前方興奮







「頼むよ~黒尾っ!」
「やなこった。」
「じゃあ、赤葦っ!」
「お断りです。」


今日も毎度お馴染みの、梟谷グループ合同練習。
毎度お馴染みの非常階段で、サボり…もとい、こっそり休憩中だった木兎は、
通りがかった仲良しの黒尾を、休憩に引き摺り込んだ。

毎度毎度、木兎に付き合ってサボりは、さすがにマズい…
黒尾は掴まれた手を振り払おうとしたのだが、
木兎の深刻そうな表情に、一瞬それを躊躇ってしまった。
すると、木兎はバチン!と両手を合わせて頭を下げ、黒尾に懇願した。
…宿題教えてくれ、と。


「頼む黒尾!これやらねぇと、来週の合宿…行かせて貰えないんだよ!」
「知るかっ!何で俺が、お前の宿題を手伝わなきゃいけねぇんだよ。」

そんなもん、梟谷のチームメイトに頼めばいいだろう…と言おうとしたら、
それはダメなんだ!と木兎が遮った。
「友達のを写したらその時点でアウト」と、教師に釘を刺されたらしい。

「黒尾は友達だけど、同じ宿題はねぇから、『写す』はムリだろ?
   だから、お前に『教えて』貰うのはセーフってことだ!」
「そんな屁理屈が通るかよ!」

ったく、こっちはこっちで、自分とこの部員達を見てやるので精一杯…
とてもじゃないが、他校の木兎にまで手が回るわけない。
非常階段から去ろうと、「じゃあな!」と黒尾は一歩踏み出したが、
近くから聞こえてきた声に、二歩目が止まってしまった。


「木兎さん、やはりここでしたか。」
黒尾さんも…お疲れ様です。

赤葦、お前も…お疲れサン。
そう労いの言葉をかけようとしたら、またしても木兎がそれを遮った。

「黒尾がダメなら、赤葦でもいいや!なあ、宿題教えてくれよ~」
「嫌です。」

「一言で粉砕かよ!生意気な後輩めっ!コレは先輩命令だ…教えろ!」
「ソレは業務外命令です。従う義務はありませんね。」

業務とか義務云々じゃなくて、下級生に宿題教えて貰うって…
あ、同じ宿題じゃないから、これも大丈夫って屁理屈…通るわけがない。

先輩後輩コンビのやり取りを、黒尾は呆れ果てて眺めていると、
何やかんやでうまく丸め込まれ(勉強もデキるエースはかっこいい…だとか。)
木兎はその場でしぶしぶ、プリントを広げて宿題をやり始めた。


「大変だな、お前も。」
思わずそう呟くと、赤葦は苦笑い…ホントにそうなんですよ、と愚痴を零した。

「この人に宿題を教えるのは、忍耐力の限界への挑戦なんですよ…」

とにかく疲れる…それに尽きます。
それを熟知している先輩方は、絶対に木兎さんに近付かないようにしてます。
立場上、後輩は先輩命令にノーをなかなか言いづらい…
体育会系の理不尽さ、ここに極まれりですよね。
以前、一度だけ俺もお教えしましたが…

「『円形の墳丘に方形の墳丘を付設した古墳を、何と言いますか?』という、
   中学生(小6)レベルの問題に対して…」

フンキュー?何かの球技か?
っつーか、『ホーケーのフンキュー』って…怒りたくなる気持ちもわかるな。
誰だって、好きでネコとかアレとか、カブってるワケじゃねぇだろうし…

「誰に対し、何を紛糾しているのか…その点はガッツリ無視しましたが、
   しっかり説明した挙句、木兎さんが書いた答えが…『前方こうふん』です。」

『ホーケーのフンキュー』は、自分には『えん』のない話…なのか。
いやむしろ、『前方こうふん』は5時間後ぐらいの木兎自身じゃねぇのか。
どちらにしろ、赤葦の苦労に、黒尾は心から同情した。


「『前方こうふん』…間違ってねぇだろうが!」
黙って聞いていた木兎は、プリントを放り投げながら、異議を唱えた。

「アレ、『鍵穴』にソックリだろ?」




合同練習後。二人きりで居残り自主練。
部室に戻ってきた時には、もう誰も居なかった。
黒尾さんお疲れ様でした、と振り返ろうとした瞬間、
俺は黒尾さんの腕の中に、閉じ込められていた。

「あっ…」
拒否ではなく、歓迎の声も、出す前に黒尾さんの唇に閉ざされてしまう。
思考も閉ざしてしまう直前、カチャリと部室の鍵が閉まる音…
あとはもう、俺は『開く』だけだった。





「忘れ物を取りに戻った部室から、微かな声がする。
   鍵穴から中を覗くと、『前方興奮』な光景が広がっていた…ってな!」
どうだ!?木兎シアター(妄想)~5分後のクロ赤~っぽいだろっ?
鍵穴イコール興奮…間違いねぇよな!


「まっ、間違いだらけだろ!何で部外者の俺が、梟谷の部室に…」
「じゃあ、そこは『体育館用具室』でもいいぞ?
   お前ら、よく二人っきりで居残りお片付けしてるし…バッチリじゃん。」

「うっ、ウチの部室も用具室も、シリンダー錠ですからっ、
   前方興奮…じゃなかった、前方後円墳型の『鍵穴』では、ありませんよ!」
「細けぇこと言ってんじゃねぇよ。もっと本質を見ろよな~!
   ツッコミどころは…違うだろ?」

あっ!ツッコミどころって言えば…
このカタチ、『丸い穴に、棒っぽいのをツッコミ中』なのを、
濃い目のモザイクとかトーンでぼやかしてる風にも…見えるよな!?

「やっぱり前方興奮…やっぱり『5分後のクロ赤』だよなっ?」
「アホかっ!」

黒尾は木兎の頭に強いツッコミを入れ、
赤葦はプリントを木兎のポケットにツッコミ入れ…
早く戻って宿題しろ!と、サボりの非常階段から追い立てた。


居残りした二人は、グッタリとため息…
そして、顔を見合わせて笑った。

「5分じゃ足りません…よね?」
「木兎…『△』ぐらいだよな?」



- 終 -



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「俺から見ると『前円後方型』だから…やっぱり『×』か?」
「本質を見れば『前方総興奮』なので…『◎』でしょうか。」


ギャグちっく20題
『01.丁重にお断りします』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。


2017/05/23    (2017/05/18分 MEMO小咄より移設)

 

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