和合開枕






合同合宿3日目の朝。
さすがの健康優良児達も、二日間の疲れが溜まってきたらしく、
朝食のご飯おかわりが、平均3杯から2杯に減っていた。

中でも、見るからに『お疲れ様』感を滲ませているのが、中間管理職の面々。
黒尾は胃と食道を擦りながら、赤葦は首肩と腰を回しながら、食堂の隅にグッタリ腰掛けた。


「おつか…おはよう、ございます。」
「朝一から、おつかれさん…だな。」

黒尾のお盆の上には、白湯とバナナが1本。
最低限の朝食に、赤葦は苦笑いを零した。

「ヨーグルト+白湯の俺が言うのもアレですけど…食欲、なさそうですね。」

蓄積疲労も勿論あるでしょうけど、黒尾さんの場合、もうひとつ別の要因がありますよね?
怒髪天を突くヘアスタイル維持用の枕以外に、苦しいうつ伏せ寝呼吸緩和用の、鳩尾枕…
あれが、ただでさえ弱った胃袋を、夜通しキリキリ圧迫し続けてるんじゃないですか?

「うつ伏せ寝を止めろとはいいませんから、せめて…鳩尾はタオル程度にしときませんか?」

赤葦は首にかけていたタオルをくるくる畳んで黒尾に見せ、再度お疲れ様ですと労わった。


「確かに。赤葦の助言、悪くねぇな。今晩から試してみるか。じゃ、俺からも…一つ提案。」

特殊寝相の俺が言うのも何だが、赤葦もちょいと寝方を工夫した方がいいかもな。
頭の先から足の先まで、すっぽり布団の中…どう考えても酸欠必至の蛹だろ。
繭の中で横向きにコロンと丸まって、両腕を両腿に挟んで固定…首肩腰の血行にも悪影響だ。

「小さめクッションを抱えて、もう一個別のを股に挟んだら…ちょっとは楽にならねぇか?」

バスタオルをくるくる巻くのもオススメだぞ~と黒尾は微笑み、おつかれさん返しをした。


「…っしゃ!合宿もあと半日…踏ん張るか!」
「はい!お互い何とか…耐え抜きましょう!」

白湯を飲み干し無理矢理気合を入れ、ぐぐぐーーーっと背伸び。
二人は互いの健闘を祈り合い、それぞれの監督の所へ打ち合わせに向かった。



*****



「ホンットーに、お疲れ様…みたいだね。」
「マジでヤバいレベルの…オツカレだな。」

食堂で二人の話を聞いていた部員達は、普段からはとても考えられない二人の『大失態』に、
冗談抜きでギリッギリであることを察し、顔を見合わせて肝を冷やした。

「何でお互いの寝相のこと…」
「そんなに熟知してんだよ…」

黒尾の特殊寝相は、公然の事実。
だが、うつ伏せになった腹の下…鳩尾枕の存在など、幼馴染の研磨ですら初耳だった。
対する赤葦は、誰よりも後に寝て先に起きる…そもそも寝相を見た記憶すらないし、
布団繭に籠っているのなら、中の蛹形態のことなど、知る由もないじゃないか。


「ずっと隠し続けたきた、二人のカンケー…」
「極秘交際をバラしたことも、気付かねぇ…」

モチロン、薄々何とな~く、察してたけどさ。
驚くよりも、何というか…切なくなってきた。

「今日は、アイツらにあんまメーワクかけないように…なるべくドリョクしようぜ!!」
「今日ぐらいは、適度の残業で部室から叩き出して…グッスリ寝させてやらないとね。」

んでもって、アイツらがしっかり復活して、冷静さを取り戻して慌て始めた瞬間を狙って…

「思いっきり、からかいまくってやろっと♪」
「み~んなで、祝福しまくってやろうな〜♪」




- 終 -




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2022/09/08 (2022/06/07分 SS小咄移設)

 

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