指四本目







「何だ~?装備品、バラバラじゃねぇか。」
「うるさいクロ。邪魔。」



くつろぎコレクション第3弾(クリックで拡大)


「アタマはともかく、ウエとシタのシリーズが合ってねぇのは、どうかと思うぞ~?」
「見た目より性能重視なだけ。てかウザい。」

あー、もう。メンドクサイ。
ウザ絡みこと、超絶お節介モードでクロが構い倒してくる時は、スーパー御機嫌のサイン。
昨日は部活が休みだったから、休み明けの今日は『発動』しそうなことは予測済だったけど、
今、俺は忙しい…クロなんかに構ってるヒマは1クエスト分もない。

昨日、『人肌』に触れたせいか、誰かにひっつきたい症候群らしい…マジで鬱陶しい。
それがわかってるから、みんなアッチ側の座席に座ってるんだし。
(俺は最初、みんなから離れたとこに座ってたのに、クロがわざわざやってきただけ。)


「あと、その輪っかのアクセ…ちゃんとペアで使った方が、よくねぇか?」
「アッチ行って。猫の距離感、大事!」

「俺は今、誰かの毛玉に包まれたい気分だ。」
「俺は今、そういう気分じゃない。シッシッ」

猫によって、『甘ったれモード』に突入するタイミングは違う。
それを尊重し合うのが、崇高なる猫の流儀…同じ猫なら当然、わかってるはずだよね?

「研磨はツレねぇな~。んじゃ、夜っくんかリエーフでもいいから、こっち来いよ!」
「や~なこった!お前絶対…モフモフの限りを尽くすだろうがっ!」
「俺もエンリョしますっ!電車降りた頃には、気が変わってるかもしれないけど…今は嫌!」

ツーン!と、そっぽを向く二人に、クロはやや涙目で俺のマフラーをツンツン引っ張り、
フテ寝したフリして、その中に埋もれようと寄り掛かってくる始末…はい、ガマンの限界。


「けんまぁ~、モフモフさせろ~っ」
「わかったわかった。クロ…抱っこ。んでもって、アッチ見て…福永。」

「ん~?」
「とろけるチ~ズ、の~びのび♪」

あったかいお日様にとろけ、のびきった猫のような顔で俺を抱き込んだ、その瞬間。
チラリと視線を送ったウチで一番デキる男・福永が、向かい側から期待通りの…パシャリ。

「待った。目ぇ瞑ってたから、撮り直して…」
「目ぇ覚ます一枚…どぞ。」

福永は、俺が思っていた通りのモノを鞄からササっと取り出し、クロの目の前に広げた。
面白そうなコトが起こる気配を敏感に察した猫達は、キョトンとするクロの周りにわらわら…
福永が意気揚々と掲げる『一枚』に、毛玉の如くモコモコかたまって覗き込んだ。



東武動物公園コラボ・集合写真(クリックで拡大)


「これって、こないだの…?」
「動物園に行った時の、集合写真。」

何でこんな珍妙なメンツで、動物園…?とかいう話は、正直俺にはどうでもいい。
まぁ、オトナの事情とかいうやつで、妥当な10人が集められたってことだろうけどね。

それぞれの学校(チーム)をイメージしてデザインされた、『ウエ』を着ること。
ウエを製作したブランド内から、シタやアクセ等を選び、自由にコーディネートすべし。
…って、体育会系とインドア派にとって苦行以外のナニモノでもない超難題を突き付けられ…
俺はソッコーで(意外と使える)リエーフに全て選ばせ、そこそこ無難にまとめあげた。

「黒尾…らしくねぇ、挑戦的なシタだよな。」
「どうせ、『同じ猫科だろ。』という理由だけで、悩まず豹柄を選んだんじゃねぇの?」
「センスのなさを、スタイルのよさでカバーしやがった…悔しいが似合ってやがる!」

