ご注意下さい!

この話は、BLかつ性的表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さいませ。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)


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    五月晴々







   (これは…マズいっ!)
   (作戦…大失敗だっ!)


俺、赤葦京治には、現在極秘にお付き合いしている人がいる。

『ロミオとジュリエット』とまではいかないものの、堂々と交際宣言できる関係ではない。
友好的同業他社か、協力的競合会社とでも言うべき、切磋琢磨系ライバルチームに所属し、
しかもそれぞれが組織の中核を担う幹部同士…アチラは主将、コチラは副主将という立場だ。

「俺達、同じチームなら良かったですよね…」
「いや、道ならぬ恋だから…燃えるんだろ?」

「では、たった今から…『てつろみおさん』とお呼び致しましょうか?」
「無駄に長ぇだろ…『けいじゅりえっと』って呼び返して欲しいのか?」

「そうではないことなど…知ってますよね?」
「そうせざるを得ないと…わかってるよな?」

本当は、ロミジュリ的な名前を呼び合いたい。
でも、ついうっかり口ぐせがポロリしてしまえば、『特別なカンケー』だとバレてしまう。
だから、色っぽい場面でも頑なに互いの名前を封印し、色っぽい苗字呼びを貫いている。

   (ガマンをするほど…)
   (激しく燃え上がる…)


梟谷グループ、合同合宿中の深夜。
バルコニー越しに愛を語り合ったロミオ達の如く、二人は体育館裏の非常階段で待ち合わせ、
ひとときの逢瀬を繰り返し…その背徳的かつ情熱的なシチュエーションに浸っていた。

   (要するに、ロミジュリごっこです♪)
   (これがまた、堪んねぇんだよな~♪)

先に『秘密の場所』に到着した赤葦は、夜目にも映える白薔薇…に見立てたジャージを、
非常階段の裏に隠してから、階段最上部の踊場まで登り、息を潜めて待つ。
少し時間差を置いてやってきた黒尾は、白薔薇を手に取って上へ…
踊場の手前、非常階段最後の一段で一度足を止め、赤薔薇を恭しく捧げて到着を知らせる。

「待たせて、悪かった。」
「待ちくたびれました。」

階段一段分が、二人の身長差を埋める。
赤薔薇を受け取ろうと傾いだら、鼻と鼻がちょうどぶつかり合い…
花びらが綻ぶように口びるが花開き、互いの蜜を求めて腕を絡ませ、甘露を混ぜ合わせる。

   (て…、ろみ…くろお、さん…っ)
   (け…、じゅ…あ、かあし…んっ)

愛しい人の名前を呼ぶ代わりに。呼びそうになってしまうのを防ぐために。
相手の花びらを、自分の口びるで丁寧に摘み、一滴も零さぬように…キスで蜜を吸い上げる。


濃厚で激しいキスに酔い、ココロはその甘美さに満たされていくが、
酸素と思考力はどんどん奪われてゆき…それがさらに、心地良い酩酊感を加速させる。

赤葦の中に入り込んだ黒尾の舌先が、上顎をそっと撫でると、カクンと赤葦の膝が折れた。
黒尾は力の抜けきった赤葦を抱き留めると、赤薔薇を敷いた踊場の床に赤葦を横たえて、
手折った花を覆い隠すように、赤葦を自らの体の下に封じ込め、さらに深いキスを続けた。

   (もうそろそろ…危険水域です。)
   (もうちょっとだけ…あと1分。)

白と赤の薔薇を散らし、棘を纏う蔦のように四肢を絡ませ合い、深く抱き締め…蜜を吸う。
密着する全身が熱を発し、その熱が花を支える茎に集まる…直前、二人はパっと身を開いた。

「はい、おしまい…ギリギリセーフですね♪」
「相変わらず、凄ぇ寸止め…堪んねぇよな!」


赤葦は数歩下がって踊場の端に背を付け、黒尾は非常階段を三段下がって。
互いの手が届かない『安全圏』にまで退避してから、熱を冷ますために軽口を叩き合う。

「合宿中はギリッギリのトコでガマンして、終了後にドカン…究極のオアズケプレイです。」
「ガマンがデカい程、感動&快感は指数関数的に跳ね上がる…今週はお前んちでいいよな?」

周りのチームメイト達には極秘にしているが、お互いの家族にはバレバレである。
いや、正々堂々とイチャつくために、交際申込&受諾の勢いのまま、互いの家へ『御挨拶』…
初っ端から両親公認の下でお付き合いをするという、反ロミジュリ的な策を講じているのだ。

   過重労働な合宿中は、ひたすら耐え抜く。
   終わったら御褒美に、お泊まり会で爆発!

