指三本形







「うっわ、寒~っ!?」
「ちょっ、温もろっ!」


寒風が沁みる、部活の帰り道。
仲良し梟の群れは、そのまま駅裏のコンビニになだれ込むと、
懐にも寒風を吹かせつつ、その代わりに得たあったか~いものを握り締め、隣の公園へ。

肉まんとピザまん、あんまんと焼鳥等を『一口ちょーだい♪』と分け合いながら、
漫画やゲーム、プロ野球の結果…雑多な話に花を咲かせ、憩いのひとときを過ごしていた。

そんなパイセン梟達のわちゃわちゃを、独り離れたベンチから眺めていた赤葦の横に、
猛然と突っ込んできてドッカリ腰を下ろしたのが、言わずもがなの…木兎だ。



くつろぎコレクション第2弾(クリックで拡大)


「あかーし!お前のおにぎりも、一口よこせ…って、コーヒーだけかよっ!?珍しっ!?」
「割引券を頂いていたので…おにぎりには合わないですから。」

「え~っ!?『好きなモン+好きなもん=大好き増量中!』じゃねぇのかっ!!?」
「『好き』にも方向性がありますから、単純に足せば加算されるとは限りません。」

ずっと前から、気になってたんですが…
木兎さんの『好き好き増量中!』は、常人には理解に苦しむ組み合わせが多々多々あります。
特に今日…『肉まん+ココア』!?何ですかその珍妙なコンビは。俺には全く理解不能です。

先日は『豚骨ラーメン+いちごオレ』で、その前は『納豆巻+みかん味ラムネ』…おぇっ
もうちょっと、『お食事+お飲み物』のマリアージュを、考えてみてはどうですか?


「マリアージュ…結婚、だっけ?」
「確か、料理にピッタリ合うワインを出すこと…って、ソムリエさんがTVで言ってたぜ~」
「あんこ+牛乳、かっぱえびせん+缶ビール、徳島ラーメン+烏龍茶…最高のカップルだ!」
「いっぱいの中から、一番グっとクるカップリングを味わい愛でる…同人活動に似てるな~」

いつの間にか、他の梟達もベンチにわらわら集まって来て、マリアージュ話に交ざり合う。
その真ん中に、赤葦がスマホを差し出し、とある画像を皆に見せた。

「ここ最近の、俺の研究テーマなんですが…」



おつゆ缶(クリックで拡大)


「某所で『塩ちゃんこ』という『おつゆ』にハマって以来、様々なものを飲み比べ中で…」

コンビニよりも、駅の自販機で時々見かける、これらの『おつゆ缶』ですが、
クタクタになって帰って来た時や、おやつのおにぎりを頂く時なんかに合わせて飲むと、
これがまた…心も体もじんわりあったまって、何だかホッとするんですよ。不思議なことに。

「おぉっ!この麻婆スープとか…木兎の肉まんと、口の中で結婚させてやりてぇ~っ!」
「コロッケパン+ビーフコンソメなんて、イイ夫婦の日に表彰されてもいいぐらいだぞ!」
「ビスク?って何だかわかんねぇけど、ピザまんとのカップリングが、ウマウマな予感~♪」
「んでもって、赤葦は…梅おにぎり+しじみ缶で、悶々と研究し続けてるんだろ~?」
「70個分の『ちから』とは、力学的にはどういった種類の『力』なんでしょう?…とかな!」

何故わかったんだ…?と、赤葦は一瞬だけ驚いた顔を見せたが、
すぐに気を取り直して、今のところ判明している研究結果について、パイセン達に語った。


「色々と購入し、飲んでみたのですが…」

どれもこれも、買ってすぐにその場で飲むと、物凄く美味しくて感激するんです。
どなたかとカップリングさせた時は勿論、おひとりさまの時も、それはそれは味わい深い…
それなのに、買って自宅に持って帰ってから、おつゆに相応しい器に入れてチンすると、
まぁマズくはないけど、こんなもんか…と、新婚生活の現実の如く、スン…ってなるんです。

外ではあんなに美味しく色っぽく見えたのに、ウチでは味気なく色も冴えない。
器に出してみると、コーンスープを除く大体のおつゆは、区別のつかない茶色のにごり汁…
暗くてよく見てないですが、俺の愛してやまない塩ちゃんこも、色気はなかった気がします。

「これは一体、どういうワケでしょう…?皆さんのご意見を、どうかお聞かせ下さい。」


本心から困惑顔で首を傾げる赤葦に、パイセン梟達はキョトン…
そして、ニンマ~リ微笑み合うと、身の危険を察し逃げようとしたコーハイを瞬時に捕獲。
とりあえずヨシヨシ!と、赤葦を全員でもみくちゃにしてから、可愛がりモードへ突入した。

