ご注意下さい!

この話は、どちらかといえばギリギリ『R-18』の向こう側…
すなわち、BLかつ性的な表現を含みます。
18歳未満の方、性描写に嫌悪感を抱かれる方は、閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)

とは言え、ガッツリ『R-18』かというわけでもなく、
夢か現か、判断が微妙な『境界線上』の話です。
ガッツリをお求めの方には、むしろ申し訳ないような…


   
それでもOK!な方  →コチラをどうぞ。


























































    飼主冥利







「俺はこちらを干してくるので、新しい方を…お願いしますね。」
「あぁ、わかった。床も軽く…掃除機かけとけばいいんだよな?」


冬は、何故こんなに急いでやってくるのだろうか。
軽く羽織るものが欲しいな…と思った矢先に、ジャケットやコート、
それにマフラーまで必要になってきた。

黒尾さんと二人、この家で生活を始めた頃は、まだ真夏。
居間の座卓の下に敷いていたのも、涼しい井草のラグだった。
それをつい2週間程前、薄手の絨毯に変えたばかりなのに、
ここ数日の冷え込みに耐えられず、急遽真冬用を購入した。
座卓を和室へと移動し、『もっちり低反発ラグ(こたつ敷用)』に、
二人で模様替えしているところである。

この家は、本当に居心地が良くて、実に快適なのだが、
いくら気密性が高いとはいえ、鉄骨造の3階は…よく冷える。
真下の月島・山口宅…彼らがまだ寝室を利用していない時間帯は、
エアコンをガンガンにたかないと、じわじわと底冷えしてくるのだ。

    (贅沢とはわかっていますが…床暖房が欲しいですね。)

特に黒尾さんは、床にゴロゴロしたがる習性があるため、
体が冷えないようにと、ウレタン入りの『もっちり』を購入した。
ついでに肌掛け用にと、『とろける肌触り』の毛布も揃えた。
両方とも、謳い文句通りの触り心地…
もし猫を飼っていたら、飼主より先にこの中に飛び込み、
トロンとした表情で、『ふみふみ』していることだろう。

絨毯を干し終え、居間の続き間…和室から部屋へと戻る。
和室には、まだ座卓がそのまま置かれており、
いつもより広く見える居間…真新しい『もっちり』の上に、
『とろける』に包まれたカタマリが転がっていた。

    (ウチにも居ましたね…頭と腹の黒い猫が。)

どうやら、飼主より先に『ふみふみ』…ではなく、
『もっちり』と『とろける』の感触を、つまみ食しているようだ。


「居心地は…どうですか?」
声を掛けてみるが…返事がない。
どうやら、既に寝ているようだった。

相変わらずの寝つきの良さに呆れつつも、
そっと『とろける』の端を引き、中をチラリと覗き込んでみる。

    (っ!!や…やりましたっ!!)

中には、猫のようにコロンと丸まって、穏やかな寝息を立てる姿。
しかも、普段はうつ伏せ寝で、稀にしか拝めない『天使の寝顔』が…

    (『とろける』の称号に、偽りなしです!!)

ちょっとお高かったが、思い切って買って、本当によかった。
たった一枚の毛布が作り上げる、奇跡の寝顔…
これだけでもう、完全に元は取れた…と、俺は一人で大満足した。


大満足した…とは言え、こんなチャンス、滅多にない。
俺は足音も息も止め、こっそりと近付き…
そっと『とろける』の中に入り込んだ。

ベージュの『もっちり』と、オフホワイトの『とろける』の中は、
レースのカーテン越しに部屋を照らす、昼下がりの陽射しを受け、
ほんわりと白く淡い光に包まれ…雲の上のような雰囲気だ。

    (天国って…きっとこんなカンジでしょうね。)

柔らかい光と温もりの極上空間は、まさに夢見心地。
これは、寝てしまっても…仕方ないだろう。


ここ最近、突発的な仕事が立て続けに入り、
かなり慌ただしい日々が続いていた。
昼食後にこんなにゆっくり…絨毯を敷き替える余裕ができたのも、
本当に久しぶりのことだった。