「しょうがねぇだろ!とりあえずカッコ良く見える挿し色…『赤』いモノがなかったんだ。」
「黒には赤を入れとけばオッケーって安直な発想が、既にシャレオツの真逆だろうが!」
「『赤=カッコ良い』な宇宙法則も、カープファンぐらいにしか通用しねぇっての!」


とはいうものの…
こういったコラボ企画や各種グッズは、ちょっとクロが可哀想な面もあるのだ。
ユニフォームや制服はともかく、私服やオフショット的な場面をパシャリする時も、
『ペアでありたい』と願う相手が、別の誰かとペア扱いされるのを、毎度毎度見せつけられ…

   (ライバルチームの、首脳同士だから…)
   (しょうがねぇだろ?って、諦めた顔…)
   (寂しそうに丸めた背…見てらんねぇ。)
   (ままならぬ恋…凄ぇキツいだろうな。)

好きな時に、好きなことをして、好きな相手に思いっきり甘えたい。
それが叶わないことが、猫にとってどれだけツラいか…俺達は痛いほどわかってる。

でも、そこは…猫だ。

   (俺らが黒尾を、慰めてやるかどうかは…)
   (全然別の話…つーか、筋違いだよな~?)
   (珍しく甘ったれモード全開の黒尾とか…)
   (こんなオモチャ…ほっとくわけねぇよ♪)

キラリと視線を交わし合う、猫の集会。
ピクピク躍る『おひげ』と、ヒュンヒュン揺れる『しっぽ』で意思疎通…いざ、狩猟開始っ!



*****



「…クロ、今度はこっち見て。」
「拡大版を、並べてみました~!」
「夫婦ツーショット風…フゥフゥ~っ♪」
「裏からテープで、貼っといてやるからな!」

「っ!!!?お、お前ら…っ!!」



東武動物公園コラボ・一部拡大図(クリックで拡大)


10人が並んだ集合写真だと、たとえウエが揃っていようとも、各々の装備品は一見バラバラ。
でも、同ブランドのモノを使ってコーディネートって制約のおかげで、一定の統一感があり…
更に、10人のうち何人かずつのグループ毎に、何かしらの『共通項』が生まれるんだよね。

例えば、コンバース風のスニーカー・ハイカットが2人(侑&治)、
ローカットなら4人(月島&影山&研磨&赤葦)といった具合にね。

「帽子3人…北&治&研磨!」
「黒白チェック柄も3…侑&治&木兎!」

こうやって、装備品の共通項を積算すると、そもそもペアな宮兄弟を論外とした場合、
『ある二人』が、目立たない割に特異な『ペア具合』を醸し出してくるんだよ。


「同じ長方形のポシェット…色違いで3人。そのうち2人が、我らがクロ赤だな。」
「せめて目立たない小物の装備品ぐらいは、ペアにしてもいいよな…ってあたりか?」
「慎ましいっつーか、地味なお前らにピッタリなヒソヒソ感じゃねぇか!」

いやもう、この地味ペア…『目立たない』ってトコが一番の共通項かもしれない。
特に赤葦!黒尾の豹柄がまだマシに思える程、イモっぽぃ…じゃなくて、純朴な中学生風だ。
薄々感じていたが、赤葦はジャージやユニフォームが一番映えるタイプなんだろうな~

「お〜い、リエーフ。今度、赤葦の普段着…お前が見てやれば?」
「今まさに、見てるとこなんスけど…」

集合写真の方では、小さくてわかりにくいんですけど、こっちの拡大版…見て下さい!
ネックレス系のアクセサリーを装備してる3人のうち、2人が黒尾さんと赤葦さん。
で、この2人のは『皮紐&輪っか』っていう細かいトコまで、共通してるんスよね~

「おぉっ!?さすが、ウチのオシャレ番長!」
「でもさ、輪っかってとこは同じでも…」
「デザイン的には、だいぶ雰囲気が違くね?」
「黒尾のは指にはデカすぎるし、赤葦のはキツそうだよな。」

