ご注意下さい!


この話はBLかつ性的な表現を含んでおります。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、 閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、責任を負いかねます。)

    ※黒猫編(クロ赤)。



    それでもOK!な方  →
コチラをどうぞ。



























































    立会清算① (黒猫編)







「黒尾さんの血液型って…何ですか?」
「………強いて言うなら、Vc型だ。」


どうやら、レッドムーンの『おケイ』は狙われている…らしい。
歌舞伎町だし、こういう商売だし、何か大層な称号も勝手に冠されているし、
好奇の目だけでなく、色目や欲目、負い目祟り目に晒されるのは、慣れっこ…
「あぁ、そうですか。」という程度の『いつも通り感』しかなかった。

俺自身は特に何も求めていないのに、勝手に『女王』という愛称で崇め奉り、
そのラベリングだけが独り歩き…一目置かれたり、逆に目の敵にされたり。
二丁目に店を出している流し目のバーテンというだけで、憂き目に遭うなんて、
甚だ迷惑…目曰く、口ほどモノを言う?そこは大目に見て欲しい。
(二丁目出店は単に養親の欲目、流し目は実親ソックリのつり目なだけです。)

傍目には、見目麗しい女王様&目の保養な黒服が居る、我らがレッドムーンは、
実際は地味目で真面目で、目よりも舌に毒だというのに、歌舞伎町で悪目立ち…
衆目に晒され、アブナイ目に遭うイベントが目白押しな、めまぐるしい毎日だ。

だから、今更『盗聴されてる』と言われても、特に目くじら立てることもなく、
いつも通り粛々と、『目には目を』的なオシオキで、目にものみせるだけ…

…の、つもりだった。


人目を憚り、目に見えぬ存在として扱われてきた、黒猫魔女の二人。
人の目を避け続けるしかなかった故か、おケイ盗聴事件に過剰反応を見せた。
二時代前の刑事ドラマだか、歌舞伎町の組抗争を中核に据えたゲームの影響か、
はたまた、古式ゆかしい横スクロールアクションゲームっぽさにハマったのか…

「桃…いや、白雪姫は林檎か?俺達で囚われの林檎姫を救うぞっ!!」
「ラジャ!じゃぁ黒尾さんが赤で、俺が緑の『つなぎ』を、買って来ます!!」

…と、黒猫魔女の二人は衣装を買いに、激安殿堂へ意気揚々とぶっ飛んだ。


「ウチのおケイさん、まだ囚われてませんけど…既に拉致監禁扱いですね。」
「毎度囚われる桃姫の危機意識と、王国の管理体制の甘さも、大問題ですよ。」

「そもそも論として、自分をこれほどまで求めてくれる殿方は、一国一城の主…
   強面亀甲王様の方が、ヒゲ面メタボな真理夫さんより、確実に玉の輿です。」
「それに、桃姫も亀甲王も共に王族…拉致監禁はただの政略結婚の可能性も。
   だとすると、赤緑配管工超兄弟の行為は、略奪というより国家反逆罪…
   国際結婚を破断させ、近隣諸国の和平に修復不能な禍根を残した恐れも。」

白黒二元論的な勧善懲悪物語なんて、今やゲームの中にすら存在し得ない。
どちらかが一方的な悪というケースも、実は『例外』なんじゃないだろうか。

「この歌舞伎町で、月島家が不動産王に君臨し続ける理由…推して図るべし。」
「おケイが絶対不可侵を貫けた理由も…オトナなら目を瞑って然るべきです。」

人外の黒猫魔女よりも、現実的な黒を纏うのは、人であるレッドムーンの方…
後ろ暗いことは一切していない(はずだ)が、腹の黒さは自覚している二人は、
危機感なく盛り上がる純真な超兄弟を、の~んびり愛でて楽しむことにした。



*****



桃姫の赤つなぎ親父に比べ、林檎姫の漆黒王子様は狡猾…極めて賢かった。
お天道様の下を歩けないようにしてやるぜ…と、吸血鬼も真っ青な台詞を吐き、
姫様が攫われる前に犯人を社会的に抹殺すべく、レッドムーンに張り込んだ。

