肉〇万歳






「くーろーおーーーっ!俺に、肉…」
「性懲りもなく、また来やがった…」


今日は、週のはじめだぞ?
それなのに、また音駒と梟谷は練習試合…つい先週末(一昨日)、やったばっかりじゃねぇか。
これは絶対、ヤツが飛んでくる…
終了の挨拶が終わった瞬間、俺は両腕を広げて目を閉じ、来るべき衝撃に備えていると、
予見通りの重さが、ドン!と腕の中に着地してきた。

「クイズだっ!今日は何の日でしょう!?」
「11月29日…いい肉の日だろ。んじゃ、コンビニで肉まんでも食って帰るか。」

「それも大正解。でも、チッガーウ!!
   大大大正解は…いい『肉球』の日だぞっ♪」


木兎の『大大大正解』を聞いた瞬間、黒尾は両手を木兎の背中に回し、ギュっと抱き締めた。
いい肉球?当たり前だろ。この世に悪い肉球なんて、あるわけねぇんだからな~と、
乾いた笑顔を振り撒きながら、これでもか!というぐらい背中を撫で回した。

「黒尾のナデナデ、気持ちイイ~じゃなくて!そんなんで誤魔化されねぇぞ、俺はっ!
   黒尾の肉球…もきゅもきゅ♪させてくれ!ほら、おてて…前に出して、なっ?」
「やーなこった!他所で…いや、ウチの他の奴らの肉球も、勝手にもきゅるなよっ!?」

御猫様の肉球は、コンビニの肉まんほど安くねぇよ。
いくら一蓮托生の仲良し梟でも、そう簡単に尊い肉球をもきゅらせてやると思うなよ?
この艶球に触れて、もきゅもきゅの限りを尽くすことが許されるのは、特別な相手のみ。
一週間分の部活後おやつ代ぐらい、高貴で高価な…横浜中華街の肉まんクラスなんだからな。

「ちなみに、俺の肉球は…桃色だ。トップシークレットだぞ?」
「黒猫なのにっ!?ますますもきゅりてぇ~」


つーか黒尾、ケチだよな~
俺にコンビニの肉まんはゴチソウしてくれるのに、肉球触るのはダメとか、ココロ狭すぎ!
黒尾以外の音駒メンツは全員、初チッスよりアッサリ、もきゅらせてくれたぞ~?
あの孤爪も…音駒一のテクニシャン(正セッター)の肉球も、思う存分もきゅってやったり!!

「せっ…繊細な手付きで、ケッコウなオテテマエ?でしたっ!ごっそーさん♪」
「っ!?そ、そりゃあ、よかったな…」

あの研磨がっ!?と、黒尾が絶句した隙に、木兎は黒尾の胸に額をスリスリ…
誰の入れ知恵だか知らないが、潤んだ瞳で黒尾を見上げ、ぽそぽそと囁いた。

「俺、黒尾の肉球…触りたい。」
「そ、そんな目で、見んな…っ」

黒尾は、音駒一のブロッカー。
いっつもいっつも、俺のスパイクをドシャットしまくる、すっげぇ手指を持ってるんだ。
5本の指に入る、この俺のスパイクだぞ?1試合に何回もだぞ?痛くねぇの…何でだ!?
きっと、衝撃をやわらか~く吸収する、おっきくてあったか~い、肉球があるから…だよな?
あぁ、そんな肉球をもきゅもきゅできたら、俺はどんなに幸せだろうか…

「頼む黒尾。俺の肉欲を…満たしてくれ。」


「…誰だよっ!木兎に余計な言葉を教えた奴はっ!?お前か、木葉?躾がなってねぇぞ!!」
「俺じゃねぇよっ!木兎の躾係は…赤葦っ!」

「赤葦がそんな言葉を教えるわけねぇ…肉球欲の言い間違いを、赦すはずがないだろ。」
「何だその…意味不明な赤葦性善説はっ!?」

「どっちかっつーと赤葦は、ショーワル…性悪説の方だよな?」
「木兎さん。その読み間違えは不許可です。」

「んじゃ、クロは…タチがわるい(性悪)説?」
「コラ研磨ぁっ!俺が不能みてぇに言うな!」

「ホント、ちっせぇ男だよな。俺は5本の指を全部絡めて…欲を満たしてやったぜ?」
「やっくんは、器がデカすぎっ!」

周りを盛大に巻き込みながら(自主的に巻き込まれながら)、場はしっちゃかめっちゃか。
その混乱に乗じ、木兎はいつの間にか黒尾の背中側に回って『おんぶ』になり、
今度は黒尾の頸筋にアタマをスリスリ…耳元にそっと呟いた。


