遺伝異伝







「インハイ準優勝の稲荷崎に、古豪烏野がどこまで喰らい付くか…見ものですね。」
「見ものだか見よう見まねだか、見たまんまだか…見た目じゃわかんねぇよっ!!」

   なぁ、赤葦…
   金と銀、どっちがアツムでどっちがオサム?
   あとから銅のツトムとか、出てきたりする?


春高二日目。稲荷崎と烏野の試合を見に来ていた、梟谷の木兎と赤葦(及び観覧者の皆様)は、
神のみぞ知る『Shall』な『to be continue』的事情により、しばし待機を強いられていた。
その間に、暇つぶしがてらのんびり考察(という名の、ただのダベり)をし始めた。

「宮金銀は一卵性双生児…わかりやすくいいますと、たまご1個にソーセージ2本ですね。」
「は?男は黙っていぶし銀…フランクフルト1本に、金のたまご2個の間違いじゃねぇか?」

「何で勝手に『過大修正』してるんですか。」
「そこはっ、男だから…ミエ張らせろよっ!」

ま、そんな遺伝子?の話とか、俺にはちんぷんかんぷんだけど、あの髪色は親切設計だよな!
眉毛とか襟足とか見たら、黒いから…元々は二人ともが遺伝的に黒髪ってことだよな?
それをわざわざ、周りに見分けがつくように…『バエ』を意識して、染め分けてんだろうな!

「髪でジコシュチョーとか、ツム&サムも相当な目立ちたがり屋だな〜!」
「あ、木兎さんすみません。今日、鏡…鞄の中に忘れてきました。」
「謝るな赤葦!そこはツッコミしてくれ!!」


「俺のは地毛だからな!キャラも髪もアレもタつ男だから!」と胸を張る木兎を無視し、
赤葦は右手と左手で、それぞれ金と銀の頭の動きを指先で追いかけた。

「金がアツム、銀がオサム…と、言いたいところですが、はたして本当にそうでしょうか?」

もし俺が稲荷崎の参謀ならば、キーとなるような大会毎に、二人の髪色を変えさせます。
金と銀の交換は勿論、時折銅を混ぜてみたり、色気を出すために黒&赤なんてのも良い…
今や高校バレーも情報戦の時代ですから、一卵性双生児を利用した攪乱は、面白い策ですよ。

「全日本ユース合宿中は金だったアツムが、今も金とは限りませんよ?」
「じゃぁ、まさか、あれは…トムかっ!?」

確かに、宮兄弟が一卵性『双生児』とも限らないし、『一卵性』かどうかも不明。
ですが、外野の俺でも、ほぼ確実に言えることが一つだけあります。それは…


「遺伝的な問題はどうあれ、宮兄弟は将来…頭髪に大問題を抱えるでしょうね。」
「コラーーー!!それ、男にとって、ソーセージ問題の次に、言っちゃダメなやつっ!!!」

木兎は慌てて赤葦の口を手で覆い、周りを注意深くキョロキョロ…
宮ファン(イケメン推しの女性達)の殺意を浴びてないかを、真っ青な顔で確認した。
だが、そんなことはお構いなく、赤葦は淡々と『考察』を続け、それを口から漏らし続けた。

「稲荷崎の頭脳・角名さんであれば、ソーセージのカラートリックを使わないはずがない。」

宮兄弟のお父様もしくはお爺様を見れば、遺伝的要素についても確証が持てるんですが、
そうでなくとも、度重なるヘアカラーによって蓄積されたダメージは、歳を取ってから表出…
あ、表に出てこなくなっちゃって、後悔も先もアレもタたなくなるかもしれませんね。

「木兎さんもご注意下さい。今はイイ具合にタってても、いずれは薬を用いてもタたなく…」
「ヘアワックスの使い過ぎにもお気を付け下さいませ。…って、ちゃんと言ってくれ!!」


以上の考察から、キャラもアレも、将来的な視点を含めてのタちを総合的に判断致しますと、
最も賢い髪型をしているのは…音駒の孤爪であると考えられます。

最初は「染め直すの…メンドクサイ。」と、無気力プリンちゃんなキャラ立ちでしたが、
そのうち、唯一無二のプリン維持及び、頭皮&毛根へのダメージを最小限に抑えるために、
あえて「生え際から5cm…染めないで。」と、美容院でお願いしているに違いありません。

「もしくは、金も銀も塗りつぶす音駒の腹黒策士が…そう仕向けているのではないか、と。」

ちなみにですけど、孤爪が『美容院で』染めているという主張は、絶対に譲りませんから。
間違っても世話焼きの幼馴染さんのお手を煩わせている等…神と髪が許せど俺が赦しません!

「むしろ俺の全身を、黒尾さん色に染めて頂きたいですね。」


ま…マズい。
考察(という名の妄想の暴走)モードに入った赤葦は、俺ですら止められない。
つーか、アタマん中でナニ考えてもいいけど、ソレを表にダしたらアウトだって…
それが憲法の『公共の福祉に反しない限り』のイミだって、赤葦が言ってただろうがっ!!

   何とか赤葦を、黙らせるには…
   仕方ねぇ!黒尾…ゴメンっ!!


「なぁ赤葦。もももっ、もしも黒尾家が遺伝的にハ…じゃなかった、
   オトナになったら、今みたいにタ…寝癖が付きにくくなるとしたら、どどどっどうする?」

木兎は声のトーンをできるだけ落として、赤葦の耳にコッソリと質問。
すると、赤葦はビクリと背を震わせて硬直…ダダ漏れを止め、沈黙すること数秒。
あまりに静かになりすぎたため、心配になった木兎がおそるおそる顔を覗き込もうとしたら、
キラキラ輝く眩しい笑顔で、赤葦はキッパリ言い放った。

「将来的に寝癖ヘアと惜別する家系だとすると、それは男性ホルモンの影響大という証拠。
   即ち、アチラの方はガッツリとタつ『お強い方』にほかならない…イイ男ってコトです!」
「なるほど!!タつためのジヨーとキョーソーは、上と下で分け合ってるってことだなっ!?
   アッチがタてばコッチがタたず…銀座のママが言い伝えてきた金言、ここにあり!」

木兎さん…まさにその通りです。
黒尾さんがどんな遺伝子を持っていようと、俺にとっては全てがプラス材料…
不毛になろうが不能になろうが、俺には大した問題ではありませんね。
金も銀も、俺の目に映るイロモノは、ことごとく黒&赤ネタに塗り替えてみせますから。

「俺は、黒尾さんの遺伝子が欲しいわけじゃない…黒尾さんそのものが、欲しいだけです。」
「赤葦、お前…っ、凄ぇ男前な発言だなっ!」


いやもう、コイツが何言ってんのか、俺にはサッパリわかんねぇけど…
赤葦にとって、黒尾以外のヤツは、金でも銀でも…どうでもいい、ってことなんだろうな。


「えーっと、俺ら…何の話してたんだっけ?」
「おいなりさんと、ソーセージ…ですよね?」





- 終 -




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ドリーマーへ30題 『05.遺伝子』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。


2020/04/06 (2020/04/05分 MEMO小咄移設)  

 

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