※『自己申告』の、一月後



    白日之夢







「これを小袋の中に入れたら、上をモールで縛って…」
「………。」
「最後に端っこをキュっと…って、ツッキー聞いてる!?」
「聞いてるよ。ちゃんとやってるでしょ。」


先月のバレンタインは、はっきり言って俺の作戦ミスだった。
きちんと誠意をもって受け取るべし!とツッキーに指導したせいか、
「例年になく月島君がちゃんと受け取ってくれる!!?」と、
あっという間に情報が広まってしまい…大フィーバーだった。

早々に(学校に到着する前に)ギブアップしたツッキーの代わりに、
俺はその対応に一日中追われまくり…翌日は高熱でダウン。
チョコは貰えなかったのに、インフルエンザを頂いてしまったのだ。
症状が症状だけに、『ツッキーの手厚い看病』なんてのは夢のまた夢…
俺にとっては、ビターなだけのイベントとなってしまった。


あれから一月。あっという間に一月が経った。
週明けにホワイトデーを控えた日曜、 俺はその準備に追われていた。
今年は返礼する数も多く、また予算との兼ね合いから、
数種類のキャンディを大袋で購入し、それを数個ずつ小袋へ小分け…
一覧表(これを病み上がりに完成させるのも大変だった)を確認しながら、
それを配布先毎にまとめる作業を、手分けして行っていた。

「あっ、ツッキー…入れる数は全部平等に!5つずつだよ!」
「気持ちにお応えできず『すみません』の…5文字分だっけ?」
「違うよっ!お気持ちを『ありがとう』の…感謝の5文字!」
全くもう…口ばっかり動かして、手がお留守になっている。
ちょっと強めの視線を送ると、大袋から5つずつの山に分け、
一応は『手伝ってます風』を装い始めた。


「せっかく『恋人達のイベント』なのに…」
僕は『義理』『強敵』『その他』さんへの作業ばっかりで、
『本命』さんとは、全然スウィ~トなひとときを過ごせないなんて。
贅沢は言わないから、せめて…そうだね、こういうのはどう?

*****

「バレンタインの時は、俺に『本命』チョコ…ありがとう。」
照れ屋さんなツッキーが、なけなしの勇気を振り絞って準備してくれた…
すっごい大変だったの、俺にはわかってるからね?
だから今日は、そのお返しに…俺がなけなしの勇気を振り絞って、
ツッキーに『スウィ~ト♪』なひとときを…受け取って貰える?

そう言うと、山口は苺味のキャンディを口に入れ、
そのまま僕にキス…甘い甘い苺味を、僕の中にそっと渡した。

*****


突然始まったツッキーの『ミニシアター』に、俺は盛大にお茶を吹き出した。
よくもまぁ、幼馴染の俺相手にそんな甘々な桃色妄想を…
驚きを通り越して、若干呆れてしまった。

「いくら『ホワイトデー』だからって…寝言は寝て言ってよね。」
「寝物語として、白いシーツの上で言って欲しい…って意味?」
「違う違う!ホワイトデーの夢…『白日夢』は大概にしろって意味!」
「あぁ!上手いコト言うね。さすがは山口だ。」

褒めたって何も出ないし…手が完全に止まっている。
それどころか、お返し用のキャンディを開け、食べ始めてしまった。
俺が非難の声を上げる前に、ツッキーは大きく伸びをしてセリフを遮った。

「もういっそのこと、『この人が僕の本命だから。』って…」
皆の前で堂々と宣言しちゃったら、面倒なイベントから解放されるかな。
ちょうど『ホワイトデー』だし…暴露するにはちょうどいいんじゃない?

「『白日の下に晒す』って言いたいんだろうけど…絶対駄目だから。」
上手いコト言ったつもりかもしれないけど、寝言にしても出来が悪いよ。
ツッキーはそれで清々しても、俺は更に酷い『晒し者』になるだけじゃん。
今だってかなり風当たりがキツいのに…ホントに勘弁して欲しいよ。


自信作をソッコーで拒否され、しゅん…と音を立ててヘコむツッキー。
テーブルに額を付けてそっぽを向き、完全に『ふて寝モード』だ。
あぁもう、誰かさんのために俺は超多忙なのに…手が掛かるんだから。
俺はわざとツッキーに聞こえるように大きなため息をつき、
作業の手を止めないまま、静かにフォローを入れた。

「別に俺、ツッキーとのことをバラされるのが嫌ってわけじゃないよ?」
「じゃあ、もうアッサリ暴露しちゃおうよ。」
「それだと…『二人でコッソリ』楽しめなくなるじゃん。」

ツッキーほど魅力的でモテモテな人に、 俺みたいな超地味な恋人がっ!?
…そんな風に周りから騒がれたら、今の数倍『面倒な事態』になるよ?
そしたら、今みたいに二人でのんびり過ごす時間…なくなっちゃうかも。
それに、『山口なんかより絶対自分の方が…!』って人が沢山現れて…

「ツッキーが誰かに取られちゃうかも…そんなの俺、嫌だから。」
「絶対暴露しない!!僕は『二人だけのヒミツ』…守り通すから!!」
「じゃあ、頑張って『お返し』の準備…して?」
「わかった!僕に任せてよ。」

任せてって…それホントは全部、ツッキーの仕事なんだけど。
思わず出掛かったツッコミを飲み込み、ツッキーに見えないようホっと一息。

そして、大きく深呼吸して…ツッキーの襟元を両手でグイっと引き寄せた。


「っ!!!?」
「俺への『お返し』は、この『苺味』…ありがとう。」




- 終 -



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2017/03/15    (2017/03/12分 MEMO小咄より移設)

 

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