ご注意下さい!


この話はBLかつ性的な表現を含んでおります。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、 閲覧をお控え下さい。



    それでもOK!な方  →
コチラをどうぞ。



























































    接続背急







「つかれた…」


宇内天満先生の入稿が、やっっっと終わった。

何で毎回毎回、微調整をし続けているのに、図ったように毎度毎度ギリギリで終わるのか?
これは、担当編集者たる俺の力量不足のせいなのか、はたまた宇内さんの力量過多なのか。
いずれにせよ、仕事量に関係なく、常にドンピシャでぶち込んでくるあたりが、
どんな速さや強さのトスにも変幻自在に合わせて飛ぶ、烏野の伝説『元・小さな巨人』…

   (そんなわけ、ないか。)


数日前(本来の〆切日)から宇内さんのウチに泊まり込み、先生及びアシスタントさんの補助。
掃除洗濯家事、そして育児(皆様の叱咤激励)をひたすらこなし続け、どうにかこうにか納品。
アシさん達にご飯&おやつ&タクシー代を多めにお渡しし、ご自宅へ送り出してから、
既に意識の朦朧とした宇内さんに、栄養補給させて風呂に入れて、ベッドまで連行した。

ここから宇内さんは、少なくとも16時間は昏睡状態に陥る。
洗濯機を回そうが、掃除機をかけようが、栄養ドリンクの瓶を割ろうが、ピクリともしない。
集中力のオンとオフの差が激しいところも、やはりタダモノじゃない証拠…かもしれない。

   (何だかんだで、さすがは…スター。)


自転速度が光速レベルのお星様達に、目まぐるしく振り回される人生が確定している俺は、
超新星爆発後の惨状を片付け、蓄積疲労に浸りつつ、ぬるめに沸いた風呂にやっとつかれた…
二重の意味で『つかれた』に浸かって、小一時間程意識を揺蕩わせ、浮上したところだ。

「ねたい…」

仕事を全て終え、ホッと一安心。
カラダの方もホットになった後に沸き上がってくるのは、『ねたい』という欲求だけだ。

   (こっちも『二重の意味』…だったりして。)

風呂から上がり、寝間着(元練習着)をオートモードで着ながら、
ぽわ~っと緩み始めた脳が、しょーもないことを独り言ちた時。
脱衣所の外、廊下の先…玄関に鍵が差し込まれる音が、微かに聞こえた。



*****



脱衣所の電気と、廊下の電気のスイッチ。
並んだそれを、オフとオンに切り替え、廊下が仄かなダウンライトに照らされたのと同時に、
玄関が静かに開き…キョトンとした表情で目を瞬かせた、『久しぶりの顔』が入って来た。

「おか…っ、いらっしゃいませ、黒尾さん。」

バレー協会と弊誌(宇内先生)がコラボした、現役選手等との対談企画は、一応は完結したが、
すったもんだを経た後も、協会事業推進部の黒尾さんは、ほぼ週イチで顔を出しに来ている。
宇内さんのスケジュールを熟知しており、いつも修羅場明けに来訪…お土産(おやつ)と共に。

  (全て筒抜け…深く繋がった、誰かさんから。)

そんな黒尾さんは、先程まで『ラブリー☆テイルズ』こと、鷲尾さん&尾白さんとの飲み会。
ほろ酔い?でそっち向かったよ…と、尻尾様方に同伴した『すなリン』から、連絡があった。
広いようで、世間は狭い。特にこの業界・この世代の『繋がり』は、妖怪も驚く密っぷりだ。
予想だにしないところで、アッチとコッチがミッチリと『接続』していたり…

   (アレとソレも、ズッポリと…?)


ぽわぽわ浮き立つ足と思考をタオルで隠しながら、お疲れ様ですと小声で呟き、リビングへ…
向かおうとした瞬間、背後から急に伸びてきた手に引き寄せられ、腕の中に閉じ込められた。

「ーーーっ!!!?」

驚きの声も上げられないくらい、強い抱擁。
らしくない行為に固まる背中に密着した、厚く熱い胸板が、荒々しい呼吸と共に上下する。
その吐息が、背後から雁字搦めに抱き込まれた頸筋を掠め、背中を熱が駆け上がる。

「お、久しぶり、です…んっ」
「………。」

戸惑いながら呼びかけるも、返事はない。
その代わりに、『それじゃない』とばかりに、肩口に乗せた頭をふるふる…
俺を抱く力を更に強め、何か『別のもの』を煽るように、潤んだ唇を鎖骨に落とし始めた。

「ちょっ、くすぐった、ぃ…っ」

くすぐったい、というよりも。
ぞわぞわと背から腰へ這い回る独特な感覚は、それとは全く『別のもの』を呼び起こす。
まさに、修羅場明けに沸き始めていた、『ねたい』という欲望を強烈に煽る…特別な感覚を。