    (黒尾さん…毎日お疲れさまです。)

起こさないように、少しだけ身を寄せると、
黒尾さんは無意識のうちに俺を抱きすくめ、脚を絡めてきた。
これは…睡眠時ご愛用の『ペンギン型抱き枕』と、勘違いされている。

腕と脚の両方で、ガッチリと抱き締められ、逃げられなくなったが…
もとより逃げる気は、さらさらない。言い訳ができて、むしろ好都合だ。
『もっちり』と『とろける』、そして『ぬくぬく』の黒尾さんに包まれ、
しかも目の前には、激レアな天使の寝顔である。

    (これぞ極楽…生きててよかった…)

『爽やか好青年』の笑顔下には、鋼鉄製の厚い壁…
感情を自分の腹の中に隠し、中々ガードを崩さない黒尾さん。
その人が今、自分の目の前で、安心しきった寝顔を曝しているのだ。

警戒心の強い猫が、飼主と二人きりの時だけに、ごく稀に見せる隙…
僅かな時間でも、こういう姿を見られ…飼主冥利に尽きるというものだ。

極上の幸福感に満たされた俺は、頬の緩みを止められないまま…


…少しの間、寝ていたようだ。
この気持ちよさ…眠くなって当然である。

黒尾さんは、さっきと同じ格好のまま、静かな寝息を繰り返していた。
だが、俺が寝る前とは一か所だけ、大きく変わっている部分があった。

溜まった疲れと心地好さ、そして絶対的な安心感…

    (こうなって…当然、ですよね。)

『気持ちイイ』を一番素直かつハッキリと表す部分が、
『今…サイコーに気持ちイイです…』と、声高に主張していた。

これは、抗うことなどできない、生理現象だ。
実際に、黒尾さんのだけではなく…自分の方も、似たような状況だ。

だが、体全体で抱き締められ、密着した状態の今、
生理現象ではない『気持ちイイ』を、誘発される…当然ながら。


息を吸って…吐いて…
次に吸い込む直前に、ピクリと動き、大きくなってくる。
穏やかな呼吸の度に、脈打つ熱…
密着する自分の熱も、その動きに否応なく煽られてしまう。

最近多忙だったのは、こちらも全く同じ。
こうして触れ合うのも…結構久しぶりなのだ。
一緒に生活と仕事をし、毎日四六時中顔を合わていると、
逆に禁欲が長くなってしまうことがある…
個人事業主の家庭では、特にありがちな話でもあり、
ウチも実際にここのところ、その『御多分に漏れない』状態だった。

つまるところ…イロイロと溜まった状態、である。
それはもう…こうなって至極『当然』。不可抗力だ。

    (ちょっとだけ…)

そろりと腕を伸ばし、背中に手を回そうとした。
その途中、シャツが捲れ上がって、腰が出ていることに気付いた。

    (風邪、引いてしまいますよ…)

本当は、シャツを引っ張り、ズボンに挟むつもりだったのだが、
不意に触れた素肌の感触に、思わずそのまま手を滑らせ…
自分から抱き着き、すべらかな背中を夢中で撫でていた。

『もっちり』と『とろける』、『ぬくぬく』に…『すべすべ』だ。
このスペシャルコラボに『気持ちヨく』ならない人がいるのなら、
ぜひとも教えて欲しいぐらいである。

    (もうちょっとだけ…)

お腹側のシャツもそっと引き出し、お臍の上ぐらいまで捲り上げる。
起こさないように、慎重に…下の方に体をずらしていく。
そして、露わになった腹部に、ぴたりと頬を擦り寄せる。

    (ホントに…気持ち、イイ…)

