指一本分







   (今日は、これから…っ!)
   (そーゆーこと…だなっ!)


ウチの参謀殿は、感情が顔に出ない。
人並み以上に情感豊かな(控え目表現)奴の傍にいるから、比較的そう見えるのかも?だけど、
喜怒哀楽のうち、特に『喜&楽』は、男子高校生の平均以下しか表に出してこない。

その代わり?に、ほんのちょっとした動作の中に、喜&楽が見え隠れすることがあって、
実はその『ほんのちょっと』ぶりが、顔に出さない分、余計に目に留まってしまうのだ。
本人は一番隠したい情感的な部分だろうに、逆にバレバレになっちゃってるという…喜劇だ。

   (そんな、不器用でカッコ悪ぃトコが…)
   (凄ぇ可愛くて、たまんねぇんだよな〜)

溺愛してやまない、我らが参謀殿のために。
今日も偉大なパイセンたる俺達は、ビンカンに可愛いトコを察知し…奮闘を続けている。


*****




くつろぎコレクション第3弾(クリックで拡大)


「木葉さん、ここの確認を…お願いします。」
「ん~?どれどれ…っておいおい!これって、先週末の、合宿の…?」

「はい。自分なりに、試合毎の各種数値を統計化してみたのですが…」
「はぁ~!?お前ひとりでやったのか!?たった三日でっ!?怖ぇっ!!」

「そこは『凄ぇっ!!』とか、『偉ぃっ!!』と、俺を褒めるべきですよね?」
「そんなもん、とっくに通り越してんだよ!このヤロゥ…イイ子イイ子してやるっ!!」

   カモン!野郎共!全員…集合っっっ!!
   夜更かしして、おめめ真っ赤な赤葦を…
   もみくちゃにして、褒め称えてやろうぜっ!

「結構です。」という赤葦の謙虚な辞退には、「遠慮すんなって!」と華麗にスルー。
赤葦がグッタリ(ゲンナリ)を通り越し、ブッチン!とクる寸前、木兎をスル~っと引き離す。

   (お?今日はガマンリミット…長くね?)
   (どうやら、凄ぇゴキゲンみてぇだな。)
   (仕事量のわりには…肌ツヤも良いぜ!)
   (別の理由で、夜更かしをしたんだな~)
   (何か落ち着かずに、寝られなかった…)


俺達の下から這い出した赤葦は、乱れた制服の皺を伸ばし、髪を手櫛でササっと整えた。
心底嫌そうな顔で、暑苦しいだの何だの大文句を言いつつ…ここまでは、いつも通りの仕種。
でも、ここからが…今日はいつもと『ほんのちょっと』だけ違った。

タブレットの電源を落とし、画面を真っ黒にしてから、ため息とは全然違う…大きな深呼吸。
そして、真っ赤な視線をチラっとだけ流し、真っ黒な画面を即席の鏡代わりにして見つめ…
もみくちゃで捻じれ緩みまくったネクタイを、キッチリピッチリちゃんと締め直したのだ。

   (っっっ!!?)
   (そういう、ことかっ!!)

元々がキッチリした性格で、部員どころか男子高校生全体の平均を取ってみても、
赤葦は制服のネクタイをピッチリ締めている部類に入る…体育会系ではレアモノな方だ。
それでも、喉元から『指一本分』程度は開け、苦しさを逃がしていた。

   (さっきまでは、確かに赤葦も…)
   (木葉と同じぐらい、緩めてたよな?)

それなのに、部活も終わって後はおウチに帰るだけという時になって、
わざわざ鏡的なモノまで使って、これでもか!というぐらい、ネクタイをちゃんとしたのだ。
これは、いくらガマン大好きな赤葦でも、明らかにおかしい…そういう性癖としか思えない。


   (赤葦のプレイスタイル…『尽瘁』だっけ?)
   (じ・ん・す・い…?なんだぁ、そりゃ??)
   (じんすいを、変換したら…腎水って出た?)
   (腎水とは…あっ!精液のこと、だってさ!)

いやいや、さすがの俺らも、この変換は絶対違うとわかる。
もしかしたら、誰かのためにイロイロと出し尽くしてグッタリというイミでは、正解かも?
いずれにせよ、喉元までキッチリピッチリちゃんとガチガチにネクタイを締めた理由は、
その後の『緩める』という感覚を、これ以上ないぐらいしっかりじっくり堪能するため…
『そういう性癖のため』が、大大大正解!!ってことで、ゼ~ッタイに間違いないのだっ!!

   (ガチガチにガードのカタい奴を…)
   (指やらナニやらで…こじ開ける。)
   (そうされるのが、たまんねぇって奴と…)
   (そうするのが、たまんねぇ奴が…逢う!)

   必要以上に、赤葦がネクタイを締める時。
   いつもと『ほんのちょっと』違う、仕種。
   それが、これからおデートの…サインだ。


赤葦がタブレットを鞄にしまっている隙に、俺達はササっと目配せ…
ニヤつく顔を見られないように、上着や鞄を手に抱え、入口に向かってムフムフと忍び足。
いやもう、今日のおデートのことが気になって眠れなかったとか…可愛いにも程があるだろ!

   よ~っし、俺らに任せとけ!
   褒め称えられるべき大正解は…コレだよな?

「あーっ!今日、肉まん30円引きの日だっ!」
「あと、えーっと…からあげも1個増量中!」
「急いで行かねぇと、なくなっちまうぞ~!」
「それなら、駅と反対のコンビニに…GO!」
「じゃ、そういうコトで…赤葦、また明日!」

不思議そうな顔で首を傾げる赤葦を置いて、部室から脱兎…迅速に撤収!
これで赤葦は、ダラダラする俺達が帰るのを、ヤキモキしながら待つ必要がなくなって、
そんでもって、じんそくに、じんすい…ミッチリガッツリずっぽりヤっちまえるってことだ!


「俺ら…凄ぇっ!!」
「俺ら…偉ぃっ!!」




指の上シリーズ 制服Ver.(クリックで拡大)



- 終 -




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※尽瘁 →
   自分の労苦を顧みることなく、全力を尽くすこと。
   (コンプリートガイド『極』・ピンナップ参照)


2020/11/07 

 

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