限界突破







「そういうこと、だったんですね…っ!」

あと少し…ほんの少しで年度末修羅場が終わる。
抜けきった魂が浮遊する事務所内に、赤葦の声が響き渡った。
『大発見!』にわななくその声に、全員が赤葦に注目すると、
黒尾の机に置いてあった、蛍光ペンのセットに喰らい付いていた。

「何だ?そのペンが…どうかしたか?」
「よく見て下さい!ここ…『蛍coat』って書いてありますよ!」
だから、それが一体何なんだ?と、黒尾は首を傾げて問うと、
赤葦はキラキラした目で嬉しそうに断言した。

「『蛍coat』…つまり、『けいこーと』…『蛍光灯』です!!」
このペンは、蛍光灯専用…よくわかっていらっしゃいます。
いやはや、なかなかステキなネーミングですよね。
実にピッタリ…お見事というほかありません♪


連日の激務ゆえか、『徹夜ハイ』に似た妙なテンション…
赤葦らしからぬ姿に、黒尾・月島・山口の3人はポカンと口を開けた。

年度末修羅場中、累計にすると万個単位で電気設備図面に蛍光灯を描き続け、
それを蛍光ペンでマーキングし続けていた赤葦…
「『蛍』の文字で、蛍光灯しか頭に出てこない…完全に『仕事脳』だな。」
「建築に関係ない僕には…若干『意味不明』な発想です。」

赤葦のテンションに、ついていけない黒尾と月島。
面白いネタですから、写真に撮っておきましょう♪とはしゃぐ赤葦に、
今度は山口が「あっ!!」と叫び、赤葦の傍に駆け寄った。

「赤葦さん!写真撮るなら…これも一緒に、ぜひ!」
「おや、これは…可愛いですね♪」



「『蛍coat』…ツッキーがコートに居るみたいでしょ?」
「あぁ!『蛍』って、月島君も同じでしたね。すっかり忘れてました。」
「俺にとって『蛍』は、ツッキーしかありませんからね~♪」
「職場で堂々と惚気とは、山口君もなかなかヤりますね♪」

赤葦と山口は二人で盛り上がり、楽しそうに撮影会を始めてしまった。
いつもなら考えられないような二人の姿に、黒尾と月島は涙が滲んできた。


「あの二人…完全に『限界突破』しちゃってますね。」
「皆には、苦労掛けちまった…ホントにすまねぇ。」

修羅場が開けたら、3日間は寝て過ごそう…
黒尾は事務所の臨時休業を、即時決定した。




- 終 -



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2017/03/21    (2017/03/17分 MEMO小咄より移設)

 

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