掌以外で直接触れた素肌の感触に、思わず吐息が零れ落ちる。
それがくすぐったかったようで、黒尾さんは少し身動ぎをし、
俺を抱く力が、ちょっとだけ緩んだ。

自由に動ける範囲が増えた俺は、これ幸いにと…
背中から腰へと大きく手を動かし、撫で続けた。
最初はあやす様に。そして、いつしか…煽る様に。

    (もうそろそろ…起きて、下さい…)


『とろける』空間に居るせいか、脳内も蕩けてきた。
もっともっと、気持ちヨくなりたい…それだけが、思考を支配する。
手が入るギリギリのところまで…背中から腰へ、腰から仙骨へ、
そして尾てい骨の辺りまで、そわそわと撫で回していく。

その『なでなで』が余程気持ち良かったのだろうか、
黒尾さんは大きく深呼吸し、手足をぎゅ~~~っと伸ばすと、
ふにゃり…と、全身をゆったり弛緩させた。

    (まるっきり、猫じゃないですか…)

リラックスの極致。緩み切った姿を、無防備に曝す。
こんな姿を見られるのは、俺だけ…その事実が、更に自分を熱くする。

黒尾さんの『幸福度』バロメーターも、MAX状態。
さっきよりも下にずれた分、胸元から喉の辺りにその熱が触れ、
時折ピクリと動き…俺のバロメーターを振り切らせようとする。

下腹部から頬を離し、ちょっとだけ下を向いたら。
唇が触れる位置に、その熱が…

    (………。。。)

すっかり蕩けきった思考。
ゴクリと喉を鳴らした音が、『もっちり』と『とろける』の中で響く。
背を撫でていた手が、ジャージの腰ゴムに引っ掛かり、
ほとんど無意識のうちに、ほんの少しだけ…それを下ろしていた。

目の前にちょろっと顔を出した、黒尾さんの熱。
その後は…よく覚えてない、ということにする。



**********



    (すっげぇ…気持ちイイ…)

まるで雲の上を歩いているような…
でっかい白猫の、ふわふわの腹毛に埋もれている感じ。
柔らかい温もりに包まれ、極上の微睡みの中、漂っていた意識。

そわそわと触れる…毛先?
そのくすぐったさに、右目だけを薄く開ける。

    (ここは…天国か?)

本当に雲の中に居るような、明るい白の世界。
周りの雲がゆらゆらと揺れ、その緩慢な動きが、また心地良い。

ふと、下の方で黒い塊が動いているのが見えた。
少しうねる毛…それが、白い世界をゆらゆら揺らしていたようだ。

    (猫…か?)

普段はツンと澄ました飼猫が、ごくたまに、飼主に甘えてくる…
飼主が寝ている隙を狙って、こっそりと擦り寄ってくるのだ。
何となく、そんな情景が頭に浮かび…似たような奴を思い出した。

    (何か、赤葦みてぇな猫、だな…)

全てを見透かすような、澄んだ瞳。
気を抜くと、羽毛の下から鋭い爪で、襲い掛かってくる…

猛禽類のそんな姿は、猫科の動物にも通じるものがある。
どちらも見た目とは裏腹に、獰猛で狡猾なハンターだ。
だが、そんなハンターが誰かに懐いた時、ごくごく稀に、
スイッチが入った(切れた?)かのように…甘えてくることがある。

    (それが、滅茶苦茶…可愛いんだよな。)

いつも引っ付いて、従順に尻尾を振ってくれる犬も、勿論可愛い。
だが、俺自身も猫…『レアな瞬間』にこそ、喜びを見出すタイプだ。
気高い獣に、尽くしてきて良かった…飼主冥利に尽きる瞬間である。


薄く開いていた右目は、いつの間にかまた閉じていた。
本当にここは…気持ちイイのだ。瞼が自然と降りてくる。
瞼は降りようとするのだが…何かが湧き上がってくる感じもする。
この不思議な浮遊感…やっぱりここは、天国か?

