押入脱出







「何で僕が、こんな目に…」
「それ、俺のセリフだし!」
「ナイスツッコミ、山口。」
「ボケがわかりにくいよ!」


ツッキーは、モテる。昔からモテていた。
でも、そのモテっぷりの次元が、今は一段階どころか余裕で一ケタは変わってしまった。

そう。全ては、あの…春高のせいで。


TVに映ったツッキーは、それはそれはカッコ良くて、筆舌尽くし難いキラキラっぷり!
ただでさえイケメン。出場選手の中ではレアモノな、メガネ装備(しかもシャレオツ!)。
どうやっても人目を惹くし、めちゃくちゃバエるし、烏野の活躍もあって目立ちまくり!
何よりも重要なのは、TVにはツッキーの『声』すなわち罵詈雑言は映らないこと…
ただキラキラした(しゃべらない)イケメンが、全国のお茶の間に流されちゃったことになる。

これが、『何を映すか』ではなく、『何を映さないか』で、真実を歪めてしまうことがある…
マスメディアやSNSの『罠』とかいうやつの、痛々しい実例かも…それは今、置いといて。

娯楽の少ない田舎(しかも正月休み中)だと、烏野周辺の春高視聴率はハンパない高数値で、
全校生徒及びその御家族、そしてOBの皆様もあまねくツッキーのキラキラを目撃…
そのキラキラ具合は宮城にとどまらず、宮兄弟目当てのイケメン好きのお眼鏡にもかない、
全国イケメンユース選抜の5本指に数えられるほど、モテモテになってしまったのだ!!

おかげで、以前にも増して、日夜追いかけ回される日々…
今日も今日とて、部活へ向かう道すがら、一個小隊の女性陣とのデッドヒートの真っ最中だ。


「あーもーヤダ!限界っ!生まれ変わったら絶対、イケメンの幼馴染なんて断固拒否っ!」
「ちょっ、う…ウルサイ山口!見つかっちゃうでしょ!!」

追撃を躱すため、廊下の隅にあった両開きのスチールロッカーの中に、ツッキーを押し込め、
自分だけとりあえず逃走しようと試みたけど…当たり前のように俺も中に引き擦り込まれた。

かなり大きめのロッカーだったから、二人ぐらい入ってもそこまで狭くはないはずなのに、
実はツッキー、サイズ感も存在感も平均値を大幅に超えてデカかった…と、今更ながら痛感。

「同じ洗剤…俺も一緒に月島家で洗ってもらったのに、何でツッキーばっか…良い匂い!?」
「それはコッチのセリフ!って、山口。こんなとこで僕に当たり散らさないでくれる?」


当たりたくも…なるじゃんか!
俺なんかホントに無関係だよ!?ただの幼馴染兼、部活仲間兼、級友兼、(省略)…なだけで、
ツッキーのモテモテに巻き込まれた挙句、逆恨みまでされちゃって…割に合わないよ!

「もう部活始まっちゃうし、俺だけ先に出ちゃってもいい?いいよねっ!?いいって言って!
   モロモロのジジョーにより、ツッキーは遅れます~って、伝えといてあげるから!」
「勿論いいよ。ただしその場合…山口が皆様をこの付近から引き離す『陽動係』だからね。
   僕はここが静かになった頃を見計らって…落ち着いてから部活にむかうことにするよ。」

はぁ~?何ソレ!俺をエサにしようっての!?いい度胸してんじゃんツッキー。
言っとくけど、この『てんやわんや』のおかげで、俺…最近、何かすごい強くなってるから。
ツッキーの毒舌や冷え切った視線程度なんかじゃあ、全く怯まなくなっちゃったもんねー!


「わかった。俺が皆様を陽動…動揺させる作戦でいいんだね?よし、イってくる!」
「ま、待った山口!その座り切った目…一体ナニするつもりっ!!?」

真の自分を押し込め、暗く抑圧された状態を、『押入(クローゼット)の中にいる』と暗喩。
そこから『押入から出て真の自分を開放する』という言葉が、アメリカで生まれたんだって。

「(押入から)coming out…いざ脱出っ!!」
「…はぁっ!!?」

まさか山口、皆様をドン引き…動揺を誘う陽動作戦として、僕の秘密を暴露するつもりっ!?
それに、自分じゃなくて他人の秘密を暴露するのは、『アウティング(outing)』だからね。


ご丁寧な訂正、どうもありがとっ!
でも今は、ホントにどーでもいいネタ…スベりまくりだから。
死なば諸共…せめてもの情けとして、ツッキーとコンビの俺も、道連れになってあげるよ!

   さらば、大人しく地味な俺。
   新しい世界の扉を…オープン!
   カモン!アウトと言うなら言えばいいさ!

バンッ!!バンッ!と、押入(ロッカー)の扉を開け閉めし、俺だけ廊下に飛び出した。
そして、「皆様、ご注目~っ!!」と叫び、周りの視線を一身に集めてから、頭を下げた。

「俺が、ツッキーの…こここっ恋人なんだ!
   だから…ごめんなさいーーーーっっ!!!」



*****



「この捨て身のネタを披露した時が、俺の人生で一番スベった瞬間…だったんだ。」
「『だから?』『それがどうかした?』『何を今更。』…だだスベりだったよな。」
「俺達は一生、あの時の月島の勝ち誇ったイヤラシイ満面の笑みを…忘れないぞ。」

山口には申し訳ないが、この『カミングアウト事件』の昔話こそが、烏野OB会の鉄板ネタ。
酔いつぶれた月島が「別名『瓢箪から駒作戦』だった…」とカミングアウトするとこまで…
ズルズルと滑り落ちたのは山口だったオチも含めて、全部セットの…スベらないネタだ。




- 終 -




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ドリーマーへ30題 『10.カミングアウト』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。


2020/04/11 (2020/04/10分 MEMO小咄移設)  

 

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