「どうやら、風邪を引いたらしい。」
マスクの下から、鼻声でツッキーが言った。
それにしては、顔色は悪くないし(機嫌はすこぶる悪そうであるが)
晩御飯のリクエストはサバ味噌煮…風邪を引いた人は避けた方が良さそうなものだった。
何といっても、部活でもないのに…例の『ゴーグル』をしているのだ。
「風邪ねぇ…ツッキー、もしかしてそれ、この季節特有の…春の『ハナ』風邪なんじゃ…」
返事は、盛大な『くしゃみ』の連発だった。
「春の陽気で、太陽が眩しくなってきたからね。
これは『光くしゃみ反射』の可能性があるね。」
光刺激によって、くしゃみが起こる遺伝的体質だ。
月島家に、そんな人が他いただろうか。
いや、それ以前の問題として…
「ここ、室内…しかも、電気点いてないけど?」
「それならば、ハウスダストによる物理刺激だね。
もしかしたら、お昼に食べたラーメンの胡椒かな。」
ラーメンを食べたのは俺で、ツッキーは炒飯だったはず。
突然、ツッキーは俺の肩に両腕を乗せ、硬直した。
ゆっくりと頭を傾げ、俺の胸に額を付けた瞬間…
全身を痙攣させて、再び…くしゃみ。
激しい瞬間的な不随意運動…肋骨や腰に堪えそうだ。
ぜぇぜぇと喘ぎながら口呼吸をするツッキー。
本当に苦しそうで、何とか助けてあげたいんだけど…
「ねぇ、病院行ってきたら?」
「熱もない。寝れば治るデショ。」
あぁ…これは、絶対に『アレ』とは認めないつもりだな。
強情というか、意固地というか…いじらしい。
俺は箱ティッシュと、新しいマスクを手元に引き寄せながら、
ツッキーの顔を少し上げさせた。
湿り気を帯びたマスクを取り外し、ティッシュで鼻を拭く。
新しいマスクを耳に掛け、マスクの上部をキュっと押し、鼻の形に合わせて固定する。
眼鏡の人間にとって、ここの隙間をいかに埋めるかは、割と深刻なテーマである。
スポーツゴーグルは、蒸れ防止のため、レンズの端がカットされ、
その分、完全には埃等を防ぐことができない。
普通の眼鏡よりはかなりマシだが、やはりマスクの隙間は、
できるだけ埋めておく方がいいのだ。
マスクに覆われていない両頬を、両掌で包み込む。
そのまま、マスクの上から…ツッキーにキスをする。
普段はない、薄い隔たり。
サラサラとした触感が、妙にくすぐったい。
口呼吸しかできないツッキーは、マスクの下で少し唇を開き、
吐き出す熱い吐息が、マスク越しに俺の唇を擽る。
何とも言えない…『オアズケ』感だ。
いつもでは考えられない『大人しいツッキー』というのも、
なかなかのレア感というか…ゾクゾクする。
呼吸困難のツッキーを救うため、
付けたばかりのマスクを俺は取り外し、露わになった唇を奪う。
今度は直接、ツッキーの呼気が、俺の口内を潤す。
開いた唇の隙間に舌を差し込み、口蓋…上の歯の裏を擦る。
この『ハナ風邪』特有の症状…いつもと違い、そこが少しザラついている。
むず痒い場所を刺激され、ツッキーは更に荒い息をした。
俺の舌を追い出すべく、ツッキーは舌を絡めると、
呼吸が続く限り、俺の舌を吸い上げた。
激しい喘ぎと痙攣が、『この後』を容易に連想させる。
「山口の、上着…外から、帰って、来た、ままだ、よね?
どうやら、『黄砂』が、付着してる、みたいだから…」
途切れ途切れの呼吸をしながら、それでもツッキーは、
いそいそと俺の上着と、その下のシャツを脱がしにかかる。
下着には黄砂は付かないはずだし、
そもそも東北に黄砂はそんなに飛んでこないのでは…
「風邪…なんだよね?温い格好の方がいいんじゃ…」
「僕は、そんなに、脱がないから、大丈夫。」
「俺に風邪をうつしても…いいの?」
「これは、感染性じゃ、ないんだよ。」
ここまで『こじらせ』ていると、もう笑いしか出てこない。
俺は、涙の溜まったゴーグルをそっと外し、
目尻に残った涙を、舌で舐め取った。
「今日のツッキーは『病人』だから…俺、手厚く『看病』してあげなきゃね?」
俺は『最低限』だけツッキーの衣服を開き、
とても病人とはとても思えない『元気!』な場所に、唇を這わせた。
(注意:これ以降はR-18ギリギリです。)
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「…っていうストーリーを考えたんだけど。
季節感溢れて、なかなか風流だと思わない?」
「溢れてるのは鼻水で、くしゃみの暴風が吹き荒んでるよね。」
箱ティッシュを引き寄せながら、ツッキーは想像力豊かな物語…
妄想という名の『大嘘』を披露した。
「リクエストが『サバ味噌煮』っていうのは、『今日』がフランス語で、
『プワソン・ダヴリル』…四月の魚、だからだよね?」
「この『魚』が、鯖だと言われてるからね。」
「漢語表現で『愚人節』らしいけど…相応しい内容だったね。」
「ちゃんと『看護』してもらえる内容に…続く予定だよ。」
もしそうであれば…僕は喜んで『愚かな人』にもなるし、
『4月の馬鹿』と誹られてもいいんだけど?
ツッキーはそう言いながら、くしゃみを耐える振りを…
俺にしがみ付き、胸元に額を付けた。
「『お馬鹿さん』なツッキーかぁ…それ、かなり『重症』だね。
俺としては、そんなツッキーを見たくないんだけど。」
シュン…と、音を立てて残念がるツッキー。
あからさまに嘘っぽい表情に、俺はやっぱり…笑うしかなかった。
「それじゃあ俺は、ツッキーが『お馬鹿さん』にならないよう…
予防的措置として、全身全霊で…『看病』しとこうかな。」
既に『最大限』開かれていた、ツッキーの衣服を投げ捨て、
『お元気!』な場所に唇を這わせる…直前に、盛大なくしゃみをした。
その勢いで、『お元気!』に噛み付き…そうになると見せかけ、
恐怖でビクついたツッキーの腰ごと抱き込み、俺は予防的な…『看病』を始めた。
- 完 -
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※(注意:次頁はR-18ギリギリです。)
…って、『大嘘』ついてゴメンナサイ。
※本作は、4/1用にUPしたものでした。笑って許していただけると幸いです。
2016/04/01(P)
: 2016/09/08 加筆修正