※直接的ではないものの、本作はいわゆる『その後のお戯れ』的な情景です。苦手な方はご注意下さい。




    苦楽落落








「ツッキーと、どこか旅行とか行きたいな…」

「それじゃぁ、今回の『まくらことば』は、旅の『道中』に掛かる…『たまほこの』、かな?」


二人で軽く汗を流すと、心身ともに清々しい気分になる。
気怠さと共に襲い来る、猛烈な睡魔に意識を渡した後の覚醒は、
脳内もそれはそれは見事に晴れ渡る…
『ごろ寝』タイムこそ、最も『冷静』に…文字通り『賢者的』な時間を過ごせるのではなかろうか。

つまるところ、『その後の戯れ』として、『言葉遊び』は最適である…ということだ。


たまほこ…玉鉾…美しい矛…
ここから『矛、再び』という流れも悪くないな…と、『賢者』らしからぬ構想を勝手に練っていると、
脳内を読んだかのように、「そうじゃないよ。」と声がした。


「別に、本当に『旅行』がしたいっていうわけじゃなくて…」
「さっきまでイってた『極楽ツアー』…?」

「それも違う…あ、あんまり違わないかもだけど、ちょっとした『旅行気分』が味わえるトコとか…」
ほら、いつも同じ『場所』だし、ちょっと気分転換もイイかなぁって…

布団に潜り込みながら、消え入りそうな声でモジモジと言う。
…成程。そういうコトですか。


「山口が行きたいと思ってるトコは、風俗営業法第2条6項4号の…
   『専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む)の用に供する政令で定める施設』…だよね?」
「…何でだろうね。法律って時々、物凄いヤらしいよね。」

『店舗型性風俗特殊営業』の一つである『当該施設』は、風営法だけでなく、
様々な関連法により、その建築物の構造や設備等についての基準が規定されている。

例えば、『動力により振動し又は回転するベッド』、
『横臥している人の姿態を映すために設けられた特定用途鏡』
そして、『性的好奇心をそそる物品を提供する自動販売機』…

『猥褻な言葉』を回避しようという『涙ぐましい努力』が、
むしろ『卑猥』さを増長してしまうという、涙涙の逆転現象…
これが、『言葉遊び』の観点から見た『法律の面白さ』である。


「まぁ、『R-18』に引っ掛かる僕らからすれば、
   『当該施設』は『未だ見ぬ異邦の地』という意味で…『旅先』だよね。」
「ぶっちゃけるとさ、『当該施設』には興味津々だよ。
   本当の旅行よりも、リーズナブルな『リゾート』だし、いつかは行ってみたいなぁ~とは思うよ…」

でもさ、やっぱり法律とか『青少年の健全育成に資する』条例に、
違反してまで行くのはマズいから…あと3年程はオアズケかな。

だから、俺の言いたかったことは、そうじゃなくて…
という山口の呟きを、僕は意図的に遮った。


「法律や条例違反にならずに、『当該施設』を利用する手…無いわけではないんだよ。」
「えっ!?そうなの!!?
   『僕らの外見的特徴は18歳以上だから、堂々としれてば大丈夫』
   …とかいうのは、俺の心情的にアウトだからね?」

平均以上の長身の『有効利用』をあらかじめ却下した山口に、
僕はむしろ、その手があったか…と、密かに感心した。


「入口に『18歳未満入場禁止』って書いてある店舗は、
   ちゃんと風営法の許可を受けた『正規の』店舗なんだ。」
「つまり…許可を受けていない店舗は、風営法の適用『外』…
   そういうトコは、『18歳未満』もOKってこと?」

「『非正規店』には、『偽装店』と『擬似店』の、2種類があるんだ。
   偽装店は、まず『旅館』等として旅館業法の許可を受けた後に、
   『改装』して実質的には『当該施設』として営業するもの。」
「これは明らかな…法令違反だよね。」
「偽装店は、建築基準法や消防法にも違反している場合が多いから、
   衛生上も防災上も、防犯上も『アブナイ』…ってことになるね。」
「そうか…こういう偽装店が、未成年淫行なんかに利用されるから、
   法律できちんと規制して、利用者を守ろうとしてるんだね。」