だが、その『張り込み方』が、大問題だった。
お姫様に危機意識を持たせ、なおかつ完璧な管理体制と言えるかもしれないが…

   (ココは、その…っ)

亀甲王が強硬手段を取る等の緊急事態の際に、お姫様をお守りするためには、
王子様はすぐ間近に控え、できるだけお姫様から離れないことがベストだ。
当初の案では、お姫様に最も近い従業員用の席…カウンターの端っこに陣取り、
『俺が王子様だ!』と堂々宣言し、全方位に牽制をかけるつもりだった。

だが、それはどう考えても営業妨害…
御客様全員に対し『恋人できました♪』と御報告する、周知(羞恥)プレイだし、
何よりも、吸血鬼の王子様が目に毒すぎて、全く仕事にならないじゃないか。

   (表情筋を締め続ける自信…無い。)


「くっ、黒々しい黒尾さんが、居座ったら…おっ、御客様が、萎縮されますっ」
「俺、そんな凶悪な空気醸してんのか…ちょっとショックだが、仕方ねぇな。」

あぁ黒尾さん、すみません。
ホントは縮こまるどころか、俺がギュンとかデレ~っと伸びてしまうだけです。
だから、そんなにシュンとしないで…って、ちょっ、ちょっと待って下さい。

「何で…脱いでいらっしゃるんです?」
「そりゃ…服が邪魔になるからだろ。」


開店準備をする俺の真横で、おもむろにスーツを脱ぎ始めた黒尾さんに、
俺は(一瞬そわっ♪としたものの)慌ててツッコミ入れて欲しく…じゃなかった、
これ以上の営業妨害は(↓の方の本心が)危険ですとの意味を込め、ツッコンだ。
だが、黒尾さんは俺の本心に気付くわけもなく、あっという間にすっぽんぽん…
目に毒すぎるステキなカラダから、俺は泣く泣く理性総動員で目を逸らした。

   (お店…休みにしちゃおうかな。)

背面棚の引出に手を伸ばし、紙とマジックを手に取り、『臨時休業』と書く。
やっぱり、黒尾さんは営業妨害以外のナニモノでもない、『出禁』確定者だ。
今日の売上相当分は、これから十二分に(カラダで)払ってもらいましょ…んっ?


   ふわり、空気が揺れる音。
   ひやり、冷気が肌を掠め。
   するり、温気が脚に絡む。

紙を入口に貼りに行こうとした瞬間、スカートの裾が脚より先に動いた。
少し開いた部分から、シンク下の冷えた空気が入り込んできたかと思ったら、
すぐさまその場所を温めるかのように、柔らかく艶やかな毛触りが…すりすり。

「うわっ…ひゃぁぁぁ~~~っ!!?」
「ココなら…この姿なら、いいだろ。」

「いっ、いいわけ、ないです…んんっ」
「ほら、客が来た…この中、温いな~」


あろうことか黒尾さんは、吸血鬼の本性を現し変態(表記は間違ってない)…
全裸になって猫型に姿を変え、俺のスカートの中へ身を隠してしまったのだ。
確かにココならば、お姫様に最も近くて『肌身離さず』な隠れ場所だし、
俺の目には触れないという意味で、目ざわりにはならないけれど…目に余るっ!

出てって下さいと、足先で軽くツンツンしてみるが、気持ちイイだけだったし、
強めだと、拉致対策用に足首に巻いた、黒尾さんの首輪(GPS付)の鈴が鳴る…
それ以前に、御猫様を足蹴にするなんて不敬なマネは、絶対にできやしない。

   (ズっ…ズルいっ!!腹毛も真っ黒♪)

二丁目のお姫様より、三丁目の王子様より、歌舞伎町の女王よりも強いのは、
三角のおみみと、ぷにぷにの肉球、もふもふの毛玉に包まれた…『御猫様』だ。

俺と本懐を遂げ、猫型に変態できるようになった吸血鬼・黒尾さんに対して、
俺は手と足は出ないがアレは出まくり、目にもアソコにもイれも痛くない…
御猫様溺愛という、人類として正しい真理の道を、生きることになったのだ。

   (猫型吸血鬼が人外最強説…大正解!)


