接続予定







「今の…だ~れ?」
「っ!?うっ、宇内さん!意外と早かったですねっ!?」


昨日(今朝方)まで缶詰。やーっと脱稿!
本当は今日が最終〆切だったはずなのに、どうしても外せない『大イベント』のため、
主婦にとっての『朝の1時間』と同じぐらい、濃密で貴重な『〆切前の1日』が、消滅…っ

でも、体力とか気力とか睡眠不足とか、様々な尊い犠牲を払っても、今回は全然惜しくない。
今日の『大イベント』は、それだけの価値があるもの…
世界中で活躍する妖怪世代が一堂に会する、スペシャルマッチ開催なんだもん!!


この観戦チケットを入手するため、自由業?の俺は抽選開始時間に合わせ全力で待機。
でも、皆とも協力して応募したにも関わらず、かすりもしない超絶プレミアチケットだった。

「あんな小さなハコで、こんな大きな興行をしようなんて、見込み違い甚だしい!
   あの人なら、もっともっと上手くやれたはずなのに…企画御担当者様の大失態ですよっ!」

どうしても行きたかったらしい編集者様は、珍しく御立腹。(俺にはいつも淡々と御説教。)
『選手達への応援メッセージ募集!』にかこつけて、協会宛にファンレター(稟議書)を執筆…
しているところに、当該御担当者様から、まさかの逆ファンレター?が届いたのだ!!!


「もしかして今の人が、赤葦さんにラブレターをくれた…?」
「違っ、週刊少年ヴァーイ編集部(『メテオアタック』関係者)宛に届いた、招待状です。」

「随分と親しそうでしたけど、お知り合い?」
「高校時代に梟谷グループでお世話になった、一学年上の方…音駒の元・主将さんです。」

「へぇ~。で、どちら様?」
「現・協会競技普及事業部の方、ですね。」

「いやいや、そうじゃなくて…」
「折角のおにぎりが、冷めてしまいますよ?席に座って…早く頂きましょう。」

   (んんん???)


このイベントを観るため、木兎さんや鷲尾さん等の高校時代のパイセン達にアポ取りまくり、
「俺達は家族…俺は弟ですよね?」と、関係者を装って潜り込もうとしていたぐらい、
使えるコネは何が何でもコキ使いまくって、裏でアレコレと画策していたっていうのに。

   (無茶言うな!と木兎さんに言われる程に。)

それに一学年上ってことは、木兎さんとタメ…むしろ接点としては多かったはずだよね?
下手したら、木兎さんの代わりに梟谷窓口として、音駒主将とは緊密に連携してたかも?
なのに何故、一番手っ取り早くてド直結な人(ネコ?)のコネを、使わなかったんだろう?

   (な~んか、匂うよね?)

ほっかほか高菜明太おにぎりの、いい匂い~♪じゃなくて。
もしかして、あの御担当者様のことについて、あまり俺には話したくないっぽい?
高校時代に相当嫌な思いをさせられたのかな?実は会いたくない人だったのかな?

   (いや、それは…絶対違う。)


俺よりちょっとだけ先に体育館へ到着し、二人分のおにぎりを買って(いつもありがとー♪)、
俺を待たずに入場し、くだんの御担当者様と再会、朗らかに御挨拶を交わしていた。
実は既にすぐ傍まで来ていた俺は、二人の会話を最初から全部聞いていたんだけど…

まずは御招待に対する御礼。そして、メテオアタックへの賛辞♪とアニメ化の御祝。
さらには、今後のコラボとかコラボとか…ね?な催促という、仕事上の社交辞令。
その間、お世話になった他校のパイセンを、コチラは敬称付でお呼びしていた。

   (心からの敬意を込めて…珍しく。)

対するアチラの御担当者様は、あくまでも『メテオアタック編集者様』扱いを徹底し、
最後まで決して、袖擦り合った他校の後輩の名を口にしなかったのだ。

   (それも何か、不自然すぎ…同じ匂い。)

…今、頑なに『御担当者様』の名前を教えてくれないのと、全く同じだよね?


本当は仲良くて、気が合う二人だったに違いないのだ。
その証拠が、御挨拶の最後…『仕事の話をすると悪事を働いている気分になる』って称賛と、
それに思わず鉄壁を…相好を崩し、素で返してしまった御担当者様の、何とも言えない表情。

   (今のがきっと、元々の二人。)

おにぎりをもしゃもしゃ頬張りながら、会場内に漫然と視線を泳がせる赤葦さんに、
俺も同じようにきょろきょろ…視線の先を追いつつ、それとな~く尋ねてみた。



「あの御担当者様って、怖ぁ~い人?」
「絶対に敵に回してはならない人、ですね。」

「詐欺とかペテンとか、腹黒ぉ~い系???」
「俺の知る中で、最も…腹黒い人です。」

宇内さんなら、もう十分わかっていらっしゃると思いますが…
『善行』は何らかの事象やアクションに対し、リアクションを『行う』…動けばいいだけ。
ですが『悪事』は、無から有を生み出さなければならない…自ら『働く』必要があるんです。

「悪行と悪事は、全然違う…?」
「ペテンとキテンぐらい違います。」

腹黒に見えるのは、コチラ側から容易に伺い知れない程、あの人の機転が深謀遠慮だから。
隅々に行き渡る知略、方々を巧みに操る手練手管、人々を惹き込み受け入れる…大器。
それらの全てを鉄面皮の微笑みで覆い隠しているから、全部混ざって黒く見えるだけです。

   考えて、考えて、ひたすら考え続けて。
   それらの苦しみを一切、外に出さずに。
   感情が見えなくて胡散臭い?その通り。
   自分より他人や周囲を慮っている証拠…
   自己の欲望(感情)のためではないから。