   (ここじゃ、さすがに…マズい、でしょっ)


俺を急かすように、唇は鎖骨を食み、舌で頸筋をなぞり、耳朶を吸い上げる。
吐息だけで『それじゃ、ない。』と囁き、跳ね上がる腰を抑えるべく、更に…強く、強く。

「お、そく、まで…お、つかれ、さま…ぁっ」
「………。」

これも、違う…らしい。
このまま黒尾さんの胸の中に、背中から溶け込んでしまうんじゃないか?
そう錯覚してしまいそうなほどキツく抱き締められ、背面と前面を触れ合わせていると、
もっとキツく…もっと深く『接続』したいと、アレとソレが激しく欲を主張し合ってしまう。

   (黒尾さんにしては、珍しく…っ)

黒尾さんは、いつだって、どんな時だって、高校時代からずっと、俺にだけ特別優しかった。
常に俺を優先し、褒め労わり慰め、俺をひたすら甘やかし続けてくれている人だ。
(このことに気付いたのは、つい最近…『すったもんだ』の最中だ。)
今だって、ちょっとだけ俺が痛がるそぶりを見せたら、すぐに片腕を緩めてくれた…けれど。

「あ…ぁっ、んんっ…」

緩めた手は、そのまま俺のカラダを強めに撫で回し、シャツの中に潜り、慎ましい胸を弄り。
いつもは「これでもか!」というぐらい、まずは俺の欲をしっかり丁寧に高めてくれるのに、
今日は硬い熱を俺にグイグイ押し付け、繋がる部分を抉るように性急に擦り上げ…
黒尾さん自身の止め処ない欲を、隠そうともせずストレートに伝えてくるのだ。

   (こんな風に、求めて下さる、なんて…っ)


本心を包み隠した言葉ではなく、痛いほどの抱擁とダイレクトな動作で熱烈に求められ、
俺の中からは『ねたい』とは『別のもの』…歓喜が溢れ出し、全身に痺れと震えが走った。

「おく、へ…ここ、じゃ…ぁっ」
「おしいが…それより、前の…」

   一番さいしょに、言いかけた…
   『お』からはじまる、あの言葉。
   それが俺に、火を点したんだよ。


「???お土産は、おにぎりが、いい…?」
「おーい。それは、言葉にしてねぇだろ…」

安心しろ。言葉にしなくても、ちゃんと持って来てるぞ?
俺の欲しい言葉をお前がくれて、俺をお前の奥へ招いてくれて…その後、一緒に食べようぜ。

「だから、なぁ…早くっ」
「っ、んんんんっ…っ!」

まるで俺を食べるかのように、耳朶から頬を唇で摘み、俺に『欲しい言葉』を促してくる。
俺は唇でそれを受け止めたいと、背中側へ身を捩ろうとしたけど、逞しい腕に阻まれた。
それならばと、腕まくりしたYシャツの隙間から手を挿し込み、肘を指先で丸く撫でながら、
「ヒント下さい…」と、視線だけを後ろへ流して懇願し、俺の方から先に言葉を求めた。

「その目。お前、ホントにズリぃ…
   いや、俺がお前に甘ぇだけなんだろうな。」

弱い部分を俺に擽ぐられた黒尾さんは、脳幹を震わせる低音ボイスを、
俺の弱い部分へ…うなじの傍に、狙い澄まして零し当ててきた。
その刺激から生まれた反応を隠すことなく、跳ねる腰をピクピクと逸らせ、先を強く促す。


「また、火を点けるようなことを…っ」

   ヒントは、そう…
   お前が『灯を点けた』から、だな。

「たまたま廊下に居ただけですよ?」って、きっとお前は言うだろうが…
俺が慎重に鍵を開ける、小さな音を聞いたお前は、俺が入って来るタイミングに合わせて、
ごくごく自然に、廊下の灯を点けてくれた…それに何か、ぶわ〜っと、じわ〜っと、だよ。

「え?たった、それだけ…ですか?」
「違う。それ『だけ』…じゃねぇ。」

俺なんかと比較になんねぇぐらい、お前の方が『おつかれさま』なはずなのに、
『お久しぶり』に顔を合わせたら、そんなツラさなんて一切見せずに、ふわっと頬を緩めて。
俺に『お…』から始まる言葉を、本当に自然なカンジで、ぽろっと言いかけてくれただろ?

「それで…どん!と、スイッチオンだ。」
「わぁっ!?」


どん!という言葉に合わせて、黒尾さんは俺を腕の中で反転させ、
そのまま俺を抱きかかえて、床へ…どん?
押し倒され、伸し掛かられはしたけれど、言葉通りの音も衝撃も、全くしなかった。
いつの間にか、俺の下…背中と床の間には、黒尾さんのジャケットが敷かれていたのだ。

   (ホンットーに、お優しい人…っ!)