俺は御猫様のために、いそいそと黒いバスタオルをカウンター内に並べて敷き、
万が一のふみふみ事故を防止するため、ヒールも脱いで仕事を開始した。

御客様が多い時間帯は、俺が移動する度に御猫様も一緒に付いて来て下さり、
その度に「がんばれ~」と、尻尾でぽふぽふ脹脛を撫でて応援して頂けた。
閉店間際になり、残り少ない御客様の話し相手が主な仕事になってくると、
御猫様は疲れてしまったのか、肩幅に開いた両足の間で、ごろごろ…
爪先でなでなでして差し上げると、ストッキングの感触がお気に召したようで、
お借りした首輪を付けた俺の足首に尻尾を絡め、すやすや…おねむ。

   (ホント役立ず…だが、それが最高♪)

御猫様のおかげで、ほど良く脱力…緊張が解けたのだろうか。
いつもより柔和な雰囲気のおケイに、御客様も(お財布の紐も)大変リラックス…
実務的には役立たずの猫手でも、実質的には『招き猫』のおててだった。

   (御猫様なら、出勤許可も要検討。)


そうこうしているうちに、閉店。
ホッと一息…ではなく、閉店後30分間が、最も拉致に適した時間だ。
しばらくは気を引き締めておかないと、御猫様の身に危険が及ぶかもしれない。
「起きて下さいませ。」と、足裏で強めにお腹をもにゅもにゅ…鈴を鳴らす。

ヘソ天でひっくり返っていた御猫様(猫型時は…うつ伏せ寝じゃない!?)は、
四肢を伸ばして大あくびし、甘えるように俺の脚にすりすりしてきた。

「あまりに居心地良くて…悪ぃな。」
「いえ、そんな…お気になさらず。」

「お疲れさん…脚、凄ぇ張ってるな。」
「もう慣れっこですから…ぅわわっ!」

御猫様は、いつも黒尾さんがして下さるように、舌で吸血鬼マッサージ…
ストッキング越しに触れたざらざら猫舌の感触が、妙~~~にくすぐったくて、
猫舌をそこから離すべく、咄嗟に思い付いた話を御猫様…黒尾さんに振った。

「黒尾さんの血液型って…何ですか?」


血液型のネタは、飲み屋のド定番だ。
さっきまで御客様達も『おケイさんは何型だろうか?』と、盛り上がっていた。

ABO式血液型によって性格診断をするのは、日本人に特異な傾向で、
行き過ぎはブラッドタイプ・ハラスメントとして、社会問題にもなっている。
遺伝的要素で性格判断するなら、セロトニントランスポーターの数の方が有意…
という話を、毎回俺は御客様に滔々と垂れ流し、未だ血液型を明かしていない。
(謎が多い方が、女王としての威厳が保てますからね…と、月島君の談。)

血液型と性格の相関関係については、俺は大して興味はないけれど、
血液型や血液そのものについて、最近少しだけ詳しくなってきた。
これは勿論、吸血鬼(献血ルーム嘱託)の強い影響によるもの…
パンフや科学雑誌等で、血液や再生医療の記事に目を通すようになったからだ。


血液型とは、血球の表面や内部にある物質(抗原)の有無によって、
個人の区別をつける方法…このうち、赤血球による分類法の一種がABO型だ。
これまで、ABO型を含む『分類法の種類』が、36種知られていたのだが、
今年7月、国立国際医療研究センター等の研究により特定された37種類目が、
国際輸血学会の血液型命名委員会から、『KANNO』と命名・認定を受けた。

型違いの血液を混ぜると、抗体が形成されて、凝集や溶血が起きてしまうため、
輸血や臓器移植の際は、血液型の『型合わせ』に細心の注意を払う必要がある。
ちなみに37種目の『KANNO』は、アジア人のみに特有の変異型だそうだし、
マラリア等の特定疾病に強い血液型も、世界にはたくさん存在するらしい。

血液型は、血液だけに存在するわけでもなく、人間だけにあるものでもない。
ちなみにネコはAB式(人間のABO式とは無関係)、イヌはDEA式とのこと…
ティラノサウルスやフクイラプトル、一つ目小僧や吸血鬼にだってあるはずだ。