『なぜこの規定が作られたのか』という主旨を考えていけば、
法律とは即ち、『身を守るためのツール』…ということが判る。


「だから、もし利用するのならば、『擬似店』の方だね。
   こちらは、風営法の『店舗型風俗営業』にはあたらないけど、
   『当該施設』風に利用することも可能な店。」
「あ…普通の宿泊施設にある、『カップル利用プラン』とか、
   『当該施設』風のとこで『女子会プラン』…みたいなやつだね!」

広い風呂にサウナ、岩盤浴、充実した各種アメニティ。
ゴロゴロしても良し、カラオケするも良し、大声で喋って良し…
まさに『近場でリゾート女子会』にうってつけである。

「そう言えば、建築現場の待機中とかに、職人さんも利用するって言ってたよ…
   『昼寝できて最高!』…だって。」
「少子化やら草食化やらで、利用者も減ってきてるみたいだし、
   『本来の使い方』以外をウリにする店が、増々出てくるかもね。」
「まさに逆転の発想…『逆さクラゲ』だね。」

かつて『二人連れ旅館』には、『温泉マーク』が記されていた…
『当該施設』の隠語で、山口は巧く締めくくった…かに思えた。


「それで、結局俺の言いたかったことはね…
   たまにはさ、ちょっと気分を変えてみるのもいいかなって。」

そういうと、山口は驚くべき敏捷性で跳ね起きると、そのまま僕の上に…馬乗りになった。


「この『スタイル』…山口は苦手だったよね?」

恥ずかしそうに俯いているが、いつもと『逆』のポジションのせいで、
余計にはっきりとその表情がわかる…

嗚呼…頬が緩むのを止める方法を、今すぐ誰か教えてくれ。


羞恥に耐えかえたのか、山口はそのまま上体を倒し、
僕の肩口に顔を埋め、か細い声で説明し始めた。

「いつも、俺ばっかり、その…『好く』して頂いちゃって…
   大変申し訳なくて…たまには『お返し』して差し上げたいなと…」

どうしようもなくニヤけが止まらない顔を見られないように、下からがっしりと抱き込み、髪を梳く。
全身全霊で、上ずる声を必死に抑えて、「…で?」と先を促した。

「いろいろ考えて、思いついたのが…『逆さクラゲ』なんだ。」

万事了解。『矛、再び』は、いつもと違うボジション…『下から上へ』…ということか。
勇気ある山口の行動に、僕は誠意をもって応えよう。

『矛』の準備も万全だと、下からソレで伝えようとした時だった。


「『言葉遊び』の『倒語』…『逆さ言葉』は知ってるよね?
   それじゃぁ、熟語『月山』の倒語は…?」

肩口に甘い吐息を掛け、答えを求める山口。



頭の中で、天地がひっくり返る音がした。





***************





「ちょ…ちょっと待て。落ち着け山口。」
「俺は至って冷静だよ、ツッキー。」

そうらしいね。悔しいことに。
僕はオーバーヒートしそうな頭をフル回転しつつ、余計な動きを封じ込めるように、
下からガッチリ、山口を更にキツく捕縛した。

「倒語は、『隠語』として使われるものが多い…
   チャンネー、パイオツ、ビーチク…品性に欠けるよね。」
「確かに、ツッキーの口からソレが出てくるのは…かなり衝撃的だね。」

「それに、『言葉遊び』としても、少々物足りないでしょ。
   どうせやるなら、もうちょっと進化した…」

自分でも信じられないぐらいの驚異的な腹筋力と背筋力で、
僕は山口を抱えたまま、『いつも通り』の位置に『反転』した。

「『月山月』で…『回文』にしようよ。」


「回文って、始めから読んでも終わりから読んでも同じ…
   『余談だよ』とか、『キスが好き』みたいなのだよね。」
「順番が一緒、かつ、意味が通る文…っていうのが、特に重要な点だね。」

一旦腕を緩め、山口の横に寝そべる。
片腕を伸ばすと、山口は遠慮がちにそこへ頭を乗せた。
もう片方の手で、背中をゆっくりと撫でながら、話を続ける。

「大体、6文字ぐらいまでのものは、割と簡単にできるんだ。
   『キツそう…ウソつき』とか、『世の半ばは馬鹿なのよ』…」
「『二回以下に』とか、『段々と…飛んだんだ』も、そうだよね。」

