず、赤葦を強く抱き締めた。


「俺だって…同じだ。揺ぎ無い山口達の関係が羨ましかったし、
   たった2年ぐらいで、お前みてぇな奴に全幅の信頼を寄せられる…
   そんな木兎がずっと、羨ましかったんだ。」

『同じチーム』のエースとセッターというだけで、
お前みたいな凄ぇ奴が『参謀』として支えてくれるなんて…ずるいだろ。

黒尾の本音に、今度は赤葦が驚き、感極まって抱き返した。


羨ましくて、欲しくて欲しくて堪らなかったもの。
それが今、やっと自分のものになった…
その歓びを伝え合うかのように、繰り返し繰り返しキスをし続けた。

『嫉妬』や『羨望』…自分でも認めたくないような、醜い感情。
本当は奥底に隠しておきたいそんな感情を、互いに『言葉』で伝えあう…
それがいかに難しく、そして大切なことであるか。
二人は胸から溢れる温かいキモチと共に、それを実感した。


「これからは、思う存分…『嫉妬』してくれてもいいんだぜ?」
「俺は…結構です。黒尾さんがしたければ、どうぞご自由に。」

これは、新たな『かけ引き』の始まり…なのかもしれない。
相変わらず『字数』をキッチリ合わせて、『言葉』を返して来る…
この過不足のないかけ引きが、楽しくて仕方ないのだ。

「ま、これからもヨロシク頼むぜ…ということで。」

黒尾は音を立ててキスをすると、
おもむろに赤葦の後孔へ、指を滑らせた。


「ちょっと、ま、まさか、ここで…?」
「今回のテーマは、『回帰』…だろ?」

言っている意味が解らない…と、赤葦は黒尾の腕を抑えつつ視線で問い質し、
黒尾は実に涼やかな笑顔で、その質問に答えた。

「初めて4人で『酒屋談義』した時のこと…覚えてるか?」
「確か、黒尾さんが山口君を拉致して、月島君に暗号を…」

「その時、山口が送った暗号は…何だった?」
「確か…『AWA  倒すテク』 でしたよね。」

『SOS 黒尾さん』…というメッセージの代わりに、
山口はそれをシーザー暗号に変換して、月島に送ったのだ。

「『泡、倒す、テク』…つまり、『泡姫』を押し倒すテク…だっただろ?」
まさに今、『酒屋談義』の原点に…回帰してきたことになる。


泡に始まり、泡に帰る…
見事に『入口』へと戻ったことに、赤葦は感嘆した。

「そういうことなら…今回は喜んで『泡姫』になるしかありません…ね。」


艶やかに微笑み、泡を黒尾に撫で付ける赤葦。

黒尾はその手を恭しく掲げると、
まるで王子様かのように、泡姫の甲に口付けを落とした。



- クロ赤編・完 -



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※初めて4人で『酒屋談義』 →『証拠隠滅


2016/06/10(P)  :  2016/09/25 加筆修正

 

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