「あれほど賢く、働き者で、自己犠牲に満ちた腹黒なんて、そうそういません。」
「っ!!!」


上を見て下さい、宇内さん。
この体育館にはたくさんの電灯がぶら下がり、たくさんの空調換気設備も付いてますよね?
火災報知機やスピーカー、通信アンテナ等の弱電設備も、所狭しと並んでいます。

でも、この体育館という世界を構築するには、それらの『機器』だけでは絶対に不可能です。
機器と機器を結ぶ、配線配管やダクトだっていりますし、そのライン同士だって…

「接続部…コネクターが必要不可欠です。」

大きな世界の中では、ラインまでは見えたとしても、コネクターまではなかなか見えません。
本当はそこにあって、なくてはならないものなのに、人々は見ようとしない…
眩しい光達が燦々と輝く中では、コネクターなんて見えなくて当然ですからね。

黒子たる質実剛健な編集者がいないと、偉大なる売れっ子漫画家も使い物にならないように、
日向、影山、及川、牛島に木兎、宮侑…ギラギラな妖怪共も、単体では以下略でしょう?
そういう光たちを裏から操縦し、結びあわせるラインを作り、自らはコネクターとなる…

「それが、あの人の選んだ…『繋ぐ』道。」


ほら、今もずっと…
アッチコッチに走り回って、色んな人々と御挨拶する傍ら、
スタッフに指示を出したり、会場内アナウンスをしたりと、運営までこなしています。
煌びやかな光に照らされたコートの外で、この世界を形作るため、方々を繋げ続けています。

「ホントだ!アッチコッチで、働いてる…っ」
「労働とは、人を労うために自ら動くこと。」

高校時代は、恩師・猫又監督の夢を繋ぐため。
今はバレーボール界全体を輝かせるため、光たちを繋ぐべく、働き続けている人なんです。
もし仮に、宇内さんの漫画やアニメが大ヒットし、コラボとかコラボとか…が現実になれば、
あの人の『悪事』に、俺達も加担することができる…

「これ以上にワクワクする策謀なんて…っ」


というわけですので、宇内さんには今以上にワタワタ働いて頂きますよ?
『メテオアタック』が光らなければ、繋がる意味がないんですから。

「えぇぇっ!?今以上働いたら、壊れちゃう!ムリムリムリ!もっと俺を労わって!?ね?」
「機器本体や配管より、金属(勤続?)疲労等が蓄積し最も壊れやすい部分は…コネクター。」

   あぁ、全く。本当に。
   何でこんな裏方人生を選んだんでしょうね?
   あの頃と変わってないどころか、それ以上…

「心中…お察しいたします。」


   (やっぱり…同じ、だ!)

二人の会話の最後に見せた、御担当者様の顔。
それと全く同じ…ホッとしたような、苦しいような、フクザツで深い想いの絡み合った表情。
そして、お互いに向けるその表情は、まるでこのおにぎりみたいに…

   (ほんのり、ほっかほか~♪)

微かに香る『美味しそう』な匂いに、頬が自然と緩んでしまう。
無意識の内に『アッチコッチ』に視線を這わせてしまう横顔に、ワクワクが止まらない。

   (これは、もしかしなくても…っ♪)


ニヤニヤするほっぺを隠すため、おにぎりを全部頬張り、ごっくん。
お茶を手渡してくれる赤葦さんにお礼を言いながら、いいこと思い付いた!風に、ボソボソ。

「今後のコネのために…俺も、御担当者様に御挨拶して来よっかな~?」
「っ…、い、今は、大変お忙しそうですから、また日を改めて…」

「御招待チケットの返礼…手土産も持って来てないし?」
「!?そ、そうでしたっ!俺としたことが…!宇内さんは、もじゃもじゃのままですし!」

で・す・よ・ね~っ♪
今朝方までド修羅場で、脱稿したばっかり。
赤葦さんは俺を風呂にぶち込んだ後、自分の身支度のために猛ダッシュで帰宅…

   (いつの間に、髪切ってきたのかな~?)

ヨレッヨレの梟谷練習着(お泊まり着)で帰り、折り目ピッチリな新品のシャツにお着替え?
襟の後ろに、サイズ表記?の透明シールがついたまま…尋常じゃないワタワタっぷり!!
このスペシャルな大イベントに、ど~しても行きたかった理由って、もしかして…♪


「繋がる予感…排球だけに、81.9%?」
「…?何の話です?」

「コラボとかコラボとか…で、あの人とコネクション!?しそうな…ワクワク可能性です♪」
「それは、宇内さんが血の雨を降らせる御尽力で、100%にして頂かないと困りますね。」

「ラジャ~!俺、頑張って…コネコネする♪」
「…?珍しくヤる気満々ですね?…怪しい。」

「あだだっ!ほっぺ、つねらないで!あっ!?御担当者様がコッチ見てるよ!やっほ~っ♪」
「ちょっ、ちょっと、宇内さんっ!!?」

驚く赤葦さんの腕を強引に取り、御担当者様に向かってぶんぶん手を振ると、
向こうもビックリ顔で固まり…左右と後ろを確認してから、小さく手を振り返してくれた。

「ぇっ…!!?」
「やったぁ!繋がりました、ね~っ♪」

困った?照れ臭そうな?顔で、振り合った手を宙に浮かせたまま、視線を泳がせる二人。
この二人をコネクトするには、途方もない『御尽力』が必要な予感もするけど…でも。

   (俺も、繋げる仕事…したいな♪)


「…で?結局あの人は、どちら様です~?」
「…近々・接続予定の…お疲れ様、です!」




- 終 -




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2022/09/08(2022/08/19 SS小咄移設) 

 

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