悪良菓子







梟谷と音駒の合同練習終了後。
仲の良い両校は、片付けを終えて撤収&解散の号令後も、集まってグダグダ…
腹減ったぁぁぁぁぁ~、ガス欠でもう動けねぇよぉぉぉぉぉ~とグズりつつ、
なかなか帰ろうとしない面々に、赤葦がパンパン!と手を叩いて注目を促した。

「みなさん今日もお疲れ様でした。
   ここで質問です。今日は何の日でしょう?わかる方はいらっしゃいますか?」
「ハイハイハイッ!!!去年お前に教わったから、俺知ってるぞ!
   今日はハロウィン…いたずらしなかったらお菓子貰える日だよな!!」

はい、たいへんよくできました。
それでは、お片付けも頑張ったし、寄り道せずにまっすぐ帰ると約束できる…
いたずらしない良い子には、今年もお菓子を差し上げましょう。

「お腹ぺこぺこでしょうから、菓子パン2つと牛乳をご用意いたしました。
   音駒さんの分もありますから、良い子のみなさん…整列!」

赤葦の号令に、全員真横に一列。
黙って『きをつけ!』で待機する良い子達に、赤葦は端から順に小袋を渡した。

「それでは、素敵なハロウィン・ナイトをお過ごし下さいませ…解散!」
「お疲れ様でしたーーーっ!!!」

素晴らしい御挨拶と共に一斉に帰路へ走った一同に、赤葦は満足気に微笑むと、
くるりと踵を返し、最後の戸締りチェックのため、独りで体育館へ戻った。



*****



「見事な手腕…心から恐れ入ったぜ。」
「おや、悪い子が…残ってましたか。」

作業を終え、部室へ戻ろうとした所に、小さな拍手と賛辞…おつかさん、の声。
赤葦が『悪い子』に向き直ろうとした瞬間、突然後ろから羽交い絞めにされ…
目元を覆われたまま、部室の中へと強引に連れ込まれてしまった。

「悪い子参上…これ、来週の合宿用の書類と、ウチの奴らの『お菓子代』だ。」
「わざわざすみません。ポケットに、音駒さん分の領収書が入ってますから…」

さんきゅー、さすが赤葦だな。
黒尾は左手で赤葦を目隠ししたまま、右手でブレザーの胸ポケットから弄った。

「どこのポケットだ?ここ…か?」
「ゃっ、違います…もっと、下。」

「ブレザーより下…Yシャツの方か。」
「そっちじゃなくて…Y軸方向の下。」

どこだろうな~?しっかり探して持って帰らねぇと、良い子じゃねぇよな~?
黒尾は鼻歌を歌いながら、赤葦の全身をソフトタッチで優しくさわさわ…
全然『しっかり』じゃない焦れったい手の動きに、赤葦は堪らず身を捩り、
手から逃れる素振りをしつつも、相好と姿勢を崩して黒尾に全身を預けた。

「ひゃっ、くすぐった…ズルいっ!!」
「ズルいのは、お前の方…だよな~?」


ハロウィンの定型句 Trick or Treat…いたずらか?それともお菓子か?…は、
本来、『いたずらされたくなければ、お菓子をちょうだい!』って意味だよな。
梟谷式の『いたずらしない良い子にはお菓子をあげます』は、似て非なるもの…

「結果的には同じかもしれねぇが、主客転倒してる…狡猾なすり替えだよな。」
「主客転倒した狡猾さ…本来のハロウィンの方だって、それは同じですよね。」

子ども達が主役の、お菓子を貰える楽しいイベントと見せかけてはいますが、
『いたずら』か『お菓子』かを選択するのは、実はオトナの方じゃないですか。
子ども達の側には、選ぶ権利はない…オトナ主体の、良い子育成システムです。

だから俺は、フェアに…みなさんの側に選択権をお返ししたまでですよ?
年に一度の『良い子』をするもよし、いつも通りいたずらするもよし、と。

それに、ここには俺より格段、狡猾な人が…


「お菓子が入ってなければ、いたずらしてもいい…巧妙な論点すり替えです。」
「紅しゃけのおにぎりは、おやつには入ってもお菓子じゃねぇ…そうだよな?」

「甘い物が苦手な黒尾さんのために、特別扱いしたお返しが…このイタズラ?」
「お前にイタズラする以外の選択肢なんて、俺にはなかった…巧妙な手口だ。」

そう言えば、どこまでが『いたずら』に入るのかも、難しい論点が山積みだ。
心理学的には『タブー破り』…発達過程に必要だとかいう、御大層なモンだし、
辞書的には、度を越したいたずらを『悪ふざけ』っていうらしいよな。
それがもっとエスカレートすると、『悪質ないたずら』…犯罪行為に当たる。

ちなみに、法律家が『いたずら』の定義を聞かれたら、こう答えるんだとよ。
それは当然、『猥褻行為』のことです…ってな。

「さぁ、どんな『イタズラ』をして欲しいのか、赤葦…選んでいいぞ。」


黒尾は赤葦に選択を迫り、答えを引き出すために、顎を捕らえて激しいキス…
答えたくとも答えられないイタズラに対し、赤葦は陶然とキスで応え続けた。

そして、未だに上を這いまわる黒尾の手を、下へ…尻ポケットのナカに導くと、
自分の手は黒尾のスラックスの前ポケットに忍ばせ、目的のモノを探り当てた。


(俺のお腹を満たすような、甘い甘いモノを…たっぷりお願いします。)





- 終 -




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2019/11/05   (2019/10/31分 MEMO小咄移設)

 

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