「次にお前の横に寝たら最後、精根尽き果てて寝落ちするまで…寝まくってやる予定だ。」
「ご丁寧な事前予告、心より感謝。明日は外泊よろしく!と…両親に事前申請済ですが。」

「とりあえず…その緩みきった頬を何とかしろよ、けいじゅりえっと。」
「てつろみおさんも、鼻の下が伸びきってますよ…お気をつけ下さい。」

一歩だけ前へ。一段だけ上がって。
これが最後だと踏ん切りをつけるように、黒尾は赤葦の頬を、赤葦は黒尾の鼻に触れ、
一瞬だけキスを交わし合い…『安全圏』を保ったまま、宿泊所へゆっくり歩いて戻った。



*****



「あれ?え…っ」
「おいおい…っ」

2チーム分の布団が所狭しと並ぶ大部屋に戻った二人は、その惨状に心底慌てた。
さっきここを抜け出して来た時には、部屋の対極に位置していた自分達の寝床が…ない。
どいつもこいつも大柄かつ、フリーダムな寝相で爆睡…アッチもコッチも越境しまくり、
敷布団の境界線など、部屋のどこを見渡しても既に存在していなかったのだ。

残ったスペースは、今入って来た入口付近の足元…敷布団1.5枚&掛布団2枚のみ。
セミダブル程度の敷地を、二人で仲良く分け合って寝るしかない状態だった。

   (これは…マズいっ!)
   (作戦…大失敗だっ!)

内心の動揺をひた隠しながら、黒尾と赤葦は無言で布団に潜り込み、息を潜めた。


   (何という、絶妙な距離感…)
   (つかず離れず…中途半端!)

もうちょっと敷地が広ければ、互いの身体はどこも触れ合わない距離を保てる。
逆にもう少し狭ければ、仕方がないと割り切って、思いっきり密着して寝てしまえるが…

   手を伸ばせば、抱き合える位置に居るのに。
   互いの息遣いも、体温も伝わってくるのに。
   共寝しているのに、触れては駄目だなんて。

   (とんでもない…)
   (生殺しですよ…)


一日後まで『オアズケ』したはずの、『次に隣に寝たら』状態に陥ってしまった二人の体は、
素直に『寝落ちしよ~♪』『寝まくるぞ~♪』と、歓喜の熱を勢いよく集め始めていた。
予告は『次の次』まで延期!と、必死にロミジュリ的な自身(分身)を諫めようとするものの、
てつろみお&けいじゅりえっとは、抑え込む自身の手の感触も、自分に都合よく勘違い…

   (頼むから…まだ先走るな!)
   (歓喜の涙…零さないでっ!)

綿密に立てた『ギリギリまでガマンして燃え上がろう作戦』が、まさかの大失敗。
互いの『ガマンの限界値』を正確に把握しているからこそ、想定外の予定変更は痛恨の極み…
採り得る手段はもうこれしか残っていないと、覚悟を決めて殺した息を飲み干した。


   (死なば諸共、だな…けいじゅりえっと。)
   (共に、イきましょう…てつろみおさん。)




***************




寝返りをうつフリをして、『く』の字に折った膝頭が壁に当たる寸前まで、静かに移動する。
同じタイミングで、黒尾さんも俺と相似形の体勢を取り、膝頭が腿裏に触れるか触れないか…
カラダは触れなくとも、寝息のフリをした温かい吐息が、うなじを掠める位置に陣取った。

   (ちょっと…くすぐったい。)

ゾクリと震えた肩を誤魔化すため、手をソロリと背中側へ伸ばし、掛布団の端を小指で掴む。
重なり合った掛布団は、小指だけで持ち上げるには少し重かったけれど、
僅かに開いた隙間から、黒尾さんの熱い手がゆっくりゆっくりと入って来て…
腕を掴むでも、掌を握るでもなく、指先だけを滑らせて、俺の手の形を確認し始めた。

