象形文字







夕方、買い物がてらのんびり近所を歩いていると、
川に架かった橋の上で、山口がふと歩みを止めた。
そして、「ねぇツッキー、アレなんだけど…」と、小声で話しかけてきた。

「何?よく聞こえないよ。」
後ろは片側2車線の幹線道路。もう一つ向こうの橋は電車の高架橋。
賑やかを通り越して、騒がしい音に囲まれ、小声では聞き取れない。

すると山口は、声を上げるんじゃなくて、ぐっと傍に寄ってきた。
ほとんど『内緒話』をするぐらいに近づき、またしても小声で囁いた。
「アレ…川沿いの、あの道路標識…」
俺、ここを通るたびに、ずっと気になってたんだよね~

僕は今、そんなものよりも…この距離の『狭さ』の方が気になるんだけど。
ドキリとアップダウンした心臓の音が、電車の音よりも大きく響いた。

そんな僕の内心など気付くはずもなく、山口は前方の標識を指差した。
そこにあったのは、あまり見かけることのないもの…



「これは…確かに気になる標識だね。」
「上が『路面凹凸あり』で、下が『幅員減少』なんだって。」
ずっと気になっていたというだけあり、山口は既に調べていたようだ。
僕達の距離の狭さに、心臓がアップダウン…という標識にも見えて、
「何で知ってんの!」と、標識と山口に向かってツッコミそうになった。

だが、山口には全く違うモノに見えていたらしく、
更に幅員を狭めながら、コッソリと僕に耳打ちをした。
「何かアレ、『ステキなアングル』から…の、象形文字に見えない?」
魅惑的な凹凸があって、キュっと引き締まったウエストに…
あぁ…なるほど。『ボン・キュッ・ボン!』なカラダを、
「頂きます。」的な『ステキなアングル』から…に、見えなくもない。

「ここを通るたびに、『奇跡の組み合わせ』だなぁ~って。」
えへへへへ…『↓方向』のネタで、ごめんねツッキー。
山口はそう照れ笑いすると、『幅員』を広げようとした。


「僕も、これに似たもの…知ってるよ。」
離れようとした山口の腕を掴み、僕は夕焼け空に文字を書いた。



「山口…?俺の苗字が…何に似てるの?」
「僕が『ステキなアングル』から見た…」

そこまで言うと、山口はすぐにそれがナニを象形するのかを察し、
(象形…ゾウさんのカタチ…これも、まさにピッタリだ。)
呆れと笑いと赤面を混ぜ合わせた、実に複雑な表情をした。

「ちなみに、『』のフォントサイズを小さめにしてるのは…」
「『これから頂きます。』の状態だよ、って言うんでしょ。」
山口は笑いを堪えながら、僕のネタを完璧に言い当てた。

それなら、『只今、ツッキーに頂かれてます♪』の象形は…こうかな?



「フォントもPOP♪なカンジに変えてみました!」
「やるね…さすがは山口。ついでに、その下には『忠』…」
「『中心』って続く…我ながらアッパレだよね~」

二人で顔を見合わせ、笑い合う。
結構とんでもないネタなのに(しかも自分がネタにされている)
こうして一緒に面白がってくれる…山口のそんなところが、たまらない。


僕はアップしたままの上機嫌で、自分から更に『幅員減少』させ、
山口を家路へと誘った。




- 終 -


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全国の山口さん…ゴメンナサイ<(_ _)>


2017/02/23    (2017/02/05分 MEMO小咄より移設)

 

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