ご注意下さい!

この話は、BLかつ性的表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さいませ。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)




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    指数感嵩







ウチって、こんなに…遠かったっけ?
通い慣れた道のはずが、全然知らない場所みたいに見えるのは、
閑静な住宅街、しかも休日の夕食時だから、自分達以外の誰もいないせい…だろうか。

駅から離れてきたとはいえ、23区内。
休日でも深夜には程遠い時間なのに、誰ともすれ違わないなんて、結構なレアケースだ。
お陰様で、五指を絡めたまま全速力で早歩きしている姿を、誰にも見られることはなかった。

   (だから、余計に…)

ひとけのなさと、力を入れ過ぎて感覚の乏しくなった手指。
そして、大好きな人と手を繋いで帰宅するという、期待や希望や妄想を遥かに超える僥倖に、
『現実感』がどんどん薄れ…でも、意外と脳内はクリアという、不思議な状態に陥っていた。

   (この指で触れているのは、本当に…?)


俺は今、黒尾さんと一緒に居る…のか?
練習試合終了後から、黒尾さんの影しか見ていないし、陽も落ちた今は影すら見えない。
でも、植栽の間に引き摺り込まれ、壁に縫い止められて以降、ずっと手を繋いだままだから、
感覚が消えたとはいえ、俺の指は黒尾さんをしっかり捕まえていることは、間違いないはず。
それなのに、『現実感』をいまいちはっきり認識できないのは…実は、いつものことだ。

   (一緒に居るのが…信じられない。)

言葉では、どう表現したらいいのだろうか。
好きで堪らない人と一緒に居られる幸せが大き過ぎ、脳が全部受け止めきれていないような、
こんなに幸せでいいわけないと、欲に溺れ過ぎないよう、脳がセーブしているような…?

いや、逆…か。
幸せはとっくに俺の閾値を超え、脳がショートしているのかもしれない。
ともかく、ごく稀に訪れる黒尾さんと二人きりの時間を、いつも非リアルに感じるのだ。

   (嬉し過ぎて…夢としか思えない。)


「お邪魔します…って、御両親はお留守か?」
「息子が居ない休日の晩は…おデートです。」

「それなら、よかった。今日は手土産…持って来てねぇからな。」
「そんな、お気になさらず…また日を改めて、お願いしますね。」

「和菓子洋菓子…何がお好きか、わかるか?」
「両親共に甘党…好みを調査しておきます。」

ご丁寧に膝までついて靴を揃え、マフラーを外してから、家の中に向かって深々と一礼。
几帳面で礼儀正しい『黒尾さんらしさ』を無意識に発揮する一方で、俺とは手を繋いだまま。
(というより、この人は近々、俺の両親に菓子折を持って、何をしに来るつもり…っ!?)

その『黒尾さんらしからぬ』無意識のちぐはぐさに、頬やら何やらが自然と綻び…
俺は黒尾さんの右肩に、コテンとおでこを乗せて、外れかけた『箍』をそっと預けた。


「今日は、お湯…一緒に浴びませんか?」


*****



「手、繋いだままだと…脱げねぇよな。」

二人合わせて十本の指同士が、全部引っ付いて一つになってしまったみたいだ。
空気すら入らない程に密着した掌を浮かせ、固く結び合う指を、端から徐々に解していく。
小指、薬指、中指、人差し指…そして、最後の親指が離れる寸前、
その代わりとでも言うかのように、今度は空気を閉じ籠め合うキスをし、舌を絡め合う。

「キス、すごいひさしぶり…ですよね…んっ」
「だから、キス…とめないで、くれよ…っ。」

そういえば、三週間前に漫画喫茶でおデートした時も、
キスを交わしたのはたった一度…お湯を浴びに行く前に、『充電』した時だけだった。
おクチいっぱいに、これでもか!というぐらいお互いの存在を感じ合ったけれど、
これだけいっぱい、唇で唇の感触を味わったのは、一体…いつ以来だろうか。

