間接悶絶







「お、それ、いいな!」



梟谷グループの合同練習が終わり、
さぁ帰ろうかと、集団下校し始めた時。
最後尾にいた黒尾の横で、ピリピリ…
赤葦が袋を開け、新品のマスクを出していた。

一流スポーツメーカーが販売しているもので、
当初は予約&抽選でしか購入できなかった。
だが今は、大抵どのスポーツ店でも買えるが…

「…リッチだなぁ〜、赤葦君よぉ。」
「お小遣い…頑張って貯めました。」

何度も洗って使えるし、機能性も抜群。
品質(+ブランド)に見合った、相応の価格…
高校生が買うには、かなり手痛い出費だ。



「俺もそれが欲しくて、ずっと貯めてんだが…
 いざ買うとなると、つい二の足を踏んじまう。」

なけなしのお金を出して買っても、
そのマスクが自分に合うとは限らない。

新しいスポーツタオルも欲しいし、
大好きな作家の新作ミステリも読みたい。
部活帰りに、たこ焼きとかも食いてぇし…
なかなか買う勇気が出ないまま、数週間。

踏ん切れなくて、情けねぇよな〜
黒尾はそう言って苦笑いしたが、
赤葦はフルフルと顔を横に振り、
俺も同じですよと、マスクの下で微笑んだ。

「散々迷い、やっと昨日…合同練習のため!と、
 意味不明な理由付けをして、ですから。」

やっぱり、高校生にしては大きなお買い物…
せめてジャージやシューズみたいに、
試着させて貰えるといいのに…あ、そうだ。

「黒尾さん。これ…つけてみますか?」



赤葦は『ほぼ新品』のマスクを外すと、
はい、どうぞ…と、黒尾に差し出した。
黒尾は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、
遠慮がちに手を伸ばし、マスクを受け取った。

「いい…のか?」
「えぇ。試着できた方が、いいですからね。」

「正直、すっげぇ助かる!」
「お役に立てて、光栄です。」

サンキュー!と黒尾は満面の笑みを見せ、
赤葦のマスクを装着…その笑みを更に深めた。

「想像以上に、最高の着け心地だな!」
「ですよねっ!俺も、そう思います!」

「これから、同じやつ…絶対に買って帰るぜ!」
「それなら、駅裏の店…ポイント二倍ですよ!」

さすが赤葦、抜かりない参謀っぷりだな。
凄ぇ助かった…ホントにありがとな。



黒尾は外したマスクを綺麗に折り畳んだが、
もう一度それを広げ、紐を赤葦の両耳に掛けた。
あ、わざわざどうも、ご丁寧にすみません…と、
恐縮しつつ鼻の位置を修正する赤葦に、
黒尾は『あること』に思いあたり、小声で尋ねた。

「俺と、おっお揃いに、なっちまうが…いいか?」
「くっ黒尾さんが、お嫌でないなら、俺の方は…」

「なっ、なら…よかった。」
「はっ、はい…です、ね。」

何故だか急に、そわっそわっ。
俺、トイレ行ってくる!俺は、部室に忘れ物を!
黒尾と赤葦は、お互いに背を向けると、
お疲れ様(でした)ーー!と叫びながら、
トイレ?(部室?)へ走り去って行った。





「なあ、孤爪…」
「木兎さんの言いたいこと…わかります。」

「気にするべきとこは…『お揃い』か?」
「間違いなく、ソレじゃない方。」

エーセーメンとか、この際どうでもいい。
問題は、シンリメンの方…だろ。



「マスクで、間接チュウ…しちゃったよな?」
「多分、今頃気付いて…揃って悶絶チュウ。」




- 終 -




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2021/04/28 (2021/04/17 縁側小咄より移設)

 

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