「わかったよ。そんなに嫌なら、代わりに…ゲームしようぜ?」

安心しろ。こないだのポッ…みたいな、大事故は起こらねぇ安全なやつだから。
ただ、ちょっとだけ…もきゅもきゅっと腕相撲して、黒尾が勝ったら肉球は諦めてやるぞ!

「あのなぁ…俺が木兎に勝てるわけねぇし、そもそも腕相撲自体が、もきゅと変わんねぇ。」
「そう言うと思ってた!賢い俺は、ちゃ~んと『オコゴト対策』を考えてあるからなーっ!」

全国で5本の指に入る、体力馬鹿…パワー有り余る系の俺が相手なのは、ヒキョーだもんな!
だからハンデとして、ウチで一番、パワー足りてない系…頭デッカチガッチガチ赤葦と勝負!

「木兎さん。それは冗談抜きでトップシークレットです。口を封じさせて…謹んで下さい。」
「いっ、言い間違え!ウチで一番、せっ、繊細な手指とココロの…でしたゴメンナサイっ!」

赤葦の笑顔に震えあがった木兎は、絶叫謝罪と共に黒尾の背に隠れ、口を自主的に塞いだが、
その間に、木葉の号令で集まった梟谷&音駒メンツが、黒尾と赤葦の間に跳び箱を設置し、
研磨と夜久がそれぞれの手を引き寄せ、馬乗りクッション(一段目)上でガッチリと組ませた。


「あっ、おい、ちょっ、待…っ」
「ぁっ…。。。。。。。。。。」

「往生際が悪い。脳に血を回し、ケツにケリを回される前に…本気でブチかませ。」
「い、いや、本気でやっちまうと、赤葦のドコカが、ボキッとイっちまうかも…」

「大丈夫だ!むしろアソコがボッキとイっ…」
「木兎さん、それ以上言ったら…泣きます!」

はいはい、クロが赤葦を泣かす前に、さっさと始めるよ。
両者、こないだのボ…『ポ〇キーゲーム』の時みたく、じ~っくり間近で見つめ合って、
しっかり5本の指を絡めてから、もきゅもきゅっとお互いの手を握り締めて…

「………っ!」
「………っ。」


…ん?腕相撲って、こんなだったか?
確かに、お互いの肉球(手指)の感触は、よ~くわかるが…何か違う、ような…?

絶対に違うとわかっていても、先日のポッ…なゲームを大絶賛思い出し中の赤い顔を、
手指を絡めながら、こんなにも間近に見つめ合っていたら、脳と舌は回らないが…目が回る。

   (たっ、頼むから!ココでまた、可愛く…っ)


固唾を飲む音さえ響く、静まり返る体育館内。
そんな中、ガッチガチに凝固した二人にわざと聴こえるように、
研磨と木兎の二人が、ぼそぼそっと言葉を零し合った。

「やっぱ、黒尾の手…デケェな。指も長ぇ~!
   あ、そういやぁ、手指の大きさって…アレのデカさとソーカンカンケーがあるらしいな?」
「正セッターの赤葦は、梟谷一のテクニシャンってことだよね。
   ケッコウなオテマエ…思う存分、味わい尽くしてみたら?」


「ーーーっ!!!」
「ぉわっ!!!?」

木兎と研磨の囁きに、赤葦はブンブン手指を振り解き、ドン!と黒尾の肉球を突き離した。
そして、予告通り目を潤ませながら、体育館から走り去って行った。


「馬鹿!お前らの戯言のせいで、赤葦が泣いちまった…アイツに、嫌われちまったかも…っ」

「それはゼーッタイ、大丈夫!つーか…馬鹿はお前だろ。」
「そろそろ気付きなよ…クソ鈍感。」


肉球を握り込み、呆然と佇む黒尾。
まだまだ先は長ぇな…と、音駒&梟谷メンツは苦笑いを見合わせ、重い溜息を吐いた。




- 終 -




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2021/11/29   

 

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