だから、単純に世間話の一環として、黒尾さんの血液型を聞いてみたのだが…
俺の問いに、黒尾さんはかなり逡巡し、お前ならいいか…と呟いてから、
蚊の鳴くようなごくごく小さな声で、コッソリと教えてくれた。

「………強いて言うなら、Vc型だ。」


   (しまった。これは…『タブー』だ。)

人、特に日本人にとっては、血液型ネタは『ド定番の世間話』でしかないが、
どうやら人外、特に吸血鬼にとっては、おいそれと公言できないもののようだ。

無意識のうちに、ハラスメントを越えタブーに触れてしまったアクシデントに、
俺はすぐさま膝を折り、謝罪の意を表そうとしたが、気にすんな!の明るい声…
尻尾で腿をぽんぽんしてから、黒尾さんはごく淡々と事情を説明してくれた。


「これは厳密に言うと、血液の抗体の型とは違う分類かもしれねぇが…」

生き血を啜っても感染症に罹らないし、そこそこ頑丈にできてる俺達吸血鬼は、
自らが輸血や臓器移植を必要とするような場面に出遭うことは、滅多にない…
だから、自分の血液型を知る必要性は、ほとんどないってのが現実だ。

「確かに…つまり吸血鬼の血液型についての研究は、皆無ということですね。」
「あぁそうだ。当然、国際輸血学会に血液型を命名してもらうこともないな。」

今後研究される可能性としては、吸血鬼にしか存在しない抗体が新病に効く等、
俺達が実在することを認め、人権?を守られた上で、自発的に協力する場合…

「情けない話ですが、人類滅亡の危機に瀕した時ぐらい…でしょうか。」
「尊厳を損なわれてまで…人体実験なんか受けてやる義理はねぇだろ。」


…まぁ、それはいいとして。
実在しないはずの吸血鬼の血液型を、現存生物と同じ枠では語れないが、
『遺伝の型』という視点を含めると、主に3種類の血液型に分類できると思う。

「吸血鬼は、蝙蝠や猫、犬に姿を変える者もいると…聞いたことあるだろ?」
「世界各地に残る伝説や昔話、ファンタジーでは…そう語られていますね。」

それ、実はほぼ正解らしいんだよ。
奇跡的な血の合致…唯一無二の相手と結ばれ『本懐』を遂げた吸血鬼のみ、
その『本性』とも言える姿に、身を変えることができるようになるんだが、
『本名』と同じで、おいそれと他人に見せるようなもんじゃない…禁忌に近い。

通常、『本性』を知ることができるのは、血を合わせた『つがい』だけで、
吸血鬼本人ですら、本懐を遂げるまでは自分が何に変わるか…わからないんだ。

「黒尾さんが『黒猫』を名乗っていたのは、宅配魔女映画のパクリではなく…」
「不慮の事故によるレアケース…ウチの親父の姿を見りゃ、遺伝丸わかりだ。」

きっと、既存の方法に倣って分類名を付けるのなら、俺は『Vc』型…
『Vampire(吸血鬼)-cat(猫) 』って表記しとくのが、妥当な線だろうな。
ついでに言うなら『V-bat(蝙蝠)』、犬なら『V-dog』…bcdと繋がりも良い。

「それなら、吸血鬼亜種的な存在になった俺は、さしずめ…『Ve』ですか?」
「成程!姿は変わらなくとも、ドエロに変態する『V-ero』…間違いねぇよ!」

これぞまさに、自虐ネタだが…張り詰めた空気が緩んだことに、俺は安堵した。
きっとこの先も、予期せぬ場面で互いのタブーに触れることがあるだろうけど、
相手を傷付ける意図がないとわかっている…確固たる信頼があるのならば、
こうして笑いに変え、お互いの違いや未知の部分を楽しんでいければ…良いな。

   (名付けて『Vf型』…Very-fan?)