「キス、こんなに、イイもの、でした…か?」
「その、確認の、ためにも…キスだけ、な?」


合間に話すのを一旦止めて、じっくりと互いを味わい尽くすキスを、離さず続けながら、
真逆の速さでブレザーを脱いでハンガーに重ねて掛け、指一本で互いのネクタイを引き抜く。
セルフサービスでベルトを外し、ズボンもきちんと畳んで洗濯機の上に重ねて置いてから、
逸る気持ちを誤魔化せない指で、たどたどしくシャツのボタンを開けていく。

露わになった赤葦の肌に、黒尾は手を滑り込ませると、指二本で胸の小粒を優しく摘み始め、
もう片方の手は五指を大きく広げ、背中から腰へと撫で下ろしていった。

対する赤葦は、指三本で黒尾のシャツの裾をそっと握ると、何かを促すようにキュっと引き、
黒尾の胸元で揺れる、銀色の環…2つ並んだうちの1つに、四本目の指先を引っ掛けた。
黒尾が驚いて唇を離した隙に、赤葦は再び黒尾の右肩におでこを乗せて、震える声で囁いた。


「革紐…濡れない方が、宜しいのでは?」
「え、あ…そ、そうだな。外しとくか。」

「リングだけなら、濡れても大丈夫、かと…」
「外しちまったら、なくさねぇかなぁ、と…」

シャツを握る指三本の力が、ほんの少しだけ強くなる。
精一杯の『オネダリ』のカタチを示しても、なかなか『wish』を叶えてくれない黒尾に、
赤葦はなけなしの勇気を振り絞り、ちゃんと言葉で望みを伝え始めた。

「普段使う革紐の代わりに、金属製のチェーンを、上に用意してあります…にっ、二本分!」
「さすが、参謀!なら、それまでの間、お前の『四本目』に…つけて貰っても、いいかっ?」

「は、はい!絶対、一生…なくしませんっ!」
「お、おう!それ聞いて…安心、したぜっ!」


右肩を潤す、緊張が混じった熱い吐息。
黒尾が革紐を外しても、赤葦はそこから顔を上げようとせず、深呼吸を繰り返すばかり。
それが、赤葦が必死に羞恥に耐えている仕種だと気付いた黒尾は、
赤葦を思い切り抱き締めると、遅くなって悪かったと謝ってから、左手の四本目にキス…
そして、重なり合うペアリングの片方を、赤葦の右手薬指に差し込んだ。

「とりあえず、予行演習…で、いいんだな?」
「ご予約、承りました…で、正解ですよね?」

   このリングが、俺のじゃなかったら、
   どうしようかと…怖くて、聞けなかった…っ

右肩を新たに濡らした温もりと、溢れ落ちてきた本心を、一粒残さず受け止めるように、
黒尾はリングのはまった右手で赤葦の頬を包んで、左手の四本目を赤葦の唇に押し当てた。

   そう遠くない、本番の…確約の時は、
   絶対にお前を待たせないと…約束するから。


はっきり『近々』を宣言した黒尾の方が、今度は赤葦の右肩におでこをピタリと密着させ、
緊張と安堵が絡まり合った息を、細く長く吐き出した。



*******************




右肩に、触れるだけのキス。
これが、赤葦の『箍』を外すスイッチだ。

なんやかんや言葉遊びをしつつ、必死に普段の冷静さを保ち、羞恥心を誤魔化していても、
赤葦ではなく『俺』の方が、縋り付くように赤葦の右肩に顔を埋めると…途端にモード変更。

「黒尾さん、お風呂へ…早くっ」
「焦るなって…ほら、こっち。」

一緒にお湯を浴びながら、カラダでカラダを洗い合うように、互いの全身を絡ませる。
赤葦のカラダから強張りが抜け、俺に少しずつ体重を預け始めたのを見計らって、
右肩に、音を立てて…キス1回。背骨を辿って手を撫で下ろし、繋がる部分に…指一本。

「お…意外と柔らけぇな。」
「俺は、参謀…ですからっ」

いやいや、参謀はあんまカンケーねぇだろ。
俺は参謀。これはツツガナイ進行のため…とか言い訳しつつ、アレコレ致す姿が目に浮かび、
思わず頬がデレっとニヤけ…ふわっと緩み、それと同じくらい解すべく、指を深行させる。


