「あっ、お疲れさま、です…」
「おっ、おう…お前も、な。」
どうせみ~んな、フリーなんだろっ!?
じゃあ、一緒にクリスマス会やろうぜ!
…と、木兎さんが勝手に決めたのが、たった一週間前。
止める間もなく、その場のノリと勢いで『サンタっぽい(色の)奴ら』総元締に電話をかけ、
返事も待たずに、細かいコトはウチのサンタ一味っぽい(色の)奴と決めてくれよ~と、
スマホを投げて寄越され、サンタ総元締こと黒尾さんの声を聴いた…二週間ぶりに。
二週間前は、俺の誕生日。
その二十日ほど前の、黒尾さんの誕生日から、ほんのりと極秘交際を始めた俺達だが、
部活や試験、学校行事等で、交際開始からまだ一度もお逢いしていない…時節柄、仕方ない。
事務連絡以外の他愛ないメッセージを送り合うだけで、頬が無意識の内にニヤけてしまうし、
たとえ逢えなくても、誕生日にわざわざ電話をくれて、声が聴けたことが…嬉しかった。
だから、また思い付きで無理難題を押し付けられたゲンナリ感よりも、
たとえ事務連絡とは言え、黒尾さんとお話できたシテヤッタリ感の方が圧勝してしまった。
…じゃなくて。少々お待ちくださいませ。
(あちら様のご迷惑も慮らず、フリーと決めつけて即電話…何考えてるんですか木兎さん!)
(ナニ考えてんだ?は、コッチのセリフだ!電話ぐらい、すぐかければいいだろ!!
お前らに会いたい…一緒に遊びたい!っていうキモチは、言わなきゃ伝わんねぇじゃん!)
(でっ、ですが、このクソ忙しい時期に…)
(それだって、聞いてみなきゃわかんねぇよ。忙しいって決めつけてんのは、お前の方!)
(っ!?確かに、それは、そうですけど…もしご迷惑をお掛けしてしまったら…)
(その時は全力で謝るけどさ、お前も知っての通り、黒尾はそんなちっせぇ男じゃねぇだろ。
それとも何だ?色々イイワケしまくって…まさか赤葦、黒尾に会いたくねぇってか!?)
不本意極まりないが、今回は俺の負けだ。
木兎さんに論破され、本当に悔しくて面倒臭くて堪らない…という体裁を巧く作り上げ、
お待たせして大変申し訳ありません…と、俺は渋々顔で必死に嬉々顔を隠しつつ、
黒尾さんとできるだけゆっくり打合せを行い、本心から渋々顔で電話を切った。
とは言え、そんな豪勢なパーティを開く(時間的・金銭的etc…な)余裕などあるわけもなく、
俺は会場(カラオケ)の確保&手続及び、音駒さん用のプレゼント(お菓子詰合せ)の用意をし、
黒尾さんは会費を両監督から引き出し、梟谷用のお菓子準備&サンタ服で全員に配っただけ。
この辺りで俺の体力も限界…盛り上がる場から抜け出し、独りでこっそりトイレに向かった。
「あっ、お疲れさま、です…」
「おっ、おう…お前も、な。」
「………。。。」
「………。。。」
重い鉄扉を開けると、ちょうど個室から着替えを終えた黒尾さんが出てきたところだった。
予期…予測も期待もせず、バッタリ出くわしたことで、二人とも二の句が継げないまま沈黙。
言いたいことも、言うべきことも、たくさんあるはずなのに…胸が詰まって何も出て来ない。
(せっかくの、機会なのに…っ)
ずっと逢いたかった。逢えて心から嬉しい。もっと貴方と、一緒に居たい。
そのキモチが溢れ出てきそうだけど、本当に好きな人だからこそ…なかなか言えない。
ワガママを口にすることで、ご迷惑がかかったり、ご無理をさせてしまうかもしれないし…
(その結果、嫌われるのが…怖い。)
好きな人相手だと、俺はこんなにも臆病になってしまうのか。
いや、この恐怖の大きさこそ…好きの大きさを表しているのだろう。
(恋愛も、交際も…恐怖との戦い、か。)
床タイルを見つめたまま、そんな悟りを開いていると、大きな溜息が降って来た。
「木兎の…言う通り、だな。」
「え?なに…うわぁっ!!?」
ボソリとした呟きの直後、突然腕を掴まれ…個室の中に引き摺り込まれた。
狭い空間に男二人。密着するしかないのだが、必要以上にピッタリ…抱き締められていた。
「無理矢理…ゴメンな。」
「いえ、謝ることは…っ」
突然の抱擁に、心臓が跳ねる。
だが俺以上に、触れ合う黒尾さんの心臓は大きく拍動し…声も明らかに震えていた。
(黒尾さんも…同じ?)
緊張と恐怖、そして歓喜。
それらが入り混じった感情が、温もりとともに伝わってくる。
俺も全く同じだからこそ、黒尾さんのキモチが俺にははっきりとわかった。
「お逢い…したかった、ですっ!!」
全く以って、木兎さんの言う通り。
もしご迷惑だったら、全力でゴメンナサイしますから!!と、心の中で予め頭を下げながら、
恐る恐る腕を伸ばし…黒尾さんの背を、震える手でそっと抱き返した。
「俺も…凄ぇ、逢いたかったっ!!」
体の中から思い切り絞り出すような、それでいて、外に漏れ出さないぐらいの…掠れた小声。
その声には、溢れんばかりの想いと共に、必死に何かを抑え込んでいる…熱が籠っていた。
「くろおさん…っ」
「あかあし…っん」
溢れる情動を、堪えながら。
想いを乗せて、声を封じる。
好きを伝え合う初めてのキスで、声や音が外に漏れないように封じ合う。
でも、初めてのキスだからこそ、抑え込んできたものが、余計に溢れてくる。
この相反する状況が、抱き合う力を強くし…キスを加速させていく。
こんなんじゃ、全然足りない。
もっともっと、キス…したい。
好きで、好きで、たまらない。
「なぁ、このまま…」
「二人で、一緒に…」
唇を触れ合わせたまま、吐息だけで『ワガママ』を伝え合おうとした、その時。
夢から現実に引き戻す、重い重い…扉の音。
「クロ…いる?」
「おっ、おう!」
なかなか戻って来ないサンタを探しに来た声に、黒尾さんは咄嗟に返事をしてしまった。
俺も慌てて黒尾さんの胸に顔を埋め、必死に息を殺して気配を消した。
「腹でも壊した?」
「あっ、あぁ…そんな、カンジだ!」
「…あっそ。これから駅裏のファミレスで二次会だって。先に行ってるから。」
「りょっ、了解…すまねぇ、な。」
じゃぁね…と、要件を言った孤爪は、バタン!と扉から手を離して去って行った。
ホッと肩を撫で下ろした…瞬間、ドン!!という爆音を響かせて、再び扉が開いた。
「ぅわぁっ!!?」
(---っ!!?)
「何そんなビビってんの?まぁいいけど…これ、木兎さんから伝言。
『赤葦、会計よろしくな~!』…だって。」
赤葦もどっか行ったみたい…どこぞのトイレで呻いてるかもしれないね。
もしクロがどこかで見かけたら、赤葦に伝えてくれってさ。
それと、最後に皆から…サンタさん達に。
「…メリークリスマス。」
- 終 -
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2019/12/27 (2019/12/25分 MEMO小咄移設)