徐々に文字数を増やしていって、長文を作成していく…
洋の東西を問わず、古くから世界中で嗜まれている『遊び』である。

「ヴェスヴィオ火山噴火で滅亡した街の壁にも残されているから…
   少なくとも、西暦79年にはあったことになるね。」
「日本にも、回文になっている有名な和歌があるよね。
   『長き夜の 遠の睡(ねむ)りの 皆目醒めざめ 波乗り船の 音の良きかな』
   初夢を見る時に、枕の下に入れる、宝船の絵…そこに書いてある和歌だよね。」

日本の文化にも、深く根差している倒語と回文…
そう言えば、と、一つ関連事項を思い出した。

「試合中とか、ポイントが決まった時にさ、『ソイヤ!!』って叫んでる人がいるでしょ?」
「田中先輩とか、西谷先輩がよく絶叫してるね。」
「あれ、『わっしょい』の倒語の、『ショイワッ』から…っていう一説があるみたいだよ。」
「…お神輿の掛け声、だったんだ。」
「他にも、『素意成』で『素直な心持って、成りとする』とか、
   アイヌ語の『揺らす=ソイヤ』っていう説もあるけどね。」

少し揺するように、肩から二の腕を解す。
山口は、呼応するかのように、あくびを溢した。


「作者不詳だけど、回文の傑作として名高いのが、
『酔いしれ占う仲良いあの子 この愛よ叶うなら嬉しいよ』…」
「さすがに、そこまで美しくて長いのは…難しいね。」
「そうだね。だから、こういうルールにしようか。
   ①10文字以上、②身近なネタ …っていうのはどう?」
1,2,3…と、10回背をトントンと叩く。
寝てしまったのかと思いきや、山口は黙って考えていた。

「10文字ギリギリですごく短いけど、『翔陽がウヨウヨし』…みたいなカンジでいいのかな?」
「実に素晴らしいよ。見事に『意味のある文』じゃないか。」

良い子良い子と頭を撫でると、山口はかなり眠そうな眼で、胸元に頭を擦り寄せてきた。

「それじゃぁ、僕も一つだけ…音駒の『鍵』である人について。
   『キー・研磨が 我慢 ケーキ』…ケーキが好きかどうかは不明だけど。」
「……もうちょっと時間あれば…ひと捻りできそう…だね…」

さすがに長年『言葉遊び』に付き合ってきただけあり、
眠くとも、作品の良し悪しの判断は下して来た。


山口の体温が上がってきた。もう…落ちる寸前だ。
睡眠導入を妨げないように、できるだけ柔らかい声を出した。

「回文は『言葉遊び』の『大本命』だから、しっかりと熟考する時間を取ろう。
   そうだね…300時間で『3本勝負』…でいいかな。」
「300…12日半…」

「そう…2週間後の週末に、お互いの3作品を出し合うにしようか。
   そこで良作を出した方が…『月山』か『山月』かを選択できる。」
「…うん…わかっ…た……」


山口の呼吸が一定のリズムを刻むようになってから、
僕は静かに深呼吸し、集中モードに突入した。

スタートから出し抜くような卑怯なやり方だったが、
この勝負、絶対に負けるわけにはいかない。
男のコカン…ではなく、沽券に関わる大問題だから。

少しでも気を抜くと、山口には絶対に勝てない。
それは、長年の経験で僕が一番良くわかっている。
同じレベルで遊べる…真剣勝負ができる相手だからこそ、この関係が長く続いているのだ。

そんな僕の『やましい策略』など知る由もなく、穏やかな寝息を立て、上下する背中。
僕は謝るかのように、山口の呼吸に合わせて、肩から腰までをふわふわと撫で続けた。


(本当に、山口は…『何て躾いい子…いいケツしてんな。』)

自分の穢れっぷりに、苦笑いがこみ上げて来た。





***************





あれから2週間。

こんなに頭を使ったのは、いつ以来だろうか。
高校受験でも、こんなに使った覚えはない。
…ということは、以前ハマった何かしらの『言葉遊び』以来だ。

それは山口の方も同じらしい。
この2週間、お互いほとんど話もせず、黙々とノートを睨んでいた。
排球部の誰かに、「喧嘩でもしたのか…?」と、心配される程だった。


土曜の昼下がり、僕の部屋。
緊張した面持ちで向かい合い、きちんと正座をする。

「300時間、お疲れさま。」
「ツッキーこそ、お疲れさまでした。」
「その顔だと…なかなかの自信作ができたみたいだね。」
「そこそこ…とだけ、言っておこうかな。」

