ご注意下さい!


この話はBLかつ性的な表現を含んでおります。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、 閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、責任を負いかねます。)

    ※魔女編(月山)。



    それでもOK!な方  →
コチラをどうぞ。



























































    立会清算① (魔女編)







「ねぇ…まだなの?」
「まだっ…ダーメ。」


魔女君が僕の元で家政婦(メイドさん)をするようになって、今日で一週間。
この期間中に起こったことは、文字通り地に足が着かない、浮世離れしたもの…

…ん?ちょっと待った。
文字通り世の中から浮いている『空飛ぶ魔女』が、更に浮いた世から離れる?
そもそも『浮世』って…浮世離れが『現実とは乖離した』という意味だから、
浮世は『今の世の中』とか、『俗世間』ということになるんだろうけど…

   つらくて、儚い…浮世は、憂世。
   消えてなくなる、不確かなもの。
   まるで人の夢と同じ、非リアル。

「…現実を表す『浮世』も、非現実的な『人の夢』のように儚いってこと?
   これだと、リアルも非リアルも大差ない…そういう意味になるよね。」
「VRもそうだけどさ、現実の映像かCGかの区別もつかないことあるよね~
   はぐれメタルとツーショット撮れるAR機能…夢と現実の境界突破だよ。」


一般人のスマホでも、ちょちょいとカンタンに美顔アプリで修正できる時代。
それなのになぜ、TVや雑誌の化粧品CMをすんなり信じて買ってしまうのか…
『ナチュラルなすっぴんに絶賛の嵐』なんて記事(広告)が、日々出回るのか。

「そんなの、浮世離れした『仮想現実』だって、みんなわかってるよ。
   でも、SNSやWEB等の『非リアル』の世界で認められなければ…」
「リアルに見向きもされない…いいね!やクチコミが少なければ、無価値扱い。
   既に僕達は、『リアル≒非リアル』の世界に生きているんだね。」

ということは、魔女はそんな『浮世=現実=夢』からも離れた存在…なのか?
見た目よりもずっと柔らかい手触りの魔女服や、実は超軽量アルミ製の魔女箒、
赤リボンは形状記憶素材、黒ストッキングは消耗品として経費計上可能の備品…
何よりも、僕の腕の中で「ツッキー、邪魔!」と肘鉄を入れる温もりと痛みは、
どう考えても超リアル…あのさ、僕の黒服で濡れた手を拭かないでくれる?

「吸血鬼や魔女は、毛穴のないツヤモチ肌の人より…リアルな存在かもね。」
「人類総パネマジ社会…画像修正があれば、もうメイクいらないじゃんか。」


あ…でも、化粧品とか美容の世界も、リアルにすっごい進化してるんでしょ?
ちょっと前にノーベル賞とった、iPS細胞を使った再生医療?技術?とかさ、
紫外線&強風に晒されまくる300歳でも、ツヤモチ肌を維持中の魔女的な…
仮装じゃなくて化粧現実の魔女美を、リアルにしてくれるんでしょ?凄いよね~

「ヒト由来幹細胞エキス配合!お肌も若々しく再生!…魔女との境界消滅~♪
   寿命はともかく美容分野では、人と人外には差がなくなりそうだね。」

背後から羽交い絞めにしていた僕の手を外し、その手を頬に当てぷ~にぷ~に…
ほらっ、俺のほっぺ、すっごいツヤモチでしょ~?と、無邪気に笑う魔女君。
僕はその感触を思う存分味わうべく、ほっぺにほっぺを引っ付けてから、
「それは違うよ。」と、リアルな『現在進行形』の話をした。


「幹細胞化粧品、リアルなクチコミと共に、物凄く流行ってるみたいだけど…」

iPS細胞…様々な組織や臓器の細胞に、人工的に作り変えられて(多能性)、
かつ、それをずっと増やすことができるという性質を持つ細胞(幹細胞)は、
事故や病気で失った身体の機能や、臓器を再生できる可能性があるものとして、
現在、世界中の叡智達が研究に勤しんでいる、魔法のような技術である。

細胞の『生』と『死』の境界を覆す…非リアルがリアルに変わりつつあるが、
再生医療の現状としては、『境界線に触れた』というのが、正しい現在地だ。

「iPS細胞から作成した角膜の移植に、やっと成功したのが、2019年の7月。
   幹細胞を使った医療は、実用化のはるか手前…研究は始まったばかりだよ。」
「えっ!?それ、つい最近じゃん!?でもでも、化粧品には幹細胞って…」

よく見て。幹細胞そのものじゃなくて、幹細胞『エキス』って書いてるでしょ?
これは、幹細胞を培養する時に使った、『上澄み液』というだけだからね。
最先端医療ですら、まだ現実よりはずっと夢に近い場所に居るっていうのに、
一体どうやったら、一般人が現実に利用(購入)できるっていうのさ?