「おいおい、まさかそれが、偉大なる先輩様にモノを頼む態度じゃねぇよなぁ~?」
「おデートで塩ちゃんこ汁を選ぶなんていう、色気のねぇ娘は…嫁に出してやんねぇぞ~」
「ほらほら、可愛いお嫁さん風の『オネダリ』ポーズ…指を三本付けて、やってみな!」

ここが好機!とばかりに、ウェ~イ♪と大はしゃぎするパイセン梟達に、
だから、何でバレてんですか!?という焦り顔を誤魔化すべく、お小言で赤葦は反抗した。


「『三つ指をつく』ポーズ、実は丁寧な仕種じゃない…無礼だそうですよっ!?」

一歩引いた慎ましい奥様風の響きから、礼儀正しくて楚々としたイメージを持ってますけど、
本当に丁寧なのは、畳に指を五本全部揃え、掌をしっかり付けてお辞儀する形…
お作法の流派によっては、親指・人差し指・中指だけをつける『三つ指』は、アウトだとか。

「いくら慇懃無礼な俺でも、そんな失礼なカタチを敬愛してやまない先輩方にするなんて…」

可愛げも色気もない後輩の質問に、わざわざお手間を取らせるわけにはいかないので、
もう結構ですから、さっさと退いて下さい!…と、遠慮した風の響きを醸した赤葦の台詞を、
寛大で優しさに溢れる先輩方は、聞かなかったことにしてやり、話を勝手に続けた。


「はぁ〜?ちげーよっ!三つの指をつけて、可愛くおネダリするカタチと言えば…」
「親指・中指・薬指の三つをつけて…こう!」
「教えて欲しい…ニャン♪」
「バーカ、猫じゃねぇだろ!そのカタチだと、欲しい…ワン♪だろ?」
「犬も違うぞ。欲しい…コン♪、だろ。」
「狐かっ!んじゃ、右手と左手で…『早ぅ教えんかい!』『なんでやねん!』コンコン♪♪」
「宮ブラザーズかよっ!」

ベンチ脇に立つ外灯の光に三つ指を翳し、影絵をし始めたパイセン方に、赤葦は深くため息。
耳っぽいものがついた動物なら、ミミズクだっていいですよねホゥホゥ…と、脳内ツッコミ。
三本指をまぁるくつけたら、兎にも見える…右手と左手両方で、『木兎』さんができそう!

発見にソワっとしながらも、絶対に三つ指ついてなるものか!とそっぽを向いていた赤葦に、
これを見ろ!と、三本指でスマホを掲げた鷲尾が、随分と遠目から画像を一瞬だけ…チラリ。


「おっ、それは…なつかし~♪」
「俺らが一年の時の、梟谷グループ合同合宿の写真だな~」
「タイトル『お前なぁ…スイカにメロンソーダって組み合わせは、どうかと思うぞ?』」
「そうそう!どこぞの小姑と似たようなコトを木兎にツッコミ…まさにそのシーンを激写!」

「んなっ!!?」

赤葦も見たいか?見たいだろうな~
一緒に塩ちゃんこ♪な人の、まだまだウブで可愛い一年子猫な頃の、レアショット…
いい具合に木兎と離れてるから、ちょっとトリミングすれば単体ブロマイドの出来上がり~♪

このお写真データが欲しければ、神にも等しい体育会系の先輩を崇め、望みを伝えるべし!
でもその前に、シツレイな『三つ指つける』とは逆の…両手の三つ指を立てて、
神からのシツモンに、セイジツに答えてから…カタチに相応しい呪文を絶叫するんだ!!

「塩ちゃんこの後に、二人でマリアージュしたのは…?」
「…っ、ソーセージ+甘酒(人肌燗)…ですっ」

「妙なトコで、妙なモンを、ナカを見ずに飲んだから…美味い!これが研究結果であるな?」
「そ、その通り…です。。。」

「素直で大変ヨロシイ。では、お主の望みと、オネダリの呪文を…はいっ、シャウトっ!!」
「俺の知らない高1当時の黒尾さん写真を、余すところなく全部俺に下さい…うぃっしゅ!」


激レアなコーハイの『三つ指でオネダリ』ポーズに、パイセン達は歓喜の舞&感涙。
珍しく完全敗北を喫した赤葦は、ぐったり膝を落とし…その肩を鷲尾がポンポンと慰めた。

「家に帰ったら、他のも送ってやるから…」

さぁ、そろそろ帰ろう…と、立ち上がる鷲尾。
赤葦はやや潤んだ瞳で見上げながら、鷲尾の裾を『三つ指』でキュっと掴み、引き止めた。

「やくそく…ですよ?」


「それが『三つ指でオネダリ』の…正解だ。」




- 終 -




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2020/11/16 

 

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