声も出さずに、拳の仕草だけでじゃんけんをする。
勝った山口は、珍しく先攻を選んだ。


それでは…始めます。
山口は息を吐き出すと、短冊に切った紙を一枚、テーブルに乗せた。

「『気怠い蛍君 食い気いるだけ』  (けだるいけいくんくいけいるだけ)
   …山口忠定番の、ツッキーネタであります。」

「月島蛍の雰囲気と食の細さを、簡潔に表現した…良い作品ですね。」
「ありがとうございます。」
深々と頭を下げ、山口は1作目を脇に寄せた。

次は後攻・僕の番だ。
同じように短冊を取り出し、静かに乗せる。

「『怒号!烏野すら飼う 後度』 (どごうからすのすらかうごど)
   …我らが敬愛する、烏養コーチであります。」

「怒りながらも烏達を指導…飼育し、後度…また後日やってくる。ご苦労さまです。」
「大変お世話になっております。」
山口の1作目の横に、僕のものを並べて置く。


1作目…『小手調べ』とは言え、お互いなかなかの出来栄えだった。
更に緊張した表情で、「2本目参ります」と、お辞儀をする。


「では次に、我らが三年生諸氏でお送りします。
   『大地と旭に菅原 我が巣に火さ 跡地 井だ』 (だいちとあさひにすがわらわがすにひさあとちいだ)」

「巣…拠点に火が点き、その跡地は井戸に…この後の展開が気になります。」
「『隠し砦の三羽烏』…次週、こうご期待!であります。」


「対しますは、またしても烏養氏であります。
   『烏養が飼い慣らす スらない花街買う』 (うかいがかいならすすらないかがいかう)」

「夕方は烏達、夜は花街のオネエサマをも巧く…御見逸れしました。」
「『烏養最強ブリーダー伝説』でお送り致しました。」


2作目も…いい勝負だ。
歌合戦をした平安貴族達も、こんな緊張感を味わっていたのだろうか。

次の3作目…これで勝負が決まる。


「そしてこちらが、山口忠最後の作品です…
   『ドン・縁下力 勝ちたし Non End』 (どんえんのしたちからかちたしのんえんど)
   …次期主将の、秘めたる闘争心を表現致しました。」

「英語を交えましたか…縁下氏と詠み人の、大変強い意志を感じます。」
「勿体無いお言葉です御座います。」


「回文合戦最後の手…月島蛍がお見せ致します。
   『痛し! 大王及川 若い王追い出したい』 (いたしだいおうおいかわわかいおうおいだしたい)
   …大王様と若き王様の、痛々しく醜い争いを叙述してみました。」

「ま…参りました。」

勝負あり。
山口は潔く負けを認め、静かに平伏した。



勝敗が決し、緊張から解放された僕達は、同時に大きく息を吐き、脚を投げ出した。

「はぁ~っ!ものすっっっっごい緊張したっ!」
「色んな『言葉遊び』で何度か『歌合戦ごっこ』はしたけど…
   今回のは難易度・完成度ともに格別だったね。」

「最初の100時間ぐらいは、全然思い付かなくて…俺、めちゃくちゃ焦ってたんだよ。」
「僕もだよ。残り30時間…昨日やっと、3作目を思い付いたんだから。」

人間は、ギリギリのところに追い詰められた…逆境の時にこそ、
底知れない力を発揮するのかもしれない。
苦しんで苦しんで…何かの拍子に、天啓の如く良作を閃いた時、
今までの苦労も消し飛び、後は『楽しかった』という記憶だけが残る。