「うっ…上澄み液なら、少しぐらい幹細胞が混ざってるんじゃ…」
「幹細胞自体の安全性が確立されていないから、再生医療もなかなか進まない…
   上澄み液を使う場合も、安全性確保のために、幹細胞の除去は必須だよ。」

「つつつっ、つまり、幹細胞が入っていたら、商品化できない…?」
「当然、そういうことになるね。」



まぁ、細胞の培養液には、タンパク質(アミノ酸)が含まれてるだろうから、
お肌しっとりツヤツヤ…保湿には効果がありそうだけどね。
でもそれなら、自宅でも同じような成分のものを、化学的に調合可能…

「店入口の観葉植物(アロエ)と、残った焼酎、それに薬局で買ったグリセリン。
   敬愛する我が女王様は、梅酒よりカンタンに化粧水を店内で自作してるよ。」
「アルコールと、グリセリン…ラブローションと基本的にほとんど同じじゃん。
   だから、しっとりスベスベ、舐めても大丈夫…伊達工業㈱、ボロ儲けっ!」

「一般人でも『ちょうごうかのう』…超豪華脳がなくても調合可能。」
「予測変換にすら、笑われた気分…赤葦さんに、化粧水を分けて貰おうかな~」


最近、ココで水仕事をした後で、夜風を切って高速飛行してるせいか、
手指がカッサカサ…ゴム手袋とハンドクリームも、備品として用意してくれる?

「あと、労働後の御褒美の準備と…俺の仕事終わるまで、邪魔しないでよね。」
「僕はただ、メイドさんがちゃんと仕事をしているか…監督してるだけだよ。」

キッチンで食器を洗う魔女君は、それを背後からぴっとり観察し続ける僕に、
今日は甘めの気分だから、今のうちにミルクをチンであっためといてよ~と、
少し爪先立ちになりながら、背後の僕をおしりでぐいぐい押し、準備を促した。

「成程。こういう甘いカンジのゴホウビを希望…わかった、今すぐ準備する。」
「ツッキー待った。何で…俺のひらひらエプロンのナカに、手ぇ突っ込んで…」

「今のうちに、チンのあったかいミルクを出す準備しとけって、言ったよね?」
「リアルに聞き間違い…ちょっ、ツッキーの『箒』っ、ぐいぐいしないで…っ」


泡だらけのスポンジに両手を塞がれ、身動きが取れない魔女君のすぐ脇に、
ポケットから取り出したゴムとクリームを置き、『準備万端』ぶりを披露。
魔女君越しにしっかり手を洗ってから、これ見よがしにクリームの蓋を開けた。

「…ここで?この格好、で…?」
「そのエプロン、良く似合ってるよ。」

魔女君が黒猫の上司さんに持たされて来たのは、古風な白の割烹着と三角巾。
ほぼ黒に近い濃紺の魔女ワンピースの上から、それらの備品を装着すると、
『法事の末席でお茶を濁す次男坊の嫁』風…それはそれで悪くはなかったが、
もっと僕好み…じゃなくて、仕事がデキそうな方が良いのではないかと思案し、
白いふりふりエプロン&レースのカチューシャを(クレジット一括で)ポチリ…
魔女ワンピースの上からつけると、何とっ!デキるメイドさん風に見えるのだ!

念の為に言っておくが、これは『吸血鬼&白雪姫』みたいなイロモノではない。
(吸血鬼服は正装らしいけど、僕から見たらただのヤらしいコスプレだから。)
パっと見は『黒服執事&メイドさん』でも、僕達の方はれっきとした仕事着…

「魔女君の大好きな、(ややアンティーク調の)オフィスラブだからね。」
「よっ、要するにイメクラ…職場でヤってるだけじゃ…んぁっ…!」


ついこの間まで生足派だった魔女君は、タイツの感触に未だ慣れないようだ。
スカートとエプロンの裾を捲りながら、腿裏をタイツ越しにゆるゆる撫でると、
面白いぐらいにビクビクと背中全体を震わせ、甲高い声を漏らしてくれる。

ごわついたタイツに包まれた弾力ある腿の手触りと、魔女君の反応が堪らず、
調子に乗って腿裏から表へ、そして腿と腿の間に手を割り込ませているうちに、
水仕事で傷んだ指先のささくれが、タイツの縫い目に引っかかってしまった。

「痛っ…」
「ツッキー、大丈夫?…じゃなくて、俺のタイツ、ダメにしないでよ?」

最近、新品黒タイツ支給の申請がやけに多いな~って、黒尾さんに言われてさ。
いくら経費でおちても、俺がちょっと気まずいから…大事に扱って貰えるかな?

