「あーーーークソっ!ムーカーツークーー!」
「うるせぇ日向ボゲェ!」
「こらこらっ!もう~、ケンカしないでよ~」
部活後の居残り練習。
一年生の四人は、一応『一年生らしく』最後まで残り、片付け(という名の自主練おかわり)。
それに、月島が淡々とツッコミ(スイッチ)を入れ、日向がソッコーでムキーーーっ!
日向が騒げば、ステレオの如く影山も同時に騒ぎ始め、山口がボリュームを下げに走る…
平和そのもの、いつも通りの『烏野一年組』の風景である。
「あのイヤラシ~イ笑顔!笑顔な分、余計に腹が立つんだよな~!」
「それについては、俺も同感だ。あんなにイラっとする笑顔はねぇよ!」
「あははは…ま、まぁ、『ツッキーはいつも笑顔』って言えば、聞こえだけはいい…かな?」
笑顔は笑顔でも、『嗤笑』とか『失笑』とか、もしくは『嘲笑』なんだけど…はははっ。
山口は月島に聞こえるようにフォローしたが、月島はそれに対し、口元だけ笑って返した。
「えっ…笑顔だけでマイナスの感情をビシビシ伝えてくるとは…月島おそるべしっ!」
「俺が言うのも何だが、もっと清々しい笑顔とか、せめてホンワカ微笑むぐらいしろよ。」
「ホンワカ微笑むツッキーか…俺もほとんど見たことないっていうか、想像できないかも?」
っていうか、いくら日向と影山でも、ツッキーが腹を抱えて大爆笑!は…見たくないでしょ?
心から楽しそうに、ほがらかな嬉笑!とか…見たいようで、見ちゃダメなようで…
「…貴重なご意見ありがとう山口、ふふっ。」
「ツッキー…その含笑は、怖いだけだよ~!」
とまぁ、こんなカンジだからさ、二人ともツッキーの笑顔見たいとか、言わない方がいいよ~
『破顔一笑』のつもりが、『破顔殺傷』になるかもしれないから…あははっ。
「………。」
「………。」
「…?どうしたの、二人とも?あ、ネタが面白くなかった…かな?はは…はっ。」
話を聞いていた日向と影山は、山口の顔をじっと見つめ…顔を見合わせて頷き合った。
そして、笑顔の消えた真顔で、山口に両サイドから指を突き付けた。
「俺、山口の『ホントの笑顔』も…あんま見たことねぇぞっ!」
「いつもヘラヘラ笑ってるが、だいたいが『苦笑い』だよな?」
いーっつも、穏やかに微笑んでるように見えるけど、笑っちゃいねぇ…
「あはは…っ」ってのも、困ってるのをゴマカシたり、ニゴシたりするやつだもんな!
若くして苦労人体質っていうか、表に出ねぇだけで実はストレスたまってんじゃねぇのか?
「山口…月島のお守、オツカレサンっ!!」
「日向、お前も山口に苦労かけてんだろ!」
「影山がソレ言うのも、大間違いでしょ。」
日向と影山のボケに、思わずツッコミを入れてしまった月島…三つ巴の大騒ぎに。
よしっ、山口をホントに笑わせた奴が勝ちな!と言い出し、一斉に山口へ飛び掛かる始末だ。
「山口笑え!ほ~ら、こちょこちょ~~~♪」
「卑怯だぞ日向!月島、顔貸せ…変顔しろ!」
「痛っ!ほっぺ抓るな…僕をくすぐるなっ!」
「ちょっ、みんな、やめ…あはははははっ♪」
四つ巴になりながら、お互いの脇腹を突き、頬を上に引っ張り、目尻を下へ垂らし合う。
勝負はどこへやら、何笑いかもわからない嬌声が響き続け…主将の拳骨でようやく止まった。
「やかましいっ!!お前ら…まだ帰ってなかったのか!!」
ったく、体育館から大騒ぎが聞こえると思ったら、まさかの月島と山口も一緒だったとはな。
月島はともかく、山口が止めに入らなかったというのは、意外と言えば意外なんだが…
どうやら、いつものケンカじゃないみたいだから、今回だけは特別に…笑って赦してやる。
「珍しく、四人全員が大笑いとは…
まったく、楽しそうで何よりだよ。」
- 終 -
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ドリーマーへ30題 『04.苦笑い』
お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。
2020/04/06 (2020/04/04分 MEMO小咄移設)