もうちょっとぐらい、『ペア感』出してもいいんじゃねぇか?いや、頼むから出そうぜっ!
猫達の視線を気付かないフリしつつ、黒尾は黙って大あくびし、窓の外をぼんやり眺め…
だが、そんなわかりやすい『逃げ』を許すほど、ウチの猫達は甘くなかった。


「これ、フゥフゥ♪…とは、違う!」
「あ、やっぱ福永さんも気付いてました!?」

黒尾さんって、絶対最後まで片付けとか残業とかして、着替えるのもいっつも最後。
俺らが帰る頃は、まだジャージだったりすることの方が、多いじゃないっスか?
んで、こないだ俺、忘れ物を取りに戻ったら、ちょうど『最後の装備品』を装着中で…

「皮紐に、シルバーのリング。まさに『フゥフゥ♪』なペア感満載…四本目の指用なやつ!」

うっわぁ~、すっっっごい珍しい~~~っ!
このクッソ地味な人が、首輪以外のアクセをコッソリつけて…やっと色気づいたか!?って、
『らしくなさ』がめちゃくちゃ印象に残ってたんで、ぜ~~~ったい間違いないですからっ!

「マジか!?リエーフ…グッジョブ!!」
「褒めるのは、まだ…早い。」

リエーフを囃し立てる猫達に、福永が静かに待ったをかけた。
そして、『フゥフゥ♪』とダブルピースを掲げて、リエーフに先を促した。


「問題はここから。皮紐には、ペアリングがペアのまま…2つセットで通ってたんですよ!」

なんでだろうな~?って、俺なりに一生懸命考えてみたんですけど、
どうしょうもないっていうか、ロクでもない答えしか思い浮かばなくて…

「ロクでもないけど、クロっぽい答え…だよね、リエーフ?」
「そう!前々からペアリング用意してるけど、未だ渡せてないとか…ヘタレすぎっしょ!?」

『一生懸命考えた答え』が、ぜ〜〜〜ったい間違いなく大正解だと瞬時に悟った夜久と海は、
両サイドから黒尾の腕をガッチリ捕縛し、頸元をガードするマフラーをツンツン引っ張った。

「証拠は、この下に…な♪」
「観念して、見せてみろ。」
「っ!?や、やめろ…っ!」

抵抗すればする程、猫達のオモチャにされる…
それは十分承知の上だったが、黒尾は身を捩って最後の足掻きをみせようとした。
だがその目の前に、福永がスマホを突き付け、研磨が淡々とトドメを刺した。


「輪っかのアクセが…何だっけ?」

人肌恋しいあまり、誰彼構わず抱き付いてモフモフしようとする、超絶甘ったれなニャンコ…
それが、大~〜〜好きなアイツには絶対に見せられない、クロの『ホントの姿』だよね。
アイツの前では、いつも冷静でカッコいい黒尾さんでいようと、猫背伸ばしてんだろうけど…

「この写真見たら、アイツはどう思うかな?」
「っ!!!?や、やめてくれっ!!」

これをアイツに贈られたくなければ、俺らが甘えたい時以外にはモフらないって約束して。
んでもって、次の駅で乗り換えて…その装備品を、アイツの四本目の指に嵌めてきなよ。

「ちゃんとペアで使ってこその…フゥフゥ♪」
「わかったら、さっさと…GO!!!!」


開いた電車のドアから、全員で猫背を叩いて送り出してやり、
動き出した窓越しに、ポカンと立ち竦む黒尾にダブルピースを振り、盛大にエールを贈る。

「甘ったれニャンコな、クロのホントの姿…」
「見たら絶対…喜ぶに決まってんだろうが。」
「の~びのび、とろけて…ペアでフゥフゥ♪」
「お前の可愛い姿…そろそろ見せてやれよ~」


   …はい、ぽちっと送信〜♪




- 終 -




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2020/11/21 

 

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