αβΩ!研磨先生⑩~月山と一緒~







5人で『酒屋談義』をしていた、2階の月島・山口宅。
黒尾と赤葦は「おやすみ」の挨拶をして3階の自宅へ上がり、
研磨先生はそのまま2階に留まり、順に入浴を済ませた。

風呂から出ると、寝室の隣の洋室(普段は開け放して使用)に、
来客用の布団を準備してくれていたのだが、
「こっちこっち!」と山口に手を引かれ、研磨も寝室のベッドへ…
3人で『川の字』に寝そべりながら、『蛇足』の考察を始めた。


「さっきまでのオメガバース研究・本論では、
   ざっとしか話せなかったんですが…」
「赤葦さんの『飼主さん向けの対処法』に、飲まれちゃいましたよね~」
「あそこまで詳細に『発情』について語る必要…なかったし。」

っつーか、あのネタこそ、『蛇足』でよかったじゃん。
研磨先生の正当なツッコミに、月島と山口は声を上げて笑った。

「まぁ、アレはアレで…『ご一興♪』でしたから。」
そんなわけで、本来ちゃんと考察すべきポイントが、
ズッポリ♪とヌけちゃってたんで、僕達でフォローしときましょう。

月島はそう言うと、指を立てながら論点を示した。


《発情期の形態について》
①期間中は何度も発情するのか?
②『つがい』になっても発情期は訪れるのか?
③αの発情の詳細は?

「主にこの3点について、考えておく必要がありそうですよね。」
「何でこんな大事なポイント…すっ飛ばしちゃったんだろ?」
「全ては赤葦の特殊フェロモンのせい、だね。」

では最初に、①期間中は何度も発情するのか?という点についてだ。

オメガバースの特徴によると、Ωは3カ月に1回(年4回)、
1週間程度の発情期が到来することになっている。
頻度といい、期間といい…まるっきり『猫』な設定である。

「期間中に何とか相手を見つけて一発!…人口密度によっては、
   こういう『ワンチャンス』型も考えられますよね。」
「モロに『猫』だとしたら、期間中は何度も…だよね。」
「発情→交尾→排卵を何度か繰り返し、多卵性多胎児…」

だが、そこまで『猫』というわけではないだろうから、
大凡の目安としては、『頻度と性生活満足度』の調査が参考になるだろう。

世界ナンバーワンのゴム製品ブランド・Durex社の調査によると、
性交の頻度と性生活の満足度は、相関関係にあることがわかっている。
世界26か国の年間性交回数を国別で見ると、一位はギリシャの平均164回…
2.2日に1回、つまり『一日おき』というステキなペースである。
性生活満足度ランキングで一位なのは、ポーランド…
こちらの回数は年平均143回、2.5日に1回…『3日に1回』ぐらいだ。

ちなみに日本は年平均48回、7.6日に1回…『週イチ』以下の断トツ最下位。
25位の香港にもダブルスコア(年82回)の差を付けられている。
当然ながら、性生活満足度も底辺クラスである。

「『発情期』って銘打つぐらいだから、『週イチ』は有り得ないよね。」
「満足度が一番高い、『3日に1回』ぐらいが…最低限かな。」
「3日に1回以上…それで、期間中に3~4回ぐらいだ。」

日本人の感覚(週イチでも優秀)だと、かなり『発情期♪』っぽいが、
世界的に見れば、とても『発情期』とは言えない『普通』さ…
その点は、まぁ…目を瞑るとして。

「1回ヤった後、次にムラムラっとクる…その生理システムは?」
「単純に考えて、『体内のα濃度』が減少したら…かな?」

これだと、「1回に何発も♪」の後は、何日か空くことになり、
逆に『発情期』の利点が損なわれる気もする。

「何発もヤったら、体内のα濃度は当然高くなるけど、
   その分、幸福度も高くなって…脳が『もっと♪』って欲しがるんじゃない?」
「成程。それだと『ヤりまくるほど受精率アップ』に繋がりますね。」
「『ヤらないと収まらない。ヤればヤるほど欲しくなる。』…だね。」

何だか、アブないクスリみたいな依存性の高さだが、
こうでもして『ひたすらヤりまくり』な状況を作らないと、
人類は本当に滅亡してしまう…ギリギリの生存戦略だったのかもしれない。

「強欲な人間を知り尽くした…実に合理的なシステムだよね。」
「とにかく『気持ちイイ』には、トコトン弱い生き物ですから。」
「正直、物凄く羨ましい…そんな欲深い自分も、嫌いじゃないです♪」


とにかく生き残る。絶滅を食い止める。
それが最大の『目的』で、ホモ・オメガバースが生まれたのだから、
論点②『つがい』になっても発情期は訪れるのか?の答えは、
もう考えるまでもないだろう。

