白日之飴






「赤葦さん、風邪?みたいッスよ。」


部活が終わり、大あくびしながら部室でのんびり着替えていると、
髪型もばっちりキメ直したリエーフが、スマホを片手にポソリと呟いた。

「へぇ~、珍しいね。」
「梟谷…赤葦以外の連中、大丈夫かな?」

『赤葦のいないフクロウの群れ』を想像しかけたネコ達は、瞬時に頭をプルプル…
恐ろしい想像が妄想であるようにと、リエーフに詳細な状況確認を促した。

「えーっと、『一瞬、声がかすれてただけ!いつもより寝不足だってさ!』…らしいです。」

ただの寝不足なら、いつものことだろう。
だが、 三寒四温のこの時季は、誰も彼もが体調管理に難儀する。
過重労働を担う赤葦が、更に過酷な状態に晒されているのは、火を見るよりも明らか…
いつも『より』寝不足で、『一瞬』でも不調を表に出したことが、それを証明している。

「他所様のことだけど、フクロウ共はもうちょっと、赤葦を労わってやればいいのにな。」
「たまには縁側で羽を伸ばして、の~んびり、ゆ~っくり、休ませてやりてぇよな。」
「まぁ、休め!って言っても、赤葦自体が休みそうにない…融通利かなそうだもんな~」

   ホンット、不器用な奴。
   …誰かさんと、ソックリ。

精一杯聞き耳を立てているくせに。
全く興味なさそうなフリして、部室の隅で独り黙々と残務処理に没頭している…アイツ。
ウチの『不器用な奴(寝不足)』にわざと聴こえるよう、ネコ達は盛大にため息を吐いた。
そして、キラリと目配せし合うと、シカトを決め込むボスネコを取り囲んだ。


「赤葦、のどが痛いんだって。」
「…そうか。お大事にな。」

「クロが、大事にしてやれば?」
「…何で、俺が?どうやって?」

「のど飴でもあげればいいじゃん。」
「そりゃ名案だ。そう木兎にでも伝えとけ。」

んじゃ、俺はもうちょい仕事するから、お前らは先に帰れよ。
帰ったらちゃんと手洗いうがい…腹出して寝るんじゃねぇぞ。

「…はい、解散。」

黒尾はネコ達と目を合わせないまま、ひらひら手を振った。
だが、そんな素気ない態度を、御猫様方が赦すはずもなく、
研磨は机の上から書類を払い飛ばし、夜久はロッカーから黒尾の鞄を引っ張り出した。


「鞄の中に入れて来た、特別なのど飴…これを赤葦に持って行ってやれって、言ってんの。」
「そもそも、赤葦にあげる用…あ、違った。赤葦にあげられればいいな(希望)用、だっけ?」
「…っ!!!?」

   しらばっくれても、ダメだからね。
   シラをきろうとしても、ムダだし。
   ネコ&フクロウの白目、ナメんな。

「ちょうど一か月ぐらい前、だったっけ?」
「合同合宿の自主練後、二人で片付け中。」
「『小腹減ったな~』とか言ったお前に…」
「『これっどうぞ!』って、くれたよな~」
「カ□リーメイト…『チョコ味』のやつ。」

   おやおや~?何だこれは?
   小腹が減ったから、貰ったはずなのに?
   何でソレがまだ、鞄に入ったままなんだ~?

「…ま、食えるわけねぇな。」
「特別な相手から、特別な日に貰った…」
「特別なチョコ…勿体なくて食えねぇよな~」

こんなわざとらしいカタチでしか、色気のねぇチョコしか渡せない。
でも、いっぱしに『お返し』が貰えるかどうか気になって寝られず、のど痛めたんだろうな~
ホンット、健気で一途で、不器用ここに極まれりな…すっげー可愛い奴じゃねぇか。

「想い人に『お返し』する口実ができて、良かったじゃん。」
「さっさと持って来い…優しいフクロウ達からの、強烈な催促だろうが。」
「『18時半・池袋駅いけふくろう前』って…木兎さんに伝言お願いしときましたっ!」


   今日はホワイトデー。
   黒でも赤でもなく、白の日。
   白々しく『お返し』を渡して…
   二人で白日夢でも、見てみたら?

「そろそろ夢を…現実にして来い。」


ネコ達に盛大に背を叩かれ、爪を立てられ。
ネコ&フクロウによって、全てが白日の下に曝され、頭の中が…真っ白。
黒尾は何も言い返せないまま、鞄と共に部室から追い出された。


「面白がってんじゃ、ねぇよ…っ」

俺の尾は黒いんだ…と、赤く染まった面を抱えた鞄で隠しながら、
黒尾は駅へ向かって駆け出した。




- 終 -




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2022/03/14

 

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