一年選抜組②







「ねぇ、それちょっと見せて。」
「いいけど…はい。」


宮城県一年生選抜合宿。
あっという間に仲良くなった奴らもいれば、そうでない奴も当然いる。
俺は『ホーム』だし、今回は烏野にやられたけど、それはほぼマグレ…
実質的には我らが白鳥沢が、宮城排球界でナンバーワンなのは間違いない。

俺は近い将来、白鳥沢を背負って立つ男…
だから、寄せ集め集団の選抜合宿では、俺がリーダーシップを取るべきだろう。
そう思っていたけれど…どいつもこいつも、俺の言うことなんか聞きゃしねぇ。

黄金川は、外野の日向と意味不明な言語でちゃらんぽらん。
百沢は何か地味に暗ぇし、月島と国見なんか、毒しか吐かねぇ無気力さ。
一番マトモなのは、妙ちくりんなヘアスタイルの金田一…
一体誰が、こんなメンツを選抜したんだよ!?バランス悪すぎだろ。

 ①鬱陶しいぐらいの明るさ…眩しい系バカの、日向・黄金川。
 ②見た目の麗しさと陰険さのギャップが激しい、月島・国見。
 ③はたまた、常識人だが超絶地味な、百沢・金田一。

俺はこの3つのうち、どこに属すればいいんだよ。

…いや、違う。俺は孤高のリーダーでいいんだ。
どこに属したって、何かちょっと…人として問題アリな気がする。
だから、こいつらを纏め上げるポジションを、何とか確保すべきだろう。

だとすると、『協調性』という観点から見ると、一番ヤバそうな所…
②の月島・国見コンビと、何とか上手くコミュニケーションを取って、
『一年選抜の中核は五色』だと、皆に証明する必要がある。
そう決めた俺は、二人がひなたぼっこしている場所に、コッソリ近づいた。


ここ数日の観察から、この二人…意外と一緒に居ることが多いのだ。
似た者同士、波長が合うのだろうか?特に会話もないのに、近くに居る。
鬱陶しいのから距離を置きたいだけ説もあるが、仲は悪くなさそうだ。
(というより、そもそも『仲』という程の関係を構築する気がない説もある。)

体育館傍の、水道の裏…人目に付かないところで(根暗共めっ!)、
二人は1.5人分の距離を開けて、黙ったままボケ~っとしていた。
月島は顔を洗って、タオルで拭いて…
スポーツグラスから、普通の眼鏡に掛け替えていた。
ちょっとアレ、カッコよくて羨ましい…と思っていたら、
天日干ししていたそのグラスを指し、「見せて。」と国見が口を開いた。

絶対断るかと思いきや、月島はごくアッサリと了解し、
ほんの5cmだけ、国見の方にそれを寄せた。
何だ、フツーに頼めば、フツーに見せてくれんのかよ…ちょっと意外だ。



「思ったより軽いんだ。」
「重いと、運動の邪魔だし。」

「レンズの隅…何で空いてんの?」
「蒸れ防止。汗かくし…これがないと、曇るんだ。」

「この鼻の…黒いものは?オプション?」
「そう。顔に密着しすぎないように。空気の通りが全然違う。」

「ゴムバンド…ブロックでジャンプしても、ズレない?」
「そうならないように、キツめにしてる。」

「そうなんだ。」
「うん、そう。」

なるほど…アレ、そういう構造だったのか。
それにしても、実に端的な疑問に、簡潔な解答だ。
無駄が一切ない、必要最低限の受け答え…でも、一応会話は成立している。
とは言え、もっとツッコミ所とか、ちょっとした小ネタとか…フツーあるだろ?
そういうのは全然ナシ…コミュニケーションとしては、全然足りてねぇよ。

ここは、リーダーの俺が助け舟を出して、会話を盛り上げるべきか?
そう思ってると、終わったはずの二人の会話が突如再開…
俺が全く予想しなかった方向に、いきなり進んでいた。


「だから…その顔、か。」
「…僕の顔が、何か?」

国見はスっと月島の方に手を伸ばすと、普段メガネを引き抜き、
ムっとした不機嫌そうな眉間に、細い指をつつつ…と這わせた。

「いつもココに、深い皺…ゴーグルの跡だったんだ。」
「あぁ…キツく締めてるから、どうしても付くんだ。」

「せっかくの綺麗な顔なのに…勿体無い。」
「それは…どうも。」

あれは、別にブスーっとした眉間の皺じゃなくて、ただの跡…
何だ、いっつも難しい顔してると思ったら、そういうことだったのか!
ホント、その跡のせいで損してるよな~イケメン2割引だよな~


…じゃねぇよ!!
なっ、何なんだ、この会話…このキラキラした空気…っ!
無口でアンニュイな、美形同士が見つめ合って…絵になり過ぎだろっ!
何かもう…『お耽美』としか言えない、妖しくも美しい空気感…

白鳥沢にはない『お耽美』さに、ゾクリというかクラリというか、
とにかく何らかしらの『よろめき』を感じてしまった俺は、
この空気を打破すべく、二人に向かって慌てて大声を放った。

「おいっ!!休憩は終わりだ!!」

俺の大声に、驚きもせず。返事すらせず。
二人は淡々と立ち上がり、別々に歩いて体育館に戻って行った。

おいおいおいっ!ここは「五色…ウルサイ。」とか、
「五色…ちょっと邪魔。」とか、何かリアクション返すとこだろ!?
いや、そう返されても困るけど…よりによってシカトかよっ!
『何事もなく』ってのが、一番対応に困るんだよっ!!


「俺、やっぱ…リーダーなんかやめとこう。」
やり切れないモヤモヤを抱え、グッタリしながら体育館に戻った俺は、
一人だけ『遅刻』を咎められ、監督に怒られてしまった。

こんな合宿…もうヤだ。。。



- 終 -



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※写真のスポーツグラスは、ツッキーのものとは色が違いますが、
   おそらくほぼ同じ構造だと思われます。
   野球やフットサルよりも上下運動が激しい分、キツめに調整すると…
   練習後は暫くの間、不機嫌そうに見える跡が残ってしまうのが、難点です。



2017/04/11    (2017/03/29分 MEMO小咄より移設)

 

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