「最高に『相性の良い相手』を見つけたってことだから…」
「むしろ、ココからが発情期の『本番!』ってことになるよね。」
「安定した関係の中、ガッツリ励めるんだからね。」

フェロモンと受容体…凸と凹の合致率が高ければ高い程、
相性が良い→気持ちヨさハンパない→受精率が高い→延々ラブラブ…
即ち、『αはつがいのΩにズッコンバッコン』…ではなく(いや、正解か)
『ゾッコン♪』という、ありがた~いループに突入なのだ。

つがいのいないΩは、同じくつがいのいないαを、
無条件に誘引し続ける『特殊フェロモン』を分泌する。
つがいができると、その『特殊フェロモン』の分泌は止まるのだが…

「特殊じゃない通常フェロモンは、つがいができても出続ける、と。」
「おそらくそれは、つがいのαに対してのみ、強烈に作用する、と。」
「αはΩの放射性猥褻フェロモンに、一生『骨抜き』にされる、と。」


「残るは③の、αの発情の詳細について、ですが…」
「αには、Ωみたいな発情『期』は存在しないんですよね?」
「その代わり、発情期のΩが発する特殊フェロモンに誘引される形で、
    いわば二次的に発情…せざるを得ない。」

定期的に訪れ、期間中は何も手に付かない、Ωの発情期。
それに対し、αは本能的反射として発情するのだが、
本人の意思とは無関係という点では、αもかなりキツそうなシステムだった。

「問題は、それだけじゃありません。
   発情期が猫のように『季節性』ならいいのですが…」
「あっ!Ωによってバラバラだった時…冗談抜きで『年中発情期』ですよ!」
「さすがにそれは…マズいね。」

『つがい』がいなければ、方々で発情するΩに、αは強制的に発情し続ける…
体力的にも精神的にも、これでは負担が大き過ぎる。

また、遺伝学でみた通り、αの周りにはΩも多くなる傾向があるため、
仮にαが、あらゆるΩに反応するとなると、身内等の『近しい人間』に、
最も惹き寄せられる可能性が、高くなってしまうのだ。
人口が少なく、まだ『歴史』が浅いうちはいいが、
代を重ねる毎に、『濃すぎる血』は種としての限界…非常にリスクが高くなる。

αの負担や、血の濃さ…絶滅を回避するためには、
『αは全てのΩに反応するわけではない』という条件が、必須になるだろう。
よって、αの発情形態に関しては、次のような設定があって然るべきだ。

・近親者のΩには反応しない。
・一度に反応するΩは、一人まで。(二股反応はしない)
・フェロモン合致率の高いΩに対し、優先的に反応する。

「これなら、αは無理のない範囲で、『つがい』となるΩを探せます。」
「相性のいいΩにゾッコン♪っていう希望にも、ちゃんと合いますね!」
「めちゃくちゃ良かった相手を忘れられない…なんてのも、オイシイね。」

『オメガバース』の世界を、自分達が思い描く『幸せ』なモノにするには、
『αがΩにゾッコン♪』であることが、必要(絶対?)条件であった。
『幸せな発情期』には、こうしたα側の詳細な設定も、欠かせない…
まだまだ、しっかり考察すべきポイントは、たくさん残っているかもしれない。

そして、Ωの発情システムに並々ならぬ情熱を示していた某A氏も、
「『発情期』は辛いだけじゃなく…楽しいものである」ことを、
これでもか!というぐらい、切実に願っていたのだが…

「僕達3人が導き出した《発情期の形態》だと、ご満足頂けそうですね。」
「某A氏のつがいになる、某K氏は…やっぱりオイシイだけだよね。」
「もう勝手にすれば?ってカンジ。これにて、考察終了!」

どうやったって、ラブコメにしかならない設定だけど…悪くない。
アイツらには、どんなカタチでも…幸せになって欲しいから。

考察終了を大きな声で宣言した後、ほんの小さな声で囁いた研磨先生に、
月島と山口は両サイドから「むぎゅ~~~っ♪」と抱き付いた。

「研磨先生…あなたは最高です!」
「もう…っ!惚れちゃいそうっ!」

「やっ、やめてよ。はっ、恥かしい…」

もうわかったから、離してってば。
君らが寝るまで…俺が寝物語の『ミニシアター』してあげるから!


研磨先生は「ちゃんと真っ直ぐ、並んで寝て。」と言い、
二人が言う通りにすると、大きく深呼吸…
左右の手で二人の手をキュっと握り、『ミニシアター』を開演した。



   →『ミニシアター』へ



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2017/05/11 

 

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