「ところで、タブーと言いつつ…屋号で思いっきり『黒猫』名乗ってますね。」
「『宅配魔女&黒猫』はセット扱い…ギャグなパロディにしか見えねぇだろ?」

それでも、ストレートな屋号を堂々と付けてしまったのは、
俺達はちゃんと実在してるんだって、誰かに認めて貰いたかったから…かもな。

「自分のペースで好き放題したい。でも誰かと繋がりたい…ワガママだよな。」
「人も人外も、引き籠り気質の同人作家も…ワガママなのは変わりませんね。」

本名や顔、リアルな住所や電話番号を安易に知らせるのは、危険が伴う。
でも、誰かに認められたり繋がり合いたいから、ハンドルネームでSNS利用。
自分を晒して認められたいけど、他人から曝されて炎上するのは怖い…
本性をおいそれと出せないのは、人も人外も、リアルもSNSも同じだろう。

   (上手くいかない…ものですね。)

「本性を晒し合える…猫生活を楽しめるつがいに出逢えて、俺は幸せ者だ。」
「心から甘えられて、甘やかすべきつがいがいる…最高に幸せな毎日です。」

顔が見えていないせいか、ストレートに堂々と本音を晒し合ってしまった。
なんだか無性に照れ臭くなり、俺は折っていた膝を立ててシンクで手を洗い、
黒尾さんは丸いおててを動かし、いそいそと顔を洗っていたようだった。

そうそう。猫って、ちょっと気まずい時とかに、『なんでもない風』を装って、
高速で毛づくろいしたり、届いてないのに後ろ足で喉元をエアかきかきしたり、
実は物凄く感情ダダモレで、腹の内もまるわかり…黒猫でも心は純白そのもの。

   (黒尾さんも、立派な猫に…おや?)


脹脛あたりに触れていた黒尾さんの動きが、急にピタリと止まった。
一体どうしたのか少し気になりつつも、シンクまわりを片付けていると、
しばらくして突然、太腿の外側に片方のぷにぷに肉球をついて伸び上がり…
もう片方のふわふわおててで、骨盤の横付近をツンツンして遊び始めた。

「ちょっ、何…くすぐったいですよっ」
「さっきからコレが…気になってな。」

赤葦が動く度に、ぷ~らぷ~ら♪って、血が騒いでしょうがねぇよ。
お前、俺にいろいろオモチャ買ってくれたけど…コレが一番ソワっとするぜ♪

「あのっ!ガーターのレースとか、ストッキングに…爪立てないで下さいね?」
「あ~、もうちょっと!安心しろ、俺が弄ってんのはフツーの紐だ…よっと♪」

「え、フツーの紐?…あっ!!?」
「ぃよっしゃあ!捕まえ…たっ♪」


嬉々として捕らえた獲物を引く御猫様。
はらりとナニかが捲れ、露わになった部分に、スースーした空気が当たり…

「…あ。」
「…っ!」

捕まえたエモノの正体を察した御猫様は、慌てて身を離すも…時既に遅し。
爪が紐に引っかかって、エモノも下まで一緒にずり落ちてしまった。

   (………。。。)


いくらふんわりしたドレスで隠れているとはいえ、こんなトコで、まさかの…
スカートというだけでちょっと足元が心許無いのに、さらにノー…となると、
命綱なしで崖っぷちバンジーのような、ぶらぶら感というか…キュンと内股に。

独りでも脱ぎ着がしやすいようにと、横で紐を結ぶタイプの下着にしていたが、
仮に再度この場で着けるとなると、スカート等々を『御開帳♪』するしかない。
それはさすがにマズいから、下着を拾ってトイレに行くという方法もあるが、
御猫様の目の前で、ぷ~らぷ~ら♪させるのは、あまりにも危険…死あるのみ。

結局俺は、どうすることもできず、すってんてんのスカートのナカに向けて、
「オイタをしたオトシマエをつけて下さい!」と、無言で訴えるしかなかった。

   (なんかもう、泣けてくる…っ)


どうしてノーパンは、こんなにも心細いのだろうか。
あんなちっぽけな布っきれなのに、モノ以上に大切なナニカを守っている…
血の気と共にナニカを失う代わりに、大きな悟りを体得しそうになっていたら、
「ゴメンナサイ。」のしるしに、アキレス腱に尻尾がふんわり巻きついてきた。

