ご注意下さい!

この話は、前半こそ『真面目に大人の話』ですが、
後半は非常にアレな『マジでオトナな話』(R-18)…
すなわち、BLかつ性的な表現をガッツリ含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)

※今回は『近未来』ですので…遠慮なくガッツリ系です。
      


    それでもOK!な方  →コチラをどうぞ。



























































    公私一双









「あーくそっ!何やってんだ俺はっ!」


仕事で、大きなチョンボをやらかしてしまった。
失敗は誰にでもある。自分に非のない事情もあった。
あれは仕方なかった…周りからはそうフォローはされた。
だからと言って、自分のミスは消えてなくなりはしない。
それは自分が一番よく分かっているからこそ、不甲斐なさと共に、
周りに迷惑を掛けてしまった自分自身への怒りが、収まらない。

やってしまったことは、もうどうしようもない。
いつまでも悔んではいられない。
これからいかにそれを修正し、対策を講じていくかが重要だ。

自営業の俺は、自分の責任は自分でキッチリ果たすのは当たり前。
だが、自分一人の事務所ではなく、スタッフも抱えているのだ。
彼らの為にも、直ぐに気分を切り替え、前に進まなければならない…

そうわかってはいても、自己嫌悪からなかなか抜け出せない時もある。
そんな自分が情けなく、さらに焦ってしまい…イライラしてしまう。
この悪循環に陥ると、結構厄介だ。

そんな時は、とにかく一人になるようにしている。
じっくり今後のことを考える時間を、設けるために。
イライラを、周りの誰かにぶつけてしまわないために。


「悪い…風呂、入ってくる。」

いつもは、仕事後…晩御飯の準備前に、一緒に入浴するのが日課だ。
だが、今日のような日には、ある程度落ち着くまで…一人で風呂に籠る。

少しでもイヤな気分を流すべく、いつもより時間をかけ、念入りに洗う。
湯船に浸かって目を閉じ、腹の底から息が吸えるようになるまでは、
頭を空っぽにして深呼吸を続け、その呼吸の数だけを数える。
呼吸が安定してきたら、集中して脳を働かせ、ひたすら考え続ける…

大まかな方向性を決めた所で、風呂から上がり、
今度は頭を冷やしながら、具体的な戦略を詰めていく。

この一連のプロセスを経て、俺はやっと前に向かって進むことができる。
実際は、これで進めるんだ…と、自己暗示をかけて、
なんとか強引に、自分を奮い立たせているだけかもしれないが。

「…よしっ!明日から、頑張るとするか!」
「えぇ。そうしましょう…はい、どうぞ。」

ようやく『前向き発言』を声にして出せたところで、
俺と入れ違いに入浴し、ちょうど上がってきた赤葦が、
冷たい水の入ったグラスを、手渡してくれた。


「サンキュー、赤葦。本当にお前は…すげぇ参謀だよな。」
「別に俺は、何もしてません…お水を出しただけですよ?」

タオルで頭を拭きながら、赤葦は事もなげにそう言ったが…それは違う。
ガシガシと乱暴に拭く手を掴み、タオル越しに髪を撫でながら、
お前はすげぇよ…と、再度言った。
「誰かの為に何かを『する』…それだけじゃあ、『参謀』とは言わねぇ。」

脳の構造上、男にはどうしても『問題解決』のための時間…
一人でじっくり考える時間が必要である。
誰かと会話することで、問題解決の道を探ることができる女性とは違い、
男性は『独力で解決に尽力する』というプロセスを経ていないと、
問題を自分の中で消化できず、前に進めない一面があるのだ。

それがわかっているからこそ、赤葦は余計な手や口を出さず、静かに待つ…
何も『しない』という選択を、最良のタイミングで採ることができるのだ。

間違いなく、優秀な誰か(大抵は参謀)の助言を受けた方が早いのだが、
必要なプロセスが終わるまで、辛抱強く何も『しない』で待ち続ける…
これは簡単なようで、なかなかできることではないだろう。

不機嫌そうに黙っている男を見て、それを『問題解決中』と理解した上で、
本人のために、そっとしておく…実は物凄く難しいことだ。
もし俺が逆の立場だと、良かれと思って直ぐに手も口も出してしまい、
長い目で見ると、本人のためにならない…そんなケースも、実際あった。

