仲直伝授







部活からヘトヘトになって帰って来たら、部屋の前に蛍がうずくまっていた。
少しウトウトしかけていたようで、俺の足音にビクっ!!と背を震わせ、キョロキョロ。
まだ寝惚けていたのか、俺の顔を見るとホッと頬を緩め…直後、眉間にギュっと力を入れた。

「おか…っ、おそかったじゃん。よあそび?」
「部活だってば。ま、寄り道はしたけどね~」

手に持っていたコンビニの袋を音を立てずに揺らし、蛍の耳元にコソっと囁く。
兄ちゃんと一緒によあそび…おやしょく食べよっか?と内緒話すると、蛍は満面の笑みに。

「わかった!そそのかしたのは、兄ちゃん!」
「そうそう。兄ちゃんが主犯…ってズルいな!蛍も共犯者だからね~♪」
「一緒にあやまってくれる…ってこと?」
「もっちろん♪…ただいま、蛍。」
「おかえり!兄ちゃん!!」

うん。ウチの弟…可愛い。


俺は忍び足で蛍を部屋に招き入れ、チョコ味のプロテインバーを半分こ。
濃い目のカルピスを蛍が飲み始めたところで、おもむろに切り出した。

「…で、忠と何かあったの?ついにケンカでもしちゃったかな~?」
「っ!!!???ちっ、ちがうっ!!ケンカなんて、しないもんっ!!!
   ただ、ちょっとした、その…『いけんのふいっち』で、なっ、『なかたがい』しただけ!」

いやいや、世間一般では意見の不一致による仲違いを、ケンカしたって言うんだけど…
という説明にも、蛍は頑として認めず、山口とケンカはぜったいしないっ!の一点張り。
『こじんじょうほうほご』にハイリョして、しょうさいは言えないけど…と前置きした上で、
(おそらく、蛍が何かしらの理由で忠を怒らせたが、その理由がわからないんだろう。)
必死に涙を堪えながら、俺の袖を掴んで懇願してきたのだ。

「兄ちゃんお願い!山口と『もとさや』に戻る方法…僕に教えてよっ!!」


「蛍…そこは素直に『仲直り』って言おう。」
「そもそもケンカしてないから、仲直りはできないもんっ!」

あ~、なるほどね。
ケンカしたと認めたくない→仲直りできない→一生懸命に類語を探した→元サヤだ!!…か。
その間違った方向の努力は認めるけど、出した答えはやっぱり大間違いだから。

「あのね蛍。『元サヤ』は、『鞘』に『剣』が収まってたカンケーの二人が、
   仲違いして一旦バイバイして、んでもってまたズポっと収まること…前提が違うの。」
「さや?けん?意味がわからない。」
「うん。わかったら兄ちゃん泣いちゃうから。要するに、今の蛍と忠には当てはまらない。」
「それじゃあ…『ふくえん』は?」
「『復縁』はもっとその先だし、身内からの家族・相続問題の相談は受けないからね!」

何だ…兄ちゃん、ホントに使えないんだから。
蛍はそう悪態を吐き(可愛くねぇな!)、瞳を絶望色に染めて涙を零した(やっぱ可愛い!)。
それでも声だけは漏らさないようにプルプル震える背を、俺はできるだけ優しくポンポンし、
蛍が俺の胸におでこを預けるのを待ってから、ゆっくりと話しはじめた。


「ケンカぐらい…してもいいんだよ?」
「…えっ!?」

ケンカしたらもうおしまい…なんてことはなくて、仲直りしたいなら努力すればいいんだ。
ケンカしたら、相手が何を怒っているのかをしっかり考え、自分が反省すべきとこは反省し、
謝らなければいけないことがあれば、しっかり謝ること…それが、仲直りのスタートなの。

「『ゴメン』って言えばいいだけ?そんなにチョロいので、仲直りできるの?
   それなら、『ゴメン』が得意な山口は、仲直りのプロになれそうだよね。」
「あ~、忠の『ゴメン』は挨拶みたいなもん…『ゴメンツッキー』で一単語だからね~
   その点については、俺から忠に『ゴメンの安売り厳禁!』って、指導しとくから。」

「何を、謝ったらいいか、わからない時は?」
「まずは、何を怒らせたのかわからないってこと自体を謝るんだ。そして、教えて貰う。」

相手の言い分を聞く。その上で、謝るべきところは謝って、そうじゃない時は話し合う。
冷静に話し合う態度を見せなければ、仲直りなんてできないんだからね。
きちんと考えて、話し合った上での誠意ある『ゴメン』は…仲直りの鍵になるんだよ。

「まぁ、謝るなんて絶対にしなさそうな蛍が、『ゴメン山口。』って言うだけで、
   なんかもう…それだけでレア感満載で重みがあるし、若干卑怯な殺文句かもだけどね。」
「僕…『ゴメン』を『だしおしみ』しといて、よかった!!」
「それも大間違い!冗談抜きで、オトナになってから元サヤ&復縁コースになっちゃうよ!」


あ~もう、ホントに…難しい。
元サヤとか復縁とか、夫婦円満調停とか…『鞘に剣を』という安易な手段が使えない分、
最も基本的かつ、ド直球の『仲直り』するしかないけど…実はコレが一番難しいのかもね。
だからこそ、今、基本的手段を身に着けておくことは、蛍と忠にとって絶対に必要だと思う。
(…もっちろん、それはオトナも一緒だけど。)

「将来、もしかしたら『元サヤ』とか『復縁』なんて大騒ぎをするかもしれないけど、
   その時のためにも、ちゃんと忠に謝って、『仲直り』しとこう…な?」

   さっき兄ちゃん、約束してやっただろ?
   「一緒にあやまってあげる」…ってさ。


「にっ、兄ちゃん…っ!!」
「よ~しよし♪」

歓びの色に変わった瞳から、ぽろぽろ。
それをシャツで拭ってあげているうちに、蛍の頬もほんわり緩み…
安心しきった表情で、俺の腕の中で…今度は本格的にうつらうつらし始めた。


「にいちゃん…ありが、と。だい、すき…」
「その言葉こそが…『仲直り』の鍵だよ。」





- 終 -




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ドリーマーへ30題 『03.仲直り』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。


2020/04/06 (2020/04/03分 MEMO小咄移設)  

 

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