   (だから、くすぐったいですってば。)


合宿中、隣り合う布団の中で手を繋いで寝る…というシチュエーションに、実は憧れていた。
許されざるロミジュリ的カンケーの二人が、大勢の他人の中で、密かに繋がり合うだとか、
切なさと純愛と、やりきれなさと…ピュアピュア要素満載で、キュンとクるじゃないか。

   (このネタで創作…『ごっこ』も可だった。)

黒尾さんにも内緒だったが、もしその機会が訪れた時には、絶対に叶えたかった儚い夢…
それが形式的にはほとんど達成できたことに、俺は早くも感極まりそうになっていた。

   (実質的には…だいぶ違うけど。)

ギュっと固く手を繋ぎ合って…ならば、俺の夢(妄想)通りの悲恋純愛ルートだったはず。
でも、黒尾さんの指は、それとは真逆の動き…指先でソワ~っと緩~く撫でるだけ。
その『ままならないカンジ』が、むしろ余計に体中の熱をギュンギュン上昇させていくのだ。

   (絶対…わざとですよねっ!?)

黒尾さん的には、この慎ましい動きで『ヒミツのカンケー』っぽさを表現したつもりだろう。
より正確に言えば、それを『建前』として掲げた…『本音』はその真逆という、腹黒な策だ。

   (この…助平っ!)


そっちがその気なら、こっちも愉しませて頂きますからね。
『アナタと片時も離れたくないんです』っぽい仕種とみせかけた、真赤な策を発動…
俺を煽り続ける黒尾さんの不埒な親指だけを、掌の中に強く握り込み、強弱を付けて圧迫。
もきゅっ、もきゅっ…と包み込んでマッサージするように、締め上げながら扱いていく。

「…っ、ん…っ」
「…っ、ぁ…っ」

『ナニか』を簡単に想像させる手の動きに、堪らず寝息の塊を吐き出した黒尾さんは、
その熱塊を俺の耳元に狙いすまして当て、俺も思わず寝息を漏らした隙に、変化を加えた。

握り込まれた親指はそのままに、残りの指で俺の拳全体をゆるゆると包み込んでから、
固く閉じた指間の溝を中指で撫で…その隙間を押し広げるように、指を割り込ませてきた。

   (黒尾さんが、俺の、ナカに…っ)

確定的かつ確信犯的な動きは、容易に俺のナカに『繋がる』感覚を呼び起こし、
俺は堪らず『けいじゅりえっと』をズボンの上から抑え…きれず、中に手を忍ばせていた。


「…っ、っ…」
「っ…っ!?」

掴んだ手をこちらに引き寄せ、捲れたシャツとズボンの間…腰付近の素肌に触れさせる。
俺の腰がピクピクと痙攣する動きを、繋いだ手を通じてダイレクトに伝えることで、
俺の『反対側の手』が、ナニをしはじめたか…言わなくても見えなくても、わかったはずだ。

   (お先に…イかせて頂きます。)

そう、この程度なら…
『独りで処理』するぐらいは、合宿中、誰もがやっている。バレたって大したことはない。
たまたま隣り合う布団の中で、ほぼ同じタイミングで『独りで処理×2』でも、大差ない。

ごく僅かに残る理性は、そう納得しようとしているけれども…

ゴクリと唾を飲み込む音と、体勢を変える音を消すため、黒尾さんは再度寝返りもどきをし、
その直後、反対側の手で『てつろみおさん』を煽るシャツの動きを、俺の背に伝えてきた。
だが予想通りなはずの黒尾さんの動きを感じた俺は、理性以外のものに心を支配されていた。

   (あぁ、これって、まるで…)

   あなたに逢いたい。
   ずっとずっと一緒に居たい。
   あなたと一緒に、愛を語りたい。
   すぐ傍に居るのに…それは、叶わない。

   (てつ…っ、ろみお、さん…っ)
   (けい…っ、じゅりえっと…っ)


溢れ出る切なさと愛しさで、今にも泣き出しそうな自身を、自分の手で慰めながら、
同じ想いと、同じ動きで、同じように自身を慰め続けている気配を、間近に感じ合う。
せめて自分の手で、相手を慰めることができるならば、まだ救われるだろうに…
互いの名前すら満足に呼べず、『ごっこ』で誤魔化すしかない現状に、視界が滲んでくる。