「ん…っ」

感度を一段階嵩ませるポイントを掠めると、赤葦の指が、俺の右肩に爪痕を1つ付ける。
今度は俺が、赤葦の右肩にキスを2つ…指二本に増やしてもいいかと、尋ねてみる。

「…っ」

まだ…か。
それならばと、後ろではなく前へ。
赤葦らしさを体現するような、慎ましく自己主張をする胸を、反対側の指一本で擽ってみる。
前後合わせて指二本分の刺激を丁寧に与え続けると、『OKサイン』が唇から漏れてきた。

「んん…っ」

なんて素直で、わかりやすいんだろう。
指を一本ずつ増やす毎に、箍を留める番が一つずつ外れて、閉ざされた部分が開かれてくる。
なんだか、赤葦がカラダだけじゃなくて、俺にココロも全部開いてくれるようで…

   (嬉しくて、たまんねぇ…っ)


後ろを指二本で十分解し、赤葦が体重を全て俺に預けて、右肩に爪痕を…2つ。
その先を催促するように、指三本で俺の熱を擦り始める前に、風呂から上がって一時休止。
ココでするのは、指二本迄…まだギリギリ理性を保ち、嬌声を『ん』に留めて置ける範囲だ。

あらゆる熱を冷まさないよう、キスを交わしながらバスタオルで包み、
五指をしっかり絡めて手を繋ぎ、2階の自室へと向かう。
すぐさまベッドに重なり合い、右肩にキス3回落とし、指を一、二、三本…順次沈めていく。

「んんんっ、あああ…っ!!!」

嬌声と共に、右肩に掛かる、3つ目の爪痕。
右肩にキスと爪痕が乗り、指の数が増えるにつれて、感度が右肩上がりに嵩ましていくとは、
まるで指数関数みたい…右肩に二乗、三乗、四乗すると、感度は四倍、八倍、十六倍。
もう、俺一人の指だけじゃ、あっという間に足りなくなってくる。

   (五本乗せたら、二人の全部が…)


いつの間にか、両手の指二本ずつ、計四本指で箍を開き、
赤葦からの合図も、右肩に4つ…互いの視界も蕩け、俺の思考もそろそろ…閉じる。

指を全部引き抜き、五指で腿裏を擦って抱え上げ、全身で覆い被さりながら、
右肩に5回のキス…最後の1回だけは、繋がり合う証を残すように、強く吸い上げる。

「…っ、」

両脚を俺の腰に掛け、両手の五指をしっかり握り合って手を繋ぐ…前に、
赤葦は俺の五番目の指に、同じ指をキュっと絡め、強く上下に揺すった。


「誰かに、モフモフ甘えたくなったら、俺を呼んで下さい。飛んで行くと…約束、しますっ」

俺以外の誰かとモフモフして、寂しさを紛らわせるぐらいなら…
その姿を間接的に俺に見せて、俺を寂しがらせるぐらいなら、どうか俺を呼び寄せて下さい。
俺は、参謀…いえ、貴方の恋人なんですから、素直に頼られ、甘えられる方が…嬉しいです。

「もっと、俺を求め…一緒に居て下さ…ぁっ」


「今ので、完全に…俺の箍が、外れた…んっ」

赤葦の中に最後の熱一本を挿れて繋ぎ合うと、俺の右肩にも同時に、指五本分の爪痕が入る。
固く結び合った五番目の指と、深く番い合った熱を同じリズムで揺すり上げ、
俺は赤葦に、カラダもココロも全部開き…想いを曝け出した。

「お前の恋人は、想像よりずっと甘ったれ…すぐにモフりに行くから、覚悟しといてくれっ」


   あー、もう、どうしよう。
   俺の恋人…可愛すぎるっ!




- 完 -




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※指数関数 →y=a
x
   aをx乗したらyになる関数のこと。
   a>1なら、右肩上がり…『ノ』っぽい形のグラフ。


2020/12/03

 

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