序論    一長一短







烏野高校排球部の朝は、今日も早い。
多くの生徒が登校してくる頃には、朝食で摂取したカロリーを消費し尽くし、
朝練の後片付けをしていた。

この残エネルギーでどうやって午前中の授業を乗り切ろうか…
良識派の部員の脱力を他所に、今日も怒号が響き渡る。


「くっそーーーーっ!!また止められたっ!!」
「何でわかるんだコンチクショー!!」

何度も見ているはずなのに、影山と日向の変人速攻にはため息が出る。
しかし、ここ数回ほど、『普通の』と『変人』の二つを見切り、
月島は完全にシャットアウトしていた。

「毎日毎日ずっと見てるんだから、分かるに決まってるデショ。
  そろそろ君たちのコンビも限界なんじゃないの?」
不敵に笑いながら、月島はさっさと部室に戻ってしまった。


憤懣やるかたなしの変人コンビは、月島を追おうとする山口を捕獲した。

「うぉぉぉぉぉっ!毎度ながら超ムカツク!!
   もうガマンの限界!アイツをギャフンと言わせてやりたいっ!!」
「山口、月島の弱点とかないのかよ!?あるよなっ!?
   教えて下さいコノヤローーー!」

背中を日向、胸倉を影山に掴まれた山口は、ひぃっ、と叫び声を上げ、
すぐさま『降参』のポーズを取った。


「ちょっと待ってよ二人とも…いきなりツッキーの弱点って言われても…
   そんなのすぐには思いつかないよ。」
心底『困惑』という表情で、山口はおどおどと答えた。


「えー!?山口ってガキの頃から、ずーーーーっと月島と一緒なんだろ?
   アイツの弱点ぐらい、すぐ分かるに決まってるだろ。」
「いつも『うるさい山口』って無下にされてんだろ。
   『いつか見てろよ!』って、アイツの弱みを探ったことぐらいあるだろ!」

教えろ教えろという前後からの猛烈な催促に、
山口は少しだけ月島の弱点について考えてみた。


「ツッキーの弱点かぁ…
   弱点というか、欠点ですらあんまりないような気がするけど。
   『頭脳明晰』で『容姿端麗』、しかも『排球上手』だし…」

本気で悩み始めた山口に、変人コンビの方も困惑してしまった。


「アイツの『毒舌増増』は大いなる欠点じゃないのかよ。」
「それってむしろ、頭の回転が速いってことでしょ。」
「そもそも山口は、月島の弱点に『興味有有』じゃないのかよ?」
「う~ん…日向には悪いけど、興味ない…かな。」

二人が呆気に取られ、捕縛の力が緩んだ隙に、
山口は「じゃぁ、また放課後ね~」と逃げてしまった。



呆然と佇む二人の肩を、東峰と澤村がポンと叩いた。

「まぁまぁ二人とも…山口はあぁ言ってるけど、
   人間はみんな『一長一短』だからね。」
「長短があるからこそ、『いいコンビ』になれるんじゃないのか。」

互いの欠点を補うからこそ、コンビの意味がある…
三年生の大人なフォローに、日向と影山は急傾斜に目を見合わせた。


「一長一短…一人は長(デカ)くて、一人は短い(チビ)、ってコトか。」
「くっ!!影山の方が長いのはムカつくけど…
   それでアイツらより『いいコンビ』なのは良しとするっ!!」

かなり斜め方向に解釈し、勝手に元気を取り戻した二人は、
『着替えるのどっちが早いか競争』のため、全力疾走で去って行った。



残された三年生は、呆然と呟くしかなかった。

「コンビの良し悪しと、期間の長短は関係ないんだ…」
「俺はむしろ、『無駄に長い方』が心配だな。」


    →論文本論『要旨論述』へ


 

NOVELS