※福井旅行(福利厚生)帰還後。



    起立性質







「毎度ながら思うんですが、今回の考察も、日常生活には無関係でしたね。」
「ホンット、よくこれだけ『役に立たない』話ばっかり…」
「ま、役に立たないイコール無駄…ってワケじゃねぇし。」
「無駄とは即ち…贅沢ということです。問題ありません。」


福井旅行(出張)から戻っても、特に急ぎの仕事もなく、
それぞれが机に向かい、学校の課題をしたり、読書をしたり…
暇つぶしにグダグダとダベる…ただそれだけの午前中だ。

福井で撮影した写真の現像が終わり、それを皆で回し見をしながら、
月島は『自分専用』の写真の多さに自嘲した。

「恐竜関連の写真の多さと、恐竜ネタの少なさ…
   明らかにバランスがおかしいですよね。」
僕はアソコで、積立てを崩してまで化石数点を購入…
もっともっと、僕には語らせて欲しかったんですけどね。
月島の暴露に、山口は「今月の生活…成り立つ?」と眉間に筋を立てながら、
恐竜から話を強引に逸らせた。

「次に多いのは、永平寺の建物設備関係…これ、何の写真ですか?」
永平寺では、赤葦がカメラを手放さなかったのだが、
出来上がった写真を見ると、山口達には意味不明の物が多数を占めていた。

「これは、伽藍の裏に隠されていた火災報知器で…こちらは消火栓ボックス。」
「んで、こっちはドア…建具の一部か?これは雨樋?マニアックな写真だな。」
社寺仏閣なんかの特殊建造物…これらの建築設備は、なかなか見学できません。
どうやってこんな仏塔を建てたのか?等、建物の大枠についても気になりますが、
歴史の趣きと、現代の生活に必要な設備との共存…興味は尽きません。
…という、建築関係者しかグっとこない話は、それとなくスルーし、
月島は『考察ネタ』について、話を戻した。

「永平寺関連では、事前調査もかなり力を入れて行ったのに…」
「これについて語り合う機会、全然なかったよね。」
「あの静謐な空気の中…『欲を断つ』修行の場で、酒屋談義は…マズいだろ。」
「結局、考察封印…大人しく断崖絶壁に…東尋坊へ発ってしまいましたよね。」

その東尋坊は…特殊な地形『柱状節理』を中心とした写真と、
空を悠然と舞う鳶達、そして、鳶と烏が争う写真だけ。
「おい、『Wケイジ』の写真は?」
「撮るわけないでしょ、そんな写真…」
フィルムの無駄です…と、デジカメには通用しない言い訳を、月島は口にした。

「それで、最後のあわら温泉の写真は…日本庭園の鯉、だけ!?」
「…みたいですね。これで写真はおしまいです。」
おやおや、山口君達が『お楽しみ♪』だった露天風呂…撮らなかったんですか?
『立つ鳥跡を濁さず』の言葉通り…キレイにお使いでしたね。偉いですね~?

黒尾と赤葦のニヤニヤ顔に、月島と山口は頬を染めて俯いた。
この立つ瀬のない雰囲気を転換しようと、山口は裏返る声を立てた。


「さっきから、『たつ』って言葉がたくさん出て来てますけど…」
メインだった考察も『龍・竜』…これも『たつ』でしたし。
誰かさん達は『外』で『立(ったまま)』…エクスタシーでしたしね~?
そう言えば…いつもは立ってるのに、今日は立ってないモノが一つありますね。

山口は自分の前髪を引っ張り、チラリと黒尾に視線を送った。
今日の黒尾は、いつものツンツンヘアではなく…緩やかなオールバックだ。
「温泉翌日もそうでしたが…わかりやすいフラグを立てますよねぇ~?」
「『うつ伏せ寝』ができないような状態…赤葦さん、お疲れさまです~♪」

ムフムフといやらしい笑いを返した月島達に、今度は黒尾達が押し黙った。
髪の立ち具合で、『昨夜のスタイル』がたちどころにバレる…
『頑張った』赤葦は、立ち上る羞恥心を誤魔化すため、黒尾を矢面に立たせた。

「くっ、黒尾さんも、もう社会人ですから…そろそろ髪型を変えては…?」
いつまでも学生の延長…寝癖ベースのスタイルは、マズいでしょう?
お暇なら、美容院で髪を断って貰ってはいかがですか?

赤葦の言葉に、黒尾は「う~ん…」と、乗り気ではない様子。
だがそこに、悪ノリした月島達が、ガンガンと畳み掛けてきた。

「今はまだお若いから、寝癖で髪もピンピンと『起つ』でしょうけど…」
「時が『経つ』ほど、そんなビンビンに『勃つ』のは…難しいですよ?」
「そうなったら、赤葦さんに…縁を『絶つ』って言われちゃうかも?」

部下達から『役立たず』と言外に(おもいっきり)言われた黒尾は、
顔を青くして椅子から立ち上がり、立ちの悪い弁を無理矢理立てた。


「おっ、お前らちょっと、酷すぎっ…赤葦は、俺を助『太刀』しろよ!」
「そうですね。旅行のシメとしては…性質(タチ)の悪いネタですよね。」

それじゃあ、黒尾さんが腹を立てる前に…ここを発ちますか。
お昼に皆で、竜田揚げでも食べに行きましょう♪

赤葦の立案に、月島と山口はもろ手を上げて立ち、
部下達は事務所を出て、玄関へと立ち去って行った。


「俺、もう…立ち直れねぇかも。」

立場のない上司・黒尾は、額に掛かる前髪を掻き上げながら、
とぼとぼと玄関へと向かった。




- 終 -



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2017/04/16    (2017/04/11分 MEMO小咄より移設)

 

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