生粋意気







「くぅぅぅぅぅ~~~っ!!ホンッッッット、無気力のくせに生意気なセッターズめっ!!」


今日も木兎は、無気力生意気セッターズこと、赤葦&研磨の激辛口なツッコミに撃沈…
黒尾に全力でしがみつき、年下の癖に…コーハイのくせに生意気っ!と、ベソをかいていた。

黒尾がヨシヨシとフォローを入れる寸前、ポジション(S)コンビは容赦なく追い打ちをかけた。

「前々からずっと思ってたんだけどさ、無気力の方はともかく…」
「たった1歳違いぐらいで、俺達を『生意気』認定するのは、少々問題がありませんか?」


生意気とは、自分の年齢や経験、地位や能力をわきまえずに、得意気な言動をすること。
『意気』は意気揚々や意気込み等、やる気や心構え…(転じて『粋』に繋がる言葉。)
そして『生』は、生半可な生煮え生乾きに生温かい目…中途半端で未熟な状態を表す接頭語。

「地位や能力はさておき、1歳年上程度では、経験にそんなに差があるとは思えません。」
「それに、無気力だから…得意気な言動なんてしてないし。」
「そっ、それなら『小生意気』だ!1歳分…ちょっとだけ生意気認定はいいだろ!?」
「いや、その『小』は、わずかって意味じゃない…もっと軽んじたり馬鹿にする接頭語だ。」

おいっ!黒尾は俺のフォローにまわれよ!そんな訂正は小賢しいだけだぞ!と、木兎は涙。
よくわかんねぇけど、とにかく説教臭く差し出がましい言動が『生意気』ってことだろ…と、
訂正もツッコミもできないほど完璧に、木兎は生意気の真意に最短距離で辿り着いた。

「つまり、本人が生意気かどうかはともかく、受け取る側がそう感じる…という意味です。」
「自分と大差ない、または自分より下の奴が、何をエラそうに…って、怒りを覚えるんだ。」
「『自分より上』だと自分が認めている人が、同じ言動をしても…生意気とは思わねぇな。」
「確かに…生意気って思う自分だって、相手に対して凄ぇシツレイな認定をしてるんだな~」

素直に自分の非を認める木兎に、セッターズは毒気を抜かれたように頬を緩め、
黒尾は尊敬の眼差しで木兎を見やりながら、話の転換を研磨に促した。


「例えば…こんな想像してみようか。」

萌えを供給する二次創作サイトのくせに、まずは言葉の定義やら雑学考察やらに熱中し、
歴史の教訓だとか時事問題へのツッコミとか、説教臭い話ばっかりで、萌えとは程遠い…

「そのサイトの運営者が、①赤葦京治(17)だったら、どう感じる?」

「頑張ってお勉強されてますが…絶対的な経験不足による視野狭窄感は、否めませんよね。」
「原作と同世代ゆえの強みを…活き活きとした萌えや臨場感を、前面に出せばいいのにな。」
「そもそも、17歳がオトナな言葉遊びしちゃダメだろ!もっと…イロイロな体験してから!」

もし読み手が京治君(17)と同世代だったら、ハンパない背伸びっぷりを敏感に察し、
『生意気な作者』だと思ってしまう…下手したら、バッシングの対象になるかもね。
逆に、読み手が京治君(17)ぐらいの歳のお子さんがいる人から見れば、ただ可愛いばっかり…
親心的な何かがホッコリ湧き上がってきて、全力で応援したくなっちゃうんじゃないかな。


「じゃぁ、次。運営者…②孤爪研磨(28)。」

「そういう『作風』の方なんでしょうね…と、特に何も感じず、受け入れると思いますね。」
「強いて言うなら、もうちょっとイキイキな…正統派な堂々とした萌え描写を期待したい。」
「28歳か…まだまだ若くて、でも、イロイロな経験もある!ナマナマしい体験談を、ぜひ!」

おそらく、創作にも慣れ、経験もそこそこ積んでおり、萌えのなんたるかも会得(体得?)済。
仕事や家事でご多忙の中、萌えにも意気揚々とイキをイれ込んで下さるその情熱と労力に、
心から頭が下がる…17歳から見れば憧憬、39歳からすると羨望のマトになるかもしれないね。


「最後。③黒尾鉄朗(39)だと、どう?」

「年相応の経験と広い視野、萌えの炎と引き換えに習得した、深く冷静な洞察力に…感服。」
「他人の目や評価に囚われず、ただ趣味として萌えを愉しむ境地…粋な生き方だと思うぜ。」
「ナマイキじゃなくて、生粋…キッスイの貴腐人だな!人生の教科書として読み飛ばすぞ!」

不惑になっても…いや、不惑まで経験やら何やらを熟々と積み重ねた結果、腐…ではなく、
孤独だろうが低評価だろうが気にせず、ただ腐という自分の生き方そのものを、笑いに昇華。
お年寄りの昔話と一緒で、好きなように語らせておけば…実に無害な存在なんじゃないかな。


「要するに、ウンチクたれまくりのサイトを、どう受け止め、どう感じるかは…
   読者さんが運営者…書いてる『中の人』を、どんぐらいの歳だと思うかに、左右される?」

クッソ生意気な厨二病か、独自路線まっしぐらか、ジジィのタワゴトか…
同じコトを書いても、『誰が』書いたかによって、受け取り方は全然違う。
同じコトを言っても、ブサイクならセクハラ、イケメンなら恋の誘惑になるのと、似てるな!

「…ん?待てよ。『中の人』の歳とか作風と、そこの作品が面白いかどうかは、別問題だろ。
   それと同じで、お前らそのものじゃなくて、お前らの言動が生意気なのは…不変だよな?」

「チッ、気付いたか。」
「木兎さんのくせに…」

思いっきり悪態を吐くセッターズに、ナマイキ言うオクチはコレかーーーっ!!?と、
木兎は二人に飛び掛かってほっぺを片方ずつ引っ張り、セッターズも負けじとやり返した。
とても高校生とは思えない大騒ぎに、黒尾は呆れ顔で三人を引き離し、頭を順に撫で回した。


「よーし、そこまでだ。」

17だろうと28だろうと、たとえ39になろうとも、コイツらは厨二病な独自路線のまま…
俺にとっちゃ、いつまでもナマイキのままで、ひたすら可愛いばっかりの存在だよ。
木兎含めて、ジジィになるまで今と変わらず…延々とメンドクセェまま、仲良くやろうぜ?

「…ほら、こっち来い!」

朗らかに笑いながら大きく両腕を広げ、全員まとめてカモン!な体勢で待つ黒尾。
三人は条件反射的に、包容力満点な腕の中へ我先に飛び込んでから、照れ隠しに呟いた。


「受け取る側の、感じ方…か。」
「クロ、あんたホントは…」
「おいくつ…ですか?」





- 終 -




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ドリーマーへ30題 『08.生意気』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。


2020/04/11 (2020/04/08分 MEMO小咄移設)  

 

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