何かを『する』よりも、何も『しない』ことを、
絶妙なタイミングで選べることこそが、
赤葦が類い稀な存在…本当に優秀な『参謀』である証左だろう。

「やっぱり、お前は…すげぇよ。最高の参謀だと思うぜ。」



「何もしなくても評価されるとは…実に安上がりですね。」

優しく頭を乾かして貰いながら、俺はふてぶてしく笑った。
…タオルの下に、喜びで緩む頬を隠しながら。

黒尾さんは高く評価してくれたが、俺がしたことは、大したことではない。
ただ単に、黒尾さんが問題解決に勤しむ間、放置しておいただけ…
同じ男で、性格も似ている分、そのタイミングを計ることなど、割と容易い。

だが、悶々としている人の傍に居るのは、やはり気分がいいものではないし、
さっさと「ヘルプ!」と言ってくれた方が、よっぽど気が楽なのも事実。
手も口も出したいのを、グッ堪えて待ち続けるのは、意外としんどいのだ。
きっとこれは、子育てや教育にも、同じ事が言えるかもしれない。


黒尾さんは、俺と1つしか歳が違わないはずなのに、
その背負っている責任たるや、比べものにならない大きさだ。
まだ若く経験も絶対的に足りない中、失敗があっても当然だ。

俺が手痛い失敗をした時は、自分以外の要因に延々と文句を付けまくり、
その吐け口が尽きたら、渋々反省…それを、結構長いこと引き摺ってしまう。
そんな甘えが許されるのも、黒尾さんという『上』がいるからだ。

だが黒尾さんは、まず最初に自分の非を認め、先に進んで行ける人だ。
俺達…守るべき『下』がいるから、立場上そうせざるを得ない部分もあるが、
そういう立場にある人間が皆、前を向いて行けるかと言えば…そうではない。
これができる人こそ、『人の上に立つ器』がある人物だと言えるのだろう。
未熟ながらも、黒尾さんは間違いなく…その器を持っている。

それだけではない。
自分が抱える問題だけでも、いっぱいいっぱいのはずなのに、
傍に居る俺のこともちゃんと見て、それを評価までしてくれるのだ。
こんなに器の大きな『上』など、そうそういやしない。
これ程の人物の下で働け、大事にして貰えるなんて…参謀冥利に尽きる。

「あなたは本当に…凄い人です。上司としては最高です。」

男にとって、『仕事』はかなり重要なウェイトを占める分、
その仕事に満足を得られるというのは、物凄く幸運である。
もう、人生の半分は『大成功』と言っていいぐらいだ。

失敗して苦しんでいる黒尾さんには申し訳ないが、
こういう危機の時こそ、真価が問われる場面でもある。
無理矢理にでも、1時間弱で前を向いてみせた…その『強さ』にこそ、
俺達『下』の人間は惹かれ、一緒に仕事ができることに喜びを見出すのだ。
この人のために尽くしたい…心からそう思うのだ。

「明日、一緒に策を練り上げ…この難所を乗り切りましょう。」
及ばずながら、俺も精一杯、お力添え致します。

「お前が付いててくれたら、本当に心強いな…頼むぜ、相棒?」
黒尾さんが差し出した拳に、俺もこつんと拳をぶつける。
そして、ニヤリと不敵に笑い…明日からの健闘を誓い合った。


…ここまでが、俺の『参謀』としての仕事。
いわば公的立場としての、黒尾さんの『補佐役』だ。
とは言え、今日の段階では、俺は実質何もしてないのだが。

だから、ここからは、私的立場…
黒尾さんの『女房役』として、黒尾さんをサポートする時間だ。


俺は、黒尾さんが首から下げているタオルを引き寄せると、
半乾きの頭をギュっと抱き締め、ぽんぽんとその頭を撫でた。

「今日は、本当によく頑張りましたね…お疲れさまでした。」





***************





赤葦の抱擁に、黒尾は驚いて目を見開いたが、
すぐにその目を閉じ、黙って赤葦の肩口に顔を埋めた。

「人の上に立つ者…『公的』なあなたは、尊敬に値すべき人です。」
ですが、そのために無理矢理抑え込んだ自分…
『私的』な黒尾さん自身は、ずっと苦しんだままでしょう?

「あなたは、一人でイロイロと溜め込み過ぎです。」
こういう時にこそ…『私的』な俺を、頼る時ですよ?