「だから、ツッキーの指にたっぷり…そのクリーム、塗って。」
「了解。魔女君が傷付かないために…た~っぷりとね。」

「違っ、俺の…タイツのため!あと、ツッキーの…指の、ため。」
「…ありがと。」


何だかんだ言いつつも、僕のことを労わってくれる優しさに、つい頬が緩む。
僕もその優しさに精一杯応えるべく、クリームを指いっぱいに掬い取ると、
自分の手指を隅々まで保湿した上で、今度は魔女君の分を追加で指先に乗せた。

「これくらいで…足りるかな?」
「わっ…かん、ない…っ!」

魔女君の目の前で、これ見よがしにクリームを右指に絡ませる一方で、
左手の方はタイツの中に滑り込ませ、柔らかいおしりを強めに揉み解しながら、
下着とタイツを傷付けないように、腿の真ん中あたりまで丁寧にずり下ろした。

「あっ…」

中途半端に解放された魔女君は、素肌に直接当たった冷気と僕の手の感触に、
ぷるり全身を震わせ…ちらり振り返った視線と、柔らかいおしりで先を促した。
だが僕は、その動きを遮るように、魔女君の谷間に濡れた右指を滑らせるだけ…
恨みがましいじとり目線を隠すように、ほっぺとほっぺを引っ付け、囁いた。


「ねぇ…まだ、教えてくれないの?」
「っ、まだ、ダーメ。」

「黒尾さんは、教えてくれたのに?」
「俺は、あんな腹黒じゃないから。」

人外は、身内等の安心できる相手以外には、滅多に本名を明かさないそうだ。
カラダを繋げた状態で本名を呼び合うと、『契約』成立してしまうのだとか。
だから、そういうコトをする相手には、あだ名や愛称しか教えないし、
本名を教え合うことこそが、一生を共にする『つがい』確定を意味する…

策に嵌めて罠に嵌まり、アレをハメて吸い、ソレをハメられ吸われた後で、
そのことを事後承諾的に暴露されちゃいましたよ…と、女王様は満面の笑み。
(黒猫魔女の事務所で、ついうっかり明治初期の履歴書を極秘発掘とのこと。)

絶対に手放さない!という強い意思で、上司達は本懐を遂げ『つがい』となり、
『お互い以外は有り得ない』と確定したから、黒尾さんは僕にも名を明かした。

「ツッキーも俺と同じく、黒尾さんの『身内』扱いになったってことかな。」
「僕が歌舞伎町の至宝『おケイ』さんの本名を知ってるのと、ほぼ同じだね。」


これは、人外ならではの特殊な『しきたり』…いや、そうじゃないだろう。
身内や仕事仲間等、リアルに知っている相手にしか本名を教えないのは、
非リアルの世界にも身を置く現代人の多くも、全く同じ状況のはずだ。

「ゲーム内のハンドルネームや、執筆者のペンネームしか知らない間柄でも…」
「リアルの家族や兄弟よりも毎日会話して、お互いのコトを知ってたりする…」

リアルな付き合いよりも、趣味や嗜好、思考で理解し合える場合も多いし、
非リアルだからこそお互いに気を使い、友好的な関係を築きやすかったりする…

「非リアルの世界でまずはお互いの『内面』を知ってから、深く惹かれ合う…」
「本名や見た目等の『外面』先行のリアルより、恋愛や結婚に向いてるかも。」

実は色恋の世界が、リアルと非リアル…浮世と浮世離れの境界を消しやすく、
違うモノ同士の境界を消すことこそが、『つがい』を確定させる決定打だろう。


「…あっ!そうかっ!!」
「だから…『浮世絵』なんだねっ!」

この世の極楽…遊里と芝居街に代表される歓楽境が『浮世』と呼ばれ、
愛し合う者達の情事や色事を描いた風俗画が、『浮世絵』と名付けられたのは、
浮世離れした風俗街の姿こそ、浮世のリアルを如実に表すものだったから…

「日常と乖離した歓楽街…歌舞伎町。」
「この街は…『リアル』の塊なんだ。」


歌舞伎町でリアルに存在する、ハイスペック黒服の僕と、空飛ぶ魔女君。
非リアルに見えて実は仕事着な格好で、リアルな仕事中に現実逃避…
『浮世絵』の世界をリアルに実行しようと、境界を指でかき混ぜ溶かし始める。

「あ…ぁっ、ツッ、キー…ま、だ…?」
「まだ、ダーメ。もうちょっと…ね。」

指を動かす度にカラダを浮かせ、早く飛びたいと僕の『箒』におしりを乗せ、
魔女君は僕の愛称を連呼して先を促し、つながりを求めてくれてはいるけれど…

   こうやってつながり合う時にこそ、
   魔女君の名を、僕も呼びたいのに。
   でも今はまだ…夢のまた夢、かな。

「ねぇ、いつか…僕のことも本名で呼んでくれる日が…来ると、いいな。」
「っ!?その、言い方は…ズルい…っ、俺だって、早く…欲し…っ」


僕の箒を呑み込みながら、必死に声を殺して『つきしまけい』と唇だけ動かす。
こんな言い方をする魔女君こそ、本当にズルいなぁとも、正直思うんだけど。

でも、夢が現実になり、魔女君がリアルに僕の名を呼んでくれる日まで…


   (待ってるからね…『山口忠』)




- 終 -




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<研磨先生メモ>

・黒猫と魔女の本名を知るため、レッドムーンの二人が共謀…
   知った上で『見るなのタブー』を貫く、というボツネタ。


2019/10/14


 

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