   (触りたい…触って、欲しい…っ)

快感よりも辛さが喉を震わせ、感涙には程遠い嗚咽が、口びるから漏れそうになる。
俺は繋いでいた手を振り解き、寸でのところで口をその手で覆い、全部ナカに圧し留めた。

   (ガマン、しなきゃ…)

理性ではそうわかっていても、自身を扱く手は止められないどころか、
アレもコレも全部吐き出してしまいたいとばかりに、さっき非常階段で貰ったキスを模して、
手で覆った口の中で、自分の舌先で上顎を擦り上げ、足りない熱を何とか補おうとしていた。

   (足りるわけ、ない…っ)


ココロもカラダも、満たされやしない。
最愛の人に逢いにいきたくても、二人で一緒にイきたくても、このままじゃ到底いけない。
ロミオと繋がる喜びを既に知っているジュリエットは、浮かばれないまま…

   (だったらもう、いっそのこと…)

激情に駆られて極端な結末を選択したロミオ達のように、俺達も死なば諸共…と、
皆にバレてもいいから、ココで一緒にイっちゃってしまうのもアリかもしれない。
お互いの立場とか、もう…どうでもいいや。そうと決まれば、さっさとヤっちまおう。

   (全部出して…スッキリ五月晴れ!)

きっとロミジュリの二人も、こうやってヤケを起こしちゃったんだろうな~と思いつつ、
全部スッキリするために、口を覆っていた手を緩めた…瞬間、別の手に塞がれた。


「ぇっ!?…ぁっ、んんんーーーっ!?」
「馬鹿っ!ごっこに…ハマりすぎんな!」

この状況だから無理もねぇし、俺が言うのもアレだが…ちょっと落ち着け!
皆にバラしたら、スッキリ晴れ晴れ…じゃなくて、ただの喜劇に終わっちまうぞっ!
とりあえず今は一旦、これでガマン…もうちょっとだけ、耐えるんだ。


吐息で早口にそう捲し立てると、黒尾さんはさっきしていたのと全く同じ動きで、
俺の口びるを指先で優しく撫で、隙間から口内へ中指を滑り込ませてきた。
急いた俺を宥めるように…でもその真逆の意思を持って、ゆるゆると指先で上顎を擦り、
俺はその真意を正解に捉えて、口内を蹂躙する指に舌を這わせ、強烈に吸い上げた。

   (この程度で…指だけで、耐えろ…と?)

挑戦的な俺の反撃に、黒尾さんは息を詰めて指を引き抜いた。
そして間髪入れずに、その濡れた中指を俺の腰に当て、溝を撫でながら徐々に下へ滑らせ、
またまたさっきと同じ仕種で、繋がる部分の隙間に割り込むように、指をナカに…


「だっ、だだだっ、大丈夫ですか、黒尾さんんんっ!?おおおっ、お腹痛い…ですって?」

えっ?イロイロ全部出したい?そうですね~、全部吐き出せばスッキリしますからね~っ!?
苦しいのは今だけ…出して寝て起きた明日朝には、お空も気分もスッカリ五月晴れですよっ!
さぁ、俺が介抱して差し上げますから、もうちょっとだけガマンして…トイレいきましょう!

もももっ、もしこのご近所の方で、起こしてしまっていたなら…大変申し訳ありません!
ちょっと気分が優れないだけ…ソッコーで治りますから、どうかっ、ごごごっご心配なくっ!

「黒尾さんは、俺が責任持ってスッキリ…おおおっ、おやすみなさいませっ!」

周りの数人にだけ聞こえる声で、俺は『やむを得ない事情』をやや演技派に説明すると、
必死に笑いを堪えつつ大人しく介抱されるフリをしている、黒尾さんに肩を貸しながら、
大部屋からそそくさと遁走…明日朝の『五月晴れ』のために、一緒に個室へ駆け込んだ。



   (お腹じゃなくて…片腹痛いわっ!)
   (五月晴れ?…そうじゃねぇよな?)
   (さっきからバレバレ…なんだよ!)




- 終 -




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2020/05/05,06

 

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