赤葦は静かに黒尾の頭を撫で続けるが、黒尾はじっと固まったまま。
力をなかなか抜こうとしない…その背をあやす様に擦ると、
数分後、ようやく黒尾は「ふぅ…っ」と大きく息を吐き出し、
おずおずと赤葦の背に、自分の腕を緩やかに回した。


「辛かったですよね…よく耐えました。」
「………。」

「今だけは…俺にだけは、愚痴っていいですよ。」
「………。」

「ほらほら、思う存分…俺に甘えて散らかして下さい…ね?」

赤葦は穏やかな声で、黒尾の頭と背を撫でながら促すが、
黒尾は沈黙を保ち…そして、困ったような表情でチラリと視線を上げ、
たった一言だけ、ポソリと呟いた。

「…わかんねぇ。」

「…はい?」
「どうしていいのか、わかんねぇ。」

確かに、無理矢理抑え込んで、気分を切り替えたつもりでも、
グっと封印したものが、腹ん中でまだ蠢いてるのは、わかってる。
だがそれを…折角封じ込めたものを、吐き出していい…のか?
それ以前に、どうやって吐き出せばいいのかが、わかんねぇんだ。

「他のことに追われるうちに、忘却…消化するのを、じっと待つ。
   これじゃあ…この方法じゃあ、ダメなのか?」
俺には、これ以外の方法…全然わかんねぇよ。


本人は自覚していないだろうが、これは黒尾の…悲痛な叫びだ。
今までずっと、ひたすら自己消化…中に溜め込み続けてきたのだろう。
それが染み付いてしまい、誰かに頼り、甘えることが…できないのだ。
こんなやり方では、全然…辛さは消えないというのに。

「あ…あなたは本当に…もうっ!!」

そのことに気付いた赤葦は、衝動的に黒尾を抱き締めていた。
人に甘える方法を知らない…痛々しささえ感じる不器用な黒尾が、
心からいじらしく…愛おしくてたまらなかった。

    俺が黒尾さんに、心安らぐ時間を作ってあげられれば…
    いや、俺こそが…黒尾さんの『癒し』の存在でありたい。

これは庇護欲か、はたまた母性本能か。
突き上げるような熱い想いの正体や名前は、よくわからないが、
ただただ、心の底から…俺がこの人を守りたいと思った。


「黒尾さん…こっちに、来て下さい。」

赤葦は黒尾の手を引き、隣の和室へといざなった。
既に敷かれた布団の上に、壁に背を付けて黒尾を座らせると、
伸ばされた黒尾の脚…腿に跨って乗り上げ、両手で両頬を包んだ。

困惑顔の黒尾の瞳を、真正面から覗き込み、
赤葦は柔らかく微笑みながら、額に額を付けた。

「甘え方がわからないのなら…俺が黒尾さんを、甘やかします。」
黒尾さんは、何もしなくてもいいですよ。
ただ俺が…あなたを甘やかしてあげたいだけですから。

赤葦は黒尾の瞼にそっと息を吹きかけ、目を閉じさせた。
そして、ゆっくりと…唇を合わせた。

    固く閉じた扉を、外から柔らかくノックするように。
    出て来ても大丈夫だと、何度も諭し誘い出すように。
    長い間奥底に隠し込んだものを、吸い上げるように。

繰り返し繰り返し、赤葦は黒尾に唇を落とし続ける。
ほんの少しずつ、堅く張り詰めていた力が弛み始め、
恐る恐るだが、黒尾も赤葦のキスに応えるようになってきた。

「弱音を吐いたり、愚図ったり…してもいいんですよ。」
そんな姿を見せても、俺は絶対に、あなたを嫌いになったりしません。
弱みを握ったと…これをネタにあなたを脅したりもしません…多分。

冗談か本気か、判別の難しい赤葦のセリフに、
黒尾は思わず頬を引き攣らせ、「すっげぇ怖いな。」と、空笑いした。
本当に恐れているのは、弱さを曝け出すこと自体…
黒尾自身も赤葦も、それがわかっていたから、黙って口を塞ぎ合った。

「無理にまで、言う必要はありません。」
もし、ぽろりと思わず零れてきた時には…俺がそれを受け止めますから。


赤葦は何かを掬い取るように、黒尾の下唇を優しく食んだ。
右手で黒尾の耳元の髪を擽り、左手で上着のチャックを下げる。
今度は下着のシャツを捲り上げ、掌で肌をゆっくりと撫で回す。