そして次の瞬間、あったかい空気がぶわっ!とスカートのナカから膨れ上がり…
ふわふわではなく、すべすべした温もりが、両脚全体に抱きついてきた。


「んなっ!?何やって…ド変態っ!!」
「『ド』はいらねぇ…変態しただけ!」

「そんなトコで、ぜぜぜ、全裸っ!?」
「ずっと俺は、全裸だっただろうが!」

「さっさと、ソコから出て下さいっ!」
「出たら、ホンモノのド変態だろっ!」

「スカートのナカで、ノーパン&全裸…一体何の辱めですか、コレはっ!?」
「リアルを見るな!見たら負けだぞ!コレは…ハッピーなアクシデントっ!」

「横文字にして誤魔化しましたね!?」
「ちっ違う!現実に幸福を見せるぞ!」

「グダグダをエロで終わらせるオチ…古典で習った『やおい』ですかっ!?」
「古典じゃねぇよ!オチはなくとも愛があれば、それは…ボーイズラブだ!」

「わかりました。もうそれで…ゴー!」
「よぉ〜し!全部俺に…任せとけっ!」

あ~、もう…なるように、なれっ!
恥かしさや遣る瀬無さも、黒尾さんと馬鹿を言い合っているうちに、笑いへ…
予期せぬアクシデントだって、二人一緒なら楽しみに変えていける。いくぞっ!

   (俺は今…幸せだっ!よし、こい!)


ひえびえ縮こまっていたトコが、予期した通りのぬるぬるした熱で包まれると、
吸血鬼の唾液に触れて一気に発火寸前までカラダが昂り…思考が溶け始めた。

「んんっ!…ぁあっん!」
「艶っぽい…イイ声だ。」

黒尾さんがリズミカルに頭を動かすと、スカートもつられて前方向へ広がり、
スカートでも覆い隠せない水気を含んだ音と、湧き上がる声が、店内に響く。

黒尾さんにおクチで(血液じゃない)体液を吸われたことは、何度もある。
でも、ズルズルしゃぶる姿を直視しながら、時折滾った視線を合わせるよりも、
スルスル膨張して滑る衣擦れ音の中に、姿も視線も隠された今の方が、断然…

「えっ、ちな…景色、です…んっあっ」
「珍しく…声、ガマンしねぇんだな…」

そう言えば俺達は、拉致を企てる犯人が来るかも?と、張り込んでいたはずだ。
だが、たとえ今まさに犯人が扉の外に居て、その機会を窺っていたとしても、
確実におケイが『独り』じゃないとわかったら…犯行を諦めるに違いない。

   (俺達の邪魔は…させません。)


「ね、黒尾さん…出て、き…はや、っ」
「あ、おいっ…皺に、なっちまう…っ」

早く早くと、赤葦はおもむろにスカートを捲り上げ、黒尾に先を促した。
突然全裸を晒された黒尾は、慌てて赤葦を抱きかかえてタオルの上に寝転がり、
スカートの裾を直すフリをしながら、重なり合う大部分をすっぽり覆い隠した。

「ぁっ…きもち、イィ…っ」
「っ…っ、強烈、だな…っ」

ナカの赤葦は黒尾に跨り、自ら激しく腰を上下させて黒尾を吸い上げているが、
ソトからだと熱烈な締め付けは見えず、可憐なスカートがふわりふわりと舞う…
ヴェール内の秘め事とのギャップに眩暈すら覚え、全身が甘く痺れてくる。

   (どっちが、吸血鬼、なんだか…っ)


そう言えば…
リアルに結び合った時には、全てを出し切った後に『寝落ち』ができるのに、
非リアルで秘事を描いた時の『結』は、『落ち』をつけて締めるのが至難の業…
『ケツを締めて落ちる』という点では、大して変わらないはずなんだが…な。

   (ホント、上手くイかねぇもんだな。)


一つだけ、はっきりわかることがある。
それは、今まさに俺の上で妖艶に舞うつがいの姿こそ、基本的な『Va型』…

   (Vehement…情熱的な赤葦、だよ。)




- 終 -




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<研磨先生メモ>

・クロ赤がアッサリ本懐を遂げ、なおかつ、クロが新人黒服としては役立たずだったケース。
・アレは『Vg』…Vow-go to heaven(極楽イきをお約束♪)型、だったりして。
(※邪魔者は同時に『V-go to hell』型)
・ラストは『Vh』…バラエティ溢れるHが、クロ赤の理想型かつ最終目標だから。
(※もしくは、『ヴェール内の秘め事』型。)


2019/10/29


 

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