再度ぼぅ…っとしかけた意識だが、
ドクリと突き上げる熱に、一気に意識も浮上した。
はっきりと両目を開け、下で蠢く猫?を見て…
すぐにギュっと、再び固く目を閉じた。

    (なっ…!?これは…夢に違いないっ!!)

目が覚めたら、愛しい人が、自分の中心で舌を蠢かせていました。

…なんてのは、古今東西全人類の男が妄想する『極楽』だろうが、
そんな光景が本当に目下にあったら…夢としか思えなかった。

人間は、とんでもなく悪いことと、とんでもなく良いことが起きた時、
そのどちらの場合にも『これは夢だ。』と思う生き物…らしい。
あまりに現実感のない情景に、御多分に漏れず俺もそう思った。

だが、腹をくすぐる柔らかい毛先の感触と、
腹の底からじわじわと発熱する痺れは…やけにリアルだ。

奇跡的とも言える『夢のような光景』を、
しっかり目に焼き付けておきたい…という願望もあるのだが、
この光景を視覚情報として脳に入れてしまうと、
その瞬間に『極楽』にイってしまいそうだった。

ここ数日の(致し方ない)禁欲もあり、この情報は…刺激が強すぎる。
何よりも、自分一人だけで極楽直行なのは、申し訳ない。
禁欲生活は、あいつも同じ…これが夢なら、同じ夢を見ていたいし、
現実であるならば、共に夢見心地を味わいたい。


    (よし…他のことを考えて、冷静に…)

今、俺が居るのはどこで、何をしていたのか…?
…そうだ。新しい『もっちり』こたつ敷に替えて、
その上に『とろける』毛布を掛けて…
あまりの気持ちよさに、即オチしてしまったのだろう。
最高の肌触り…本当に『買主』冥利に尽きる、良い買い物をした。
奮発してダブルサイズを買って、大正解だったな。

少しだけ出た背中に、直に触れる『とろける』の感触…
これだけでも、ため息モノの気持ちヨさだ。

    (もっと…素肌に、触れてほしい…)

触れて欲しいのは、『とろける』だけじゃない。

横向きに寝ているせいで、少ししか下げられなかったのだろう。
赤葦はジャージの腰ゴムを片手で抑えながら、
僅かに覗いた先の方だけを、チラチラと…
まるで猫が毛繕いするかのように、舌を這わせている。

    (そんなんじゃ…足りねぇよ…)

もっともっと、気持ちヨくなりたい…
焦れったさに身動ぎをしようとした瞬間、赤葦は口と手を離した。
どうやら、ゴムを抑えていた手が、疲れてしまったらしい。
刺激が途切れてようやく、これが『現実』であることを理解し、
また『夢』に戻りたいという欲望が、脳内を完全に支配した。

トロンとした表情で、何とか肌を出そうとする、健気な姿…
その一途な仕草だけでもう、蕩けそうだった。

    (お前と一緒に…気持ちヨくなりてぇ…)


俺は何も言わないまま、そっと腰を浮かせ、自分で引き下ろした。
仰向けになり、指先で赤葦の頬をくすぐると、嬉しそうに微笑んだ。

喉を撫でると、本当に猫みたいに、その手に頬を擦り寄せる。
首輪の鈴を鳴らすように、上着のチャックを弾くと、
待ってましたとばかりにそれを開け、俺のチャックにも食い付いた。

吐息以外の『言葉』を発してしまわないように。
この『とろける』世界から出てしまわないように。
慎重に慎重に、少しずつ被っていた『猫』を脱いでいく。


夢か現か…境界が曖昧な、オフホワイトの空間。
たった一枚の毛布が作った、奇跡的な世界を壊さないように、
脳も体も全て…『とろける』に任せてしまおう。

『もっちり』と『とろける』、そして…『あかあし』。
素肌に直接触れる、最高に気持ちイイものに包まれ、
俺は本当に幸せ者だなぁと、心からそう思った。



- 完 -




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2016/11/18

 

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