    キスしながら。髪を玩びながら。
    服を脱がせて、掌で肌に触れる。

いつも黒尾が自分によくする仕種だが、これが結構…難しい。
同時にアレもコレも…上手く連携できず、動きがぎこちない。
勇んで「俺が甘やかします。」とは言ったものの、実際の所…

    (俺、黒尾さんに…シてもらうばっかり、でしたね。)

もう何度も、二人で肌を合わせているはずなのに、
こうして自分がリードしたことは…今回が初めてかもしれない。
いや、間違いなく、これが『初めて』だ。
たどたどしい動き。これからどうすべきか?という迷い。
まるで、本当に『初めて』こういう行為をするかのような気分だ。

「何か…新鮮、だな。」

くすぐったそうに身を捩り、黒尾は仄かに笑った。
それが妙に恥かしく、赤葦は噛み付くようにキスし、
半ば強引に、黒尾の衣服を剥ぎ取ろうとするも…それも上手くいかない。

    (俺の方は、あっという間に脱がされてるのに…)

何だかちょっと、悔しくなってきた。
思い切りズボンを引き抜くと、その反動でひっくり返りそうになった。
その間抜けな姿に、黒尾は思わず吹き出し…
赤葦は恥かしさと口惜しさを誤魔化すように、
これ見よがしに、脱がせた下着を丁寧に折り畳んで並べた。

「わ、笑ってられるのも、今のうちですからねっ!」
「おうおう、そりゃあ楽しみだな。宜しく頼むぜ?」

再び腿に乗り上げる赤葦と自分に、黒尾は毛布を掛けた。
その小さな心遣いに、赤葦は嬉しそうに微笑み…慌ててそれを隠し、
「俺だって…今やろうとしてたとこですから!」と、頬を膨らませた。
笑うのを必死に耐える黒尾を黙らせようと、赤葦は深く口付けた。


さっきまで、大人しく元気のない黒尾さんを、俺がリードして、
新鮮で初々しい、いい感じのムードになっていたのに…
いつの間にか、場には笑いが満ち、コメディになりつつある。
おかしい…こんなはずじゃ、なかったのに。

    打ちひしがれる黒尾さんを、心身ともに癒す俺。
    普段見せない可愛らしさに、ついに俺が黒尾さんを…

…というのも、割とアリかもしれないと、ちょっと思っていたのに。
気が付いてみれば、特に俺は何もしていないというのに、
黒尾さんはすっかり元気…楽しそうに笑っているのだ。

元気を取り戻してくれたのは、勿論嬉しい。
楽しそうに笑ってくれた…本来の目標は達成である。
でもやっぱり…無性に悔しいのだ。

    (俺は絶対…負けませんからねっ!!)

一体何が目的で、誰と戦っているのかもわからないが、
絶対に黒尾さんに…あぁもう、とにかく何でもいいから、
「してやったり!」と言ってやりたかった。


いつも俺がされて、気持ちイイように。
頸筋に舌を這わせながら、片手で背を撫でて、
逆の手で胸の突起を弾き、カラダのどこかで、中心を刺激する…
って、こんな『アレもコレも』な動き…無理なんですが。

「あの、これ…気持ちヨくないですか?」
「どっちかっつーと…くすぐったいな。」

それはそうだろう。連携どころか、ナニをやってるかもわからない。
俺がされる立場だったら、ちょっとイラっとしてしまうかもしれない。

「黒尾さんって、実は…抱かれるの、下手ですね?」
「普通に『抱くの…お上手ですね。』って言えよ。」
悔し紛れのセリフにも、黒尾は怒ることなく、ただ楽しそうに笑うだけ。
それがまた赤葦の闘争心に火を付け、余計な一言を口走ってしまう。

「違います!俺が…抱かれ上手なんです!」
「それはまぁ…否定のしようがないよな。」

しまった、という顔をする赤葦。
黒尾はそんな赤葦を抱き寄せ、頭を撫でながら鎖骨にキスを落とした。
その間にも、ずり下がった毛布を掛け直し…憎たらしい程の器用さだ。