これだから…『言葉遊び』はやめられないのだ。


「ナイスファイト、ツッキー!!」
「山口こそ、素晴らしい勝負をありがとう!!」

僕達はガッチリと握手をし、互いの健闘を称え合った。





***************





…と、いうわけで。

固く握手した手を引かれたかと思ったら、あっという間に視界が90度上方を向いていた。
『いつも通り』のポジション…俺を見下ろすツッキーの顔と、白い天井が見える。

「勝者・月島蛍は、迷うことなく『月山』を選択するよ。」

記憶にないぐらいの、輝かしいツッキーの笑顔…呆けたように、その顔に見惚れてしまった。


「…って、ちょ、ちょっと待ってツッキー!落ち着いて!」
「僕は至って冷静だよ、山口。…と言いたいところだけど、そうでない自覚があるね。」

『上』では昇天しそうな程の、蕩けるような微笑みを湛えながら、
『下』の方では、『昇天』に直行するかのように、強引にコトを進めようとしている…

「『上』と『下』の落差…おかしくない!?」
「『逆』よりはずっといいでしょ。」

俺は咄嗟に、『いざという時の護身術』にあった体勢…
左膝を立てて、ツッキーの右鳩尾…肝臓に軽く当てた。

そこが人体の急所だと教えてくれた張本人のツッキーは、
ようやく動きを止め、やるな…と誉めてくれた。
そのままの体勢で、落ち着かせるようにゆっくりと、ツッキーに語り掛けた。


「俺は別に、『月山』でも、倒語の『山月』でも、
   もちろん、『月山月』の回文でも…実際の所は、どれでもいいんだ。」
俺の言葉に、ツッキーは落ちてきそうなほど目を見開いた。

「ツッキーは優しいから、きっとこう思ってるでしょ?
   『山口ばっかりに負担かけて、申し訳ない』…って。」
見開いた目を更に瞠目し、そして目を伏せる。
手を伸ばし、ツッキーの頬をなぞるように触れる。

「その優しさは、本当に嬉しい。でも、勘違いしないで。
   俺は『苦しい』のを耐えて…無理矢理ツッキーを『受け入れてる』わけじゃない。」
両手でツッキーの両頬をロックし、逃げられないようにする。
俺は自分でも記憶にないぐらいの強気で、言い切った。

「『苦』の先、何かの拍子に天啓のように訪れる『瞬間』…
   この『楽』があるなら…『月山』か『山月』かなんて、『些細な事』でしかないよ。」

この『やめられない』感覚…俺だけが知ってるのは申し訳なくて、
それで…『山月』を提案してみたんだけどね。
コッチの『ポジション』だって…そんなに悪くないよ…?


おどけながら暴露した『真相』に、
ツッキーは安堵したような、泣き出しそうな複雑な顔をした。

「ホント、お前には敵わないよ…
   体勢…形式上は『月山』でも、実態は全く逆…『山月』だったってことだね。」

そう言うと、ツッキーは柔らかく微笑み…一気に俺の『下』を剥ぎ取った。


「っ!!!?ああああのさっ、俺の『一世一代の大激白』…聞いてた?」
「勿論だよ。心にガツンと染み入る衝撃告白…感涙だったね。
   その勇気と漢気に敬意を表し、僕は『形式上』とはいえ、
   『月山』ポジションを…誠心誠意尽力しようと決意した次第だよ。」

あっという間に両膝を両肘で固定されてしまった。
もう、あの『いざという時』は、使えない。


「コレを致すことには異論はないよ。2週間もゴブサタだし…
   でもでもっ、いきなりコレはないでしょ!モノゴトには順序ってもんが…」
「今回のテーマは『逆』だったからね。そうだね…コレから逆に遡っていくとすると、
   『ご休憩』の終わる3時間後に、僕が恋に落ちる…っていう順序かな。」

あぁ、やっぱり俺は…ツッキーには敵わない。
いや、ツッキーというよりは、生物界最大の回文…
『DNAの二重らせん』の命じる本能には、逆らいようがない。


俺は両腿でツッキーの腰を固定し、両腕で頭を引き下ろした。

「『何回もして 下イカンな』…に、ならない程度で、お願いします。」
「『3時間 歌人さ』…快い歌ができるよう、頑張らせて頂きます。」



- 完 -



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※苦楽落落(くらくらくらく)→ 苦も楽もこだわらないこと。造語。
※移設にあたり、ミスしていた回文も修正いたしました。

※ラブコメ20題『05.あと3時間で恋に落ちる予定です』

2016/02/25(P)  :  2016/09/10 加筆修正

 

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