恋之策略







「あのー、ちょっと質問…いいッスか?」


第三体育館での自主練後、珍しくリエーフがおずおずと手を上げて全員に集合を掛けた。
興味津々な顔で近付く日向&木兎、興味なさそうにしつつも入口で止まった月島、
そして、片付けの手を止めることなく、話に聞き入る体勢をとった黒尾&赤葦に向かって、
リエーフは首を傾げながら、ボソボソっときまり悪そうに『質問』を口に出した。

「『恋の罠』って…結局、何なんスか?」


いや、こないだウチの姉貴が、「恋の罠をしかけましょ~ぉ~♪」って歌ってて、
「それ、どんな罠?」ってつい聞いたら、パパかママに聞きなさい!って、ぶん殴られて…

「あーっ知ってる!『親に聞け』って言われたら、ゼッタイ聞いちゃダメなやつだろソレ!」
「さすがは俺の弟子!オトナとかオトメが逃げる時に使う、ジョートーモンクだよなソレ!」
「オトナでもオトメでもない僕は、力になれそうにないね。ソレじゃ、お疲れ様…わっ!?」

まぁ待て、ツッキー。
リエーフだって、最初っから日向やツッキー、俺なんかに答えを求めちゃいねぇって。
それよりも、梟谷グループのパパ&ママ的な奴らが、なんて答えるか…すっげぇ興味ねぇか?
ってなわけで…こっちカモン!

「ちょっと待て。誰がパパとママだよ…別に俺らは、そういうカンケーじゃ…な、ママ?」
「えぇパパ。それに、こんなに無駄にデカい息子を複数人持った覚えも…ありませんし。」


互いから目を逸らしつつ丁寧に訂正を入れながらも、既にパパ&ママは考察モードに突入…
その隙に、木兎達四人は手を繋いで輪っかを作り、かごめかごめ~と二人を中に閉じ込めた。

「これぞまさに、広く鳥獣を捕らえる仕掛け…物理的な『罠』の実例ですね。」
「さすがツッキー!モモシリ…じゃなかった、モノシリだな!」

もしかして僕は、『罠を作る』罠に掛かったんじゃないか?という疑問が脳内を過ぎったが、
自分は罠を仕掛けた側!…と強引に自らに言い聞かせ、月島は率先して獲物に狙いを定めた。

「『恋の罠』という時の罠は…」
「縄を輪っかの形とかにして、逃げられないように捕まえて、縛ったり…?」
「それ…何かヤバいプレイっぽくねぇか?」
「そういうイミで、親に聞いちゃダメだったのか?」
「確かに、縄などのひも状のものを輪っかにしたものを『輪奈(わな)』とは言いますけど…」

ちょっと君らはオトナしく黙って!と、月島は手綱を引くように輪っかを引き絞り、
獲物に腕を少し触れさせるぐらい罠を狭めて、獲物達に答えを促した。


「『恋の罠』は物理的というよりは、心理的なもの…柵じゃなくて、策の方だろうな。」
「辞書的に言えば、人をだまして陥れるための計略…『はかりごと』だと思われます。」

ですが、この『はかりごと』にも、いろんな種類がありますよね。
『作戦』はスポーツ等にも広く使いますし、『企み』は、よくないことを計画するもの。
『謀略』や『陰謀』は、常に人を陥れて騙す…会社乗っ取りや暗殺等マイナスの強い言葉で、
逆に『深謀』『権謀』『機略』等は、臨機応変さや見通しの深さで、プラスのイメージです。

「おそらく、『恋の罠』は『謀略』『陰謀』よりもライトな…『策略』『計略』あたりか?」
「狡さが際立つ『奸(姦)策』や、騙すことが前面に出る『詭計』よりは…明るい感じです。」

獲物達の緻密な定義付けに、罠の方がぎゅうぎゅうと締め付けられたような感覚に陥った。
どうでもいいが、この罠系の言葉がこんなに似合う獲物も、そうそういない気がするし、
これこそが策士なパパ&ママの罠のような気もしてきて…木兎はワナワナと拳を震わせた。


「あーあー、もういいよっ!!コムズカシイことを言って、肝心なとこをゴマカス…
   これだから、パパ&ママはズルい~!って、世界中の子どもたちがムクれてるんだぞっ!」

俺達が聞きたかったのは、ウチのパパ&ママがどんな『恋の罠』を張り合ってんのか…
そういうワクワクな話を聞かせて~♪って、ピュアな子どものフリしてオトナを弄んでんの!

「罠とか意地ばっかり張り合って…そろそろお互いに落ちたって、認めたらどうなんだ!?」
「えっ!?罠に夢中で未だパパ&ママじゃないの!?策士策にギブアップアップ溺れ中!?」
「はいっ!策略にも計略にも『略』って書いてあるし、罠も省略すればいいと思いますっ!」
「リエーフも日向も、ちょっとずつ大間違いだけど、今はそれでいいと、僕も…同意です。」

   よし、わなわなブラザーズ…柵発動だ!
   サクっとカンケーにハメるカンケイっ!
   ひと罠、ふた罠、み罠、よ罠…もっと!

わなわなブラザーズは、こ~いのわな~をっ♪と軽やかに歌いながら、じわりじわりと前進…
獲物達が互いに互いを捕獲し合うまで、罠の輪っかをぎゅうぎゅうと縮めていった。

「ちょっ、待っ、ちっ、近ぇっ…!!」
「これ以上は、あのっ、ぅわっ…!!」

パパ&ママがしっかりと抱き合い、鼻と鼻が触れるまで近付いたところで、サクは逃走…
「ゲットしましょ♪チイサナ~オオキナ~シアワセ♪」とハモった後、体育館の扉を閉めた。


残されたパパ&ママこと黒尾と赤葦は、顔を真っ赤に染めて抱き合ったまま凝固…
視線すら逸らすこともできず、間近に迫る『獲物』を、じっと見つめ続けた。

   (ねぇ、パパ&ママ…どうなった?)
   (こっからじゃ、見えねぇってば!)
   (痛っ!こっち押さないでくれる?)
   (お前ら、途中で歌…止めんなっ!)

体育館入口の隙間から聞こえてくる、罠完成を願う子どもたちのハミング。
ここの歌詞ってなんだっけ?策士策に…そうそう、なるのもよくある話…ゲッチュ〜♪???

…そんな子ども達の会話と朗らかな歌声に、ほっこりと絆されたパパ&ママは、
互いに仕掛けてきた罠と、抑え続けてきたものをそっと解き、両手を上げて微笑み合った。


「お前の罠に…ハマっちまったよ。」
「あなたのとりこに…なりました。」





- 終 -




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※恋の罠を~♪
   →FUNK THE PEANUTS『恋の罠しかけましょ』


ドリーマーへ30題 『06.策略』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。


2020/04/11 (2020/04/06分 MEMO小咄移設)  

 

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