「やっぱり俺は、抱かれるのが下手…それも、間違いねぇよ。」
自分の感情を素直に出せないのと一緒で、
『気持ちイイ』も…どう表現していいのか、まだよくわかんねぇ。

その点、お前は「ココを…こうして下さい。」とか、
「ソコじゃなくて、コッチです。」「アソコも放置しないで…」って、
ちゃ~んと素直に、視線やら仕種やらで、俺に伝えてくるだろ?
俺はそれに従って、粛々と…お前のイイように、動くだけだからな。
つまり、俺が『抱くのが上手』というよりは、お前が『抱かせ上手』なんだ。

「それ、もしかして…俺が『淫乱』だって言ってませんか?」
「あれ、おかしいな…俺は『床上手♪』って褒めたんだが。」
「黒尾さんも、『ココ…ヤってくれ』と、素直に白状して下さい!」
「それじゃあ、遠慮なく…『ココをしっかり』と、お願いするぜ。」


…ふふふ。してやったり、です。
ココであれば、間違いなく黒尾さんも気持ちヨくなって…
そう遠くないうちに、「赤葦…もう…っ…」と、俺に懇願するに違いない。
そうしたら、アレやらコレやらを経て、最終的には、
「赤葦、お前…抱くのも、上手…だな。」と、言わせることが可能…なはず。

この完璧な策…成功にはまず、『ココをしっかり』…丁寧かつ念入りに。
赤葦は舌で唇を濡らすと、要望通りの場所…黒尾の中心に顔を埋めた。

舌先で。唇で。口と掌、全体で。
いつも以上に、しっかり…細かい部分も余すところなく慰撫していく。

    硬くなった部分を、外から柔らかく包み込むように。
    早く外へ出て来たいでしょう?と、誘い出すように。
    奥底に溜め込んだものを、綺麗に吸い尽くすように。

繰り返し繰り返し、赤葦は黒尾に唇を這わせ、舌を絡め続ける。
少しずつ…とはとても言えないスピードで、黒尾は堅く張り詰めていき、
赤葦の煽りに合わせるように、熱い呼吸を零し始めた。

    ほらほら、もう耐えなくていいんですから…
    俺には素直に、思わずぽろりと溢して…ね?

快楽に引き摺り込むような、艶を湛えた視線だけで、
赤葦は黒尾にそう促し…滲み出てくるモノを、熱い舌で受け止める。

「すっげぇ…気持ち、イイ…」

よく黒尾が口にする、ごくありきたりな、ストレートな一言。
だが、いつもの一言とは違い、その言葉の中には、
溜め込み抑えつけた感情の切れ端が、少しだけ混ざっていた。

驚いて赤葦が黒尾の顔を仰ぎ見ると、快楽を耐える表情の中に、
困ったような、降参といったような…力みの抜けた色が見えた。

頑なに閉じられていた封印が、ごく僅かでも解れてきた…
それを敏感に感じ取った赤葦は、歓喜に身を震わせた。

    (もっともっと、力を抜いて…気持ちヨく、なって…っ)

吐息と共に漏れ出る、小さな喘ぎ…それを聞いているだけで、
赤葦は嬉しくて嬉しくて…たまらなくなった。
自分はするだけ…何もされてないのに、ゾクゾクと疼いてくる。

黒尾を深く咥えたまま、赤葦は腿から降り、
今度は真横から覆い被さるような体勢で、舌を動かし続ける。
近付いた赤葦の背から腰を黒尾は熱い掌で撫で上げ、
その手を前に…布団についた膝から腿へ、その上へ…動かそうした。

だが、赤葦はその動きを手で制し、視線を枕の後ろへと向けた。
「コレを…お願いします。」という、赤葦の意図を完璧に読み、
黒尾はその要求通りに、枕元に置いてあった潤滑剤を手に取り、
赤葦の後ろ…繋がる部分へと手を伸ばし、念入りに解し始めた。


あぁ…こんなはずじゃ、なかったのに。
黒尾さんの心をほぐし、癒しの時間をあげたいという、
『本来の目的』は、間違いなく達成したと思う。

それは本当に、心の底から嬉しかった。
でもまさか、それだけで自分の方が疼いてしまうとは。
もっともっと、黒尾さんを気持ちヨくしてあげたいと…
黒尾さんを『受け入れる部分』の方が、熱を持ってしまうなんて。

カラダに籠る熱の『場所』で、『抱くのも上手な赤葦京治』計画が、
脆くも崩れ去ってしまったと…自分ではっきりわかってしまった。
今だって、あまりに的確な黒尾さんの指の動きに、
「黒尾さん…もう…っ…」と、俺の方が思わずぽろりと溢してしまった。

