一年選抜組①







「月島ぁっ!また手ぇ抜いてんじゃねぇぞ!!」
「ご…ゴメン。」

あの月島が、練習中に怒鳴り散らされ、しかも素直に謝る姿…
俺にとっては、めちゃくちゃ新鮮!!何となく気分スッキリだ。
っていうか、今すぐ烏野の皆に動画撮って見せてやりたいぐらい。

そんなことを思いつつ、皆の練習風景をじっくり観察していると、
真横にいた青城の国見が、ポツリと小声で呟いた。
「月島さ、ちょっとパフォーマンス…落ちてない?」

「パフォーマンス?月島は『意地悪』以外の行動は、いつも鈍いぞ?」
「そういうショー的な反応じゃなくて、性能の方。」
ジャンプの高さも落ちてきたし、テンションもやたら低い気がする。

確かに…もともと『一生懸命跳びます!』ってタイプじゃないし、
ヤル気に漲ってる奴じゃないけど…さすがに疲れてんのか?
いやいや、テンションは元々超低速だから、そんなに差はねぇような…

「あ…低すぎた。ゴメン。」
「さっきと同じミスしてんじゃねぇっ!」
あの月島が、怒られる前に自分から謝罪…明らかに、いつもと違う!!?
このままいけば、梟谷の木兎さんみたいな『しょぼくれ』に突入しそうな…
そのぐらいのテンションがた落ちっぷりだ。

国見の言う通り、何か月島…ちょっとおかしい。
いつもはミス連続しても、そんなに長いこと気落ちしたり、
テンション下がり続けるってことはない…途中でちゃんと持ち直してるのに。
いつもの烏野での練習と、この選抜練習に、何か決定的な違いがあるのか…?

 (あ…そうか、わかった!!だとすると…)

俺は辺りをキョロキョロと見回し、『近そうな奴』を探した。
ラッキョ、百沢…カタチがダメだ。コガネは…上半分はイイのに、色がダメ。
五色はサラサラすぎるし…残るは、国見。ま、一番『近い』かな?


「なぁなぁ、ちょっと俺に考えがあるんだけど…」
俺は横に立っていた国見のシャツを引っ張り、ちょっとだけ背伸び。
耳元にこっそり、内緒話で『試して欲しいこと』を伝えた。

「…は?それを俺が?嫌なんだけど。」
「いいから!絶対それで、月島のパフォーマンスがギュン!ってなる!」
だから、次にアッチからスパイク打たれる直前に…な?頼むよ!!

俺が必死にお願いすると、国見は「一回だけ…だからな。」と言い、
頼んだ通りに、分けた前髪をぐしゃっとしてくれた。
コイツ、意外と…イイ奴かもしれない。

あ…そろそろ…
タイミングを見計らい、国見のシャツをグイっと引いて合図を送る。
国見は大きく息を吸い込み…裏返る寸前の甲高い声で絶叫した。


ツッッッキィィィーーッ!!

体育館中に響き渡る、月島を心から応援する声。
それと同時に、完璧なドシャット。
そして、いつもより大きな声で、いつものセリフ…

ウルサイっ、山口!!

らしくない国見の大絶叫と、月島の大声。
見事としか言いようのない『パフォーマンス』に、体育館は静寂に包まれた。


呆然とした視線が、月島に集中する。
月島はらしくなく『カァ~~~!!』っと顔を赤らめると、
物凄いスピードでこっちに向かって走ってきた。

「なっ、今、一体っ、何をっ!?よ、余計なっ…バッカじゃないのっ!」
「ブロック成功したのに…逆ギレかよっ!?」
せっかく山口に一番髪型が近そうな奴に頼んでやったのに…
俺は月島のためを思って、『応援』してやったんだぞっ!?

「そういう小賢しい知恵…君には要らないでしょ!バーカバーカ!!」
「酷ぇっ!帰ったら…山口に言い付けてやるからな!!
  『ツッキー、選抜合宿中は全然カッコ良くなかったぞ~』って!」
「そんなことしたら…もう君とは二度と口きいてやらないから!!」
「何だとっ!?お前ホンット、可愛くねぇな!!」

ギャンギャンと喚き散らし、大騒ぎする烏野の二人。
見かねたコーチが、二人に拳骨を喰らわせ…体育館の外に引き摺って行った。


「月島…あいつ、可愛いとこあるじゃん。」
「俺も次から、怒鳴るんじゃなくて…『ツッキーーッ!』って叫ぼうかな。」




- 終 -



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2017/03/15    (2017/03/09分 MEMO小咄より移設)

 

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