背後からは居なくなったはずなのに、背中のジャケットだけで、俺はまた溶けそうになった。
とろっとろの顔を慌てて隠そうと、一瞬だけ自由になった手を引き上げたら、
その両手首を片手で掴まれ、頭上に縫い止められてしまった。

「んっ!ちょっ、待っ…!」
「悪ぃ。もう…待てねぇ。」

ぎゅっと目を瞑り、顔を無理矢理引き締めたけれど、その必要はなかった。
黒尾さんはさっきと同じように…今度は正面から、俺の肩口に額を乗せて、
鎖骨から頸筋、そして耳朶へ舌を滑らせながら、「この『返事』がヒントだ。」と呟いた。

「ただいま、赤葦。」
「ーーーっっっっ!」

   (そういう、こと…ですかっ!!!)


玄関で掛ける言葉としては、当たり前のもの。一番ありきたりで、何でもない日常のご挨拶。
ここは俺のウチでも黒尾さんのウチでもなく、ほぼ『職場』同然な、宇内さんのウチ。
だけども、まるで『自分のウチ』みたいな『特別な場所』であることも、また事実。

ほぼ毎週末、このウチで楽しい時を過ごし、夜通し飲み明かし、共に休日の朝を迎えてきた。
黒尾さんは既に、このウチにやって来た『御客様』ではなく、むしろ…

だから俺は、ごくごく自然に。
このウチに黒尾さんが『帰って来た』と錯覚…それに相応しい言葉を、つい言い掛けたのだ。

   「おかえりなさい、黒尾さん。」
   「ただいま、赤葦。」

   (なんか、『俺達の』ウチ、みたいにも…っ)


俺の中にも、どん!と火が爆ぜる音が響く。
早く、早く…と急かすように、いつの間にか黒尾さんは俺のズボンと下着を剥ぎ取り、
自分のベルトをガチャン!と、乱暴に放り投げていた。

その一方で、そっと外した俺の眼鏡を、ネクタイで丁寧に絡め巻き、胸ポケットにイン。
ギリギリ限界の場面でも、俺と俺の一部にはとことん優しい仕種に、俺も…限界だった。


「お…待たせ、しました。」
「待たせ、過ぎ…だろっ!」

「お…れ、もう、ぜんぶ、とけそう…です。」
「知ってる。もう、ここ…とろとろ、だぞ…」

「お…おかみ、モードも、たまには…んあっ」
「いつでも、ねこ被ってると…思うなよ…っ」

俺の脚を肩まで抱え上げ、これ見よがしに自分の指に舌を這わせて濡らし、
これからスムースに接続すべく、わざと大きな音を滴らせ、やや急ぎ足で解していく。

それなのに、時折「もういいか?そろそろ大丈夫だよな?」とお伺いを立てるように、
入口付近を熱の先端で何度も何度も探るのに、強引に割り込むようなことは、決してしない。

「おかしいな。禁欲続きの修羅場明けだと、焦らしには弱ぇと思ってたが…作戦失敗か?」
「おぉ、怖い怖い。そんな恐ろしい策で俺をハメようとしてたなんて…お互い様ですね。」

「なぁ。無理矢理『お』から始めてねぇか?」
「お…褒めにあずかり、光栄の至りですよ。」


口では余裕綽々を装っているが、限界なんてとっくに突破している。
もう随分前から、黒尾さんの頭の先だけは、入口から俺の中を覗き込んでいるし、
俺は俺で、両腿で硬く強く、黒尾さんの腰を抱擁…接続が解けないよう、繋がり続けていた。

「いいのか?こんな、ところで…」
「おまゆう?というやつですね…」

   あぁ、もう…ダメだ。
   我慢比べは、おしまいにしよう。


「俺の、負け…です。」

耳を貸して下さい…と、視線で黒尾さんを惹き寄せる。
ようやく自分の両腕で、自分から黒尾さんを抱き締められて。
安堵を交ぜ込んだため息を、黒尾さんの耳に直接吹きかけた。

「お…くまで、いらっしゃいませ。」

   『お』…から始まる言葉を言うのが、
   『錯覚』じゃなくなる、その日まで。
   言わずに、大切に…とっておきます。

「お待ち、してます、から…ずっと。」


「もう、待てねぇって…顔してるぞ?」

「俺の、負け…だよ。」と、黒尾さんは穏やかに微笑むと、
その笑顔には全く似つかわしくない『狼モード』で、急激に突き上げてきた。
いつもの御猫様とは全然違う、欲を一切抑えず俺を求めてくる姿に、悦びしか出て来ない。

   お…じゃまします、だなんて言葉は、
   絶対に、二度と言ってやらねぇから。
   点った火が、明々と滾っている内に…


「起きたら、『俺らの』ウチ…探そうな。」




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2021/08/19


 

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