黒尾さんは俺を抱え上げ、もう一度、腿上に乗せた。

    右腕で俺を支えながら、舌で舌を絡めるキス。
    左指は繋がる部分を、溶かすように掻き回す。
    そして腰を少し浮かせ、熱い先端で俺を誘う。

「本当にっ、黒尾、さんは…アレも、コレも…忙しない、ですっ」
「アレもコレも…連携上手で器用ですねって…褒め言葉だよな?」

カラダを支えられながら、首にしっかりとしがみ付き、
ゆっくりゆっくり…黒尾さんの熱を、自分の中に封じ込めていく。

強烈に圧迫され、喉で詰まる息を、優しく吸い上げられる。
溜め込まなくていいから…出しちまえ、と催促するように。
それに抗わず、湧き上がる嬌声…逆方向へと沈んでいくカラダ。


やがて、黒尾さんの全てを包み込む。
肩で呼吸する俺を落ち着かせようと、背を撫でていた黒尾さんは、
俺の胸元に顔を埋めながら、静かに言葉を紡いだ。

「本当は、今日…喚きたい程、辛かったんだ。」
自己嫌悪とやり場のない怒りに、押し潰されそうだった。
でも、赤葦のおかげで…お前と一緒に居ただけで、
ドロドロしていた頭も、重苦しかった腹ん中も…
いつの間にか、スッキリ晴れやかになってたんだ。

「辛いときに…お前が傍に居てくれて、本当によかった。」
赤葦は俺にとって、公私ともに…最高のパートナーだな。


こんなに嬉しい言葉…俺には他に、思い付かない。
『公』も『私』も、この人の傍で、この人と共にありたいと願い、
一緒に仕事をし、一緒に暮らすことを選択した。

今までも、『公』の部分では、過剰なぐらい高評価してくれて、
俺はちゃんと必要とされている…その実感があった。
だが、『私』の方は、こういうカンケーとしてのパートナーではあったが、
真の意味で黒尾さんの奥底…『私的』な部分を支えていたかと言えば、
そこまでは、まだ至っていない…その自覚があった。

それが今、やっと…俺に『辛い』と打ち明けてくれた。
そして、辛い時に居てくれてよかったと…俺を必要としてくれた。
仕事とプライベート、公私双方で、俺が最高のパートナーだと…


歓喜に打ち震え、ギュっと鷲掴みされたココロ。
そして、カラダの方が、『黒尾さん』をギュっと鷲掴み…

「う…嬉しい、言葉です、けど…今、ソレを、言っちゃいます、かっ」
「いや、俺も…全部封じられて、コレが、出てくるとは…予想、外っ」

アレと共に、ソレも出しておしまいなさい…と、
こじ開けるかのように尽力していた時には、出て来なかったのに。
全部スッポリ、赤葦の中に閉じ込められてから、
ポロリと零れ落ちてくるなんて…二人とも全く想像してなかった。


顔を見合わせ、穏やかに微笑み合う。
緊張やら何やら、様々なものから開放されたような…和らいだ笑顔。

リラックスしながらも、未だ張り詰めたままの部分を開放させるべく、
二人は固く互いを抱擁し、熱を煽り立てる。
熱烈なキスの途中、赤葦は思い出したかのように、ストップを掛けた。

「忘れてました…一言だけ、言わせて、下さい…っ」
「何だ?今更ながら…『俺が抱きます!』…とか?」
「ちっ…違います!それはもう…いいですっ。」
「それじゃあ…『俺やっぱり…淫乱ですね』?」

すっかり調子を取り戻し、調子に乗り過ぎな、黒尾の言葉。
赤葦は顔を真っ赤に染め、言い返す…代わりに、
「そうですけど?」と言わんばかりに、黒尾を締め付けた。

情熱的な刺激に、あわや…溜め込んだものを零しそうになった黒尾。
ソッチは何とか耐えたが、腹の底から飛び出した声だけは、
もう…どうにもならなかった。

『気持ちイイ』を最大限に込めた、意外と艶っぽいその声に、
赤葦は満面の笑み…羞恥で俯く黒尾に、言いたかった『一言』を放った。


「してやったり…ですっ!」



- 完 -



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※一双(いっそう) →二つでひと組をなすもの。一対。


2016/12/14

 

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